武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

124. 慌しさのなかで Agitado

2015-05-31 | 独言(ひとりごと)

 日本で3ヶ月たらずを過ごし、ゴールデンウイークの影響が未だ始まらないうちに大急ぎでポルトガルに戻った。ポルトガルは多分既に初夏で暑いだろうと覚悟を決めていたにも拘らず、案外と涼しくて、空港からバスターミナル、そして我家へと大きな荷物を移動するのに、いつもなら汗だくで難儀するところだが、ミュンヘン経由の厚着のままで平気であったのにはかえって助かった。1時間に1本のセトゥーバル行きバスは2分も待たないで乗ることができた。

 

 深夜、無事に帰り着いて、風呂にも入り、ベッドも出発した冬のままなのにそのままでバタリと休むことにもなった。

 時差ぼけもほとんど感じない。ぐっすりと熟睡。

 

田舎道は花盛り。ラシラス・グランディフロルス Lathyrus grandiflorusスカビオサ・アトロプルプレア Scabiosa atropurpureaの競演。

 

 野の花観察の季節には未だ間に合う。クルマの車検。そして税金の支払いなどを済ませ、早く野の花観察に出かけたい。翌日はクルマのエンジンは1発でかかった。いつも帰り間際にバッテリーを外しておくのだ。そうすればたいていエンジンはすんなりとかかる。

 

 以前からクルマの左前のタイヤの空気が抜けやすく、たびたびガソリンスタンドで空気入れをしていた。今回も少し抜けている様なのでよく見てみるとタイヤに亀裂が入っていた。これは危険だ。それにこれでは車検も通らないかもしれない。

 早速、タイヤ交換をしなければならない。でもその日は日曜日だったから月曜日まで待つことになった。

 

 最近はフランス系スーパー、インターマルシェが入っているショッピングモール内にあるローディという修理工場で全てをやってもらっている。既に僕は常連客で我がクルマのデータも保管されている。

 

 ショッピングモール内には日曜大工店、美容院、花屋、鍵屋、カフェなどが入っている。以前ならクルマの修理やオイルチェンジを頼んでおいて、その間にショッピングモール内にあるレストランで食事でもして時間を潰せばその間に出来上がっているから便利だと思ってそこに決めたのだ。だがその後、そのレストランは閉店してしまった。他にもショッピングモール内に空き店舗が目立つ。スーパーのインターマルシェもお客が少ないし、日曜大工店も殆ど客の姿を見ない。このショッピングモール内で繁盛しているのは修理工場のローディだけだ。

 

 ローディでタイヤ交換を頼みクルマを預けて1町ほど歩いたところにレストランのロツンダがある。その1町の間は国道10号線の幹線道路なのでクルマがびゅんびゅんスピードを上げて通り過ぎるし、路肩に軒並み駐車がされているので、歩道のない路肩を歩くのも容易ではない。だがその間の道端にも野草が咲いていて、幾つかをデジカメに収めた。天気は良いが風は案外と冷たい。

 

 ロツンダはわれわれだけが呼んでいる名前で、本当はオ・ソーラル・デ・パトという名前だ。訳せば太陽の鴨と言うことになるが、鴨料理専門という訳でもない。その日の定食と飲物、コーヒーまで付いて7ユーロから、7,5ユーロ、8ユーロ~11ユーロ位までと定食も様々なものが揃っている。煮込み料理などもあるが、店の前面で焼く炭火焼がメインだ。魚もあれば肉も焼く。この店ではデザートだけは別料金だが、一律、1,5ユーロと安い。そしてサラダや焼きたてパン、バター、塩漬けオリーブ、パン粥、ジャガイモやライスなどがどっさりと付いてくる。たいていは肉と魚を一皿ずつ注文して、半分ずつ分け合って食べる。

 

 久しぶりにロツンダに行った訳であるが、その日は月曜日であった。いつもなら陳列ケースの魚を見てその日のメニューを決めるのだが、炭火焼のコンロの前の陳列ケースは空っぽであった。おかみさんは腕組みをして「あたりまえよ、きょうは月曜日だから」という。日曜日は漁師の休日で、その翌日の月曜日はメルカドも休み。レストランでも魚の仕入れが出来ないという訳である。焼き魚は諦めて、豆と豚肉の煮込み料理とショコフリットと言うことにした。ショコフリットはセトゥーバル名物で巨大モンゴイカの唐揚げである。巨大モンゴイカはメルカドが休みでもどこのレストランでも常備されている。どちらも久しぶりのポルトガル料理だし、まあまあ旨かった。

 しかしこの店に月曜日に来たのは初めてだったのかも知れないが、お客はいつもより格段に少ない。デザートにプディンフランを食べたが、良く冷えていて、身体が凍ってしまった。店の中が底冷えするのだ。大急ぎでコーヒーを飲んで外に出た。外の方が暖かい。

 

 ローディに戻るとタイヤ交換は出来上がっていた。時間はまだ早い。この足で車検場に行ってみることにした。例年なら余程覚悟を決めて、前もってオイルチェンジなどを済ませておいてから、アサイチで車検に臨むのだが、今回は前2本のタイヤ交換はしたもののオイルチェンジはしなかった。これで車検にパスするのだろうか?一抹の不安が頭をよぎったが行ってみることにした。

 

 車検場受付の女子事務員とは既に顔見知りである。公務員特有の冷たい感じの女性だが、僕の顔を見ると少し顔をほころばせる「あらまた来たわね」という表情である。良く言えば、すらりと背が高くジュリア・ロバーツのタイプだが、神経質そうな眼鏡をかけ、表情はいつも硬い。

 車検場はセトゥーバルではなく、隣町パルメラの車検場に行く。パルメラはセトゥーバルに比べて空いているからだが、きょうは特別空いている。事務手続きを済ませると一時の猶予もなく、場内に響き渡る拡声アナウンスで呼び出された。そして試験官が手招きしている。試験官もいつもの人とは違うがこの人も顔見知りだ。

 以前にモンティージョのショッピングモールですれ違った人とお互いに挨拶を交わし「はて誰だったか?」と考えると、車検場の試験官であった。と思いついたことがあった。車検場で制服を着ている姿と私服ではイメージも違ってくる。相手は僕が日本人だからすぐに判ったのだろう。その試験官の姿はきょうは見えない。別の試験官だ。

 

 2000年にクルマを新車で買って、確か5年目くらいから車検があって、10年目からは毎年車検だから、既にもう何回も受けていることになる。慣れた筈のものであるが、いつも緊張はする。一発で通らなければどうしよう、と思ってしまうのだ。日本の様に車検代行はない。これはスウェーデンでも同じであった。本人が自分で車検場に持ち込み車検をうけるシステムだ。車検場内でも自分で運転をする。計器を見るのが試験官である。そしていろんなことを指示に従って行わなければならない。「ライトを点けて」とか「全開にして」とか「ワイパーを動かして」とか「ハンドルを揺らして」とか「吹かして」とか等々、いろいろとやる。試験官の言葉を漏らさずに聞かなければならないし、試験場内は底冷えがするが、僕はたっぷりと冷や汗をかく。

 全てが終って緊張がほぐれる。でもそれからが本番、いよいよ緊張が最大限に達する。結果発表である。少し離れたところから試験官の顔を窺がう。試験官は計器を眺めながら首を傾げたりもする。「あー、今回は駄目かぁ」「いや案外いけてるかも」などと考える暇もなく、試験官は和らいだ表情で緑色のシールの付いた紙を持ってくる。

 今回はオイルチェンジもしないで臨んだにも拘らず、1発で合格であった。前回はスモールライトの一つが薄いというので、直しておくようにとの注意書きがあったが、今回は僅かの注意書きもない。100パーセントの合格であった。何年か前の車検では何か難しい箇所が駄目で赤色シールの紙を渡されたこともあった。1ヶ月以内にその箇所を直して再び車検を受けなければならなかった。今回は本当に一発合格であった。

 

 翌日の税務署も空いていた。順番待ちの間に、たいていは奥のほうからアナモニカが気付き、わざわざ挨拶に出てくるのだが、今回は留守なのか、姿が見えない。

 アナモニカは同じマンションのマダレナおばさんの娘で、初めは一緒に住んでいたが、その頃は就職難で失業中であった。それが3時間あまりも遠く離れたヴィアナ・ド・アレンテージョという村の税務署に就職が決まり、しばらくはそちらの勤務であったが、その後、セトゥーバルの税務署勤務となっていた。その後、結婚もして男の子も生まれ、いつの間にか少し貫禄も付いてきている。セトゥーバルでの勤務ももう随分となる。フロントあたりではなく、いつも奥の方の席に居る様なので、重要な地位なのかも知れない。

 

 車検も終わり、税金も払って、明日からは晴れてアレンテージョにでもアルガルベにでもスケッチに、野の花観察にと、旅に出ることができる。スケッチをするにしても夏になれば暑すぎて動きが取れないし、野の花は咲いてはいない。今しかないのだ。

 先ず、インターネットで天気予報を見てみることにした。例年に比べると案外と天気は悪い。小雨のマークなども出ている。小雨マークが消えるのには3日間の猶予が必要である。

 3日間を待って、その間にキャンバス張りをすることにした。雨模様の湿度の高い時はキャンバス張りに最適なのだ。布は適当に延び、張り易く、乾燥すればぱりっと張れている。天気予報では小雨が降ることになっていたが、その3日間に小雨も何もなかった。

 そして3日目にアレンテージョのモンサラス近くのキンタ(農園)ホテルを検索して予約をいれた。この時期にしては格安(2人で朝食付き30ユーロ/1泊)である。予報では快晴続きの筈である。

 明日からと思っていたが、きょうから2泊と言うことにした。昼前の出発である。遅い昼食をアライオロスのトラック食堂で摂るつもりで、途中もスケッチをしたり、野の花観察をしたりと寄り道をしながらであった。野の花はいろいろと咲いている。今までほんの少ししか見なかったような花も群生をしていたりと、やはり年によっては違いがある。アライオロスのトラック食堂はいつも満席で早く行くか遅くに行くかでないとなかなかすんなりとは座れない。行列の出来るトラック食堂なのだ。

 少しスケッチもし、野の花をたっぷりと見てトラック食堂に入ったのは2時の少し前であった。テーブルは前の人の片付けがまだ済んではいなかったが、いくつかが空いていた。ウエイターのおじさんに「2人だけど」と言うと、「その窓際の席に座って」という。実は前回もこの席であった。自分で大まかに片づけをした。この店に来るのは5回目くらいだが、カウンター席に2回、別の個室の席に1回、そしてこの同じ席に2回目である。きょうも煮込み料理にした。豚肉とチョリソなどと野菜の煮込み料理である。注ぐだけだから早いだろうし、この店の煮込み料理は旨い。オリーブの塩漬けをあてにノンアルコールビールと田舎パン、デザートにはフルーツサラダ、そしてデスカフェナード(カフェインレスコーヒー)。締めて14ユーロ/2人と格安だ。

 きょうのホテルは予約済なので夕方遅くにでも到着すればいい。またもやゆっくりと田舎道を進む。野の花が綺麗に咲いていて、新たな花もいくつかをデジカメに収めることができた。同定できるかどうかが楽しみである。

 途中の道で前方に停まっている大型トレーラーの荷台からもうもうと煙が横に流れていた。煙で道も何も見えなくて追い越す訳にはいかない。前に5~6台の乗用車が立ち往生している。僕はすぐにUターンして別の道から行くことにした。後ろに付いたクルマも次々と僕に続いてUターンを始めた。

 別の道はかなりの大回りであった。でも更に田舎道なので野の花もたっぷりと見られる。ポルトガルの5月は陽が長く、いつまでも明るいので助かる。回り道をしたお陰でキンタホテルのある村の標識がすぐに目に付いた。キンタホテルもすぐに見つかった。

 バックで駐車しているとホテルの親父さんが事務所から出てきて、迎えてくれた。「予約したタケモトです」というと「判っているよ」という答えが返ってきた。まだ明るいとはいえ、もう夜の8時なのに他にクルマは停まっていない。泊り客は我々だけなのだろうか?クルマの後ろにはレモンの花が咲き、実がたわわに実っていた。丘の上の小さな村の中にあり。下には陶器の町、サン・ペドロ・ド・コルヴァルの村が俯瞰できる。親父さんは遥か彼方を指差して「あれがモンサラスだよ」と教えてくれた。モンサラスは数え切れないくらい訪れているところだが、こんな角度から見るのは初めてである。

 そしてこのキンタホテルは静かなところにある。プールの掃除ロボットだけが、浮いたり沈んだりと忙しく作動していた。

 翌朝、朝食室に行くと、既に4人のビジネスマンが朝食を摂っていた。夜遅くになって到着したのかも知れない。駐車場には僕のクルマの他に商用車3台が停まっていた。

 慌しさもこれまでで、そろそろポルトガル時間の中に溶け込んでいくことになりそうである。VIT

 

 

「武本比登志ポルトガル淡彩スケッチ」はインターネットにて ビレッジプレス社、下記アドレスよりお買い求め頂けることになりました。印刷や版画ではなく肉筆1点物で、3万円(額装、送料込み、税込み)です。

http://www.village-press.net/?mode=cate&cbid=1940881&csid=1

 

 

 

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12 コメント

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ポルトガル (もみじU+1F341)
2015-06-07 19:32:13
ポルトガルは、素敵なところ見たいですね、行って見たいですね。
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コメントありがとうございます。 (VIT)
2015-06-08 06:08:43
コメントありがとうございます。はい、素敵なところですよ。25年も住んでしまいました。まだ、暫くは居るつもりです。
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ポルトガル (もみじU+1F341)
2015-06-10 14:21:02
中年のじよしかいでみんなでぼるとがるいってみたいっと、話あっています。
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ポルトガル (もみじU+1F341)
2015-06-10 16:03:55
おばさんばかり集まどこかいいとこないかなあと喋り、ポルトガルていいとこみたいね、いってみたいなあと、おもっています。
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Unknown (Unknown)
2015-06-12 10:07:49
もみじさんに聞きました、素敵な絵かかれるのですね、日本デの展覧会は、あるのでしようか?おたずねします。
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日本での個展 (VIT)
2015-06-14 06:42:11
Unknown匿名様
日本での個展は来年2016年4月、5月に米子高島屋と大阪高島屋を巡回します。2017年は宮崎ブーゲンビリア空港ギャラリーで3月、1ヶ月間の大規模個展があります。詳しくはサイトのスケジュール欄をご覧下さい。お問い合わせ有難うございました。
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Unknown (もみじU+1F341)
2015-06-19 09:33:11
一人布忍の子が、海外旅行に行った事がないので、話題になりました、わたしもやけど、ごめんね、まあいったとしてもめいわくかけるだけやしね。
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Unknown (Unknown)
2015-06-28 19:21:20
もう少し近いところ探します、いろいろありがとうございました、奥様大切にね。
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Unknown (Unknown)
2015-07-12 17:39:38
ポルトガルツアーは乗っていますが、かなり高額で、特に十二月は高いです、もう少し働いて頑張ってもうけてからかんがえます。
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残念 (VIT)
2015-07-14 16:19:27
残念です。来春帰国時に喫茶「英登」にモーニングを食べに行くのを楽しみにしています。
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