a journal of sociology

社会理論・現代思想を主に研究する今野晃のblog。業績については、右下にあるカテゴリーの「論文・業績」から

60年代末

2011年05月26日 | 社会問題
 講義の中で60年代末の時代状況に言及する機会があり、そこでちょうど公開される妻夫木聡主演の映画『マイバックページ』の話をした。

 で、知ったのだが、この映画、川本三郎が原作であることを知る。
マイ・バック・ページ - ある60年代の物語
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平凡社


 私は現在の論文は、アルチュセールとルソーの話を考えているのだが、そのあとに68年とそれ以後、そしてアルチュセールの理論の関係を検討したいと考えている。そこで、日本の学生運動にも興味を持ちつつ調べをはじめつつある。

 アラン・バデュは、『68年の世界史』の中のインタビューで、アルチュセールは当時の状況に実際に影響力を行使できる立場にいたと述べている。

1968年の世界史
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藤原書店



 デリダ亡き後の仏で、デリダの跡を継ぐポジションにあるバデュがそう述べるのだから、アルチュセールの影響力はかなりあったのだろうかと推察できる。実際、65年とそれ以後のアルチュセールのマルクス主義に関する著作は、大きな反響を与えた。

 ただし国家のイデオロギー諸装置概念を提起するのは1970年のことで、それは我々の翻訳『再生産について』を参照を(と、宣伝 笑)

再生産について 上 イデオロギーと国家のイデオロギー諸装置 (平凡社ライブラリー)
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平凡社


 いずれにしても、68年の五月革命に影響力をおよぼすことができたアルチュセールだが、その時期は、ちょうど精神病院に入っていた。この運動に際して、彼は不在であった。彼の精神病院への度重なる入院は、ごく近くの人間にも知らされていなかったようなので、おそらくバデュも知らなかったのではないだろうか。

 本当に単なる偶然なのだが、昨日家に帰ってみると、amazon。frで購入したアルチュセールの新刊が送られてきていた。このLettres à Hélèneは、妻エレーヌへの手紙である。後に「絞殺」することになる妻に送った1947年から1980年までの手紙である。自分たちの部屋で、エレーヌが絞殺された姿で発見されるのが1980年だから、それまでの手紙が収められている(なお、アルチュセールはこの件では、刑事責任を問えない精神状態として「免訴」を受けている)。

 この本に載せられた手紙によると、六八年の五月革命については、ちょうど彼は精神病院に入院したところで、妻宛に手紙を書いている(入院の時期が少々都合がよすぎやしないか? と思わなくもないが)。その中で「このゼネストはどこまで広がるのだろう?」と距離を置いた書き方をしている。そしてゼネストという言い方を使っているが、彼は学生運動に「運動」という名を与えることができるかという問いかけも、後にしている。
 このように見ると、外から見るアルチュセールの像とは、ちがった姿が見えてくると、言えなくもない。無論、ここから先は今後の検討課題であるが。

 もう一つこの本について、なんと序文はあのBHL(ベルナール・アンリ・レヴィ)って、どういう理由からだろう?


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