行徳平兵衛の徒然

とりあえずは奥の細道の自転車放浪記

平兵衛の「奥の細道」-9  日和田~飯坂

2007年12月06日 | 奥の細道
2006年10月19日(木) 晴れ
早朝、二本松から日和田駅に戻り今日の旅を開始する。駅前を直進しR355(陸羽街道or奥州街道)を北上する。側溝の蓋がガタゴト云う歩道は大変走り難く、また通勤時間帯でもあり最徐行で進む。間も無く安積(アサカ)山公園の小丘が右手に現れる。この辺は古来より歌枕の地で、公園の歌碑には
  あさか山 かげさえミゆる 山の井の
     浅きこころを わがもはなくに
とある。
  みちのくの あさかの沼の 花かつみ
     かつ見る人に 恋ひやわたらむ 
と古今和歌集にある花かつみを、奥の細道で芭蕉は「---“いづれの草を花かつみとはいふぞ。”と、人々に尋ねはべれども、さらに知る人なし。---」と、日は山の端にかかるまで捜し求めている。
相変わらず走り難いR355で本宮駅を過ぎ、荒町から仲町のクランク状交差点を通過、道なりにただただ北上する。二本松の市境に入る頃から歩道が整備され走り易くなる。二本松駅入口の二本松神社で小休止し、次なる目的地黒塚を目指す。
R4合流後、安達が原入口より東に安達ケ橋を渡ると観世寺はすぐだ。謡曲等の黒塚の話はあまりにもオドロオドロしいので、芭蕉と同じく遠目に一見し福島へ向かう。
<黒塚、奥州安達が原>
   みちのくの  安達が原の 黒塚に
   鬼こもれりと 聞くはまことか       平兼盛         
昔、京都の公家の屋敷に、岩手と云う乳母が姫を育てていた。姫は病弱で言葉を発せず、長年の悩みの種であった。
ある時、易者から「姫の病気には妊婦の生き肝が効く」と聞いた岩手は、しかるべき妊婦を探し求めてみちのくまで来てしまった。ある日、岩手の庵に若い夫婦が宿を乞うて来た。聞けば妻は身ごもっているとのことだ。生き肝を得る機会到来とばかりに、女の腹を切り裂き生き肝を得る。しかし、女の傍らに落ちていたお守りは、岩手が昔別かれた娘に与えたものだった。
その事を知った岩手は、嘆き悲しみ、地獄の苦しみの末に髪は逆立ち、気が狂い鬼と化した。以来、岩手は宿を求める旅人を殺し、生き血を吸い、人肉を喰らい、安達が原の鬼婆と呼ばれる様になった。
ある年、裕慶東光坊が岩手の庵に宿した時、人骨の散乱している様を見て、これぞ噂の鬼婆と知り逃げ出す。それを知った老婆は激しくその後を追い、追いつかれた裕慶は如意輪観音を一心に祈願したところ 白真矢が老婆を射殺した。
裕慶が塚を作り鬼女を手厚く葬ったのが黒塚で、如意輪観音を奉った寺が観世寺として今に残る。
R4に戻り500mほど進み、左のR114(奥州街道or陸羽街道)に入り2.5km北上すると、二本柳宿の石碑と大きな柳が目にとまる。山間の田圃には稲むら(写真)が整然と並び、乾いた藁の匂いが心地よく、昔の田舎の風景を思い起しながら進む。福島市との市境あたりから西に「阿多多羅の山の上に 毎日出ている青い空が 智恵子のほんとの空だといふ」その青空の中に安達太良山が美しく浮かんでいた。
松川駅入り口を過ぎ、東側1km程の美郷の辺が下山事件・三鷹事件と並ぶ戦後国鉄の三大ミステリーの一つ松川事件の地だ。単調な上り下りの多い道が、福島大学の入り口を過ぎR4へ合流するまで続く。R4を北上し、伏拝交差点を過ぎると快適な長い下り坂となる。綺麗な流れの阿武隈川を二度横切ると福島市街に入る。福島競馬場を右に、左にはランドマークの信夫山を見て岩谷下交差点を東に左折する。再度阿武隈川を文知摺橋で越えて1.5km程進み、岡山小への道を左折すると文知摺観音は目の前だ。
この寺には、その昔石の上で布にしのぶ草を擦り込み、模様を付けたと云う文知摺石や源融の歌碑「みちのくの 忍ぶもちずり 誰ゆえに みだれそめにし 我ならなくに」、そして芭蕉句碑「早苗とる 手もとや昔 しのぶずり」などがあり、山の端の静かな古刹だ。
これより4km程北の月の輪大橋に向かうが、山際の田舎道を進んだところ分り難く、むしろ福島保原線を利用した方がよい。月の輪大橋からはR387を西進し、R13(万世大路)を北西に進み、福島交通飯坂線の医王寺前駅に向かうと良い。当方は東福島駅辺から近道を試みたが、リンゴ畑と高速道路に阻まれ大変苦労した。
医王寺は信夫の庄司佐藤基治の菩提寺で、鬱蒼とした杉並木の奥に一族の墓がある。庄司の子継信・忠信兄弟は義経の側臣として源平の戦いに従軍し、兄は八島の合戦で、弟は京都堀川の争いで、何れも義経の身代わりとして死んでいる。その死を悲しむ姑に、兄弟の妻達が夫の甲冑を身に着け、その凱旋を装い慰めたと言う故事が伝えられている。主には忠・親には孝、まさに昔の修身の本にピッタリだ。本堂前に芭蕉句碑があり、宝物室には弁慶の笈等が展示してある。
奥州三名湯の一つの飯坂温泉郷は2km程北にある。十綱橋前の観光協会で今日の宿を探す。鯖湖湯近くの旅館で、湯は疲れた四肢に心地よく、十畳の広い部屋に地図を広げ明日の旅程を考えた。
今日の走行距離 64km


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