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このブログは、憲法や法律に関連する事柄を不定期かつ思いつくままに綴るものです。なお、素人ゆえ誤りがあるかもしれません。

公務員への労基法の適用と、住民による民主的統制

2009-03-29 21:54:53 | Weblog
 下記は、洋々亭さんの掲示板から拾った話題である。と言っても、質問者に対する私の回答意見である。

 http://www.hi-ho.ne.jp/tomita/yybbs/#11909

 以下引用すると・・・
 質問者「公務員でも、36協定を結ばなければいけない職場等があると聞きくが、どんな職場が該当するのか。また、36協定の意味が良くわからない。」
 ・・・という質問である。

 先ず、公務員でも労基法が適用になる労働者が存在する。・・・というと曲解されるかもしれないが・・・。つまり、正確に言うと、一般職の地方公務員にも、元々労働基準法(以下「労基法」)の適用があるというのが一般原則ではるが、但し、ここで規定条文には、地方公務員法(以下「地公法」)のそれと労基法のそれとによる法条競合があるのである。
 労基法の規定と地公法の規定が競合(実際には地公法の「補足」で競合を避けている)している場合には、いわゆる特別関係にあたり、相対的一般法たる(“相対的”という表現を使用したのは、労基法も、民法から見ると特別法だから)労基法の規定ではなく、地公法の規定が適用されるわけである(前述の通り、地公法「補足」の各条文により、何れが適用されるのかが整理されているのである)。

 ところが、その地公法には適用除外がけっこうあって、適用が除外される(補足で規定されない)場合には労基法の規定による。
 つまり前出の通り、地公法第4章の「補足」に、如何なる職が地公法規定によるのか、また、如何なる職が労基法・安全衛生法等の一般規定が適用されるのかが規定されている(http://www.houko.com/00/01/S25/261.HTM#s4)。
 
 では、なぜこのような一見複雑な特別関係を規定しているのかというと、思うに、為政者側に立つ公務員の労働条件は、地公法により労使だけの私的自治(労使のみによる合意)をさせず、その代わりに法律・条例とこれにより委任された人事委員会または長が決定(つまり住民自治に服する)するというのが立法意思だからである。なお、私見によれば、これは選挙に拠らない公務員集団に対する民主的統制を補完する方法、つまり“擬似猟官制”だということができよう。

 しかし、民意を反映した統制ばかりでは専門性に欠くることになってしまい、実際の労働現場(つまり当事者)でなければ判断や合意ができない厳しい労働条件や、想定し得ない作業状況・仕事内容、さらには危険有害業務等の専門性や特殊性を有する現場の労働条件への配慮が欠けてしまう。
 このような住民自治による労働条件の決定のみでは、労働環境に不都合があるため、特殊性等を有する労働については、労基法の趣旨である『労使自治による判断の道(当事者性)』を残しているものと解される。

 『36協定』とは、平たく言えば、労基法『第4章 第36条(時間外及び休日の労働)』について、労使の自治により協定し、これが労働基準監督署に受理され、これを当該事業所に限って法規(当該労使と裁判所を拘束する法)として運用するものである。
 つまり我々民間人と同じわけである。

 公務員には、地公法→条例(給与条例主義等)という住民自治に服すべき職務と、非権力的且つ専門性のある労働については労基法→労使自治(当事者)によるべき労働条件の規定(労基法36条に基づく一般の労使協定)が残されているということである。

 例としては、公立病院・保育所・水道事業・給食センターなどの現場に自治体雇用の労働者がいれば、後者である。なお、公務員が36協定を結ぶ意義・対象職場について、詳しくは下記の東京自治労連「第4回労働安全衛生活動交流集会基調報告(2005年9月3日)」の報告を参照されたい。旧自治省の法解釈・行政実例の報告もあり、労働側の主張ではあるが、一定の合理性や政府の回答を引き出している点で、一つの有力な考え方である。

 参照先:東京自治労連

 http://www.tokyo-jichiroren.org/
 同 過去の方針・報告など 2004年のイベント
   ■2005年9月7日 第4回労働安全衛生活動交流集会基調報告より
 http://www.tokyo-jichiroren.org/news/050907.htm


 ところで、自治体(長)と職員間で、労基法の規定を有耶無耶にすると、故意に脱法行為を行っても罰せられない場合がある。
 36協定の不締結がこれに当たると考えられる。刑法各論で問題となる“悪質なほうが刑罰が軽くなる”という、料罰規定の逆転、所謂「鎹(かすがい)現象」が労働法には多い。
 本エントリ後半では、その中で、労基法の第36条(なお料罰規定の適用については「刑法総則各条」及び「労基法第119条」である)を例に挙げ検討たい。

 “36協定”を結ぶと、労基法第37条「使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
に拘束されることとなり、そうすると・・・
 料罰規定である労基法第119条「次の各号の一に該当する者は、これを6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。1.<前略>第37条、<後略>の規定に違反した者」となるため、刑事罰(この料罰規定は「懲役」を含むので刑事罰である)に服することとなる。
 一方、労基法に基づく「36協定」を結ばなければ、これは労基法第36条違反となるが、同条違反は同条1項「但し書き」のみ刑事罰(同法第119条)があるものの、同条1項「前段」違反となる「36協定の締結作為義務違反」については、この料罰規定(同法第119条)の適用がない。なおこの場合、問題となるのは、例えば、労働日と休日を曖昧にして労働させる場合や、短時間労働者について定時を曖昧にし、法定労働時間を越えない範囲内でほしいまま使う(1日8時間以内で週40時間以内の労働時間と労働日を、使用者がその時々でほしいままに決めるような)場合などである。

 結局「36協定」を結び、これに違反する時間外勤務や、これに対する不払いを行うと、刑事責任を問われるのに対し、36協定を結んでいない場合の休日労働等(上記の例の場合)には「労基法第36条1項前段違反」にとどまり、犯罪とはならない。
 これは言ってみれば“鎹(かすがい)現象”があるわけである。

 結局、これにより、使用者は“36協定を結ばない”ことで、この料罰規定を逃れられる、という利益があることとなろう。
 人事担当者は、「36協定」を知らない(“法の不知”)という利益、或いは、法を知っていても、あえて法に従わない(36協定を結ばない)という利益も、残念ながら一応はあると考えられる。

 《追記》
 なお上記は、個別の事案ではなく、大雑把な法解釈(素人領域)であることをお断りしておきたい。

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