*** june typhoon tokyo ***

Especia@O-nest


 陰と陽ならぬ艶と踊という二面性を醸し出したステージ。

 ホテルで過ごすモーニングになぞらえて行なわれるEspeciaのライヴ・イヴェント・シリーズ〈Hotel Estrella〉。今回は会場が渋谷・円山町にあるO-nestということもあり、〈円山閣大飯店〉と題して炒飯や焼売、かに玉などを配膳した中華風ビュッフェでもてなしながらグッド・ミュージックを嗜むという趣向。新体制後の彼女らを初めて観ると思しきファンも見受けられ、6、70人ほどが集ったフロアにチャイニーズ・クラシカルなSEが流れるなか、9時30分のほぼ定刻にライヴが幕を開けた。



 トップスが白、ボトムが黒というスタイルは前回〈Hotel Estrella -2FLB-〉と変わらず。楽曲構成もおおよそ前回を踏襲し、新旧取り混ぜたリストに。「Sunshower」「雨のパーラー」が新体制後の初披露となった。
 これまで『GUSTO』から「BEHIND YOU」「嘘つきなアネラ」、『Primera』から「シークレット・ジャイヴ」「Sweet Tactics」をラインナップに組み込んできたが、新体制直後で発表楽曲が少ないなかでは、清爽なミディアム・チューンを比較的選曲しているようだ。さすがに『Mirage』のイメージを持った過去曲のみとなるとかなり限られてくるため、登場当初の雰囲気の楽曲だけでステージを構成することは難しかったか。それでもアレンジを巧みに駆使して、〈Especia the Second〉としての演出を創り出そうという意図は感じた。

 冒頭の「BEHIND YOU」から躍動感ある「Sunshower」への流れは、雰囲気的に「Sunshower」のようなアッパーなダンス・テイストの楽曲を歌うとはあまり考えていなかったので少々驚いたが、やおらアンニュイで仄暗い「Savior」へと一気に落とし込むあたりは、Especiaが本来持つ“変態性”の面目躍如か。しかしながら、それ以上の奏功がこの直後の「雨のパーラー」となる。
 「雨のパーラー」はメランコリーなミディアム・スロー・バラードゆえ、楽曲自体は新体制路線との親和性も高いといえるが、それだけでなくオリジナルとは異なるコーラス・パートを加えて、〈Especia the Second〉スタイルにヴァージョン・アップ。冨永悠香のフェイクもふんだんに採り入れ、“やるせなさ”や“もどかしさ”を内なる炎のようにじんわりと伝えるかのごとくのパフォーマンスは、これまでと新体制以降との滑らかな連動性を示したともいえる。

 中盤の「Aviator」「Helix」では高椅子(スツール)が3脚登場し、椅子に腰かけながらの動きを極力封じた演出に。表情や視線にほぼ限られたなかで3人がうつむき加減で視線を落とすばかりの間奏などは、ややもすると“場が持たない”状況にも陥りかねないが、その佇まいを貫くなかでその世界観を醸し出そうという姿勢もこれまでのEspeciaにはない志向の一つ。これまでにステージ上で長く静止するパフォーマンスがなかった訳ではないが、既存曲ではその後に“キメ”やキラー・フックが待ち構えるための“タメ”であったのに対し、こちらはあくまでも楽曲の世界観を徹頭徹尾表現し切るという意味で、今の彼女らの主たる方向性を垣間見た場面だった。

 一方、「Sweet Tactics」「シークレット・ジャイヴ」「嘘つきなアネラ」あたりの楽曲では、5人体制での思い入れも強いのか“かつてのEspecia”の空気を感じ取ったオーディエンスも少なくなかった。掛け声などが出てくるなどの反応をみると、『Mirage』の雰囲気に戸惑い、馴染みきれないぺシスト&ペシスタ(Especiaのファン)の疑心暗鬼がようやく晴れ間を見せ始めたといったところだろうか。表情や気配を削ぎ落していく『Mirage』以降とは対照的に、微笑みや明るい表情で歌い踊る3人に“安堵”を感じたのだろう。「Sweet Tactics」では僅かではあるがミア・ナシメントのリード・パートもあり、現在の冨永のリード・ヴォーカルに森絵莉加とミアのコーラスというスタイルではなく、以前のそれぞれに明確な担当パートを持つヴォーカル・スタイルが見え隠れしたのも、安堵に拍車をかけたようだ。

 新生Especia登場後の楽曲やイメージ戦略を見るに、発表楽曲が少ない当初は起用せざるをえないとしても、過去の明朗快活な楽曲を用いることは厳しいのではないか。既存曲とは雰囲気も異なり(特に、5人体制時のヴォーカリゼーションと比較され)、ブレが生じるのではないかという薄っすらとした危機感はあったが、どうやら〈Especia the Second〉流の“融解術”を身に付け始めたらしい。それは既存曲を単純に新生Especiaの幻惑的でメランコリックなフィルターに通すのではなく、彼女らが内包するペルソナ、パーソナリティの二面性を顕出しながら、新生Especiaとしてのアイデンティティを構築しているといえる。ナルシシズムへの接近にも感じられる物憂げでアダルトな“艶”と新たなフィルターに通しながらも既存曲の旨味を抽出した“踊”を背中合わせにしながら、過去と現在との連結に成功。表裏一体ゆえの危うさや脆さと多彩な要素を包含する表現力の増幅という二面性が、彼女らの武器になるのかもしれない。ファットなベースがブンブン鳴るボトムが痛快だった本編ラストの「Boogie Aroma」には、過去と現在からさらに未来へと連結するためのヒントが隠されているようにも思えた。



 とはいえ、あくまでも再始動当初のステージと比較しての成長ぶりであって、不安が拭えない訳ではない。多彩なフェイクを披露した冨永だが、まだまだリード・ヴォーカルとしての出力は足りない。むしろ、コーラスが付随するソロ・ヴォーカル・スタイルくらいの圧倒的なワンマン・パフォーマンスを見せてもいいくらいだ。森とミアのコーラス・ワークも同様で、冨永に寄り添っているだけでは楽曲の良さを活かしきれないだろう。表現方法には制約があったとしても、その中で自らに惹き込む所作やインパクトを押し出していい。ダンスや表現においても、3人のシンクロ性という意味では発展途上の状況は否めない。

 まだ新生となって月日は短いこともあるが、賞味の足は早いのも事実。3人でハーモニーを重ねる場面が増え、森絵莉加も今後はリードを執る楽曲が出てくるだろうし、それが〈Especia the Second〉のブースターとなり得る可能性も高い。それらを含めて、注目される時期にどれだけの結晶を生み出せるか。それが過去を“遺産”とせずに現在から未来へと脈々と連なる“遺伝子”になり得るための一つのカギになりそうだ。

 次回の朝公演シリーズ〈Hotel Estrella〉は、10月16日に六本木Varitにて〈Hotel Estrella -六本木飯店-〉と題して行なわれる。さらなる可能性が窺えるのか、その成長と“今”を確かめていきたい。

◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 BEHIND YOU
02 Sunshower
03 Savior 
04 雨のパーラー
05 Nothing
06 Aviator(Alternate Version)
07 Helix
08 海辺のサティ 2016
09 Sweet Tactics
10 Mistake
11 FOOLISH(12" Vinyl Edit)
12 Boogie Aroma(English ver.)
≪ENCORE≫
13 シークレット・ジャイヴ
14 嘘つきなアネラ

<MEMBER>
Especia are:
Haruka Tominaga(vo)
Erika Mori(vo)
Mia Nascimento(vo)


◇◇◇

【〈Especia the Second〉(新体制)以降の記事】

・2016/06/25 ESPECIA@渋谷Club asia
・2016/08/12 Especia「Mirage」
・2016/08/28 Especia@渋谷CHELSEA HOTEL

◇◇◇









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コメント一覧

野球狂。
少女隊!
http://blog.goo.ne.jp/jt_tokyo
そういえば、“一心同体、少女隊!”というCMがありましたね。「Forever」「Forever 2001」とかレコード持ってました(笑)。
確かに少女隊は当時の日本では異質だったと思いますが(スターボーとかよりはマシでしたけど)、韓国や香港などで人気があったのは、あの雑多感が関係しているのかもしれませんね。

今やPerfumeはアイドルを出自とするグループの成功例の最たるものですが、Especiaも日本の感性だけに囚われず、海外を意識してどんどん発信していけばいいと思いますね。評価は高くないですけれど、ピッチフォークにも紹介されていますし。
Hide Groove
Liveお疲れさまでした!
ディナーショーではなくモーニングショー、
Especiaならではのスタイル。
自分はまだ彼女たちのライヴを観たことがなく、また彼女たちの存在を知ったのも半年ほど前になります。
新体制Esppecia、今まで支えてきたファンの気持ちは複雑なのだろうと感じます。

野球狂。さん、自分はEspeciaを始めて動画サイトで見つけた時に、80年代の異端なアイドルグループ少女隊を思い出しました。
アイドル戦国時代にダンス、ファッション、サウンドクオリティー含めた音楽的要素を武器になんとかポップフィールドへと戦い挑むその姿!

大袈裟な表現かもしれませんが…
メインストリームにPerfumeが君臨していると今の時代を語るとしたら、その対を成すかの如くEspeciaが輝きその立ち位置にふんぞり返るくらいの所まで上り詰めている姿を見てみたいと願いますね!💨
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