武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

147. 画材店の会員登録。Registro de membros da loja de material de pintura

2017-09-01 | 独言(ひとりごと)

 画材店の会員登録をした。3~4年前からこのカセム町にある画材店でのみ買うようになっていた。画材の量販店といった趣の店で、広くて品数は多いし、自分で選ぶことが出来るし、他店よりはかなり安い。

 ずっと以前に画廊のペドロがクルマで乗せて行ってくれたことがあったが、1度行ったきりで、暫くは行かなかった。ペドロの運転は恐ろしいのを通り越している。いつ死んでもおかしくはない運転であった。高速道路でも両手を離して携帯を掛けようとするし、話に夢中で高速の出口をしょっちゅう通り過ごしてしまう。でもペドロは未だ元気に生きている。

 それにカセム町はあまりにも遠いし、道が複雑で自分だけでは到底行けそうになかったからだ。それでそのままリスボンの画材店で買っていたのだが、3~4年前からこのカセム町の画材店でのみ買うようになった。

 元々画材は1年に1度、まとめ買いをしていた。だからカセム町に行くのも1年に1度。行く時は1年ぶりということになるから、毎回、行く前には「道が判るかな」と不安な気持ちになるのは否めない。

 カセムという町とマサマという町の中間にあるのだが、ペドロやリスボンの画廊のザンベジは「マサマの画材店」と言っていたから、てっきりマサマ町にあるものと思い込んでいた。だから最初の何回かはマサマの高速出口で降りて、道を尋ねながら、何とかたどり着いていた。がもう一度行ってみろ。と言われても自分の記憶だけでは行くことが出来ないほど複雑であった。でも正確にはカセム町の工場団地内にあるし、マサマ出口から行くよりもカセムの高速出口から行った方が判りやすいのを発見した。

 リスボンからシントラ行きの無料の高速道路に乗り、ベンフィカのサッカー場を左手に見、マサマ町出口を通り過ぎカセム町の出口で降りる。鉄道の高架を潜り抜け10階建て程のビルが建ち並ぶ住宅街を、記憶を辿りながら、道なりに走らせる。僕はどちらかと言うと方向音痴ではないし、道は覚える方であると思っている。それで他人に道を尋ねなくても、何となく迷わずに工場団地に入り込むことが出来る様になった。

 入り込むというより工場団地の入口付近にその画材店がある。工場団地のどこにでもある様な特徴のない建物だがすぐに判る。そして昨年もこの時期に行った。

 ポルトガルでは8月下旬と1月の正月明け頃に一斉にバーゲン時期を迎える。ブティックや普通の商店なども「SALD(バーゲン)」などと張り紙をしている。スーパーでも同じだ。

 そしてポルトガルは9月が新学期なので、その前の8月下旬は学用品のバーゲンセール時期でもある。スーパーの特設場には文房具が並ぶ。

 カセム町の画材店にも文房具もある。わざわざ子供を連れて工場団地内の画材店に文房具を買いに訪れる人も居ない様に思うが、昨年はそのスーパーの真似事をして文房具のサルドをやっていた。勿論、画材もそれなりに安くなっていた。

 でもその方式に問題がある。バーゲンといってもその時に割り引くのではなく、レシートに割引分のクーポンを印字し、そのクーポンにより次回に買った買い物の中から差し引くという複雑な方式だ。これは大手のスーパーがこの方式をやっていて、それで顧客を増やしている。まあ、近くのスーパーなら、しょっちゅう行くわけだからその方式でも構わないのだけれど、たまにしか買い物をしない画材店でこの方式を導入しても全くなじまないと思う。

 それでも昨年は買った画材が多かったこともあり、その割引分を捨てるわけには行かず、1週間後に再び訪れ、その分で余分に油彩チューブの何本かを買った。2回目の出費はゼロである。カセム町までは結構なガソリン代と時間労力がかかるが、その割引分を捨てるわけにはゆかなかった。

 今年もたまたま昨年同様この時期に行くことになった。

 画材店に行くついでにその周辺の鉄道駅を取材することにした。カセムの先にはシントラがある。そのあたりにはリスボンとシントラを結ぶ鉄道が走っていて、リスボンのベッドタウンとなっているので駅も多いし、列車の本数も多い。

 それにシントラというところは、かつて詩人バイロンが『地上の楽園エデンの園』と讃えた自然豊かで世界遺産のお城なども幾つかある1級の観光地である。そこからユーラシア大陸最西端のロカ岬へ行く拠点ともなっている。

 そのシントラ駅と画材店のあるカセム駅、それにその手前のケルース宮殿のあるケルース駅を取材することにした。何れも何度も行っているところだが駅の取材は初めてである。駅を取材した後、最後にカセム町の画材店で画材の仕入れをするつもりで朝早く家を出た。

 お陰で駅は3つではなく7つも取材することが出来た。クルマで走っている途中『鉄道駅こちら』の標識が目に付くのだ。

 しかしそれで非常に疲れた。アレンテージョなどの田舎道なら何時間走ってもあまり疲れないのだが、都会は疲れる。

 最初に終着駅のシントラ駅を取材し、高速道でケルースに戻り、そこで昼食と駅取材、そして街中の道を見覚えのあるマサマ町からカセム町に入った。その間、鉄道駅7つである。

 朝、家を出てリスボンを抜ける頃は通勤ラッシュが未だ続いていた。そしてシントラからケルースに戻る高速道の反対車線では大変な渋滞が起こっていた。事故でもあったのだろう。この路線は片側3~5車線の大きな高速道だがそれ以上に交通量は多く、交通事故多発路線である。

 画材店に到着した時にはかなり疲れていた。画材店入口には昨年の様な『SALD』の横断幕はなかった。店に入るとすぐに若い女性店員が応対してくれた。昨年には居なかった人だ。感じが良く親切な上に愛嬌もある。どの様な店でも店員の愛嬌が良いと気持ちよく買い物ができる。そして一気に疲れは吹き飛んでしまった。

 品物を選んでから「今年はサルドはないのですか?」と言ってみた。遠くの方で店長の男がこちらをちらちらと見ている。たぶん僕のことを、見覚えがあるな。などと思っているのだろう。僕ははっきりと覚えている。女店員は「サルドはないですが、今、会員登録すれば今回の買い物から10パーセントの割引になります。次回からも納税番号を言って頂ければいつでも10パーセントの割引です。」と言ったので会員登録をすることにした。

 登録は無料で、日本の家電量販店などでもある方式と同じだが、別にクレジットカードなどは作らなくても良い。

 店内にあるパソコンを操作しての会員登録である。それは全て女店員が操作してくれた。僕は名刺を出した。それには名前、住所、電話番号、eメールアドレスなどが載せてあるから全てそれを見ながらやってくれた。納税番号は別の納税カードを出した。ポルトガルではこの番号が必要な場合が多い。日本の住基カードの様なものなのだろう。

 そして国籍を選ぶ欄が出てきた。「国籍はJAPÃO ですよね?」と聞くので「はいJAPÃO です。」と答えた。ずらりと並んだ国名から選ぶのだけれど、何度探してもJAPÃO が出てこない。女店員も首を傾げる。3~40は国名が並んでいるが、JAPÃOもJAPANもNIPPONもZIPANGUも出てこない。ヨーロッパの国々を中心にアメリカ、ブラジル、アンゴラ、モザンビークなどもあるのにJAPÃOがない。まさか日本人が会員登録をするのまでは想定にはなかったに違いない。そしてこの欄では選ぶだけで書き込むことはできない。

 でもそんな国籍などはどうでも良いのだろう。女店員は仕方なく「ポルトガル国籍でも良いですか?」と言いながらポルトガルを選んだ。僕は画材店の登録ではポルトガル人になってしまった。

 店長が大きな荷物を抱えて近くを通ろうとした時、女店員は店長に向かって「JAPÃO がないわよ~」と言った。店長は荷物を落としそうになりながら苦笑いを噛み殺し、足早に通り過ぎた。昨年、割引分のクーポンだけで、出費なしで買い物をした時に対応してくれたのはこの店長であった。店長もようやく僕の顔を思い出したのかもしれない。

 とにかくあの大手スーパーの割引方式は1年だけで終わって良かったなと思う。誰が考えてもおかしな、画材店にはなじまない方式だ。お陰で今回は続けざまに2度も行かなくて済んだ。

 リスボンの画材店に比べると同じ品物でもかなり安いのにも拘わらず、更に10パーセントも安く仕入れることが出来た今回の画材である。早速一巻き買ったキャンバスから大小数枚分を切って木枠に張ってみた。100パーセント麻のなかなか手触りが良い真っ白いキャンバス。さてイメージは出来上がりつつあるのだが、これで良い絵が描けるだろうか。 VIT

 

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