MATTのひとりごと

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超小型ポータブル・スチール・ギターの製作

2014年04月01日 | スチールギター

ウクレレ形のまな板
ラミネートした竹を使って多彩な製品を発売しているTotally Bambooという会社からウクレレをイメージしたまな板が販売されています。

このようなラベルがつけられています。

板の側面を見るとこんな具合です。板の厚さは5/8インチすなわち15ミリ(5ミリ厚の3枚積層)、板の縦横の寸法は上のラベルにあるように559ミリ×229ミリです。

板の中央部にはこのような竹が埋め込まれています。

結構手が込んでいて、これが26ドルちょっとで買えるのですから久しぶりに製作意欲が沸いてきました。
このイメージを生かしてエレキ・ウクレレを造るのもよいのですが、今回はスチール・ギターを作成することとしました。

以前「4弦スチール」を作成しました。

私の本「ハワイアン音楽快読本」にご紹介した「4弦ポータブル・スチール・ギター」はアルミのチャンネルをボディーとし、戸車を利用した折り返し構造によりスタンダード・ウクレレサイズのスチールとしたものでした。

当時はまだサドル下にいれるタイプのピエゾ・ピックアップが入手できなかったので、マグネットとコイルによる「マグネチック・ピックアップを使いました。

ネオジム磁石とウレタン線と手作りのボビンの上に自作の巻線装置を使い、コイルを巻いてピックアップとしました。

この「ポータブル・スチールギター」を2008年9月23日のNUAの工作講座で採り上げていただき、なんと工作には縁の無い会員の皆様により10台もの作品が生まれました。

設計に着手

この「4弦ポータブル・スチール・ギター」製作の反省(笑)を今回の製作に生かすべく設計を開始しました。
まず前回「4弦」としたのは入手できたアルミのチャンネル寸法から弦の間隔を決めたもので、4弦あれば大抵の演奏に使える、と踏み切ったのですが、結果としては演奏上の制約がいろいろと生じてしまったので、今回は何が何でも6弦にすることといたしました。
とは言ってもこのまな板のネックは大変細く、ナットの位置では36ミリしかありません。このままで6弦とすると、両端に余裕を持たせる必要がありますので弦の間隔を6ミリからせいぜい6.5ミリにしなければいけません。でも弦間隔が狭くなるほどナット付近での演奏が困難になってしまうので、できれば8ミリは欲しいところです。
そこで、ナット位置をヘッドストック側に移動させて8ミリ間隔を実現させることとしました。これにより弦長が多少でも長くなるという利点が生じる反面、1弦と6弦がネック幅よりわずかはみ出してしまい、フレット位置を確認しながらの演奏がむずかしくなるという欠点と、ヘッドストック部が狭くなるために弦巻きの取り付けに制約が生じるという欠点が生まれましたが、それを承知の上でナット位置の変更をいたしました。
弦巻き取り付けピッチ(距離)が十分取れなかったためにそれぞれの取り付けネジを重ねるという窮余の一策でなんとかこの狭い場所に収めることができましたが、

ツマミの回転方向が普通のウクレレやスチールと逆向きになるという問題も発生しました。
しかも、6本の弦がすべて同じ方向に巻くのではなく、1弦と6弦だけはいわゆる「マーチン巻き」(写真左)

にしないとナットからの角度が大きくなって弦の巻き上げ不安定になることもわかりました。

結局、1弦と6弦のつまみは従来方向に巻き上げ、それ以外の弦は逆に巻きあげる、という極めて変則的な巻き方となったのですが、自分で使う分には全く問題が無いのでこれで進めることといたしました。

ピックアップはピエゾを採用

以前から「スチール・ギターは本来スチール弦の振動をマグネチック・ピックアップで拾う楽器であるべき」という持論でしたが、市販のマグネチック・ピックアップは100ドル近くすることと自分でコイルを巻くための道具をこちらハワイには持ってきていないので、今回はピエゾ(圧電効果)式のピックアップを採用することといたしました。
最近はギターやウクレレがどんどん電化されていて、同じモデルでもピックアップの有無でせいぜい20ドル程度しか販売価格が違わなくなりました。
Eベイを覗くと、なんとピックアップ単体で2ドルしないものや

イコライザー付きのアンプや電子チューナーまで含めても10ドルしないものが数多く見受けるようになりました。

いずれもアンダー・サドル形のピックアップですのでそれを取り付けることとしました。このシールド線の中にピエゾのセンサーが収まっているのです。これの上にサドルを載せれば弦の振動を拾えるわけです。


ブリッジとナットの作成
サドルの部品としては、金属にすることで弦に触れていればシールド効果が出るのですが、近くに東急ハンズのような便利な店は存在しないので、適当な材料を探していたところ、たまたま手元に不要な部品があり、寸法が34ミリ×6.5ミリ×3ミリと目的にぴったりでしたのでこれさいわい、と採用しました。

これを2個ずつ使ったブリッジ(右)と、それとほぼ同じ構造を持つナットの略図を描いて

地元のウクレレ製作者Kuni Matsui氏に作成を依頼しました。氏が手にしているのは自作のディアス・ウクレレのレプリカです。

届いた部品(一組は予備用)に

ヤスリをかけてブリッジとナットの完成です。

実際にはそれぞれの弦のゲージに合わせてナットの溝切りも行います。スチュワート・マクドナルドの「溝切りヤスリ」を使い、下記で選んだゲージもしくはそれよりわずか大きな寸法の溝を切っていきます。
この際、「溝の深さ」は大変重要になります。ウクレレやギターのようにフレット線が埋めてある楽器の場合ですと溝切り作業での注意点はバズが起こらないようにということが一番なのですが、スチール・ギターの場合ですとこの「溝の深さ」をそろえることのほうがはるかに重要となります。
目的の弦を張ってから1フレット付近にトーンバーを置いて弦を弾いたときにいずれの弦もトーンバーとの間でバズ音が出ないように浅い溝を順番に深くしていくのですが、この作業手順を間違えると溝がどんどん深くなってしまう惧れもあるので慎重に作業します。


フレットボードの作成
今回の試作品ではナットとブリッジサドルの距離を計算しやすいように420ミリとし、それに基づいてそれぞれのフレット位置を計算してPCでフレット図を作成しました。
私の好みで3オクターブすなわち36フレットまで作成しようとするとそれだけで全長が367.5ミリとなり、レターサイズなりA4サイズには印刷できないので、12フレットまでとそれ以上の二つに分割し、あとで張り合わせることとしました。
A4サイズの印刷原紙はこのようなものです。もし何かのフレットボード製作が必要な場合にはこの画像の0フレットから12フレットまでの距離が弦長のちょうど半分(今回の例では弦長が420ミリですので210ミリ)になるように印刷サイズを調節するだけで実現しますのでお試し下さい。

これを金色のシール紙に印刷し

切り抜いてから

台紙にはりつけて一枚のフレット・ボードを作成します。

このままですと印刷した顔料インクが落ちてしまうので透明ラッカーで定着させます。

フレット・ボードの位置決め確認を兼ねて、標準のC6弦を仮に張ってみました。

もちろん弦長が標準のスチール(23インチ程度)の5フレット位置に相当しますので同じテンションで張るとF6となります。そのままF6として使っても構わないのですが、なかなか慣れないと思うので下の写真のように弦のゲージを変更することでC6の楽器を実現させることといたしました。
標準弦長の楽器の1弦(E)として0.015インチの弦を張ったときの張力を今回の弦長に直すと0.021インチとなります。このゲージを基準として2弦のCは1.26倍なので0.026、3弦のAは1.50倍なので0.031インチ、4弦のGは1.68倍で0.035インチ、5弦のEは2.00倍で0.042インチ、そして6弦(C)は2.52倍で0.052インチとそれぞれ計算値が得られます。そしてそれに一番近いゲージを市販の弦から選んで下写真のような組み合わせとなりました。
1弦と2弦はプレイン弦もあるのですが、巻き弦のほうがしなやかなことと平均的なセットバック*を考慮した演奏がしやすいのですべての弦を巻き弦としました。(*同じゲージでのプレイン弦と巻き弦ではプレイン弦のほうが「硬い」ためにセットバック距離が大きくなるので6本の弦に両者が混在するとセットバックが不連続になります・・・)

そしてさきほどのナット溝もこれに合わせて削っておきました。

この写真からもお分かりのように1弦と6弦がフレット・ボードからはみ出していますが実用上は問題ありませんでした。それよりも演奏する角度の影響で1弦がボディーの色に埋まってしまうことで見えにくいため、ボディーを暗い色に着色する必要がありそうです。

コントロールパネル
簡単に製作するためには出力ジャックを設けるだけでも良いのですが、せめてボリュームコントロールだけは付けたいと思って、ジャック、可変抵抗器、そしてパネルに使う金属板を探しました。でもこちらには東急ハンズのような便利な店が無いので(涙)やむを得ず壊れたミニアンプを活用することといたしました。

このアンプには3個の可変抵抗器と1個の標準サイズの入力ジャックがあるので

それをそのまま今回の部品として転用することにしたのですが

問題はパネルの転用でした。
ステンレスの硬い板のため金鋸の刃が立たず、やむなく折り曲げて(!)切断しました。そしてジャックとボリューム・コントロール用可変抵抗器の距離がある程度必要だったのですが、そうするとその位置にポッカリと穴が開いてしまうので、エリザベス女王には申し訳なく思いながらもカナダのコインを「穴ふさぎ」用として貼り付けました。

出力ジャックとしては手持ちの金属製のものがそのまま使えればシールドも完璧だったのですが、この「折り取った」パネルのジャック穴が大きすぎて取り付けられないのでやむなくもともと付いていたものを転用しました。このためジャック周辺はアルミ箔でシールドをいたしました。
シールド前のジャック付近と

シールドとボロ隠し兼滑り止めのシートを張った写真です。      


ケース・バイ・ケース
この楽器を持ち歩くためにはケースが必要なので、以前入手したメキシコ製マーチン・スタンダード用のケースに入れることにしました。今回のスチール・ギターのボディーの幅はスタンダード・ウクレレのボディー幅よりはるかに大きいのですが厚みが少ないのでこの薄型のケースにはしっかりと収まりました。マーチン自体がこのケースを廃止したのでしょうか現在は入手できないようです。


「板」は「木偏に反る」と書くので・・・・
この「竹の合板」は一般的に同じ厚さの一枚板に比べると反りにくいようですが、そうは言っても6本の弦でキリキリと引っ張っているため「反り」が発生します。6本の弦を順番に調弦していき、もう一回り確認するとピッチが下がっているのです。それでもこの操作を数回繰り返すことでピッチはほぼ安定しますのでそれほど重症ではなさそうです。とりあえず演奏前に調弦するとともに念のため電子チューナーでこまめに確認し、演奏が終わったら弦を緩めることを励行しています。
それでも気になる場合には背面に別ピースの板を貼り付けるか、アルミ・チャンネルをネジ留めするなどの対応が必要かもしれませんが、折角の「薄型」が謳えなくなるので、当面は「弦を緩める」作業を励行するのが良さそうです。

肝心の音質や弾き心地は
この試作品も「楽器」ですので音が悪かったり、弾き心地が悪ければ落第です。もちろん普通のスチール・ギターと比較すれば弦長が短く、しかも本体が軽いので伸びのある低音は当初から期待していません。しかし実際に弾いてみると結構低音側の弦も鳴ってくれていることがわかりました。
弾き心地のほうは弦長が短いことで目的の音への距離が短く、「行き過ぎる!」ことやビブラートがオーバーになりやすいのですが、これもいわば「想定内」というかこの楽器の宿命ですので慣れてしまえば何とかなると思います。

最後に実際の演奏をお聴きください。この楽器にふさわしい「Singing Bamboo」すなわち「歌う竹」という曲です。この曲の「竹」というのはいろいろな長さの竹筒を地面に当てながら演奏する「Bamboo Organ(ハワイ語ではKa`eke`eke)」という楽器を指しているので、演奏のバックにはその音を模した音を入れてあります。(この写真をクリックするとオリジナルの置かれているサイトに飛びます)

画面をクリックしてくださいね。


「超小型」のためにハーモニクスが出しにくいのが問題ですが、結構使えることがわかりました。

================================================

フレット間隔の計算や弦のゲージ選定には「2の12乗根のべき乗」の数字が使われます。以前ですと「関数電卓」が必要でしたが、現在はiPhoneでも簡単に計算できます。
みなさんご存じのことと思いますが最後にその数字を載せて置きますね。

1.000000000000000
1.059463094359295
1.122462048309373
1.189207115002721
1.259921049894873
1.334839854170035
1.414213562373095
1.498307076876682
1.587401051968200
1.681792830507430
1.781797436280679
1.887748625363388
2.000000000000000

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16 コメント

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素晴らしい・・・ (あたごウクレレ)
2014-04-02 09:26:27
Mattさん
おはようございます。これですね、イイですね。
阿羅漢さんのミュージック工房でも作成していただけるとのことでオーダーいたしました。
さすがにMattさん細かいのを見事に製作されました。拍手
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Unknown (たぬき)
2014-04-02 09:43:21
しかし。器用なもんですねえ・・・!

私には絶対に作れません!
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あたごウクレレさん (MATT)
2014-04-02 10:06:11
阿羅漢工房は何でも作成できるのでせいぜい注文をいろいろと付けて依頼してくださいね。
こちらハワイでは何の道具も材料もないのでそれを揃えることから始まります。でも東急ハンズや日曜大工センターのような自作を対象とした店がないので大変です!
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たぬきさんは (MATT)
2014-04-02 10:10:16
そのかわりすばらしい演奏をされるので十分ではないですか!
たぬきさんたちは「演奏家」で私と阿羅漢さんは「楽器つくり専門」ですから・・・・
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面白い! (ranko)
2014-04-02 21:19:48
MATTさんすごい~
面白いアイデアですね! 
ほとんど消えてしまってますが、竹の模様ががいい味出してます。
どんな音がするのでしょう?

時計とか制作しても面白いですね。

私だったらそのままマナ板で使ってみたい♪と思いましたけど、ネックの部分が使いにくそうです。
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いつまでも (Boo!)
2014-04-02 22:36:58
記事をアップしないと思っていたら、こんなことに時間を費やしてましたか!


写真を見る限り、プロ職人並ですね。くわえて、演奏もプロ並みです。褒めすぎ?

ここまでのサイズになると、いわゆるショートネックではなく、ウルトラ・ショートネックになりますね。

普通のスチールギターのオクターブ上のフレットで弾く感覚でしょうか?フレット間隔が相当に狭くなるでしょうから、音程が難しくなるでしょう。

それなのに、それを感じさせない演奏は、やはりプロ級かも。
またまた褒めすぎか?

来月、拝見できたらうれしいです。


ついでに、rankoさんへ:

こんなところで油を売ってないで、私のところで売ってくださいな(笑)。
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rankoさん (MATT)
2014-04-03 13:02:17
ネックの部分はネギを切るために作られているのです。

そしてボディーの部分ではタマネギを切ってください。

あまりにも使い勝手が良いので涙が出てきますよ!
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Boo!さん (MATT)
2014-04-04 10:00:40
Boo!さんの「褒め殺し」のテクニックは最高ですね。これだけ心にもない褒め言葉を羅列できるBoo!さんの技術は「Stap細胞の誤発見???」を押さえて今年のトップニュースになること間違いなしでしょう。
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まな板スチール (paul okubo)
2014-05-23 15:39:10
とうとう実物を弾く機会に恵まれまして、アナラニエ、ビヨンザリーフを弾いてしまいました。弾いていたらウクレレの伴奏の音が・・・MATTさんでした。可愛らしく素晴らしいですね。これならウクレレケースに入れて持っていけますね。
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実物を拝見して (あたごウクレレ)
2014-05-23 17:31:13
実物を拝見して驚き (@_@)・・・・。本当に可愛いね、でもしっかりと音が出るし本当に素晴らしき発想に尊敬しちゃいます。
ハイ、勿論弾かせていただきましたよ。阿羅漢さんに1台頼んでありますので楽しみです。
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