工事手伝いで、また数日泊まり込む義兄が、ギターを抱えてやってきた。
タイランナー文化の伝統をひく手作りだそうだ。
ギターというよりも、三味線のような格好だ。
抱えてみると、ずっしりと重い。
4弦で、両脇に2弦ずつくっつく程に張ってある。
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晩飯を終えると、さっそく演奏会が始まった。
家ではカミさん(ラーの長姉)がうるさがるので、普段はバナナ畑の作業小屋で弾いているそうだ。
だが、わが家では堂々と弾ける。
だから、とても嬉しそうである。
調弦は、三味線方式。
だが、弦の締め付けが甘いのか、ときどき膝元に置いたトンカチでガンガン叩いたりする。
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調弦をしているうちに、だんだん曲になってきた。
よく見ると、何かのプラスチック製品を切り取ったような小さなピックをつまんでおり、ほとんどくっついた弦をちゃんと弾き分けているようだ。
三味線を爪弾くような音色で、なかなか哀愁がある。
陽気な曲でも、沖縄のように底抜けの明るさには至らず、どこかに憂いや寂しさがひそむ。
たとえば、涼風の吹き抜ける草原の中で、ひとり口ずさむ恋歌のような・・・。
もしかしたら、ランナー文化発祥の地・北タイ、ことにオムコイはロマンチックな哀愁の郷なのかもしれない。
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曲に合わせて踊り出したラーの動きも、膝を柔らかく上下させ、指や手先をしなやかに使って愛や花を表現するゆったりとしたものである。
うーん。
薄闇の中で口を閉ざし、こうして黙って踊っていれば、実に哀愁に満ちた女人に見えるんだけどなあ。
少し惚れ直していると、ゴザに隠れた板の隙間に足を突っ込み、悪態をつきながら倒れ込んできた。
そのあとに舞い始めたのは、男勝りのワイクー(ムエタイ試合の前に仏に捧げる舞い)である。
こ、こらあ。
俺に向かって、挑発的な闘いのポーズをとるなあ。
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