花夢

うたうつぶやく

037:花びらのうた

2006年12月16日 | 題詠2006感想
「花びら」といえば、やはり、桜の花びらを連想される方が多いかな。と思いました。
私もまた、そうでした。

ただ、花びら=桜ではないんですよね。


どんどん絞れなくなってきているのですが、
自分のキャパシティーも結構いっぱいいっぱい。
息切れしかかっていますが、皆さんの作品はこれからますます勢いを増す予感。


坂道をころがるひかりひとひらの花びらそして君のまなざし
暮夜 宴

言葉がころころと連鎖的にころがっていて、心地よいです。
「ひかりひとひらの花びら」というH音の多用が、言葉をひらひらと舞わせている気がします。

坂道をくだって、ひかりから、花びらを経由し、最後に着地する場所が君のまなざし。
まるで舞い散る花びらのようにひらひらと視点がうつり、最後に、春のようにほんわりとしたストーリーを感じさせる場所へ。
華麗で、とても明るい作品です。



花びらとわたしを呼んだその声に毟られたくてわざと震える
ハナ

ハナさんの作品は、まぎれもなく女性の詠む歌。

毟られたいと思うのも、わざと震えるのも、
なんて女性らしい美しい作品でしょう。
どきっとするくらいに。
ぞくっとするくらいに。

女は、可憐さと、強かさが共存しているんです。



やはらかき花びらにふれ指先は指先であることに気がつく
野良ゆうき

花びらって、薄くて軽くてやわらかい。
自分がほんとうに触れたのかどうかわからなくなるほどに。

そんな花びらという対象に触れることで、普段より、より繊細に指先は触れるということを意識する。
花びらがあまりにも空気に近い存在なので、花びらに触れるとき、指先は花びらを自覚するより、自分の指先を自覚してしまうのですね。

とてもとても繊細。
まるで空気の振動のように、そっと。
花びらと指先でしか紡げない繊細な感覚。



花びらが舗道を埋めているけれど昨日と同じ電車で僕は
クロエ

花びらが舗道を埋める景色。
これは、きっと桜の花びらでしょうね。
桜の花びらで敷き詰められた、とても美しい道。

けれど、そんな舗道を尻目に、作中主体は行かなければならない。
昨日と同じ電車で。

日常はすでに完成されていて、立ち止まる時間も与えられていない。
同じリズムで、進んでゆく日常。外れることすら敵わぬ日常。

「昨日と同じ電車で僕は」
途中で切られているような終わり方が、
後ろ髪を引かれているような、気がかりな気持ちをほんのりと抱えながらも、今日もまた、顔をあげていつもの日常に飛び込んでいく姿に見えます。


大学時代、通っていた電車から見えていた、とても綺麗な桜並木を思い出しました。
川沿いの、舗装されていない小さな道に桜が咲いていて。川に落ちた花びらがとても綺麗で。
けれど、その場所はどうしたって降りることのない駅にあったので、いつも電車の窓から見るだけで、通り過ぎることしかできませんでした。
あのときのことを思い出しました。

結局、私は、在学中に4回めぐった春のなかで、我慢できずにその駅を降りて桜並木を歩きましたが。
あの頃の私には、自由な時間がいっぱい転がっていました。



花びらで数えて決めた運命と僕らがすれ違ってゆく夏
内田誠

好き・きらい・好き・きらい の花うらない
そのうらないの導いた運命に従ったのか、従わなかったのか、
僕らはすれ違ってゆく。

花うらないをしたのは、おそらく春。
そして、すれ違ってゆく夏。

季節も、想いも、僕らも移り変わってゆく。



春風に舞う花びらをひざの上で
開げたノートに閉じ込めて立つ

文月万里

この花びらも桜のはなびらでしょうね。
一読して、鮮やかに情景の浮かぶ作品でした。

ゆるやかな空気にまどろみながらノートを広げていたのでしょう。
そのノートに目を落としていたけれど、はっと意識を取り戻し、没頭していた世界から日常に返り、どこかにむかうために立つ。
没頭していた自分の世界から日常に返る様子が、ノートを閉じて立つという行為によってパチっと切りかわっています。
そして、その瞬間、春の空気も一緒にノートに閉じ込められているのですね。ごくごく自然に。

春の穏やかさ、清々しさの伝わってくる作品です。



2 コメント

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ありがとうございます♪ (暮夜 宴)
2006-12-20 20:06:10
しまった!
もう少し待つべきでした。
10首選してしまった後でした。
花夢さんに拾っていただいて初めて気付きました。
あたしにもこんなきれいな歌があったのかって(笑)
たぶん無意識だと思うんだけどH音ってやさしい響きですよね。
これをどうにかしたくて「は行」の歌を詠んだのですが
バイキンマンの「はっひふへほ~~」みたいで不評でした(笑)
意識したらボロボロでございましたの^^
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こちらこそありがとうございます。 (花夢)
2006-12-21 20:41:00
そうなんですよー。
私も残念に思っていたのですが、
皆さんが自選集でご自分の作品を選ばれるにあたって「私はこの作品好きだよー(^^)/~~」ってもっとアピールしておきたかった。
でも、のろのろなので・・・・。

暮夜さんの作品は、また貸していただくスタンバイしてますんで、よろしくお願いしますね。
自選10首がどれになるのか、楽しみにしています。

さて、暮夜さんの花びら作品。
無意識とおっしゃってますが、とても効果的な詠み方に思いました。

「坂道を」から、
ひらひらと舞い、
最後は「君のまなざし」。
最後にH音のない言葉が出てきたので着地したな。という感じがしました。
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