ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

『ル・モンド』、再び東京電力を叱る。

2011-03-29 20:41:00 | 社会
福島第一原発の事故収束に向けて、ついにフランスに支援を要請したとか、サルコジ大統領が緊急来日するようだとか、原子力に関して日仏間の連携が急に進展し始めています。

フランス側では、ベソン(Eric Besson)産業・エネルギー・デジタル担当大臣が明かしたと報道されており、フランス電力(Eléctricité de France:EDF)、原子力産業複合企業のアレヴァ(Areva)、原子力庁(Commissariat à l’énergie atomique:CEA)などが東電からの要請にこたえて支援に乗り出すものと思われます。

こうした状況を、日本のスポーツ紙などは、「東電“白旗”、仏に泣きついた」と煽っているようですが、東電の今までの対応に関して日本在住のフランス人ジャーナリストはどう見ているのでしょうか。先日、東電の初動対応を叱責していたフィリップ・メスメール氏(Philippe Mesmer)がフィリップ・ポン氏(Philippe Pons)とともに、改めて東電および日本の原子力産業、そして原子力産業を管轄する経済産業省、更には選挙支援の見返りに問題点にメスを入れることのできない民主党政権を糾弾しています。26日の『ル・モンド』(電子版)の記事です。

政府当局はあくまでその影響を過小評価しているが、国民の多くは自らが巻き込まれつつある事の重大さがどの程度になるのか明確には推し量れないものの、次第次第にその危険度に気づき始めている。しかも新聞記事やテレビ番組で紹介される専門家の証言のお陰でぞっとするような背景が隠されていることも分かってきただけに、なおさら日本の国民は不安に駆られている。その背景にあるものとは、原子力に関するロビー団体(le lobby nucléaire)とでも呼ぶべき、強大な権力だ。

財力も権力もあるこのロビー団体の中央に君臨し、原子力行政を司っているのが経済産業省で、その下に、電気事業連合体、原子力安全保安院、東芝・日立を筆頭に原子力発電所建設に携わる民間企業グループ、そして原子力発電所の運用会社などが連なっている。

こうしたいわば運命共同体の民間部門には経済産業省やその外郭団体からの天下り(天下るという動詞:pantoufler)が多く、情報を隠すことにかけては名人級だ。原子力発電はまったく安全だというメッセージを、多くの新聞広告やテレビCMで浸透させてきた。

2009年に政権の座についた民主党は、こうした状況に手を加えることをしなかった。それは、民主党の主要支援団体である「連合」に加盟する労連のひとつが原子力発電に関連する企業の従業員で構成されている電力総連だからだ。

中央官庁、監視機関、原子力発電所の建設企業・運用企業にまたがるこの巨大な共謀組織は、反対意見を黙らせるだけでなく、原子力に関するすべての疑念を排除してきた。しかもそこには、きちんとしたデータによる裏付け、怠慢、真実を語らないことによる結果としての嘘、事実の歪曲などがない訳ではない。この組織のいわば不正行為は、2002年、電力10社が日本における原子力発電の黎明期である1970年以降、事故という事故を隠していたことが露見することにより明らかになった。福島原発を所有する東京電力が最も激しい非難の矢面に立たされた。

今回の事故に関し、元東京電力社員の声が過去を検証し将来を見据えるために集められた。しかし、事故が収束していない現時点で聞くその直截な表現は、背筋をぞっとさせるものがある。それらの証言が真実ならば、東京電力や他の原子力発電所を持つ電力会社は、長期的な安全対策よりも、短期的な利益を重視してきたようだ。最も用意周到に練られた対策でも、強い地震や津波へのリスクを十分には考慮に入れていなかった。

福島原発は1956年にチリを襲った津波を参考に5.5メートルの津波に耐えうるように造られていた。原子炉は地震に耐用性があり、激しい揺れの際には自動的に運転中止になるよう設計されている。しかし、冷却装置は保護が不十分で、機能不全に陥ってしまった。福島原発の設計建設に携わった東芝の技術者二人は、東京新聞によれば、構造計算などの際に根拠とされた基準はかなり低いものだった、と述べている。

海江田経済産業大臣は、危機的状況が収束したなら、東京電力の管理体制を調査すべきだと、とりあえず述べている。当然のことだが、しかし収束するまでにどれほどの犠牲者が出るのだろうか。

東芝の元技術者は、匿名を条件にさらにストレートな発言をしている。今日本が直面している福島原発事故は、自然災害ではなく、人災だ。また、『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌の記事は、元原子力技術者である、共産党の吉井英勝衆議院議員(京大工学部原子核工学科卒の専門家)によって公表されたデータを掲載している。原子力安全保安院の資料に基づくそのデータは2010年に発刊された本の中に記載されており、その文章によれば、福島原発は日本の原発の中で最も事故の多い施設で、2005年から2009年までの間だけでも15件もの事故を起こしている。しかも、ここ10年の間を見てもそこの従業員たちは最も放射線を浴びて作業していたということだ。さらには、原発のメンテナンスは下請け企業のほとんど経験のない従業員に任されており、今回の惨事でも最前線で作業にあたっているのはそうした作業員たちだ。

東電の遅い対応も問題視される。共同通信の管理職は、東電は危機に対する認識が甘い、と語っている。地震と津波に襲われた直後の二日間、東電が自社の社員を守ろうとしたことは、国民への影響を認識していたのではないかとさえ思えてくる。

地震が発生した時、世界最大の原子力産業複合企業体であるフランスのアレヴァ(Areva)から8人の技術者が福島原発に派遣されていたが、危機を素早く察知し、最初に現場を離れた。しかし、アレヴァは顧客である東京電力の原発施設におけるリスクに関してはまったく懸念を表明していない。

・・・ということなのですが、確かに日本のメディアでも、以前から地震や津波に対するもっとしっかりした対策を求めていたが、そのような過剰投資はできないと拒否されていた、といった有識者の声が紹介されています。リスクを過小評価して、投資を抑え、利益を優先する。その結果は・・・しかも、そうした企業の行為を政府、官庁、監視すべき機関が一体となって隠してきた。その結果は・・・更には、原子力ビジネスへの悪影響を恐れて、世界のトップ企業もだんまりを決め込んでいる。

みんなで問題点を隠蔽し、お互いの利益誘導を最優先する「もたれ合い体質」・・・選挙の票をもらう代わりに目をつぶる政権、天下り先を確保するためにお目こぼしをする官庁、そして利益最優先の企業、組合員の雇用・待遇最優先の組合。その結果は・・・

しかし、原子力産業だけに限らなければ、私たちもどこかでこうした「黒い輪」に組み込まれているのではないでしょうか。直接的にひとつの小さなリングになっていなくとも、関心をよせないために、発言する勇気を持たないために、立ち上がる覚悟がないために、結局は政官業組合による「黒い輪」を永らえさせてきてしまったのではないでしょうか。

大震災から必死に立ち上がろうとする被災者の皆さんを応援するとき、私たち一人一人も新たな日本を創るべく、立ち上がるべきなのではないでしょうか。頑張れ、東北。頑張れ、日本。

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