10日ほど前、地主のおばさんがすぐ側の畑に作っているカボチャやサツマイモをやられてガックリしていたが、作地全体をトタン板で囲いをしている本家はカボチャだけでなく水を張った稲田にも入って水浴びしたらしく、働き者の奥さんが恨めしそうに話していた。
5日前の夜十時ころ、外につないだ犬が激しく吠えるのでおばさんが出てみたら、先日荒らしたすぐ上の畑に子牛ほどのイノシシがいたという。その日早朝には、10匹ほどの子連れのイノシシを見かけた人がいるそうだ。
その時には、幸い当方の畑に被害はなかった。まだヒゲ根の状態のサツマイモをなんでイノシシがほじくるのか理解できないが、昨年の経験からサツマイモの周囲だけは一通り網を張って、缶ビールの空き缶を音が出るよう2個ずつくくって全体にぶら下げていた。そのうえ、障害物のつもりで畑の周囲に枝のついた竹を置いといたが、なんの役にも立たなかった。待ち望んだ雨が台風とともにやってきて「ヤレヤレ」と安堵し、雨上がりに畑を覗いたらこの始末である。
イノシシによる農作物の被害は、年々増大しているらしい。県北の町では、「害獣駆除」と「ふるさと産品」の一挙両得を狙った“猪(シシ)料理”をはじめていると聞くが、それでイノシシが減ったという話は届かない。地主のおばさんと知恵を絞って本格的な防除作を講じなければならなくなった。
ところで、このイノシシが伝承上重きをなしているという。『古事記』の倭建命(やまとたけるのみこと)伝承には猪が山の神として登場する。
<伊吹山の神を素手でとろうとして、倭建命は姨(おば)の倭姫親授の神剣、草薙剣を美夜受姫の許において山の神退治に赴く。山に登ると途中で巨大な白猪に出逢う。この白猪こそ山ノ神であったのに、命はそれと気づかず、これは山の神の使者であろう、帰りに殺せば十分である、として見逃す。山の神は大氷雨をふらせて命を惑わす。命は足萎えとなり、精神ももうろうとして、美濃・伊勢桑名をへて、鈴鹿で崩じる。>(吉野裕子著『陰陽五行と日本の民俗』/人文書院より。以下<>は同書による)
猪がなぜ「山ノ神」なのか、吉野裕子著は「陰陽五行」から解き明かしているが、ここで詳しく紹介する暇はない。ただ、旧十月亥日もしくは十月十日の夜、「亥子突(いのこづ)き」といって子供達が藁包をもって大地を叩く風習が全国各地にあることと、それに関連した十月亥子(いのこ)の日に祭る「亥の神(イノカミサマ)」の伝承歌をあげておく。
<祝いましょうよ、猪の神様を
これは百姓のつくり神 (熊野地方)
十月亥日にゃ餅をつく。
餅をついても客はない。
亥の神さまを客にして、
わたしも相伴いたしましょう。(長崎県島原半島)>
槇佐知子著『くすり歳時記』(筑摩書房)には次のような記述がある。
<中国では則天武后が、ライバルの手足を切断して「人豚」と呼び、狭い畜舎に推しこめた話は有名である。中薬では単に「猪」と書けば家猪(かちょ)、すなわちブタのことで、イノシシは「野猪」と書き、イノシシの脂肪は古代から母乳の分泌をうながす薬として用いられて来た。>
また、いつも引用する山崎郁子著『中医営養学』(第一出版)に「イノシシの肉(野猪)」の性味・効用が記されている。
・性味 平、甘[かん](しお偏に咸)
・帰経 脾、胃経
・効用 補養する力が大なので、虚弱体の者には特によい。また解毒止血作用があり、血便などにも有効である。
「山ノ神・イノシシ」には悪いが、「百円野菜コーナー」を出しているおばさん一族に、「シシ肉」も加えて出してもらうよう進言してみるとするか?
5日前の夜十時ころ、外につないだ犬が激しく吠えるのでおばさんが出てみたら、先日荒らしたすぐ上の畑に子牛ほどのイノシシがいたという。その日早朝には、10匹ほどの子連れのイノシシを見かけた人がいるそうだ。
その時には、幸い当方の畑に被害はなかった。まだヒゲ根の状態のサツマイモをなんでイノシシがほじくるのか理解できないが、昨年の経験からサツマイモの周囲だけは一通り網を張って、缶ビールの空き缶を音が出るよう2個ずつくくって全体にぶら下げていた。そのうえ、障害物のつもりで畑の周囲に枝のついた竹を置いといたが、なんの役にも立たなかった。待ち望んだ雨が台風とともにやってきて「ヤレヤレ」と安堵し、雨上がりに畑を覗いたらこの始末である。
イノシシによる農作物の被害は、年々増大しているらしい。県北の町では、「害獣駆除」と「ふるさと産品」の一挙両得を狙った“猪(シシ)料理”をはじめていると聞くが、それでイノシシが減ったという話は届かない。地主のおばさんと知恵を絞って本格的な防除作を講じなければならなくなった。
ところで、このイノシシが伝承上重きをなしているという。『古事記』の倭建命(やまとたけるのみこと)伝承には猪が山の神として登場する。
<伊吹山の神を素手でとろうとして、倭建命は姨(おば)の倭姫親授の神剣、草薙剣を美夜受姫の許において山の神退治に赴く。山に登ると途中で巨大な白猪に出逢う。この白猪こそ山ノ神であったのに、命はそれと気づかず、これは山の神の使者であろう、帰りに殺せば十分である、として見逃す。山の神は大氷雨をふらせて命を惑わす。命は足萎えとなり、精神ももうろうとして、美濃・伊勢桑名をへて、鈴鹿で崩じる。>(吉野裕子著『陰陽五行と日本の民俗』/人文書院より。以下<>は同書による)
猪がなぜ「山ノ神」なのか、吉野裕子著は「陰陽五行」から解き明かしているが、ここで詳しく紹介する暇はない。ただ、旧十月亥日もしくは十月十日の夜、「亥子突(いのこづ)き」といって子供達が藁包をもって大地を叩く風習が全国各地にあることと、それに関連した十月亥子(いのこ)の日に祭る「亥の神(イノカミサマ)」の伝承歌をあげておく。
<祝いましょうよ、猪の神様を
これは百姓のつくり神 (熊野地方)
十月亥日にゃ餅をつく。
餅をついても客はない。
亥の神さまを客にして、
わたしも相伴いたしましょう。(長崎県島原半島)>
槇佐知子著『くすり歳時記』(筑摩書房)には次のような記述がある。
<中国では則天武后が、ライバルの手足を切断して「人豚」と呼び、狭い畜舎に推しこめた話は有名である。中薬では単に「猪」と書けば家猪(かちょ)、すなわちブタのことで、イノシシは「野猪」と書き、イノシシの脂肪は古代から母乳の分泌をうながす薬として用いられて来た。>
また、いつも引用する山崎郁子著『中医営養学』(第一出版)に「イノシシの肉(野猪)」の性味・効用が記されている。
・性味 平、甘[かん](しお偏に咸)
・帰経 脾、胃経
・効用 補養する力が大なので、虚弱体の者には特によい。また解毒止血作用があり、血便などにも有効である。
「山ノ神・イノシシ」には悪いが、「百円野菜コーナー」を出しているおばさん一族に、「シシ肉」も加えて出してもらうよう進言してみるとするか?