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社会理論・現代思想を主に研究する今野晃のblog。業績については、右下にあるカテゴリーの「論文・業績」から

「世代間格差」という疑似問題

2015年01月14日 | 社会問題
 クリスチャン・ボーデロとロジェ・エスタブレの共著に『30歳であること:1968年と1998年』という著作があるのだけれど(未邦訳)、その中で著者は世代間対立というのは、「疑似問題」であると述べていた。

 つまり「世代間格差」というのは、本当の問題ではなく、真の問題を隠すための偽りの問題設定というわけである。

 ただ、著者はその主張の具体的根拠を、この著作の中ではあげていなかった。

 しかし、その後ある本を読んでいて、こういうデータに出会ったのだった。つまり、社会保障は、現在、高齢者のみではなく、現役世代にも必要なことがあるのだが(失業保険や就業支援等)、主要先進国を比べると、後者の人生前半期の社会保障費が多い国ほど、前者の人生後半期の社会保障費も多くなっているのである。(ちなみに日本は相対的に下位に位置している)

 つまり、高齢者を相対的に手厚く保護する国では、同様に現役世代も手厚く保護しているというわけである。

 こう考えると、現役世代に手厚い社会保障を配分するためには、高齢者に対する社会保障を手厚くするべきであるという、仮説も可能かもしれない。まあ、これはデータのみから引き出される仮説なので、現実的なものではないが。

 もっとも適確な推測は、社会保障に相応の予算を割くことが認められている国では、高齢者のみではなく若年層や現役世代への社会保障も認められているということではないだろうか。

 「あっちの世代が多すぎるからこっちの世代にその分を回せ」という考え方では、社会保障の重要性が認められている状況とは言い難い。

 そして、この考え方から引き出されるのが、「世代間格差」や「世代間対立」という「疑似問題」なのである。

 と、述べると、実はある部分を短絡させてしまっているのだが、この点については次回以降のエントリーで。

 ここで言いたいのは、「世代間格差」という問題をたてて、社会保障の規模を限定させてしまっていては、それこそ「世代間の対立」をさらに強めることにしかならないと言うことである。それよりも、人生の前半期も後半期も、必要な補助が受けられるという制度こそが、世代間対立を解消できるのではないかと思われる。


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