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撃たれ強い一式陸攻

2021-06-11 21:27:26 | 軍事技術

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一式陸攻すなわち一式陸上攻撃機と言えば、一式ライターと味方からも揶揄され、脆弱で攻撃に弱い日本機の典型とされている。しかし「我敵艦ニ突入ス」というある特攻機のパイロットを特定しようとする本に、米駆逐艦長の意外な戦闘報告書の記述がある。

 一式陸攻はいい飛行機で、かなりの攻撃に耐えられるように頑丈にできている。命中しても、九七艦攻のように簡単に爆発したり火災を起こさない。空母攻撃終了後ベティーが一機帰還中、友軍機から何度も機銃掃射を受けたが、まったく被害を受けた様子はなかった。友軍機は最後には諦めてしまった。(P63)

 何と被弾に弱いとされた一式陸攻が、いくら攻撃を受けても落ちなかったというのだ。かの本の著者も、一式陸攻が日本海軍では燃えやすいという評価をしていると書いている。著者はその理由を乗艦のファイヤコントロールシステムに不具合があったことを大きな原因にしている。しかし艦長の目撃したのは自艦による対空射撃ばかりではなく、いくら戦闘機に打たれても撃墜されず、戦闘機が諦めてしまうほどタフな様子もあったのだから、必ずしもファイアコントロールシステムばかりが原因とは言えないのは明らかである。

 実は「歴史群像」太平洋戦争シリーズの「帝国海軍一式陸攻」という本には、一式陸攻が同じ条件でのドイツ空軍の爆撃機などと比較して、必ずしも損耗率が高いとは言えないこと、九六陸攻の戦訓から、燃料タンクの防弾が要求されており、不完全ながら初期型から防弾ゴムが使用されており、最後まで改善の努力が続けられていったことを資料によって明らかにしている。傑作なのは、パソコンゲームのデザインのアドバイザーとなった海兵隊の元パイロットが、一式陸攻について、優秀な防御力を持つようにゲームをデザインさせているのだが、その理由を「一式陸攻は決して脆い機体ではないからだよ」、と述べている。彼はガダルカナルで日本機と戦ったエースだから真実味がある。

 一式陸攻が防御力の弱い機体である、とされたのは何故だろう。この本にも示唆されているのだが、被害率が高いのは対艦攻撃の時である。一式陸攻は対艦攻撃に雷撃を主としたから被害が大きいのである。雷撃は1,000m以内に肉薄し、雷撃コースでは直進したから被弾しやすい。その上に大型機だから命中率は高い。さらに別項で述べたように、米海軍の火器管制システムは日本軍のものに比べて格段に優秀である。特に日本海軍は陸攻を雷撃に重用したから、被弾に弱いとパイロットが嘆いたのも当然であろう。

B-17には雷撃装備がなかったから、高高度から艦船爆撃を行ったが、輸送船はともかく軍艦にはあまり通用しなかった。日本海軍が大型機にまで雷撃装備をしたのは、正しい選択ではなかった。日本海軍が大型機に雷装をしたのは、敵艦上機の行動半径外から敵主力艦に雷撃をするためであった。航続距離をかせぐために大型機にならざるを得なかった。しかしそのために、被弾率を高めて有効な攻撃をし得なくなったのだから、日本海軍の方針は元々矛盾を抱えていたのである。

 この本には高高度性能が優秀で、P-40などでは高高度から飛来する一式陸攻は迎撃困難であると書かれている。他の本でも九九双発軽爆や一式陸攻は高高度性能が優れており、特に爆弾投下後高高度で飛び去ると米軍機は迎撃できない、という記述がある。これも考えてみれば当然で、ターボ過給機がついていない機体で比較すれば、日本機は翼面荷重が低いから高高度性能が優れている。

 ちなみに一式陸攻の実用上昇限度は各型で8,950~9,220mである。アブロ・ランカスターMkⅠは7,467m、B-26Bは7,163m、A-20Cは7,718mであり、いずれも一式陸攻より1,000m以上実用上昇限度が低い。甚だしいのはブレニムで、MkⅠが一式陸攻なみに9,144mであるのに、MkⅣでは6,706mにも低下している。ターボ過給機が付いたB-24はD型がさすがに9,754mであるのに、J型では8,534mに低下している。

 B-17Gは、11,015mで優れている。欧米機のデータの出所は、全てsquadron/signal publicationsのin actionシリーズである。ただB-17だけが上昇限度を、Ceilingと書いているのに対して他は正確にService ceilingと書いてあるのが気になる。実用上昇限度はService ceilingと訳されるのに対して、Ceilingだけでは絶対上昇限度かもしれないのである。またEFGの全ての型の全備重量が全く同じなのは明らかな間違いであるのでデータの信頼性に疑問がもたれる。いずれにしてもB-17の実用上昇限度は11000m程度あるのであろう。少々脱線したが一式陸攻はターボ過給機なしでは、欧米の爆撃機より高高度性能が優れているのは間違いない。

 一式陸攻がタフである、という点には私にはもうひとつの要素があると思われる。一式陸攻は大型機の割には舵の効きがいいと言われている。これは同じメンバーにより設計された陸軍の四式重爆も同様で、垣根超え飛行ができると言われる位、軽快な舵を持っていた。超低空での運動性能がいい場合には、機体強度が高くなければならない。つまり機体が頑丈である。従って被弾したり炎上しても、構造部材が破壊して墜落することは少なかったのであろう。この点もタフだと言う評価につながる。

 この点で想起されるのはB-24とB-17の相違である。B-24は被弾炎上して主翼がボッキリ折れる悲惨な記録映像があるが、B-17はそんなことはなかったそうである。これは構造の強度上の差異である。これがB-17が防弾だけではなく機体がタフである、という評価につながり、搭乗員に信頼されたと言われている。一式陸攻のタフさもこれに類似しているものと思われる。大戦末期になると、援護戦闘機も少なく、米側の防空陣も圧倒的であったから、一式陸攻の攻撃に被害が大きいのは当然である。ちなみにB-25などによる、機首の機銃を乱射しながらの反跳爆撃などは防空能力が極めて低い日本の艦船には通用しても、米艦隊には返り討ちにあうだけで通用しなかったであろう。


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2 コメント

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こんにちは! (小平次)
2021-06-14 15:59:13
猫の誠さん
こんにちは!

さほど戦中の兵器に詳しいわけではありませんが、子どもの頃読んだ本や映画?、などの影響でしょうか、一式陸攻はすぐに撃墜される脆い飛行機と言うイメージでしたので意外でした。

ものごとや歴史、言われたままに信じて、視点を変えて見ないと真実を見失う典型のようなお話、ありがとうございました
コメントありがとうございます。 (goozmakoto)
2021-06-14 22:57:55
実はブログに紹介した「歴史群像」シリーズを読むまでは、小生も一式陸攻は墜としやすい機体だという常識を信じていました。考えてみれば鉄壁の防空網を持つ米海軍の艦船攻撃自体に無理があった気がします。米海軍の防空戦闘機の運用や艦艇の高角砲の命中率は日本のそれと隔絶していましたから。

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