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このブログは、憲法や法律に関連する事柄を不定期かつ思いつくままに綴るものです。なお、素人ゆえ誤りがあるかもしれません。

労働者派遣法違反(偽装請負)の契約を自治体と結ぶことは贈収賄罪を構成しないか?

2010-10-29 22:36:29 | Weblog
 今回は、標記の件(『労働者派遣法違反(偽装請負)の契約を自治体と結ぶことは贈収賄罪を構成しないか? 』)について考えてみた。なお、素人の浅学ゆえ、とんだ見当違いかも知れないことをお断りしておきたい。
 本エントリは、私が「洋々亭」さんのフォーラムに質問を投稿し議論させていただいたものの中から、私の考えを整理したもの。興味のある方は、下記「洋々亭過去ログ」の議論も是非参照されたい。なお、議論において、私の浅知恵・未整理・不十分な部分について、率直なご批判やご意見を頂いたフォーラム参集の各位に御礼を申し上げたい。
 「洋々亭」過去ログ
 http://www.hi-ho.ne.jp/cgi-bin/user/tomita/yyregi-html.cgi?mode=past&pastlog=224&subno=24893

 さて、偽装請負については派遣法や職安法(その他雇用保険の未手続きや安全衛生法上の義務違反等)など他の労働関係法違反(複数罪)に違反する場合もあると考えられるところ、これらの違反行為の結果として発注者(元方事業者)に利益があるのであれば、当該労働関係法違反の他にも、現場担当者(担当公務員)に対する賄賂性が疑われることは無いのであろうか?。
 それともう一つは、民間への違法派遣であれば、独禁法(不公正な取引)や下請法といった経済法の射程にも入る場合もあると考えられる(「○×電機」への違法派遣が独禁法にも違反するとされた事例《20.7.1読売新聞ー労働問題》.公正取引委員会資料http://www.jftc.go.jp/pressrelease/08.june/08063001.pdfもある)ところ、自治体発注の委託業務については“事業に該当しない”(公正取引委員会回答)とされている。
 かかる背景もあり、もし自治体からの発注において、労働者派遣法違反や職安法違反などの違法が存在する場合、このような労働関係法違反以外にも、これにより得られる不当な利益が(所定の手続なくして“意のままに使える労働力”という不当な利益を得る)他罪の成立となることもあるのではないか?、即ち、公務員適用罪の射程(保護法益)も本来もっと広いはずだろう?、というのが思考の出発点である。《11月3日追記》《11月14日修正》

 設定事例として、偽装請負契約が担当公務員に便宜を図ることになり、当該公務員と業者双方の利益となる場合、賄賂性があるのか?、それとも、そうとは言えないのか?。

 先ず、贈収賄罪における賄賂性とは(通説に従えば)「金品が一般的ではあるが、しかし、借金の棒引き、芸者の演技、役職を与えることなど、凡そ“人の欲望を満たすもの”ならば賄賂(わいろ)となる」との解釈があるが、仮にこれが妥当だとすると、契約担当公務員の便宜(“偽装請負だと適法な業務委託より、受発注の便利さに加えて担当者の意のままに業務が行える”という利益)を図り、その対価として競合他社に優越して契約を結ぶ、もしくは契約交渉を他社より優位に進められるという結果があった場合には、贈収賄罪を構成する・・・という仮説(妄想?)を考えてみた。
 なお、『職務の公正及びそれに対する社会の信頼、ないし、公務員の職務の不可買収性(なお、通説・判例では前者であるとするが、私は、前者・後者とも一般人の平衡感覚に照らせば同意義であると思う)《12月6日追記》』というとき、果たして自治体の委託業務含まれるのか否か?・・ということがやや引っかかるが、この際、前述の通説である『凡そ“人の欲望を満たすもの”ならば賄賂(わいろ)となる』。また、賄賂は、職務行為または職務密接関連行為の対価として提供されたもので、対価関係は、一定の抽象的・包括的な反対給付としての性質が認められれば足り、個々の職務行為とその利益との間に対価関係があることまでは要さない(とりあえずは教科書通り)、ということで考えていくことにしようと思う。

 偽装請負が既遂となった場合、そもそも偽装請負を行なう意思が組織(自治体の意思)にあったとは言えないのではないか、と考えた。
 その理由は、そもそもこの場合の、偽装請負(違法)の意思は公の秩序に違反しているため、適法な行為を予定している自治体の意思(=行政庁ないし機関としての公務員の意思)とは言えないから、担当公務員の個人の認識・認容による意思だと思われるからである。この場合、仮に複数者による共謀だとしても、「行為は連帯するが責任は個別化するの原則」によるし、偽装請負となる行為が法令に違反しているとの認識の有無(ないし法の不知)は、故意の認識とは無関係だと考えられよう。
 利益を提供する側は、自治体(機関)の利益ではなく、担当する公務員(個人ないし関係する複数の自然人たる公務員身分の者の欲望)に対する利益を提供したと言える場合もあろう。

 そうすると、偽装請負による自治体側の『利益』とは、
 ①担当公務員の利益なのか?
 ②関係する公務員の複数の利益なのか?
 ③自治体が法人(機関意思)として利益を追求したのか?

 ①②であれば賄賂性を否定できない。③は、一般意思(民意)で偽装請負を行なったのか?、否、それは執行機関を構成する公務員が一般意思に反して各人の個人利益を合算しただけの“賄賂”の集合であると解すことは可能であろう。

 つまり、「①②」の場合は、個別公務員(自然人としての人)の利益(その集合の場合も同様)に過ぎない。「③」は自治体として偽装請負によって利益を得る意思である。自治体が法人としてそのような意思が存在するであろうか。答えは明らかなように思われる。

 思うに、自治体の場合、私企業(私人)と異なるのは、行なう行為が一般意思を代表しなければならないということであり、自治体事務の原則である「適法且つ公益に照らして妥当な行為」に則れば、違法な利益(ないし不当利得)を得ることは公的機関として元々排除されているから、そのような行為は一部の公務員(自然人としての個人)により行なわれているのであり、その意思は自治体には不存在であって、公務員が機関意思に反して、その職務の便宜(職務に際しての個人的利益)を考えてか、若しくは労働法の不知により誤って行為に及んだもの・・・という考え方を採用する他には無いと思われる。検察官による証拠隠滅や犯人隠避が検察庁の機関意思ではあり得ないことと同じである。なお、偽装請負(派遣法や職安法に違反する行為)は、“他人の労働力を自ら利用して利便性を得る”という意思・行為・結果を認識認容している限りにおいて故意犯となるので、このような労働法の不知(知識不足)による違反が過失に止まるとは言えない。
 即ち、この時点で私の考えは、少なくとも一般意思に反して利益を得るような自治体名義の契約は、そもそも自治体の意思に反しているのだから、それは公益ではなく、公務員(決裁権限者を含む利害関係職員ら)の個別利益(ないしその集合)が目的であったと解す余地は十分にある、ということである。

 もう少し考えてみたい。
 そもそも「偽装請負契約」の利益には2つある。
   1つは中間搾取 ← これは、派遣元が得ると考えられる利益
   2つ目は雇用リスクの回避 ← 利便性という発注者の利益
 ・・・である。
 当に“一石二鳥”だ。
 で、仮に私が“贈賄の犯人”になったとして、この内、1つ目の利益が極めて薄いか、もしくは殆ど望めないとしても、2つ目の利益に着目し、これで偽装請負の利便性を言って公務の不可買収性に反し、これを賄賂収受者(道具)として使用し、当該委託契約という公務を買収することは実際に可能だと言える。

 そうすると、この場合の「賄賂」の中身は何か?。
 答えは、その中に偽装請負によってこのような便宜供与があるとすれば、これを提供する者(偽装請負の利便性に資するという意思を持った“偽装請負人”その者やその労働者)が客体であり賄賂である。買収行為における「目的」と「道具」がたまたま一致してるケースである(道具自体に価値があるケース、・・・← と言うより“偽装請負”自体が互いを道具として利用し合う点で贈収賄と同質である。だからこの場合「道具」でもある[必要的共犯の関係])。

 しかし、そう考えたときの疑問がもう一つあって、偽装請負だから、これで得られる利益は公益ではなく、自然人としての公務員の利益であると結論付けた場合、それではこのような所謂“公の秩序に反する利益”は、はたして犯罪構成要件の線引きに加味されるべき「収賄罪の構成要件該当性」(入り口論)として適当なのか?。否、そうではなく、それは責任非難の要素(出口論であり、なお且つ別の犯罪の構成要件)なのだから、賄賂の構成要件(つまり贈収賄の区分線引き)に加えてしまうと、違法行為の線引きがその責任の軽重によって移動してしまうから不当だ、・・という批判もあるように思う。
 つまり、賄賂となる公務員に引き渡されるものが“禁制品”かどうかにより、賄賂かどうかの線引きが変化してしまう(刑法各条文の犯罪類型としての法安定性を損ないかねない・・というリスクが発生する)ので、これでは罪刑法定主義の観点から見て問題無しとは言えない(厳格な基準ではなく、便宜主義に近づく)のではないか。さらに、職務に際して受取るものが禁制品であれば、それは別な罰条である「加重収賄罪」(197条の3)の構成要件になるのではないか、という疑問が残るのである。《11月7日追記》

 上記のような“出口論”を構成要件に含めているのではないか、との批判に対しては、そもそも「『収賄罪』とは、公務員職務一切の公正さへの国民の信頼を損なうような要求をして公務員が賄賂を受け取ることで成立する(最判昭和28年10月27日)」と解されるのだから、「職務の公正さ」という“公の秩序に反した利益”を公務員に与えて(与えることを約して)自治体と契約を結ぶ行為自体が構成要件的行為であり、例えそれが間接的にある地域に住む住民に利益となる行為でも、それ自体「賄賂」を構成する行為である。この場合、直接利益を得るのは公務員本人であって、住民の利益は間接利益に過ぎない・・・との主張ができるように思う。つまり、“禁制品”を受け取る行為は、「職務の公正さ」という保護法益の侵害としての要素であるので責任非難(出口)の要素ではなく構成要件要素(入り口)であって、他の犯罪(偽装請負)が構成要件的行為の一部(入り口)になるケースであると。《11月3日追記》

 また、偽装請負で得られるような住民の利益は、公の秩序に反しているという点で不当利得となろう。
 
 結局(大雑把に言って)、一般意思(公序良俗)に反する利益を求めないことが自治体(行政庁・機関としての公務員)には課されているのであって、これに反する公務員の意思と行為、さらにその結果による公務員の利益が存在するのであれば、やはり“賄賂”に当たらないとする理由もないのではないかと思う。
 即ち、私の考えでは、公務員各人の利益と公益(適法性・公益妥当性・行政の効率性という3原則に照らして)が合致している場合には賄賂とはならず、公務員各人の利益が、このような公益に反している限りにおいて、そのような利益は賄賂となり得る。その賄賂の提供方法は、本来、適法な請負(ないし委託・準委任)で提供されるべき正当な役務と併せ、偽装請負により得られる“別な価値”が上乗せされて供与されており、この上乗せされた“別な価値”(禁制品)が、公務員が受け取る便宜=「賄賂」になる、と言うものである。《11月2日追記》《11月3日追記》
 なお、加重収賄罪となるような職務違反行為が構成要件に加えられた罪を問う場合には、賄賂の収受に加え、その代償としての公務員の職務行為の違法性が問われなければならないから、この場合のハードルはもう少し高い(賄賂を代償とした違法な公務の存在が要件となる)と言えよう。《11月7日追記》
 
 もし、自治体が“予算不足につき住民利益のためには偽装請負も止むを得ない”と考えているとすれば、偽装請負に投入される労働者の不利益(法律により保護される利益を逸したもの)とセットになっている点で“ゼロサムゲーム”と言えるから誤りであるし、当局による調査や是正指導ともなれば、それだけ当局・当事者・関係人等の労力が消費されるから、寧ろマイナスとなる。
 これは法的リスクと言うより、社会的ロスだと思う。


 刑法(収賄、受託収賄及び事前収賄)
 第百九十七条
 公務員が、その職務に関し、賄賂ろを収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。
 2 <省略>

 第百九十七条の三(加重収賄)
公務員が前2条の罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときは、1年以上の有期懲役に処する。
 2・3<省略>



 《11月1日一部語句修正,追記》
 《11月2日追記》
 《11月3日追記》
 《11月7日追記》
 《11月14日修正》


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