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The Sword 最終話 (21)

2011-02-21 20:10:55 | The Sword(長編小説)

院長室というタグが取り付けられている立派な木製のドアを開けた。鍵はかかっていなかった。後方に初老の恰幅の良い男が震えていた。その男こそがこの病院の院長である『海藤 拳』その人であった。肩からかなりの量の魂を溢れさせていた。周囲を見るとドア付近にはモニターがあり、そこには倒れている藁木の映像が映っていた。どうやら、監視カメラでドアの向こうを確認しソウルフルで狙撃しようとしたのだろう。
「殺す気はありません。上の資料室の部屋を開けてもらえればそれでいいです」
「うっ・・・ひぃぃぃ!」
その怯える目はまるで恐ろしい物を見た子供であった。ガタガタと震わせ、涎も出ていて院長たる威厳など全く感じさせなかった。初対面であったが勇一郎の資料によると、エリート中のエリートでいつも横柄で自分は人とは違うというのを表す人物だと書かれていた。勇一郎自身、姿を見た事は殆ど無かった為、経歴以外の情報は少なかった。
「殺す気はないと言っているではないですか?俺の要求だけ呑んでくれれば」
「うう!あああ!ママぁぁ!ママぁぁぁ!助けてぇぇ!」
海藤は後ろのドアを開けた。ソウルフルも床に落としたままだったので丸腰である。
「ママ?」
海藤は後方にあるドアを開けて、そのまま逃げていった。
「院長室の後ろは倉庫だったな・・・他に逃げ道もない」
だから焦って追いかける必要もないと思って院長室に来た目的。資料室のロックを解除する事にした。
「それにしてもそんな所に母親をいさせるのか?」
院長室を見回すと絨毯が敷き詰められ机も椅子も大きく年代を重ねたものであり厳かで気品を感じさせた。部屋の中でおかしいと思えるのはモニターだろう。病院内各所が表示されていた。病院内は一部、騒がしくなっている所もあるがまだ混乱するには至ってないようだ。モニター周辺には無数のスイッチが取り付けられていた。切り替えていけば他の所も映るだろうがスイッチの操作は分からない。
「こんな多くあるスイッチがあるとどれがキーなのか・・・」
一つだけカバーを見つけた。施錠出来るように鍵穴が付いているが鍵は付けられておらず問題なく開いた。それを開くと大きめのスイッチがあった。そこが赤いランプが付いている。
「これしかないな・・・もし、これが罠ならこれで俺はおしまいだが・・・」
ポチッ
モニターには何の変化も見られなかった。しかし、赤いランプが緑に変わっていた。
「いいのか?分からないな・・・引っ張り出して来て確認させればいいことだな」
院長が入っていった倉庫にドアを開けた瞬間、一道は固まった。
「何?」
何とそこには下りの階段があった。狭くはない階段なので2~3人は並んで歩けるだろう。
「田中さんの情報ではこの部屋で行き止まりのはずでその先の事は書かれていない。病院が完成してから密かに工事をやっていたのか?」
地下を拡張させる事は一道が思っているほど容易ではない。掘削作業等、大規模なものである。誰にも気付かれないように地下を掘るなど出来るわけなどない。始めから作っていて、後になって何も無いと隠したというのが正しいところだろう。
「しかし・・・いける以上は進まなければならないな・・・」
不気味に口を開いている階段。ひんやりと冷たい風が吹いてくる。明かりはついているがそこは何か悪魔の胃袋に通じる口という風にも見えた。だが、ここまで来た以上は引き下がるわけにもいかないし、スイッチの事も聞かなければならない。一道は意を決し階段を下りていった。

ほんの少しボーッとしてから悠希は元気を寝かせて立ち上がった。
「あ・・・やらなくちゃ・・・」
悠希はそれから隣の資料室に入るとそこには1人の若い男がいた。棚に入ったファイルをリュックに入れていた。勇一郎の資料に書かれていた色城 瞬という男であった。元詐欺師であり、相手をその気にさせ、信用させるプロであった。ソウルドも使えるという話である。
「ちぃ!もう来やがったか!まだ重要ファイルを全部、入れ終わってないってのに・・・」
「ここで何を!」
「さぁな!」
リュックを背負って走り出そうとした時に悠希は手にしているペットボトルを大きく振った。灯油が飛び散ってそのリュックに付着した。色城はそれに気付いていないようであった。悠希はマッチをつけサッとこすって床に落とすと資料室に一気に燃え広がった。火の勢いはそのまま隣の部屋のウームやパソコンにも広がっていく。そしてそのリュックにも引火したようであった。これが病院全体をパニックに陥らせる事となった。
ウーウーウー!!
突然、サイレンが鳴り始めた。火災報知機が炎を感知し知らせていたのだろう。
ザァァァー!
スプリンクラーが起動したが、何せ灯油からの炎である。そう簡単に消える訳はない。プラスチック等が燃えている為に黒煙が上がる。毒ガスと一緒であるから吸えばすぐにでも窒息してしまうだろう。悠希はスプリンクラーの水に濡れながらその色城の後を追った。
「何のサイレンだ?何かあったのか?」
それが病院内にいる人たちの多くの第一声だろう。周辺があまりにも平和な状態では突然、緊急事態といわれても理解できないものだ。色城は外に出た。そこには非常階段であったのでそれを用いて下まで降りて逃げるつもりであった。派手に足音をさせながら降りていった。
「火事か?あの女!火を放ったか?とんでもない事をしやがる!いや、この騒ぎに乗じて逃げるからありがたい所だな」
パチパチパチ・・・
「何だ?音?」
色城が振り返ると背後が真っ赤に染まりその上に煙がもうもうと立ち上がっているのを発見した。
「何ぃ!?」
リュックを下ろして服を脱いでバタバタと燃え盛るリュックの炎をはたいた。
「ふざけんな!この中にはソウルド研究の重大資料が入っているんだぞ!こんな所で燃やされてたまるか!」
しかし、火の勢いは弱まらない。非常階段の天井にはスプリンクラーは取り付けられていないようで水も出なかった。炎はリュックの中の資料も焼いていく。
「消えろ!消えろ!ゴホッゴホッ!」
ガチャ!
上の非常階段の扉が閉まった音が聞こえた。真上を見ると先ほどの悠希がいた。
「さっき、灯油臭かったからあいつがまいて燃やしやがったのか・・・くそぉ!資料がなければ俺達がやってきた事が全部無駄って事じゃねぇかよっ!あの女ぁぁぁ!」
怒りに打ち震える色城。リュックを背負い、ソウルフルを腹につけていた。今思えば、ソウルフルのほうを背負い、資料を腹につけていればよかったと後悔していた。少々腹に付いたソウルフル本体が邪魔であるが狙いをつけることぐらいは問題なく出来る。
「ここまで10年はかかったんだぞ!10年だぞぉ!」
ソウルドについての知識はあれど技術面に関しては携わってこなかったので内容は殆ど分からなかった。また始めるとなれば沢山の関係者を失っている以上、また振り出しというところだろう。
ガチャ・・・
上から音がしたので見上げて見ると自分を負ってきたと思われる悠希がいた。悠希は元気が死んだショックから立ち直れないのか足取りが定まらない。そんな彼女を見て、色城は怒りを爆発させた。
「あんなボロボロの女に俺の計画が!水の泡にさせられたってのかぁぁッ!」
彼は自分が圧倒的優位な立場にいると言う事で悠希をなぶり殺しにしてやろうと思った。そこにもう冷静さは見えない。
「はぁ・・・アイツが逃げる・・・アイツが全力をかけて逃げたらきっと私には追えない」
それは事実であるが、色城はこちらを睨みつけ、ソウルフルを構えた。近付くつもりは無かった。卑怯と呼ばれようと関係なかった。目的さえ達成されれば良いというのが彼の信条であった。ひょっとして、ソウルボムを田町川から奪って持っているかもしれないというぐらいの事も考慮していた。遠距離から止めをさすつもりであった。
「必ず殺すからなッ」
色城は自分でもかなり頭に来ていると実感していた。しかし抑えられなかった。それは位置として悠希が上にいる事で自分が見下されているように感じたからだろう。
色城は引き金を引いた。床を貫通するソウルフルである。距離や角度を感覚的につかめれば命中できないわけはない。それが動きの鈍っている悠希であれば当たるのは当然である。
悠希の右足を射抜いた。悠希はバランスを崩して手すりにしがみついた。
「まだここには7弾持っている。まだ下に一道ってのがいるから4発は奴と遭遇した時の保険として取っておくとして、残り3発は全てお前に叩き込んでやる!」
自分と悠希とでは1階分の距離がある。悠希が壁を貫通するソウルドを使えるとしてもこちらには届かない。完全なる安全地帯からの攻撃。ソウルフルの弾を入れ替える。そして狙いを定めた。
「次はどこを狙って欲しい?反対の足か?それとも腕か?頭か?いや頭は最後にしてやる!腕か頭かどちらを・・・何!?」
色城は己の目を疑った。何と悠希は手すりをよじ登ったのだ。悠希が立っている所は7Fである。1Fに落下するような事になれば命はない。
「走ってくるのが無理と言う事でこちらに飛び降りてくるか?もうまともに物事を考える事も出来ないか」
正気の沙汰ではないと思った。スタントマンなど特別な訓練を行ったものでなければ1階下に飛び降りる事など出来たものではない。失敗して下に体を叩きつけられるのがオチである。
「だが、映画みたいに上手く行けばこっちに下りられるかもしれないがな」
ビュゥ!
「ううっ!」
悠希は7Fともなればかなりの突風が吹く。足を打たれたので這うようにして手すりに挙がった。それで落ちてしまうかもしれないと思えるほど危なげであった。
『勝手に死んでくれるなら死ね。こちらの楽しみは一つ無くなるがな』
しかし、悠希は既に正常な判断が付かない状況にあった。
『やりがった!!』
フワッと悠希が飛び降りたのだ。しかし片足を撃たれた為か勢いは殆どなかった。これでは6Fに飛び移る事は不可能である。色城はそのまま落ちていく様を見ようと軽く身を乗り出した。すると吹っ飛ばされるぐらいの猛烈な勢いで非常階段の格子に体を叩きつけられた。
ガツッ!!
「ぐぅおっ!」
体を見ると悠希の手が格子を抜けて男のシャツの襟を掴んでいたのだ。背中から体全体に激痛が走る。悠希の落ちるスピードと体重を乗せ格子に叩きつけられたのだ。いくら皮の厚い背中といえど肋骨が折れただろう。
「グッ!離せぇ!離せぇぇぇ!」
身を捩って悠希の手を襟から離そうとするが悠希も必死である。物凄い力で掴んでいた。
「くそぉぉ!こんな重要な時に!」
ソウルフルを使おうと思うがこうも近すぎる位置ではソウルフルを構えるのは困難であった。しかも、体を引っ張られていた為に身動きが取りづらかった。
「離しやがれ!このバカが!」
色城が右肘を力強く動かすとその腕によって悠希の手が格子に挟まった。
「あぅ!」
「いつつつぅッ!早く離せぇ!離して落っこちさえすればお前も痛い思いをせず楽になれるだろうがっ!」
ありったけの力で押しこむ。格子によって指が切断されるのではないか負荷がかかっているだろう。色城も肋骨から来る激痛に耐えながら力を入れる。互いに必死である。
「がぁっ!」
色城が勢い余って前につんのめって階段の手すりに顔面から激突した。
「いってぇぇぇ・・・だが、落ちたか・・・バカが・・・」
痛みが走る額を手で抑えていた。その手の中にヌルッと生暖かい感触があった。
「ううぅ!」
「何!まだ生きている!」
振り返ってみると何と悠希が階段の足場に肘を付いて足をばたつかせていたのだ。
『フッ・・・このまま放置しても勝手に死んでくれそうだな・・・!!』
額から手を離してみるとべっとりと血が付いており、その血は額から鼻を避け口元を伝い顎からポタポタと雫を垂らしているのが見えた。
『これはこれは・・・良くもやってくれたな』
「うう・・・あああぁ・・・」
悠希はこの時、もう落ちて良いかなと思っていた。さっき飛び降りた時も逃げる色城を倒すなどという事は考えていなかった。せいぜい道連れに出来ればいいかなというぐらいの感覚である。決して狙って飛び降りたわけではなかった。仮に飛び降りて何も出来ずそのまま地面に落下して死んだとしてもこれ以上生きたいとも思っていなかったから受け入れる気持ちでいた。だが、色城の服を偶然にもつかむ事が出来てしまった。
それによって何とか道連れにして殺そうとも考えたもののやはりダメであった。
肘を何とか付いている状態であったので額から血を流しながらこちらを見つめる醜悪な顔を見る事はなかった。だが、色城の影の所為で視界が少し暗くなったという事だけは感じた。
「このままでは君は転落死してしまうな。助けて・・・あげるよ」
色城は右手を伸ばし表情を歪ませた。そして左手も伸ばしたがその手からはソウルドが伸び、それが悠希のしがみついている腕にゆっくりと迫る。
「ああああぁ!」
色城は悠希の肘にソウルドを触れさせた。肘から伝わってくる痛みや嫌悪感で悲鳴をあげた。

色城 瞬。元々は先祖代々から大金持ちであった。金がある事が当然であると育てられ、何もかも金で何も変えられると信じて生きていた。彼には友達がいなかった。孤独であったというのではなく、自分と同じ対等な存在などいないと思っていたのだ。いつも奢ってくれと言って来る連中。それは、友達ではなく、下僕とか奴隷と思って明らかに見下していた。しかも『奢ってくれ』という奴には決してお金を渡そうとしなかった。

「何で、貧乏人が『くれ』って俺に命令できるんだ?『下さい。お願いします』だろうが」

と必ず訂正させた。しかし、そんな生活はずっと続かなかった。父親が事件を起こしたのだ。警察沙汰でニュースにも出た。それによって彼の人生は転落していった。今まで金を与えてやった者達は彼を助けるどころかここぞとばかりに笑っていた。「今まで、傲慢に振舞っていたから罰が当たったんだ」「ざまぁみろ」と嘲笑した。そんな屈辱を覚えながらも背に腹は換えられないと、そんな彼らに助けを乞うた。泥水を舐める思いをしながらも・・・しかし彼を助けようとするものはいなかった。有り余るぐらいの恩を彼から受けていたのにも関わらずだ。その怒りに身を震わせ耐え続けた。そんな彼に転機が訪れる。たまたま買った宝くじが見事一等に当選したのだ。何故、そんな大金が奴に当たるのだと妬みの声をいいながらも利益を得ようと再び自分に取り入ろうとする寄生虫のような奴らがいた。そして、宝くじの当選金は苦節を共にし味方であるはずの両親が無断で自分達のものとした。彼は金以外何も信じられなくなった。

「金が人を操るというのなら、誰よりも金持ちになってやる」

その心で彼は、自分の力で這い上がっていく事にしたのだ。金を得る為ならばなんでもする男で目的達成の為ならばプライドを捨てるのも簡単だった。多くの人を信用させるには喜怒哀楽を過度に表現するのが一番だと心得ていて、良く笑い、泣き、怒りという感情をストレートに表した。安っぽいとか見え見えという者もいたが、だがそんな人に会った時、不快な印象を与えないという特異な才能を発揮した。だが、得と判断したときは人を裏切り、見捨て、憎まれるような事を平然とした。そんな事を続けているうちにある一人の人物と出会った。藁木 吾朗であった。彼は、どんな手段を使ってでも成り上がろうとする藁木は言わば式城と似たタイプの男であった。似たもの同士、気が合いつつもいずれ利用してやろうとお互い狙いあっている仲であった。そして、間と会い、病院の事を知り、計画の資金集めに尽力した。トージョーの社長とパイプ役となったのも、金田 直をも引き入れたのも彼の働きによればこそであった。最終的には計画の権利を持ち、世界一の大金持ちになることが夢であった。先ほどまで病院のモニター室で一道や元気達の動きを逐一見ていた。そして病院側の敗北が濃厚になると見え、資料だけ持って逃走しようと考えたのであった。

「いぃっ!!」
右手は悠希に触れようとしていたが左手はソウルドで悠希が自分の体を支えている左手に浴びせていた。言っている事とやっている事がまるで違った。恐らくそれは彼の口実作りだろう。もしこの状況を目撃している人がいたのなら落ちそうになっている悠希を助けようとしない色城は悠希を殺そうとしていたのではないかと疑いを持つだろう。
「大丈夫だ!君は必ず助かるよ!頑張れ!もうちょっとだ!そうすれば!」
今は憎いと思っていられる余裕は無かった。ただ自分の体重を支えるので精一杯だった。だが、ジリジリとソウルドでゆっくりと焼かれていき自分の肘の感覚が薄れていく。
腕が震え、全身からも力が抜けていく。ズルズルと肘が引き離されていく。
「うっく!」
一瞬の間にズルッと下に滑った。もう離れた手を戻す体力はない。そのまま重力によって引きずり込まれていく。
「頑張れ!こんな所で死んでどうする!頑張れば助かるんだぞ!君っ」
色城は右腕を振り上げた。悠希の目にはその迫り来るソウルドがあまりにも巨大で闇よりも深い暗黒が自分自身に迫ってくるように見えた。
「ひぃ!」
遂に避けるように自分から手を離してしまった。だが、それによって一気に楽になった。全ての苦しみから解放された。周りの空間がゆっくり流れていく。多くの悲しみ、怒り、痛み、それら激しく辛い感覚が抜けていき、非常に穏やかささえ感じていた。
『空が遠い・・・でも、もう会いにいける。これで・・・』
上を見つめると、手すりから身を乗り出してニヤリと笑う式城がいた。男が誰なのか何故、笑っているのか分かりはしない。それに別にもうどうでも良かった。後はこの流れに身を任せれば勝手にどうにかなってくれるだろう。そう考えていた。
『フッ・・・これで・・・ん?』
悠希の手がこちらに向いて光ったように見えた。
『最期の最後の抵抗か・・・』
既に落下して数mも離れていた。もはやソウルドが届く距離ではなかった。だが、おかしな事が起こっていた。その光は伸び続けてこちらに向かってきたのだ。
『こんなにソウルドが伸びるなどと俺は知らんぞ!』
色城は体をひねって避ける。スローモーションのように時間が流れていたので自分の動きが遅いと感じる。だが、その光はソウルドの頬をかすっただけで致命傷に至らせる事が出来なかった。
「糞が!」
色城は怒っていた。これで全員の敵を倒したから晴れ晴れという訳にはいかなかった。敵は全員倒したことは倒した。だが、ソウルドの機材や資料の殆ど失い、関係者のほとんどもやられてしまっていた。病院での計画続行は不可能だろう。となればこれから残ったものを集めて、改めて技術開発をするような企業、団体を探さなければならない。そう思うととても喜んでいられるような状況ではなかった。だが、事態は意外な方向へと進んでいく。
「!?」
床に落下して激痛が走ると覚悟したにも関わらず何も訪れない感覚。視界の先には非常階段の天井。
ガグッ!
「うっ!」
体勢を斜めになって、遅れて走る痛み。それは階段の段差に体を叩きつけられたのだ。慌てて手を突こうとしたが手遅れだった。もう階段で転げ落ちるスピードを止める事は出来ない。
「う!おぅ!がっ!ぐぇ!」
転げ落ち、段差の衝撃があるたびに声が漏れた。本人には世界がグルグルと回るだけで理解できていなかった。ひょっとしたらソウルドの特別な作用か何かと思っていた。
ボグッ!
その勢いのまま非常階段の格子に首を強打してしまっていた。しかもそれは手や足などは付かず自分の全体重と落下の勢いが一気に首に集中してしまった。その為首の骨が折れてしまっていた。
「あ・・・あぁぁぁ・・・」
色城は事態が飲み込めないままグルグルと回る世界の中で死に行くのみであった。

一方、長いソウルドを出した悠希は幻覚か夢を見た気がした。
自分の手から伸びるソウルドからは昌成と元気が笑っていたようなそんな気がした。それを見た悠希は満足して、体を空中に委ねるのであった。


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