横浜の秘密

知らなかった横浜がいっぱい ~鈴木祐蔵ブログ~

馬車道は日本人によるアイスクリーム発祥地。ただし、5月9日が発祥の日というのは間違い。

2016-05-09 23:42:38 | 横浜の食・グルメ
「横浜謎解き散歩」(KADOKAWA 新人物文庫/監修:小市和雄)の著者ということで、先月の2016年4月14日、テレビ朝日の夕方の報道番組「スーパーJチャンネル」内の「春の横浜謎解き散歩」と題した特集コーナーに出演させていただいた。そのとき、訪れた場所のひとつが馬車道である。

馬車道はさまざまな発祥の地だが、「日本のアイスクリーム発祥地」としても名を馳せている。ただ、これは多少の間違いを含んでいる。正確に言えば、「日本人が初めてアイスクリームを製造して販売した場所」なのだ。なので「日本人によるアイスクリームの発祥地」という表現が正しい。カン違いしやすいのだが、日本で初めてアイスクリームをつくって売った場所ではないのだ。

日本で最初にアイスクリームを製造して販売したのは、アメリカ人のリチャード・リズレー。慶応元年5月(新暦:1865年6月)、横浜の外国人居留地102番(現・山下町102番地)でアイスクリーム・サロンを開店した。現在のように冷蔵庫も冷凍庫もなく、製氷用の機械も工場もない時代のため、中国の天津(てんしん)から輸入した天津氷を利用してアイスクリームを作り、販売した。ちなみに、日本初の製氷工場が横浜の外国人居留地にできたのは明治12年(1879年)のことである。

日本人で初めてアイスクリームを製造・販売したのは町田房造(まちだふさぞう)。リズレーが日本初のアイスクリームを作ってから約4年後の明治2年6月(新暦:1869年7月)、馬車道(現:中区常磐町(ときわちょう)5丁目)に「氷水店」を開業し、日本人に親しみのあった氷水といっしょにアイスクリームを「あいすくりん」と称して売り出した。町田房造は明治2年に中川嘉兵衛が切り出しに成功した函館氷を原材料に使い、日本人初のアイスクリームをつくったと思われる。

そういうわけで馬車道は、日本のアイスクリーム発祥地ではなく、日本人によるアイスクリーム発祥地なのである。

さらに近年、アイスクリームの発祥に関して、大きな誤解が流布している。テレビから新聞、雑誌、インターネットまで「5月9日は、日本のアイスクリーム発祥の日」という誤った情報を流しているケースがじつに多く見受けられるのだ。

じつは5月9日は、アイスクリーム発祥の日ではなく、「アイスクリームの日」である。東京五輪が開催された昭和39年(1964年)に、東京アイスクリーム協会(現・日本アイスクリーム協会)がゴールデンウイーク明けの5月9日を「アイスクリームの日」と制定。アイスクリームの販売促進のため、さまざまなイベントを行うと同時に、いろいろな施設へアイスクリームをプレゼントした。現在でも5月9日は「アイスクリームの日」として、馬車道などでイベントが実施されている。

ただし、日本初のアイスクリームがいまの山下町でつくられたのは慶応元年5月(新暦:1865年6月)で日付まで明らかになっていないし、日本人初のアイスクリームが馬車道で誕生したのは明治2年6月(新暦:1869年7月)である。「5月9日がアイスクリーム発祥の日ではない」ことは、これらの史実からも明らかである。

昭和51年(1976年)11月、日本アイスクリーム協会がアイスクリーム発祥記念として、馬車道に「太陽の母子像」を寄贈。ハダカの女性が幼児をあやしている様子のデザインが印象的な像である。彫刻家・本郷新(ほんごうしん)による作品で、アイスクリームの原料・ミルクから連想して、母乳で子供を育む母をイメージして制作されたという。設置された場所は、町田房造の「氷水店」があった場所の道をはさんで向かい側である。

「太陽の母子像」の碑文を読むと、次のように記されている。

「横浜沿革史に『明治二年六月馬車道常磐町五丁目ニ於テ町田房造ナルモノ氷水店ヲ開業ス・・・」と誌されています。日本のアイスクリームの誕生です。私たちはこれを記念し、このゆかりの地に、モニュメントを建て寄贈します。 昭和五十一年十一月三日 社団法人 日本アイスクリーム協会、同 神奈川支部」

「横浜沿革史」とは当時の横浜に関する情報誌で、掲載された情報の精度の高さには定評があった。やはり、はっきりと明治二年六月と記されている。これは旧暦なので、新暦に直せば明治二年七月ということになる。このように「太陽の母子像」の碑文からも、日本のアイスクリームの発祥日が5月9日ではないことが証明できるのだ。

それでは、なぜ「5月9日は、日本のアイスクリーム発祥の日」という間違った情報が流され広まっているのか。それは「5月9日はアイスクリームの日」であることと「馬車道は、日本人初のアイスクリーム発祥地」である史実が混同され、正確な歴史を確認することなく、テレビ、新聞、雑誌、ネットなどで紹介し続けてしまっている結果であろう。

微力ながら、このブログで正しい情報をひとりでも多くの方に伝えられれば幸いである。


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※ちなみに、町田房造がつくった日本人初のアイスクリームの風味は、いまでも楽しむことができる。横浜のみなとみらい21エリアにある赤レンガ倉庫ニ号館1階のアイスクリーム店「YOKOHAMA BASHAMICHI ICE(ヨコハマバシャミチアイス)」では、牛乳、卵、砂糖と氷だけでつくったシャーベット状のシャリシャリした食感が特徴的な当時のアイスクリームの風味を再現して販売。明治2年6月にタイムスリップした感覚で、歴史のロマンまで味わえるはずだ。

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