医療制度改革批判と社会保障と憲法

9条のみならず、25条も危機的な状況にあります。その現状批判を、硬い文章ですが、発信します。

宙に浮いている5000万件年金記録と社会保険庁解体・廃止法案

2007年06月16日 | 年金問題

宙に浮いている5000万件年金記録と
                           社会保険庁解体・廃止法案

 この集中的な報道には、何か隠された意図があるのでは?

 この間マスメディアでは、宙に浮いた5000万件の年金記録問題が、大きく取り上げられ、さらに、1430万件の未入力の記録があることなど、例によっての「社会保険庁たたき」が展開されていました。 
 そうしたことから、社会保険事務所に市民が殺到し大混乱、相談窓口を拡充し、臨時の窓口を設け、また、24時間体制で電話照会にも対応する、などと報道されています。 
 けっして、杜撰な処理や不十分な記録管理を、容認するわけではありませんが、この間のマスメディアの報道に、「何を今頃言っているのか」「いまさら何を言っているのか」、そんな「感じ」を強くしています。
 さらに、こうした取り上げ方について、「社会保険庁たたき」ということだけではなく、もっと大きな意図・企図が「裏にある」のではないかと「感じ」ています。 

 社会保険庁とは、厚生労働省(旧厚生省)の外局で、実務処理・事務処理だけの現業局です。政策的な決定をするところではなく、国会や政府・厚労省が決めたことを「実務処理するだけ」の部署です。 
 そして、配置されている人員がきわめて少なく、さらにこの間は、配分される予算の削減が続き、その削減の行き着くところとして、現在では、事務処理の経費を保険料から捻出せよ、ということにされてしまっています。
 この事務処理の経費を保険料から捻出していることが、例によって「社会保険庁たたき」に利用されたのは、ご承知のとおりです。 
 基礎年金制度導入に伴う「基礎年金番号の付番」が発端とされていまが、そもそも「基礎年金導入」ということであれば、多額の国家財政の発動が必要であるにもかかわらず、名称だけは基礎年金としていますが、実際には国民年金相当分を老齢基礎年金として、被用者年金(厚生年金・共済年金など)の改悪とその負担で導入したものです。
 それは、国の財政支出を削減するためだけの、姑息な手法で導入されたもので、本来の基礎年金といえるようなものではありません。そうしたことから、その導入実施のための実務処理体制も予算も、きわめて貧弱な体制で進められたのです。  

 全国の社会保険事務所が、どのように貧弱な体制となっているのか、いくつかの事例をあげてみます。そして、そのような実態を作り出しておきながら、「社会保険庁たたき」を煽り、さらなる人員削減と社会保険庁の解体・廃止を強行に進めようとしています。
 そして、年金記録というような、お金にかかわる問題を持ち出し、市民の不安を煽り立て、不満や不信を増大させようとしています。その背景・意図を考えてみたいと思います。 

その1
 制度発足の1961年から、全国の市区町村に委託して進めてきた国民年金事務が、2002年4月、国に一元化されることとなりました。 
 市民にとっての窓口は、3000自治体の窓口から、300社会保険事務所へと大幅減少になりました。そして、いくら少なく見積もっても、20000人以上の自治体職員が携わってきたこの国民年金事務が、国に一元化されたことによって、社会保険事務所での増員が、わずか数百名にしか過ぎなかったという事実です。
 これが一つ目の事例です。
 
 仕事が無くなったわけではありませんから、大量の事務処理・実務処理を民間業者への委託や外注、丸投げという方法が多用されたのです。そうしたことから、徴収率の向上や無年金者を作らないための、きめ細かな収納体制などが取れるはずもありませんし、また、年金記録管理にも万全の体制が取れるはずも無かったと考えられます。
 この背景はその3で考えてみたいと思います。
 
その2
 先の国会での、医療制度改革関連法の中で、2008年(平成20年)10月に政府管掌健康保険が、国から切り離され、全国健康保険協会という公法人に移行することが決定されています。
 そして、正規職員2000名、非常勤職員1500名が、身分移管されることとなっています。政管健保の加入者は3600万人といわれていますから、加入者10000人に1人という割合になります。
 国民健康保険での実態は、1000人に1人の職員配置でも、その事務処理に四苦八苦しているのですから、異常に人員配置が少ないといえます。
 その理由はいくつかあります。
 まず、被保険者からの保険料徴収は、特別徴収義務者としての事業主が徴収します。そして、給付の申請や資格の取得・喪失などのさまざまな窓口事務は、その事業所の福利厚生の担当者があたっています。
 さらに、政管健保も厚生年金の保険料も、一括しての徴収であることから、年金運営新組織(日本年金機構という名が予定されている)が、その収納や資格管理にあたることになっているからです。
 本来「公務員がやるべき実務・事務」を、特別徴収義務者などとして法律や規則で、事業主や事業所に代行させていることから、日本の公務員数は極端に少ないのです。税務職員が少ないのも同じ理由です。
 ともあれ、配置されている職員が極めて少ないのですから、政府・厚労省から「あれをやれ」「これもしろ」といわれても、対応しきれないのが実態です。
 そのことは、過日の記事社会保険庁廃止・解体法案で紹介しているとおりです。http://blog.goo.ne.jp/harayosi-2/e/449c16f56150cb1ce101f768a7755dc4
 これが二つ目の事例です。
 
 こんなに効率のよい健康保険で、かつ、都道府県の支部単位で運営、そして、競争原理を導入しての保険経営とされています。
 保険金融資本が食指を動かしているとみて間違いありません。それが、次の課題として検討されている「政管健保の民営化」ということなのではないでしょうか。
 
その3
 消えた、浮いた、見つからない、社会保険庁の年金記録の杜撰な管理、あなたの年金は大丈夫?とマスメディアは不安を煽っています。
 そうしたことから窓口・電話に問い合わせが殺到しています。そのため社会保険庁は、さらなる相談窓口の拡充、電話相談の24時間体制で対応することとしていますが、それをこなすだけの体制が社会保険事務所にあるはずも無く、実態的には、急ごしらえの派遣職員の投入であり、電話受信請負の大手コールセンタへの委託となっています。さらに、ホストコンピュータに接続できる端末機器の不足から、電話がつながったとしても、実質の相談対応にはなっていないのが現実です。
 これが事例の三つ目です。

 日常の通常業務をこなすにも人手が不足していいて、その事務処理などが杜撰や不十分と批判されるような実態であるのに、不安を募らせた市民が社会保険事務所の窓口に殺到しても、適切な対応が取れるはずも無く、不信・不満が増大するだけだと言えます。
 どうもそうしたことを、意図しての報道と思えてなりません。
 そうしたことで、不信・不満が増嵩しています。予測されることは、確実に国民年金の保険料の納入が激減することです。(厚生年金は天引きですから、支払を拒否したくてもできません)
 現在でも危機的な納入率にあるわけですから、残念ながら、国民年金制度は崩壊することになると思われます。
 だれも公式的には、国民年金制度を「ぶっ潰す」とは発言していませんが、増税論議と絡めての発言の「税による基礎年金制度」とは、そのことを指しているのではないでしょうか。


 今現在重要なことは、社会保険事務所に押しかけることではない
 

 若い世代の方々が、マスメディアに煽られ、必要以上に不安を募らせて社会保険事務所に押しかけるのは、いかがなものかと思います。
 慌てることではなく、この騒ぎが落ち着いた段階で、確実で正確な記録とさせることが重要だと思われます。
 
 今必要なのは、年金を受けとる世代の方々が、社会保険事務所で年金記録の突合・照合をさせ、受けるべき年金を確実に受ける、そのため手続きをすることであり、すでに年金を受けている方々のなかで、その年金記録に不安や不満のある方の、再調査の要望を受けて、丁寧で正確な調査をさせることが重要だと言えます。

  宙に浮いている5000万件や未入力の1430万件の年金記録、その問題解決のためには、突合のためのシステムを改善し、その確認作業のテンポを早め、作業の進捗にあわせ、本人申し立てを待つだけではなく、申し立てや確認のための勧奨を進める必要があります。
 さらに、現在の58歳時点の年金記録通知に加え、35歳通知・45歳通知が実施されることとなっていますが、それらをさらにきめ細かくして、全ての市民が、自らの年金記録を確認できる、そのような仕組みにしていかなければならないと考えます

 そうしたことを確実に実施していくためには、無定見な人員削減や社会保険庁の解体・廃止ではなく、まったく逆に、社会保険事務所に大量の要員配置をして、必要な予算をつけて、年金記録を完全なものとするために、その事務処理体制の強化を図ることがきわめて重要です。
 この社会保険庁解体・廃止法案は、当然のこととして廃案にすべきものであり、また、時効などということは、事務処理の不備・不手際であるならば、利子をつけて支給すべきものであり、「5年の時効」などということは論外であり、時効廃止法案などというものも不要です。

 参議院選挙で、改悪の連鎖を断ち切ろう

  「社会保険庁たたき」のせられて、「人減らしや予算削減」に荷担しておいて、杜撰だ、不十分だと騒いでみても、何の解決にもなりません。
 参議院選挙も近いことですから、この選挙で、本当に憲法25条(社会保障)を、憲法9条(反戦平和)を、護るためにたたかう党派を前進させなければ、この悪循環は断ち切れないと考えます。
                                     2007.06・16 harayosi-2

 なお、昨年(2006年)8月に、今年の参議院選挙に向けて書いた記事が、拙ブログにあります。ついでに読んでいただければと思います。
 
反新自由主義・反グローバリズムの統一戦線を
http://blog.goo.ne.jp/harayosi-2/e/f9f394bf0ee88d8a9eb1db0e54d27748


8 コメント

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[YG]茨木市議 山下けいき お元気ですか (山下けいき)
2007-06-17 01:57:09
私のブログで紹介させていただきました。国鉄分割民営化と同じで、本質、実態抜きで職員攻撃になる危険性を感じます。背景に利益を狙うものがあればなおさらの事です。いつもありがとうございます。
エントリーを待っていました! (谷口硝子)
2007-06-18 19:46:47
harayosi-2さん こんばんわ。

マスメディアはもちろんのこと、民主党の社会保険庁叩きが気になります。つい最近、県庁所在地の駅頭で連合が、民主党の参院選の「事前活動」街頭宣伝をやっていたので、ウオッチしていました。「格差是正」を掲げる民主党ですが、国会議員5人のリレー演説が、みんな「消えた年金記録…サラリーマン増税がけしからん・・・」えっ~~たった、それだけ??

街宣が終わったところで、つかさず図々しいわたしは「有権者なんですけど・・・格差是正というなら、自殺者3万人9年連続問題や、障害者自立支援法での福祉現場の混乱、どうするんですか?」きわめて淑女的(ですよぉ~)に議論をふっかけました。

九条と二十五条の関係について、根源的なところから検証していくことは、今後ますます必要なことです。だだ、ワンフレーズ・ポリティクスに弱い、政治家と有権者は、困ったものですねぇー。
社保庁を解体してはいけない (スパイラルドラゴン)
2007-06-25 18:32:35
政府与党に社保庁を解体させたら、それこそ壮大な規模の粉飾決算=証拠隠滅が行われてしまうと思います。
でも、参議院選挙で野党が絶対多数の議席を握れば、後で幾らでもやり直しが利きますので、それほど心配することは無いと思っています。
なるほど (増本保博)
2007-06-27 13:41:31
通信読みました。テレビでは窓口での横領など、さも現場の労働者と労働組合に責任があるようにすり替えられて報道されています。テレビ媒体をめぐって、自民と民主の攻防を感じさせられますが、働く者の側からの反撃がなされないことに自分も含めてもどかしいです。
事の本質は貴兄の言うとおりだと思います。年金制度が5割、庁の運営責任が5割、働く者の責任は、ミスはあっても取るに足らないものかなと!
Unknown (goen)
2008-01-23 11:42:14
社会保険庁の解体に賛成です。
色々な責任回避を行ない、現行組織の温存を図る無責任な悪組織は自己修正は期待できず。一気に解体して内部のウミを出し尽くす事が不可欠。組織は変えるよりも新たに造る方が良い、当然従来の組織人は最低限に抑え、全く新たな人員にすべし。当然現行の役人は責任を負わせ、退職金は没収し懲戒解雇が当然です。この人達は納税者では有りませんので罰則として当然です。
国民の宝を守れ! (紫蜥蜴)
2008-04-03 11:01:37
社会保険庁を解体しても次に起こる事は、尚一層の混乱です。今の組織の退廃を引き起こした張本人は、それなりの執行権を持った上層部で、窓口一般職員にまでその責めを負わすのは、良識ある日本人のやることではない。 社会保険庁解体ー民営化ー外資系参入ー
と進んだ場合、私たちの老後はどうなりますか?  郵便局は国民にとって、よくなりましたか?日清食品、サッポロビール。今に外資攻勢にさらされていますね。やがて、社会保険(医療・年金)・郵便局・NHK(今度の新会長は問題ありですが)も同じ運命に?この、国民の宝はわれが死守せねばなりません。「改革=国民が失ってはならぬ事を、やすやすと他の魔手に委ねる事」のワンフレーズに、やすやすと乗っかってしまった国民の責任も大きいのです。大多数の社保庁職員は誠実な人たちです。その人たちは、いわれなき批判の目に晒されながらそれでも、日夜の業務に耐えています。只々批判だけの貴方、あなたはその仕事を明日から代行できますか?やはり専門家が必要で一朝一夕には養成できないのです。社会保険庁を民間に出すべきではありません。その行く末は目にみえています。民間で手に負えなくなったものは、外資に放り出すでしょう。彼らはそのあたりの運用に長けていますから。社会保険庁を安易な方向に導いた人たちこそ(政治家・官僚も含めて)深刻に責任を負うべきなのです。御用評論家の責任も大きい。浅薄なマスコミの世論操作も重大な責任があります。
国民の宝を守れ! (紫蜥蜴)
2008-04-03 12:02:46
社会保険庁を解体しても次に起こる事は、尚一層の混乱です。今の組織の退廃を引き起こした張本人は、それなりの執行権を持った上層部とそれを利用した下部組織で、責任のない一般職員にまでその責めを負わすのは、良識ある日本人のやることではない。これは公務員潰しの議論の高まりにも言えることです。窓口横領は、どこでもありうることで、それは司直に委ね、厳正に処理すればよい。貴方はそのたびに自分の勤める会社を潰しますか?貴方は、使うべきでない会社の経費を、知ると知らずと使ったことはありませんか?一定の意図のもとに画策された世論操作に、国民は、もっと冷静に対処しなければ、自らの国を誤ることになることを恐れます。まさか、財務省や日本銀行を、民間に下ろそうとは、あなたも思わないでしょう。 もちろん極論ですが、そぅでないXday.が、忍び寄ってるかもしれません。
   ー社会保険庁解体ー民営化ー外資系参入ー
と進んだ場合、私たちの老後はどうなりますか?  郵便局は国民にとって、よくなりましたか?日清食品、サッポロビール。いま外資攻勢にさらされていますね。やがて、小麦高騰、次は日本の米にまで?社会保険(医療・年金)・郵便局・NHK(辛うじて平衡を保とうとしている瀕死のマスコミ・他のマスコミは死んだ=今度の新会長は問題ありですが)も同じ運命に?この、国民の宝はわれが死守せねばなりません。「改革=国民が失ってはならぬ事を、やすやすと他の魔手に委ねる事」のワンフレーズに、やすやすと乗っかってしまった国民の責任も大きいのです。大多数の社保庁職員は誠実な人たちです。その人たちは、いわれなき批判の目に晒されながらそれでも、日夜の業務に耐えています。只々批判だけの貴方、あなたはその仕事を明日から代行できますか?やはり専門家が必要で一朝一夕には養成できないのです。社会保険庁を民間に出すべきではありません。その行く末は目にみえています。民間で手に負えなくなったものは外資に放り出すでしょう。外資はそのあたりの運用に長けていますから。儲けた滓はあなたの納めた年金の痕跡というゴミです。社会保険庁を安易な方向に導いた人たちこそ(政治家・官僚も含めて)深刻に責任を負うべきなのです。御用評論家の責任も大きい。安易に信用した庶民の責任も見逃せない。浅薄なマスコミの世論操作も重大な責任があります。
Unknown (ご迷惑老人)
2008-04-03 12:28:59
今まで一所懸命、税金・保険料・もろもろ拠出金を納めてきやした。それが、後期高齢者ですか?長寿云々だと?「ご老人のため、一番よい制度だと思いますがねえ」てやんでえ!手前らは、この制度とは関係のねえ、とびきり上等な『年寄り』なんだろな。なんてこった!わしら永年、こいつらに税金払ってきたんだ。もうやだ。耳を揃えて返しておくんなさいまし!

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