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今日あった事、感じた事を自分の言葉で自然体で

記憶

2005-05-21 02:05:19 | entertainment
『明日の記憶』 荻原 浩:著

日曜日に読もうと思ったけど、重たいテーマに
つい先延ばしにしていたこの本を読んだ。
読み始めたら、とまらず読んでしまった。

若年性アルツハイマーという病にかかった50歳の主人公。
大切な記憶だけではなく、自分自身の人格までも失っていく。
アルツハイマーは死に至る病で、言葉や思考に続いて体の機能も
奪われていく。体が生きることを忘れていくとあった。
その病気を受け入れ、恐怖と向き合って生きていく・・・生き様。
計り知れない恐怖・怒り・不安・悲しみ。どれだけの感情が主人公を
おそっただろうか。

自分だったら・・・忘れていく自分自身をも忘れてしまうことに、
徐々に自分が自分でなくなっていくことを知りながら生きることに
耐えられるのだろうか?

失われつつある記憶を必死でメモに残そうとしたり、備忘録なる日記の
ようなものを書く。そうしながらも確実に病が進行していく様子が
リアルに描かれている。
(ちょっと「アルジャーノンに花束を」を思い出してしまう。)

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長くまぶたを閉じていることができなかった。眠れないのではなく、
眠るのが怖かったのだ。朝、起きた時、自分が全く知らない場所
-自分の家であることを忘れてしまった場所-で目覚めるような気がして。
(17章・85項より)
                    
内ポケットだけではなく、私のスーツのすべてのポケットは、
たっぷり詰まった未整理のメモでふくらんでいる。~中略~
怖かったのだ。記憶を失ってしまうのが。
記憶の死は、肉体の死より具体的な恐怖だった。~中略~
恐ろしかったのだ。記憶を失いつつあることを他人にしられるのが。
(24章・120項より)
      
記憶がいかに大切なものか、それを失いつつある私には痛切にわかる。
記憶は自分だけのものじゃない。人と分かち合ったり、確かめ合ったり
するものであり、生きていく上での大切な約束ごとでもある。
(43章・214項より)
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終盤のささやかな救いにも思える至福の時間に感動した。
“頭は記憶を失っても、体には記憶が残っている。~中略~
 自分の病気も、もう恐れはしなかった。
 私自身が私を忘れても、まだ生命が残っている。
 そのことを初めて嬉しいことだと思ったのだ。”
そして、今までの恐怖や不安とは対照的な、あまりにも悲しく美しいラスト。

記憶の死とは・・・記憶は今までの自分自身の一部のようにも思う。
でも、そのこだわりを捨て、ただ生きることの愛おしさ、野焼きの火を
熱いと感じ、酒がうまい、じゃがいもがうまい、風は冷たいと感じる。
私は生きていると。
忘れてしまっても、呼吸をしていれば生きているのか、考えるとこれは
結論が出せないんだけど・・・
ただ、私だったら記憶を失った後、何が残っているのか。
もっと生きることにひたむきにならなきゃっていう気持ちになった。

久々に本当に感動する小説を読んだ~~。


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