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理性の限界 ―不可能性・不確実性・不完全性― 高橋昌一郎

2010-08-20 15:32:23 | 書評


理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)
高橋 昌一郎


人々が持つ学問に対するイメージは、未知の現象を見いだしたり、新しい法則を見いだしたり、複雑な現象の中から統一的なメカニズムを抽出したりすることによって、新しい知識を次々と獲得し、人間の知識範囲をどんどん広げて深めてゆくという、ポジティブなものが一般的だろうと思う。

人間の理性によって獲得した知識の領域を中心から外側に広がる円だと思うと、人間理性の歴史というのは円の外側へ向かって知識の範囲と量を増やしてゆくという過程というイメージになるだろう。

最近みたブログ記事でも、学問研究がそういうイメージで広がってゆくと捉えられていて面白かった。

ギズモード: 「
学位って? 博士号って何?」 

本書ではそういう科学のポジティブな自己拡大イメージとは異なり、人間理性によって人間
理性の限界を明らかにした研究成果が紹介される。そこでは三つの大きな「理性の限界」が取り上げられる。

(1) 選択の限界 ― 数理経済学における限界の話。「最も人気のある候補者=最も不人気な候補者」という投票のパラドックス。完全に公平な投票方式は存在しないこと。合理的な選択は必ずしも可能なわけではないこと。

(2) 科学の限界 ― 量子物理学における限界の話。二重スリット実験やERPのパラドックス、シュレーディンガーの猫に見られる観測の限界と量子力学の不可思議。帰納法的科学認識の限界。

(3) 知識の限界 ― 論理学と数学における限界の話。抜き打ちテストのパラドックスと決定不可能命題の存在。ゲーデルの不完全性定理およびその拡張定理。人間理性に必然的に含まれるパラドックスの存在。


一見難しいテーマではあるが、わかりやすい例から出発して、厳密性をできるだけ損なわないように中心テーマへと導いてゆく。「大学生」「実験物理学者」「カント主義者」といった架空の人物を登場させ、ディスカッション形式で話が進められる。とても読みやすい。

特に本書のクライマックスともいうべき第三章の「知識の限界」では、僕自身これまで表面的にしか理解していなかったゲーデルの不完全性定理が分かりやすく書かれており、他のテーマとの関連性もきちんと述べられている。難しい話をよくここまで分かりやすく書けたと思う。素晴らしいの一語に尽きる良
本だ。