世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

玄宗と楊貴妃

2017-02-17 05:05:11 | 詩集・絹の鎖

みんな
なんであんな女に入れあげるんだと
おれのことを言うよ
たいした美人でもないのにと

知ってるさ
あれは
まだ自分の下帯さえ
上手に縫えないような馬鹿なんだよ
だが
おれの女なんだ
何にも代えがたい
おれの女なんだ

遠い昔だ
おれたちはいつか
葡萄畑の隅で会う約束をしていた
おれは用が長引いて
少し遅れて行った
そのときは別にすっぽかしてもいいと思っていた
馬鹿な女だし
ほかにもっとかわいい女はいた

だのに
おれは見たのだ
おれが約束の葡萄の木の近くまで来た時
あの女は
必死で
小さなものをいじくっていた
おれは不思議な気がして
しばし隠れて覗いていた

何をしていたと思う
あの女は
ちぎれたトンボの翅を
必死でつけてやろうとしていたのだ
それはもう悲しそうな顔で
涙すら流して

おれはそのとき
あの女の魂を見たのだ
おまえたちにはわかるまい
見たことがあるやつでなければ
女の魂というものが
どういうものであるか
わかるまい

それは
虹色の
小さなカタツムリのようだった
かわいいなんてもんじゃない
あれは
なんていうものなんだ
なんでこんなに愛おしいんだ
見ているだけで
どうしておれは幸せになるんだ

女っていうものの
正体を見てしまったら
男はもうおしまいなんだ
かわいいやつなんだよ
まだ馬鹿だから
失敗ばかりする
おれも痛い思いばかりする
だが離れられない
離れるくらいなら
死んだ方がましなんだ

馬鹿だと思えばいい
おれは幸せなんだ
馬鹿になってこいつを愛せることが
幸せなんだ
離れたくないんだよ

愛しているんだ




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