医療制度改革批判と社会保障と憲法

9条のみならず、25条も危機的な状況にあります。その現状批判を、硬い文章ですが、発信します。

「職員厚遇問題攻撃」批判

2005年09月25日 | 公務員攻撃
 新聞・テレビなどマスメディアあげての、「職員厚遇問題」の集中攻撃に対して、少し冷静に論理的に考えるべきではないかと思い、こんな批判を書きました。


          『職員厚遇』問題の意味するところ
  
    <医療保障の充実を求め、憲法改悪に反対する立場からの見解>

  『オフサイド』を誘うテクニック
1、市役所職員厚遇問題は、サッカーのゲームにたとえれば、ディフェンスラインを意識的に上げて(下げて)おいて、その前でプレーさせ『オフサイド』の反則を誘うというテクニックだといえる。
民間企業の中で、合法的手段はもちろんのこと、違法・脱法手段をも用いて、労働条件・福利厚生を大幅に切下げておいて、いまだその引き下げが、充分に進んでいない公務員職場、とりわけ自治体職場への切下げ攻撃である。
第2臨調・行革攻撃以降の常套手段だが、マスメディアをプロパガンダ機関として活用するという手法で、現在の労働者の実態、すなわち、非正規や派遣職員、臨時・パート・アルバイトなどの低賃金と無権利・無いに等しい福利厚生制度、また、大量の失業者が存在するという現状を利用して、「妬み心」を刺激する一大キャンペーンを展開している。マスメディアを使って、市民・大衆を煽動し、動員することによって、大問題として作り出してきたのである。  
これは名指しされた自治体への攻撃だけではなく、全国3000自治体すべてに対する攻撃として現在進行中である。平成の大合併(統廃合)が進行しているが、その合併をも巧みに利用しながら、切下げ攻撃が展開されている。

  医療保障制度の充実をめざして
2、健康保険の『付加給付』という一例を紹介する。本題に入る前に、そもそも健康保険とは、万一の病気や怪我のためのもので、不幸にして病気や怪我をした場合、必要な医療が無償で受けられるというものである。事実、当初から健康保険本人は10割給付で、無償で必要な療養が給付されてきた。5割給付で出発した国民健康保険も、7割給付に引き上げられ、国保や健保の家族も含め、10割給付をめざしての運動が1970年代には取り組まれた。
民間大企業健康保険組合には、家族療養付加金という制度があって、被扶養者(家族)の2~3割の医療費負担が何万・何十万円であったとしても、たとえば月額2,000円を控除した残り全額を、健康保険組合が払い戻す(償還)という制度が作られていた。これが基本給付にプラスする『付加給付』である。
公務員の各共済組合・健保組合は、その制度を追いかけて、それぞれ付加給付を制度化した。
政府管掌健康保険や国民健康保険には、そうした制度が作られなかったことから、1970年代に老人医療や乳児医療の無料化の運動を展開し、その実現をはかり、また、国民春闘を闘う中で、健康保険法の中に高額療養費(月額30,000円以上の負担は償還される)という制度が作られたのである。
1970年代は、好条件のところを目標にしての、到達闘争が展開されたのであり、医療保障制度充実をめざしての、住民運動や労働者の統一闘争が取り組まれたのである。

  健保10割給付というゴールは遠のく
3、『付加給付』に話を戻すと、私の手元に内部資料ではあるが、全国の健康保険組合・共済組合などの付加給付一覧の冊子がある。
驚いたことに、好条件であったはずの民間健康保険組合の付加給付が、いつのまにか軒並み2~3万円に、またそれ以上の控除額に引き上げられ、その金額もかなり統一されており、財政状況の良いと思われる健保組合も足並みをそろえている。しかし現在なお、公務員共済組合・健保組合は、1万円程度になっている。
冒頭のサッカーゲームのたとえでいうと、民間健保組合の水準を意識的に上げて(下げて)、その前にいる公務員は『オフサイド』の反則である。
健康保険10割給付というゴールは、かなり遠のいたものになってしまった。

  超法規の切り札『市民感覚・世間の常識』
4、現在、全国の公務員共済組合・健保組合は、その付加給付や労使の負担割合が『職員厚遇』だとして改悪の攻撃を受けている。
しかし、共済組合や健保組合は、各共済組合法・健康保険法の下、その範囲内であれば、「組合会」で自由に給付や負担を決めることができるのは、きわめて当然のことである。福利厚生のための互助会や福利厚生団体も、地方公務員法や条例に基づくものであり、さまざまな福利厚生事業を実施することも、至極当然のことといえる。
憲法があり、その下、法があり、それをふまえた公務員職場の労働条件や福利厚生を、あからさまに法を無視した形で一方的に剥奪できないことから、マスメディアを使って、『職員厚遇』というデマゴギーキャンペーンを展開し、市民・大衆を動員しての、市民感覚・世間の常識という名の圧力をかけ、労働諸条件切下げの攻撃を仕掛けているのである。

  福祉国家憲法・福祉国家政策への攻撃
5、日本国憲法は福祉国家憲法であり、25条などで明確に規定されている。しかし、現在進行中の新自由主義構造改革の、標的のひとつは、福祉国家政策を攻撃・破壊することであり、社会保障・社会福祉への全面的な攻撃がかけられてきており、日本独特の「企業福祉国家」と呼ばれたほど、進んだ企業内福祉も全面的に後退させられているというのが現状である。
老人医療や健康保険、公費医療や福祉医療も、1980年代の第2臨調・行政改革攻撃以降、改悪につぐ改悪で、制度的な後退を続けている。これは止まるところを知らず、さらなる改悪として、新高齢者医療制度なるものが予定され、高齢者に新たな高額の負担と療養給付制限(75歳以上の高齢者に治療等の制限)が企まれ、療養給付の原則・医療保障制度が破壊されようとしている。
このような、憲法違反の法改悪がなされ、また、憲法違反の法が作られようとしているのである。

  なしくずし改憲、憲法空洞化が進む
6、「工場の前で憲法は立ち竦む」ということばがあるように、この間、民間企業の労働現場では、すさまじい憲法違反・法違反が横行し、あとづけで労働基準法などの改悪・労働者派遣法などの法制化がなされている。
憲法25・27・28条など各条の規定はあるものの、憲法9条と同様に、実態的に憲法に反する事実を作り上げることによって、なし崩しの改憲・空洞化策動が強められ、それが確実に進んでいる。これが憲法をとりまく現状だと言わざるをえない。
第2臨調・行革攻撃の最大の特徴とその狙いは、マスメディアをプロパガンダ機関として利用し、国鉄・国鉄労働者に対する誹謗中傷のキャンペーンを大々的に展開し、国鉄の分割民営化を強行することであり、そして、総評の解体を企図しての、その中核的組合である国鉄労働組合の分裂・弱体化をすすめるためのものであったことは、大勲位中曽根康弘氏の自慢話・懐古談で今や明らかになっている。
また、『お座敷をきれいにして新しい憲法を安置する』という名言をも、思い出さなければならない。

  新自由主義に基づく新憲法制定へ
7、今回もまた、社会保険庁・社会保険事務所への攻撃、職員厚遇という名の自治体職員への攻撃が、連日マスメディアを利用しての、デマゴギーキャンペーンとしてくりひろげられている。
社会保障・社会福祉の担い手である社会保険職員・自治体職員の大幅削減、社会保険庁の解体・自治体の統廃合(合併)を推進し、また、自治労をはじめとする自治体労働組合の弱体化を図るなど、さまざまな意図をもっての攻撃であることは、この間の経過を振り返れば、自ずと明らかになるのではないか。
第2臨調・行革攻撃以来、20数年にわたって、プロパガンダキャンペーンを積み上げる中で、市民・大衆を煽動・動員し、デマゴギーで固められた『世間の常識』を作り上げ、平和・福祉・民主主義憲法体制の切り崩し(お座敷をきれいにして)を進め、いまや、多国籍資本の利潤追求活動の自由を保障するための、すなわち、新自由主義にもとづく「新憲法制定」(新しい憲法を安置する)にむけて、着実に歩を進めているというのが、残念ながら実態であり、現状であるといわざるをえない。

 2005・04・19  harayosi-2

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