昨日公開されました映画「重力ピエロ」の原作、伊坂幸太郎著『重力ピエロ』を、数日前、読み終えました。
作品全体の概要感想は、
「雨の降り出しそうな重たい曇り空の下、傘を持って出掛ける」
と言う感じです。
雨、降りそうだな。いつ降り出してもおかしく無い程の、重たい空だな。
降り出さなきゃいいな、でも、傘持って来てるから、降らなきゃ降らないで、ちょっと残念な気もしないでもないけれど。
ああ、やっぱり降ってきた。
悲しいほどに土砂降りだ。
って、感じです。
何となく、いや、けっこうはっきりと、ストーリーの流れが読めます。
読者が想像するとおりに、ある意味、期待を裏切らない感じで物語りは進みます。
特に、主人公の弟、春(ハル)の行動、思考ははっきり見て取れます。
謎解きの部分に関しては、謎解き自体を作品の核心に置いていない、云わば、オプション的な感じのみで読者に提供している、と感じます。
何となく分かるけど、専門知識が無ければ解けない部分も多いので、著者が適度に配置したセカンドアイテムな感じです。
なぜその程度に位置付けているのか、それは、やはり、心の機微自体をメインに映し出したいからなのでしょう。
この辺も「映像化が難しい」と言われた所以なのでしょうか。
この物語の‘仕組み’として、私が面白いなぁと一番感じた部分は、
(ココからは、この作品の核心部分に触れてしまっていそうな気がするので、作品自体を純粋に楽しみたい方は、読まない方がいいと思います)
語り手の主人公、泉水(イズミ)の内面の表現の仕方、描き方、です。
伊坂作品によく登場する「特殊能力を持った人物」はこの物語には全く登場しません。
泉水は、突出した才能を持った主人公でもなければ、常識を外れた感覚を持った人間でもなく、ごく普通の、少し探せば身近に居そうな、まぁ、生真面目な感じの常識的な人物のように描かれています。
泉水の目線で物語は進み、泉水が感じた出来事への気持ちや驚きはストレートに表現されています。
特に、両親と弟への感情は真っ直ぐです。
特殊な家庭環境故、一般人が直接実感できるものではないかもしれませんが、
「その気持ち、すっごいよく分かる!」と思えるものばかりです。
だからこそ、読み取り難いのが‘泉水自身の行動思考’なのです。
無くなっていた会社の常備薬品、どこで手に入れたのか泉水が使う睡眠薬、橋の欄干(?)の少し壊れた部分への興味。
まぁ、深読みを前提としながら読み込めば分かりそうなものなのですが、その余裕を与えない感じで、ストーリーがテンポ良く進み、読者の目線は泉水の弟、春中心に動いていくので、見逃しがちです。(私だけか?!)
泉水の行動思考が、物語の根底である「家族への愛」であることは明白です。
その愛情の重さをどの様に描くか、それが、この主人公自身の行動思考を水面下に置く、と言うものではないか、と思うのです。
これは、この物語の最大の魅力、且つ、大きなキーポイントだと読み終えた時に、物凄く実感したので、
この辺も「映像化が難しい」と言われるところでもあるのかな、と。
この辺を考えると、映画、観たいような、観たくないような。。。
映画のオフィシャルHPをぽつぽつ眺めて。
主人公「泉水」演じる加瀬亮、その弟「春」演じる岡田将生などは、まぁ、イメージを壊さないキャスティングかなぁ、と。
ちょっと私のイメージと違うなぁ、と思ったのが、泉水の父役の小日向文世と、この物語の悪の権化、葛城役の渡部篤郎の二人。
あ、すっかり忘れていましたが、物語の展開の中で面白い役割を担っている「夏子」さん。
完全無欠のストーカーだと思うのですが、その行動、例えば、ストーキングしている相手の家の合鍵を勝手に作って、無断で堂々と入り込み部屋の中を物色する、などといった行動が、それ程奇異な感じに描かれていないのも、ちょっと面白いな、と。
伊坂作品の中のワタクシランキングではそれ程高位置ではありませんが、映画を観る前に読むのは良いと思います。
<関連サイト>
映画「重力ピエロ」オフィシャルサイト