髭を剃るとT字カミソリに詰まる 「髭人ブログ」

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天使の吐息 #30

2009-10-26 21:16:23 | 天使の吐息(詩)
休日に暇な男子高校生がいました。

ゲームをやっていてもあまり面白くないのでボーッとテレビを眺めていました。

「暇だ」

ヒュウ

「おい。キャッチボールでもやらないか?」

テレビを見ていた彼に父親が言って来ました。

「急にどうしたの?」

「物置にある工具を探していたらたまたまグローブとボールを見つけてな。修理も終わったからキャッチボールでもやろうかなって思ったんだよ。どうだ?」

「ああ・・・暇だからやるよ・・・」

彼は小学校まで野球部に所属していて楽しくやっていたのですが中学に入ると小学校とは違い、楽しむと言うよりは勝つ事を意識した活動になり、練習、練習の繰り返しで面白くなくなり退部したのでした。

「えっとグローブは・・・ここに・・・あった。あった!」

棚の奥のほうに仕舞っていたのを見つけ手にはめてみました。

「あ!ピッタリだ・・・」

中学に入って間もない時期に買ってもらった時はブカブカだったグローブが今ではピッタリになっていました。

「そういえば、男は成長期になるから、大きめのグローブにしておけって言われたんだったな」

グローブを取って来た彼は父親とともに近くの公園でキャッチボールを始めました。

「こうしてキャッチボールするのは4~5年ぶりぐらいか?」

パシッ

「そうだね」

パシッ

ボールが行き来しながら会話をする二人。

「学校はどうだ?」

パシッ

「普通」

パシッ

「そうか・・・」

バシッ

「お父さんは仕事はどうなの?」

バシッ

「いつものようにやっていて楽しい事もあれば辛いときもあるな」

パシッ

「じゃ、普通って事だね」

バシッ

「そうだな。普通だな」

暫くボールがグローブに収まる音だけが響く。

『それにしても親父のボールってこんなに緩かったかな?もっと速かったような気がしたけど・・・』

何年か経ったのでお父さんは衰えたのでしょう。

「それにしてもお前、でっかくなったな~。以前は俺の肩ぐらいしかなかったっていうのに今じゃ俺より大きいもんな~」

さすが親子。似たような事を考えているようです。

それからまた無言でのキャッチボールが続きます。

何度かお互いの目が合い、何だか笑ってしまいました。

「さて、帰るか?ちょっと疲れたよ」

暗くなり、ボールを目で追うのも苦労するようになってきたので帰ることにしました。

「また、近いうちにキャッチボールでも出来ると良いな」

「うん」

それから言葉を交わすことはなかったものの良かったと思える時間でした。


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