*** june typhoon tokyo ***

Especia@新木場STUDIO COAST

 


 “激動”のツアーファイナル。

 2015年10月4日の大阪公演からスタートした大阪・堀江系ガールズ・グループ、Especiaの全国ツアー〈“Estrella” Tour 2015〉のファイナル公演〈“Estrella” Tour 2015 -VIVA FINAL-〉を観賞。個人的にはこのツアーでは12月6日の埼玉公演(レポート→Especia@HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1)、12月12日の群馬公演(レポート→Especia@前橋DYVER)に足を運んだが、その双方の公演を観た直後は、彼女らはフル・バンド・ワンマンのファイナル公演に向けてひたすら鋭意努力を重ねているものだと思っていた。

 いや、ファイナルへ向けて努力を重ねていたことに相違はない。彼女たちはツアーの合間に2月にリリースされるアルバムのレコーディングを行ないながらもイヴェントなどでさらなる経験を積み重ねていた。ただ、異なっていたのは、このファイナルがそういったツアーを経て切磋琢磨した成果の集大成の舞台に“純粋”にならなかったことだ。

 結論を先に言うと、アンコールに入り2曲披露した後のMCで、清水マネージャーより「2016年4月を目安に大阪から東京に活動拠点を移す」「東京への活動拠点移行に基づき、三ノ宮ちか、三瀬ちひろ、脇田もなりの3人が2016年2月末日をもって卒業」との報告があった。この予想だにしなかった展開に客席の雰囲気は何とも言えないものとなり、これまでの彼女らのライヴのアンコールではありえなかった悲痛な面持ちがちらつくなかで、それを何とか押し殺そうとしながらメンバーに声を送るぺシスト(Especiaのファン)の姿が強く印象に残った。

 グループにおける脱退や卒業などのメンバーチェンジはよく起こることで、Especiaも例外ではなかった。結成当初は10名で活動を開始したが、数度の脱退を経て、2014年10月より現在の5名(冨永悠香、三ノ宮ちか、三瀬ちひろ、脇田もなり、森絵莉加)となり、2015年2月にメジャー・デビューを果たした。この5名となってからのバランスが非常に良く感じられ、グループとしてさらなる高みへ挑めるメンバーではないかと思っていたし、個人的にはアイドルという枠ではなく、ファンクやAOR、シティ・ポップあたりのツウ好みの楽曲を持つガールズ・グループとしてパーマネントな活動をしていける存在になって欲しいと期待もしていた。一方で、セールスを上げなければならないという大命題に対して結果を求められることが当然ながらついてまわるのも事実。グループのブラッシュアップは不可欠だが、その起爆剤としてメンバーチェンジという策もまた、グループが生き残る術として必要な時もあるだろう。

 たとえば、アン・ヴォーグやデスティニーズ・チャイルド。さらに時を遡れば、ダイアナ・ロスのスプリームスなどもそう。グループを活かすためには、ファンにとっては非情なまでの通告がなされることがある。とはいえ、その後に成功を勝ち取れば、その際には交代や脱退劇という“劇薬”も有効な手段として評価されることにもなる。しかしながら、そこにはある程度の要素とタイミングがあるはずだ。上述の例で言えば、アン・ヴォーグはドーン・ロビンソンという強力なパーソナルに振り回され、ドーンが加入脱退を繰り返して、幾度となく危機を迎えたが、メンバー全員が“歌える”という強みがあった。デスチャはビヨンセという絶対的なエースが君臨して、不穏なトピックをヒット・ソングを重ねることで打ち消していった。

 だが、Especiaはどうだろう。冨永悠香、脇田もなりのメイン・ヴォーカル二人に森絵莉加が著しい成長をもって追いついてきたところ。それも三ノ宮ちか、三瀬ちひろという二人が脇役に徹するからこそ、森がようやく3人目のメイン・ヴォーカルというポジションに向かうことが出来たのだと思う。
 では、冨永や脇田がグループをグイグイと引っ張るほどの絶対的な存在感があるかといえば、現状では首を素直に縦には振れない。あくまでもEspeciaのなかではメインを張れるが、他のヴォーカル・グループと比べた場合やクオリティの高い楽曲の世界観をこの上なく咀嚼し(歌唱力も含めて)表現出来ているかというと、“発展途上”というのが最も近い答えになると思う。

 彼女らの魅力足りえている一番大きな要因は、やはりバランスだといえる。それぞれ特色や個性の異なる冨永、脇田、森の3名のメイン・ヴォーカルと、ダンス・パートとコーラスを主にして一歩引いた位置でグループにメリハリやアクセントを彩る三ノ宮と三瀬という陰の功労者による“クインテット”が、絶妙なケミストリーを生んできたのだ。もちろん、各自のさらなるスキルアップは必要不可欠であるが、その5名によるバランスの妙がグループのオリジナリティを育み、古い世代には懐かしい、若い世代には新鮮なものとして、楽曲自体の魅力を気づかせる大きな力にもなり得ていたのではないか。彼女たち5名だからこそ、一時の“楽曲派”のアイドルから質の高い楽曲を演じるEspeciaへと、その評価も徐々に培ってきたのではないかと思う。

 しかしながら、三ノ宮ちか、三瀬ちひろ、脇田もなりの卒業は決定した。冨永悠香、森絵莉加の二人が東京へ進出し、この4月より新生“Especia”となる。名前こそ継続するが、実質上はこれまでの“Especia”にはなりえない。それは冨永、森両名それぞれがどうというのではなく、あくまでも“Especia”足りうるバランスが保てないという意味においてだ。彼女らの心の声を詞に乗せた「We are Especia~泣きながらダンシング~」は歌えないし、「interstellar」などで繰り出す三ノ宮のラップ・パートも、「No1 Sweeper」をはじめ楽曲の合間に見せた三瀬のソロ・ジャンプも、代わりが効くというものでもない。これまでのEspeciaを捨てて、新たなEspeciaを築くのか、さらなる(たとえば増員などの)劇薬を投下するのか、不安要素は尽きない。

 だがそれ以上に、Especiaを継続すると表明した冨永、森の決意は、苦渋の選択のなにものでもないはずだ。発表の際に厳しい表情で真っすぐ前を向き、「解散するまでEspeciaにいる」と発した冨永、大学を休学して東京へ行くと決めた森、彼女らの熱意が無駄なものになってはならない。“クインテット”でのEspeciaとは離れてしまうが、二人ならではのEspeciaを構築していってもらいたい。

 思えば、開演当初は、集大成のフル・バンド公演で緊張しているのかもしれないと感じていた。それはバンドも同様で、前半はところどころリズムを失いかけた部分もあるなど、その音鳴りにも表われていた。Especiaのメンバーも、ヴォーカルとダンスともに気負いすぎたきらいがあり、動きにしてもやたらと力みがあったように感じた。それゆえ、バンドのリズムとのズレも生じていたし、ダンスのフォーメーションでも交錯しそうになる節もあった。だが、それらは3名の卒業を発表しなければならないステージで“やり切らなければ”という想いが強すぎたゆえとすれば、その力みにも合点がいく。

 出来ることなら、ツアーの集大成はそういった雑念なしで舞台に挑ませて欲しかった。5名で新木場STUDIO COASTで勝負するというステージは、純粋なチャレンジではなくなり、例えていうならオープン参加となってしまっていたような気がする。Especiaもバンドも、序盤はかなり気負いが見えたとはいえ、悪くはなかった。本編ラストの「Aviator」まではあっという間に感じたし、アンコール一発目の山根康広作詞、藤井尚之作曲、山中英太郎編曲のUSロック「Clover」には首を傾げてしまったが、それゆえその直後の「Rittenhouse Square」を歌い奏でる彼女らに次なる未来へのステップも感じていた。それだけに、大団円となるという期待が大きかった分、その後の流れには客席のファンがついていけなかった。ライヴはステージと客席が一体となってはじめて、大きなうねりやグルーヴを生み出すもの。その意味では、「We are Especia~泣きながらダンシング~(Second half)」以後のフロアはモヤモヤとした不完全燃焼なモードへと逆戻りしてしまった。皮肉にも“泣きながらダンシング”というタイトルが現実のものとして観客の心に降り注ごうとは、誰もが考え付かなかったことだろう。

 先述の清水マネージャーの話では卒業公演も予定しているという。といっても、東京で開催するという確約はない。だが、可能ならば、彼女たちに新木場STUDIO COASTの借りを返すにふさわしい場所を用意してもらいたい。厳しさを前に決断し上京を決めた二人と思い悩んだ末に新たな道を模索すべくグループを離れる決意をした三人にとって、東京が“苦い思い出”の場所で終わらぬような配慮を願いたい。

 ぺシストにとってはしばらくは心痛な日々を送るかもしれない。だが、何が正しい答えなのかは、まだ分からない。ただ一つ言えるのは、5名での夢は消えるのかもしれないが、Especiaの素敵な楽曲はいつまでも残るということ。2月末までまだ時間はある。今こそクインテットでのEspeciaを注視していく時なのではないか。

◇◇◇

 ニュースで知った事だけど
 あのロックンロールスターはもういない
 
 車のシートに横になり
 涙を流した
 夢は消え 歌は残る

 PEOPLE, RIDE ON
 PEOPLE, RIDE ON
 PEOPLE, RIDE ON
 THINK YOURSELF

 PEOPLE, RIDE ON
 PEOPLE, RIDE ON
 PEOPLE, RIDE ON
 THAT'S THE WAY OF LIFE

 
 ICE「PEOPLE, RIDE ON」を聴きながら、彼女らの行方を見守ろうと思う。

 

◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION(SE:Theme of Star Blazers/INTRO from“GUSTO”)
01 We are Especia~泣きながらダンシング~(First half)
02 No1 Sweeper
03 YA・ME・TE!
04 アバンチュールは銀色に
05 ミッドナイトConfusion
06 Saudade(Interlude)
07 West Philly
08 Sweet Tactics
09 センシュアル・ゲーム
10 Mistake(New Song)
11 Boogie Aroma
12 くるかな
13 トワイライト・パームビーチ
14 アビス
15 きらめきシーサイド
16 interstellar(New Song)
17 Aviator
≪ENCORE #1≫
18 Clover(New Song)
19 Rittenhouse Square(New Song)
20 We are Especia~泣きながらダンシング~(Second half)
≪ENCORE #2≫ 
21 ナイトライダー(Except for Band)
22 Twinkle Emotion(Except for Band)

<MEMBER>
Especia are:
冨永悠香/Haruka Tominaga
三ノ宮ちか/Chika Sannomiya
三瀬ちひろ/Chihiro Mise
脇田もなり/Monari Wakita
森絵莉加/Erika Mori

平岡タカノリ/Takanori Hiraoka(ds/band master)
大王/Daioh(g)
角谷光敏/Mitsutoshi Kadoya(b)
後藤英見/Emi Goto(key)
花田えみ/Emi Hanada(key)
亀崎拓史/Hiroshi Kamezaki(per)
早川一平/Ippei Hayakawa(sax)
井上敦之/Atsushi Inoue(tp)
Rilsoul/Rilsoul(cho)
UKO/UKO(cho)
カキヒラアイ/Ai Kakihira(cho)


◇◇◇

 オープニングアクトはEDMアイドル・グループのSTEREO TOKYO。

≪STEREO TOKYO≫





◇◇◇

≪Especia≫






























◇◇◇


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