自作の俳句

長谷川圭雲

0809健太郎日記・勝手に春樹讃歌「騎士団長殺し・顕れるイデア編―23」-長谷川圭一

2017-12-01 09:47:53 | 自作の俳句

           勝手に春樹讃歌「騎士団長殺し・顕れるイデア編―23」

                   ― 長谷川圭一 

 

「23」の表題はーみんなほんとにこの世界にいるんだよーである。

 十二歳で亡くなった妹が十歳の時、主人公と妹が山梨県の富士の風穴に入った時の会話の一部がこの表題となっている。

 山梨の大学の研究所に勤める叔父の案内で富士の風穴を訪れ、背の高い叔父は天井の低い風穴の入り口で二人を待つ事になった。入り口で入場料を払い、懐中電灯とヘルメットを渡され、二人は天井に電灯のついた洞窟の道を奥へと進む。ひんやりとした洞窟は先客の中年の夫婦が出て行くと主人公と妹の小径(こみち)だけになった。妹の小径という名と、暗い洞窟の径(みち)は作品内容と深い絡みを持つ様に思われる。

 洞窟を進むと岩陰に隠れる様に順路から離れた小さな横穴があった。

「ねえ、あれってアリスの穴みたいじゃない?」と、小径が言った。

イギリスの数学者、ルイス・キャロルの書いた「不思議の国のアリス」のアリスが、通りがかったウサギを追って、ウサギの穴に落ちたその穴を思い描いたのである。まさにこの本とも相通じるものがある。

 主人公の妹の小径はアリスが見つけた不思議の国へ通じる穴を念頭に、一人で小さな穴へと潜り込んでいく。 呼んでも返事が無く主人公は段々不安を覚え、「妹はアリスの穴に吸い込まれて、そのまま消えてしまったのかもしれない」と、思った時、妹は穴から出て来た。

 穴に潜った妹に怖さのかけらも無かった。それどころか、「降りていくと小さな部屋みたいになっているの。・・その部屋はなにしろボールみたいにまん丸の形をしているのよ。・・・そしてその部屋はね、私一人だけが入れてもらえる特別な場所なの。そこは私のためのお部屋なの」と目を輝かせてしゃべるのであった。そしてその暗闇の中に「たとえぜんぶ身体が消えちゃったとしても、私はちゃんとそこに残ってるわけ。チェシャ猫が消えても、笑いが残るみたいに」。

 チェシャ猫は消える時、ニヤニヤした笑い顔を最後に残して消えていく。「その二年後に妹は死んでしまった。」「死はおそらくあの横穴から這い出して、妹の魂を引き取りにきたのだ。」

 主人公は思う、「この世界には本当にアリスは存在するのだ。三月うさぎも、せいうちも、チェシャ猫も実際に実在する。そしてもちろん騎士団長だって」と騎士団長の実在と死んだ妹「コミ」の存在を確認する。

 午後六時に免色(めんしき)の迎えの車がやって来た。主人公の気付かないうちに、「騎士団長は涼しい顔をして私の隣のシートに腰掛けていた。」

 車が免色の邸宅の門を潜ると、2部「遷(うつ)ろうメタファー編」につながる建物の描写がある。円形の車寄せで車を降りた時には騎士団長の姿は消えていた。

「玄関の前には神社の狛犬(こまいぬ)のような古い像が、左右対になって据えられていた。」

免色の特異性が垣間(かいま)覗かれる。玄関に近づくと免色が迎えに出て来た。「玄関から幅の広い階段を三段下りた所に居間があった。」

 広い居間の外には「広々としたテラス」があった。居間の床は大理石で高級な絨毯が敷いてある。マントルピース、グランドピアノも備え付けてあった。ソファーに腰を下ろすと、食事のために免色が雇った素晴らしくハンサムなボーイが現れ「何かカクテルでも召し上がりますか?」と聞いたので主人公はバラライカをと特殊な注文をするとボーイはいとも簡単に請け合い、奥へ退く。

 免色はこの家を買ったのは「この家でなくてはならない事情が」あったのだと打ち明ける。 そして不意に話題を変え「今夜、騎士団長はご一緒じゃなかったんですか?」と免色は尋ねた。車の中には居たのだが、今姿を消して、「お宅の中をあちこち見物しているのではないかと思います」、と主人公は答える。

 驚くほどに上手につくられたバラライカを飲みながら二人は会話する。そこで主人公は、今、名前も素性も知らない一人の男の肖像画を描いている事をはなす。

「つまり、私の肖像画を描いたことが、あなたの創作活動に何かしらのインスピレーションを与えたということになるのでしょうか?」

「たぶんそういうことなのでしょう。まだようやく点火しかけているというレベルに過ぎませんが」

 話題は抽象思考を司る、人間の大脳皮質に及び、その能力と犬の信じられないほど凄い嗅覚の比較から主人公が、「マルセル・プルーストは、その犬にも劣る嗅覚を有効に用いて長大な小説をひとつ書き上げました」と、人間の大脳皮質の凄さを説く。

 免色は笑って言う、「おっしゃるとおりです。ただ私が言っているのは、あくまでも一般論として、という話です」

 主人公は、「つまりイデアを自律的なものとして取り扱えるかどうかということですね?」と質問する。

「そのとおりです」と、答えた免色に騎士団長が「そのとおりです」と主人公の耳元で囁いた。

 つまり騎士団長としてのイデアは、実在するのだと、告げたにすぎない。

 居間から階下の居室部分の突き当たりの書斎に通され、そこに飾られた主人公が描いた免色の肖像画を見せられる。

「それは今ではもう免色の絵であり、私の絵ではなかった。」

「ふと気がつくと、部屋の中に騎士団長がいた。彼は書架の前の踏み台に腰を下ろし、腕組みをして私の絵をみつめていた。」

 更に下の階の説明もあるが、その階は2部の「遷(うつ)ろうメタファー編」で使われる。

 邸宅の説明を終えると「我々は食堂へと移った」。


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