根無し草のつれづれ

日々の雑感をひたすら書き綴ったエッセイ・コラム。また引用部分を除き、無断掲載の一切を禁ず。

●「ナカメキノ」vol. 4 『建築学概論』

2013-05-01 03:48:01 | エッセイ、コラム
ナカメキノ

と題された映画館がない東京の東横線・中目黒駅を映画でもって町興しをしようとする試みのイベントの4回目に行ってきました。


お馴染みのポスターとスタッフさんの暖かい眼差しに迎えられての会場入り


撮り損ねてしまいましたが、会場入り口のこのポスターの上には「満員」の文字が!!

2回目、3回目は構成自体に実験的な事を入れていたようですが、今回は1回目と殆ど同じ、映画視聴を挟んでトークショウ2回という構成に戻っていました。
映画解説者の中井圭さんを司会進行役に、松崎ブロス(松崎まことさん・松崎健夫さん)、 松江哲明監督との飽きさせない軽妙なやり取りで笑いを誘いつつも、より深い作品理解に繋げていく所はお見事の一言。
このトークショウを観に行くだけでも、「ナカメキノ」に足を運ぶ価値はありますよ。
今までの例からすると月末の土曜日・日曜日に設定されています。


EASEさんの協力で毎回その作品にそくしたセットが組まれる会場(バンタンゲームアカデミーさん)の様子はこんな雰囲気

さて今回の課題作はイ・ヨンジュ監督の
建築学概論
という、なんと日本未公開の作品を「ナカメキノ」で試写会よりも早く掛けてしまおうっていう太っ腹な企画です。
なんでも、韓国で410万人が観たという彼の地の大ヒット作だとか。

ストーリーは建築士として働く主人公スンミン(オム・テウン)の元に、とある美しい女性ソヨン(ハン・ガイン)が訪ねてきて、 私の家を設計して欲しい、と依頼する所から始まります。
その美女は主人公と過去に交友関係があった女性で、そこから2人の15年前(1996年)の数々の想い出がよみがえり、それが現在とリンクしていくというものです。
さて2人の過去にはどんな恋愛模様があり、それが現在にどう作用していくのか、というのが物語の骨子。
今回はWキャストで過去のスンミンをイ・ジェフンが、同じく過去のソヨンをスジが演じています。

作品を観始めて最初に気付いたのは、画の発色、特に過去にさかのぼる部分が何とも形容し難い、好い感じに表現されてるという所でした。
これは画角と共にこれから映画や写真を撮ろうという志のある人には非常によい勉強になると思われます。
自宅の液晶画面にてトレイラーを観てみましましたが、残念ながら、あの色は再現出来ていなかったので劇場にて確認する他ないでしょう。

日本で主に紹介されている韓国のドラマや映画にありがちなオーバー・アクションかつベタベタで急激な展開も殆ど無し。
極力抑え目な演出でゆったりとした話しの流れがあり、劇中の数々のプロットや画が指し示すものを視聴者に想像させる『遊び』の部分を残してもあり、何とも言えない心地好さを醸し出す作品でもありました。
そこは恋愛映画なのに『建築学概論』という一見意味不明な堅いタイトルが付けてある所に顕著に表れていると思います。
この作品には、いわゆる日本人が好む『そこはかとなさ』があるのです。
エンターテイメント性も持ち合わせていますが、比喩表現で作者の意図を伝えるという意味では詩や純文学に近いかもしれません。
邦画ならば岩井俊二監督や長澤雅彦監督の作品群が好きな人ならバッチシ、ストライク・ゾーンかな? っと。

あと殆どの人に経験があると思われる、まだ異性に慣れてなく、意中の人が示す何気ない行動に一喜一憂する、いまから考えると頭をかきむしりたくなるような、恥ずかしい昔の自分がこの映画にはあります。
そういう思い出すと思わず赤面してしまうような過去をただ笑いを取るだけのイタい感じではなく、温かい視点でも描いている所がこの作品の素晴らしさのような気がします。
劇中の過去パートでのファッションやグッズも、そうそう90年代はこんな感じだったっと懐かしくなる事しきり。

一般的に日本人(私も含む)が思い描く韓国映画や韓国ドラマの概念からはかなり離れた作品です。
邦画のテイストにかなり近い出来。
かつて韓国では岩井俊二監督の『Love Letter』がヒットしたそうですが、その種がいまこうして芽吹いているのではないでしょうか?
オススメです。

公開は5月18日(土)から新宿武蔵野館をかわきりに全国順次ロードショーとなっています。
詳細はリンク付けしてある部分から公式サイトに跳んでご確認下さい。