石造美術紀行

石造美術の探訪記

奈良県 山辺郡山添村大塩 大塩墓地宝篋印塔及び五輪塔

2007-01-30 23:45:25 | 五輪塔

奈良県 山辺郡山添村大塩 大塩墓地宝篋印塔及び五輪塔

名阪国道山添インターの西方約2Km、大塩は東山内の静かな山村集落である。県道奈良名張線を南に折れ200mほど行くと左手に会所があり、その裏手に墓地が広がっている。会所はおそらく寺院の跡と思われる。会所建物向かって左手の斜面をコンクリートで雛壇状に整形し、無縁石仏や石塔類が並んでいる。その最上Dscf1020段、左端近くの楓の木の下に立派な宝篋印塔がある。複弁反花座の上に建ち、基礎上2段、笠下2段、笠上6段、基礎は四面とも無地で銘は見当たらない。塔身はやや背が高く、四面に大きく舟形に彫りくぼめ如来坐像を半肉彫する。蓮華座はない。塔身は角が取れて面取をしているように見えるが、風化のせいであろう。笠の隅飾は二弧輪郭付で軒と区別し、若干外反しつつ立ち上がる。2箇所は先端を少し欠くが4箇所ともほぼ残っている。注目すべきは、欠損のない相輪に四方の水煙を作っている点である。伏鉢、反花、九輪、水煙、竜車、宝珠で構成され、水煙がある分、九輪の各輪の間隔が狭い。総高185cm、基礎幅55cm、高さ49cm、塔身は幅、高さともに31cm、笠の幅51.5cm、相輪高さ59cm(※)。各部の残存状態は良好だが、表面の風化はかなり進んでいる。花崗岩製。全体的に背が高い印象を受ける。笠の特徴から南北朝頃の造立と推定する。反花座は基礎よりも小さく不釣合いで別物と思われる。各部完存しているように見えるが、笠と基礎に比較して塔身が心なしか大き過ぎ、相輪に水煙が付く例は層塔に多い。すぐそばに層塔の基礎と思しきものと笠石の残欠が2枚ほどあることから、寄せ集めである可能性を疑Dscf1019ってよいように思う。層塔残欠の笠石は小さく、薄めの軒は反りも弱く、室町時代に降るものと推定する。

同じ雛壇最上段の右端付近には、5尺の立派な五輪塔がある。花崗岩製。各部揃って、なかなか見ごたえのある優品である。空風輪がやや大きい。複弁4枚の反花座の背が非常に高く、下すぼまりの水輪は上下逆に積まれている。火輪の軒反はかなり隅寄りで、軒下の反りはやや弱い。各部の表現に硬直化傾向がみられ、清水俊明氏のおっしゃるとおり南北朝末期から室町初頭ごろの墓地の惣供養塔と思われる。高さ156cm(※)。

参考

※ 清水俊明『奈良県史』第7巻 石造美術 332~333ページ