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(小説)美月リバーシブル ~その8~

2012-10-26 18:14:18 | 美月リバーシブル (小説)

2010年11月28日(日曜日)
あまりにも大きくそして重い悩みであった。
今日は日曜なので服を買いに行った。しかし、今まで衣服に関心を抱いてこなかった彼にはどれを買えばオシャレに見えるのかわからなかった。様々な服を見る。派手な服は自分には似合わないと思い込み、結局今まで買って来たようなジーパンにシャツ。そして地味な上着で落ち着いた。丁度帰り道に立ち読みが出来る大型古書店があったので『ドラゴンリング』を読んでみることにした。
『美月さんに少し聞かれたしな。ネット上でのネタで話を何とかつないでいたけどそのうちボロが出るかもしれないな』
人気漫画という事でマンガが並んでいる本棚には数人の男が『ドラゴンリング』を読んでいた。
『1巻、1巻はと・・・あったあった』
既に40巻も出ている長編である。全て読もうとするなら丸1日を要するだろう。ページを開いて、読んでいくが、前感じた印象をそのまま抱く。
『仲間、仲間言うなよなぁ~』『おいおい。ここおかしいだろ~』『前言っていた事と違うよな』
などと本を戻したくなる心境に駆られるがここでやめては前と同じになってしまうので我慢してページを開いていく。読み終えて次の巻を開いていく。そんな事を何度か繰り返しているうちに7巻ぐらい読んでいた。
『何だよ。ここで終わりか。相変わらずおかしいマンガだな』
次の巻である8巻を取ろうとしたらその巻だけ抜けていて、次の9巻から並んでいた。
『誰だよ!8巻だけ買った奴!俺が読めないじゃないか!』
しかし、まだ3巻ぐらいだと思っていたのに、既に7巻まで読んでいたことが意外だった。
『そんなに面白かったっけ?ツッコミながら読んでいたけど・・・そういえば、このマンガの感想で矛盾を超えた熱い作品だっていう人がいたな。言われて見ればそうなのかもしれないな』
本屋を後にする。今度来た時に8巻があればいいとおもった。買うつもりは無かった。集め始めたら全部買わなければならないだろう。しかし、光輝に全巻買うほどのお金はなかった。既に暗くなっていて、家に帰った。
「今日は外食するよ。こうちゃん、今日も出掛けるの?」
「今日は行かないよ」
いくら気にするなと言われていてもあまり毎日行くのも失礼だと思ったので今日は行かない事にした。と、言っても1週間近く毎日行っていたのだが。外食と言っても特に洒落た場所ではなく近所のファミレスで食事をしただけだった。

11月29日(月曜日)
今日は美月のうちに行くつもりで一度家に帰って私服に着替えて少し反応を見てみようかなどと考えていたのだが、学校に着くや否や日中の美月が近付いてきた。
「ちょっとアンタ。次の休み時間、話があるからちょっと来なさい」
「話?ど、どこへ?」
「テニスコート脇に。5分、いや3分で済む事だから」
用件だけ言うとサッと即座に振り返って美月は自分の席に戻って行った。
「何だ?何だ?お前、比留間と何かあったの?」
友人達が興味津々という感じで近付いてきた。
「いや、全然、見当も付かないよ」
「もしかして告白かぁ?」
岸がノリノリで言って来た。本島もその岸に乗る。
「はぁ!?あり得ないでしょ!あり得ない。あり得ない」
「もし、告られたら俺も実は好きでしたって言っちゃえ言っちゃえ!」
「これでお前もリア充の仲間入りか。そうしたら俺達なんかサヨウナラだなぁ~。おめでとう!」
リア充。『リア』ル(現実世界)で『充』足している奴。その略称である。特に恋人がいる人間を差す言葉としてネットという仮想世界の者達を対比して使われる言葉だ。彼自身、使った事がある。
二人は、色々と言っているが本心ではない。ただ、光輝をからかうネタが出来ると思ってはしゃいでいるだけだ。光輝は気楽に言う二人に乾いた笑いをするだけだ。
告白などという事はあり得ないと思いつつもひょっとして小春が上手くやったのではないかと内心、期待してしまう。だが、あの雰囲気を見る限り、それはないように思った。授業中はずっとその事ばかりが頭を支配し、考えていた。授業を終えて真っ先に向かった。
テニスコート脇は急な坂となっており、校舎からは見えづらい、そういう点を利用して学校の告白スポットとして使われる事が多いという事を噂で聞いていたが彼には縁の無い場所であったし、実際に来たのは初めてだった。
言われたとおり、来て見ると誰もいなかった。放課後や昼休みでもなければ誰かがいるものではない。
「ここで、囲まれたら俺はフルボッコだな」
そのような事もありうるのではないかと思えた。クラスなどの男子に倉石がストーカー行為をして来るから何とかして欲しいなどと美月が懇願すればそれを聞く奴もいるだろう。
「あ、いたいた」
『朝の方だけか』
どうやらボコられる心配はいらないようであった。
「アンタね。何、勘違いしているか知らないけどこっちは迷惑なの。分かる?もし誰かにアンタがうちに来ているなんて知られたら私はおしまいよ。どういう関係とか聞かれてみんなドン引き。私達の秘密だってバレかねないし、私が今まで苦労して築き上げてきた人間関係が全部パーよ。アンタそれで責任取れるの?」
1つや2つの事柄を何か言われるか聞かれるかと思っていたが、今みたいに、状況などをスラスラと言われると話を理解するだけで彼には間を必要としてしまう。もはや、外国語を翻訳にしているに等しかった。
「それは・・・」
「無理でしょうね。アンタなんかに出来る訳ないよ。アニメキャラが映っているテレビ画面なんかにキスなんかしてキャッキャ喜んでいるようなアニオタなんかに。うう~ヤダヤダ。考えただけで鳥肌が出ちゃう!」
こちらの事をまるで知らない一方的な物言いに少しずつ反感を覚えるが、普段、あまり感情を露わにしない彼は怒り方を知らなかった。怒るといっても感情のまま大声をあげたり手をあげたりするのでは物事をより悪化させるだけなのだ。反論するタイミング、言い方、声の出し方など、効果的に感情を伝えるにはそれなりの技術がいる。相手に自分の事を分かって欲しいのならば必ずやらなければならない。今後夜の美月と関係を続けていくのならば日中の美月を説得しなければならないのだから・・・
「だからもううちに来るのやめて。お父さんやお母さんにも言っておくから。もううちに入れるなって。それじゃ。バイバイ。それと私の周りに2m以内に近付かないで。いいよね?ふん」
彼女は言いたい事だけを言って彼女は立ち去っていった。考えていたら既に美月は背を向けていて発言する暇もなかった。時間としては本当に3分以内ぐらいだっただろう。
「く、くそぉ!」
10秒ぐらい何も出来ず立ち尽くしていた。それから沸々と怒りが溢れてきた。近くに落ちていた石をブロック塀に放り投げた。好き勝手言って去った彼女に対してよりも何も言えず聞く事しか出来なかった自分の情けなさに対しての怒りの方が強かった。
教室に戻ってきてどうだったとニヤニヤしながら聞こうとする友人達であったがギッとそんな友人達を光輝はにらみつけたので彼らも察して何も聞かなかった。授業中。考える。
『でも、このまま続けられるか?必ず日中のアイツの問題にブチ当たるよな。さっきもあんな風に言われたらどうしようもない。仮に今まで集めたグッズを全部捨てたとしてそれで手のひらを返してくるほど甘くないよな。一度付いてしまったオタのイメージは拭えるもんじゃないしなぁ・・・』
一度始まると止まらないネガティブ思考。
『そもそも高嶺の花だったんだよな。美月さんとはよぉ。俺如きと釣り合う訳もないんだよな。ここは潔く身を引くのがお互いにとって良い。それが最良なんだ。良いに決まっている。それしかないんだ』
自分に何度も言い聞かせるようにした。そう。彼のネガティブ思考は『諦める』という形で毎回、帰結するのだ。その瞬間に、彼女のイメージが脳内を駆け抜けていく。先週の楽しい日々が一気に去来する。それらに頭を振って考えないようにする。すると、思わず涙が出そうになったので顔を抑えた。
「おい。おい。左から2列目の前のほうの方の奴、眠いのかい」
その先生は倉石の名前など覚えてはいない。
「ちょっと気分が悪くなっただけです」
「そうか。保健室に行くか?」
「いえ、大丈夫です。それほどの事はありません」
「だったらしっかりしろよ。今日で期末試験一週間前なんだからな。そうだ。忘れている奴もいるかもしれないから言っておくが、今日で試験一週間前だぞ。遊び呆けてないで家で必死こいて勉強しろよ~」
「は~い」
授業が終わり、外をぼんやりと見つめながら彼はたそがれていた。試験前という事で部活動は行わず、みんな一斉に下校する。
「まぁ、その何だ。お前、気にするなよ。うん。女子に呼び出されるなんて俺達の人生において一度も無い事をやってのけたんだ。それだけで誇っていい。うんうん」
岸がそのように言った。友人達は光輝の様子を見て気を遣ってくれた。軽くその件には一切、触れるなと思ったがそのような友人達の気遣いに感謝しなければならなかった。その日は、奢ってやると言ってくれたのでいつも以上にはしゃいだ。美月への想いを今日で断ち切れるように。時間は5時半を過ぎ、辺りは真っ暗であった。そんな時であった。
携帯電話が鳴った。電話の主は、美月の家の電話であった。思わず手が震えた。声を聞いたらさっきの決意が揺らいでしまうと思ったので居留守を使い続けようと思ったが、それをやっては今後、しこりとして残るだろう。人として、キッパリとけじめをつけるべきだろう。
「倉石さん。どうかしたんですか?一昨日は今日来るって言っていましたけど。体調でも優れないんですか?それとも別の用事か何かで?」
当然、電話の主は夜の美月であり、とても心配しているようであった。胸が痛かった。
「そ、そういうわけじゃないんだけど、今、試験1週間前だから勉強しなくちゃ。だ、だから当分いけないや」
「では、試験が終わってからですね?テストと関係ない私が倉石さんの勉強を邪魔しちゃ悪いですもんね。確か、テストは来月9日まででしたよね?勉強していい点数を取ってくださいね」
「そ、そうだね」
もう会わないと言おうと思ったが口から出てこなかった。だが、試験後に再び電話があるだろう。その時は適当にいいわけでもして有耶無耶にしてしまおうと考えた。我ながら情けない話であったが、お互いダメージが少ない方法だろうと思ったのだ。美月の両親や小春からは失望されるだろうが接触しなければ何も言われる事は無いし、陰で何を言われたって別にいい。
だが、こんな形でここ数日の人生で最も素晴らしき日々が潰えてしまうと考えると心が張り裂けそうな気持ちであった。自分から行動しようとしない光輝にとってこんなチャンスなど人生で一度あるかないかというほどの幸運だったはずだろう。それをここで使ってしまって後の人生お先真っ暗だろうが、この思い出を大事に生きていけばいいなどと軽く人生の半分ぐらいを駆け抜けたぐらいの気持ちになっていた。
『だったらこんな俺なんかよりももっと良い人がいるはずだ』
自分のことなどより静かに美月の幸せを願うだけだ。
「何かあったのか?当分、いけないとか。まさか、比留間のうちに行っていたとか?だから、もう来るなってさっき言われたとか・・・」
岸が聞いてきた。違うがなかなかいい読みをしていると思った。
「ここ最近、家の近くの子と仲良くなってさ。会いたいなんてよく言うもんだからちょっと困っていてさ。携帯の番号なんて教えるんじゃなかったよ」
咄嗟に出てきた言い訳にしてはなかなかの出来であった。
「近所の子って何歳なんだよ」
「8歳だったかな?」
1日の半分ずつを生活していると考えれば当然、生きてきた年数も普通の人より実質半分となるだろうから嘘ではないだろう。
「8歳だと!?それって女の子か?女の子なんだろ?女の子に決まっているよな?」
本島が身を乗り出して聞いてきた。その質問は妙に力が篭っていた。そして目の輝き方が変わった。本島は女子であると決め付けたがっていた。
「ま、まぁ。そ、そうだよ」
「来たッ!!マジか!?マジなんだな!よし!詳細を教えろ!」
本島が近付いてきて鼻息がこちらに届きそうな勢いであった。ただ本島はロリコンキャラを前面的に出して話の盛り上げとして使っているだけで実際はロリコンではないようだが、本当かどうかなど定かではない。
「お前な。怖いよ。目がガチ過ぎなんだよ。少しは落ち着け」
「そうかぁ?ハハハハ」
岸のツッコミに本島は少し笑っていたがまだ本気のように思えた。
「そういう世間の目だよね。俺とその子が仲良くやっているとさ。変に誤解される可能性が高いでしょ?その子の為にもならないし、だから距離を置こうって思ってさ。実はさ、比留間はその子と親しくてさ。だからさっきもう来るなって言って来たんだよ」
決して嘘ではない。さっきの件もこれで上手く誤魔化せると思った。
「なるほどなぁ。お前はツライかも知れないがその方がその子の為だわな。やっぱり同年代と遊んだ方がいいんだよ」
岸は単純に誉めてくれた。
「うん。何だよ。比留間の親戚か。それじゃ俺が入り込む余地、ねぇじゃないか・・・」
もう本島は放っておいていいのかもしれない。それから夕方遅くまで遊んだ。今日の件でいつもよりみんな優しかった。そのまま帰宅した。PCを付けて久々に『きぐるみ』のファンサイトを見て和んだ。と言うか何かしなければ美月の事を思い出してしまうからだ。夜遅くなって寝ようと思ってベッドに入ると美月の事が頭を支配した。決して悪い事ではない。彼女の笑顔なり、照れた顔なり、幸せだった数日間の事だ。自ら終止符を打つのは身を切られる思いに駆られた。

11月30日(火曜日)
「はぁ・・・」
夜はあまり眠れなかった。だが、不思議と眠気は無かった。但し眠らなかった分、疲労感が肉体を支配していた。食欲は無いわけではなかったので朝食を取って学校に向かった。
「おう。クラッチ!」
岸が手を挙げて挨拶した。
「おはよ」
力なく答え、ドカッと重く椅子に腰掛けた。
「やっぱりその子と遊べないのが辛いのか?このロリコン野郎!」
「はははっ。そんな事ないよ」
「お前、本当に大丈夫か?」
岸から言われた事に力なく否定すると岸が心配そうに聞いてきた。後はただ『大丈夫』と連呼するだけであった。それから授業をボーッと受ける。何気なくノートに絵を描く。描きたいものを特にイメージせずただシャーペンを走らせた。
『昨日のあの瞬間までは、楽しかったのになぁ~』
今日は何があるのか何をしようかと考えているだけで幸せな気分になれたというのに今は、自分の中が一気に崩壊してしまって瓦礫の山というようなそんな心境だった。重く邪魔臭いだけだ。
「ハッ!や、ヤバイ。ヤバイ」
気がついてみるとノートにはデフォルメされた女の子らしいキャラが描かれていた。ただし、表情は描かれていない。光輝の特技であった。デフォルメされたキャラを描くというものだ。それでオタクグループの中でたまに『あのキャラを描いてくれ』とリクエストされる事さえあるぐらいだ。そのキャラが何となく夜の美月を描こうとしたと思えてきて、消す事にした。

学校が終わり、真っ先に美月が帰っていくのを後ろで見ていた。今日は何か楽しそうな印象を受けた。やはり夜の美月が動画を作っていると言っていたので昨日会ってないという事を知っているのだろう。それだけで彼女自身喜んでいるのだろうと思った。日中の美月も笑顔だと小憎らしいと思いつつもやはり可愛いのは事実だった。それを見られただけでせめてもの救いだと思うしかなかった。
「おう!帰るぞ~」
むさ苦しい友人達と一緒に帰る。試験一週間前という事で流石に遊ばずに帰る。それで実際、試験勉強をしているのか分からない。家に帰って一応、机の前に来てノートを広げてみた。消した絵のキャラの跡が残っていた。昨日の美月の事をぼんやりと思い出したが昨日、それほど寝ていない事もあってかそのまま眠ってしまった。その時、夢を見た。夜の美月が遠くで叫んでいたようであった。しかし、目覚めていたら忘れていた。
「どんな夢だっけ?でも、何か嫌な悲しい感じがするけど」
周囲を見るとあたりは真っ暗で明かりは消され、代わりにエアコンが付けられ肩にはジャンパーがかけられていた。時間は午前0時を回っていた。母親がやってくれたのだろう。
「勉強なんて殆どしていなかったのにな・・・」
空腹感を覚えたので冷蔵庫を開けておかずを出して夕飯を食べて、風呂に入り、再び眠りに付いた。

今までの人生の中で最も激動であったであろう11月が終わり、12月に入る。いくら、夜の美月の事があっても、毎日毎日悩んでいるほど人間は単純に出来ている訳もなく、辛さは時間が薄めてくれた。それと、彼の好きなアニメキャラも担っていた。彼は、好きなアニメのDVDを最初から全部見た。ちょっと心が楽になった。勿論、そのキャラが彼に話しかけてきたり、笑いかけてきたりしてくれる訳ではない。ただ、そのキャラが劇中で表情を変化させているのを見ているだけでいい。それだけで彼の心はほんの少しだけ癒された。ほんのちょっとだけ満たされた。彼には大きな喜びはいらない。必要としない。求めてもいない。
そのキャラを描く。自分でイメージしたのを描けると嬉しい。そんなささやかな嬉しさがあればそれだけいい。以前までのパッとしない生活を取り戻そうとしていた。3日間という時間が経過した。

12月3日(金曜日)
もう、日中の美月が視界に入ってもそれほど気にならなくなった。全ては終わった事なのだから。彼女もこちらの事など気にしてはいまい。同じ教室という中で全くの別空間をお互い過ごしていくだけだ。授業中、無意識にペンを動かす。あまり熱中しすぎると先生などにバレる恐れがある。だが、光輝は未だにバレた事がなかった。黒板の内容をノートに書き写すかのように絵を描く事が出来た。それは1つの特技かもしれない。
その日は、岸と本島はお互いに家の用があるからという事で早く帰ってしまって、珍しく糸居と一緒に帰ることになった。話す言葉が見つからなかった。元々、本島辺りが話題を挙げて岸が広げていき、それをたまに光輝や糸居に振るのがパターンであったのでほぼ振られる側の二人が一緒では、盛り上がる事はない。だから、少し話しかけることにした。
「最近、どんなアニメが面白いかな?」
「今期は不作だったな。作画が乱れるのは目を瞑るところだが設定が活かされていなかったり、スタートダッシュだけ凄くて後は停滞したりしてさ。切った奴も何本もある。最終回にどれだけ盛り返せるのか。でも、来期に面白そうなのがあるからそっちに期待だな」
基本的にクソがつくほど真面目で的確な事を口にする糸居だから、話を振っても話題が膨らまない。3人以上いると、話をしたがらないのは自分でも分かっているからだろう。
「そうだ。あの出来事からようやく吹っ切れつつあるようだな」
「まぁね。少しスッキリしたよ。特に何かがあったわけじゃないけど時間が解決するって話、本当だね。」
「比留間の後は目も当てられなかった。で、少し比留間について聞いても良いか?」
「いいけど」
その小さい子と何をして遊んだとか、岸同様またロリコンだのと言う気になっているだろうが別にどうって事はない。淡々と受け答えをするだけだ。
「俺が気になるのは、お前と比留間が一緒に帰っていたという事だな。その後に嫌われるような事をしていたのか?比留間よりもその子が好きだとか」
どうやら、糸居は見ていたようだ。迂闊だった。糸居に見られている事をまるで気付いていなかった。
「ひ、人違いじゃないかな?」
「バカか。俺達と分かれた直後、同じ服装、同じ自転車を持った奴が別人な訳がねぇだろ。それに比留間を見かけた時お前は妙にソワソワしていたしな。別に後をつけていた訳じゃないぞ。コンビニにトイレに寄って、出たらお前らが先にいただけだ」
「お前を呼び出した比留間は怒っていたという事は、一緒に帰っていた比留間こそが別人か?しかし、比留間は同じ制服を着ていた。話がまるでつながらないのだがな・・・お前が言った8歳の女の子ってのも気になるが、それはただの嘘か」
アニメなどを細かく分析する糸居だからこその指摘だろう。聞いていて彼を騙すのは不可能だと思った。
「もういいよ。糸居。もう・・・いいよ」
「あ?何が?まだ俺の推理は終わってないぞ」
「分かった。もう全部話すから・・・」
「何だよ。今までの情報から考えて真実辿り着くのが面白いんじゃないか。少しは白を切るなりしろよ。推理マンガみたいでよ」
遊ばれているようであまり良い気はしなかった。
「話すけど、これだけは約束して欲しい。誰にも話さないって・・・」
「話すったって俺は元々そんなに人に話されるタイプじゃねぇし、人に話しかけるタイプでもねぇだろ」
言われて見ればそうだった、糸居は自分から物を語る事をあまりせず、謎が多かった。だが、だからこそ慎重にならなければならない。光輝は糸居の目をじっくりと見た。糸居もその雰囲気を察知したのかじっと光輝の目を見た。
「ああ。約束するよ」
「でも、何から話したらいいんだろ。そうだな。比留間さんは変わっているんだよ」
「変わっているってどんな風にだ」
「何ていったらいいのかな。ええっと~特殊な二重人格なんだ」
「は?二重人格・・・だって?」
「そう」
そう言って言葉が続かなくなり沈黙が支配した。


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