Cafeのある散歩道 文学(シナリオ・小説・短歌・俳句・詩)・音楽・花・韓国語・男の料理の広場

知らない街を歩き振り返るとそこにCAFEが気軽にどうぞ
コメント歓迎しますが公序良俗に反するものは削除します

長編小説「大井田さくらのツアーコン日記」未完

2006-06-19 16:40:21 | 小説
地下鉄虎ノ門駅、おびただしい人の波が狭いホームから改札口に流れて行く。
近くに溜池駅があり虎ノ門駅も狭いホームを改装したとはいうものの周辺のビルは立ち並び高層ビルが出現したためホームは依然として許容量を超えている。
大井田さくらもその中の一人で改札口を出て階段を駆け上ると目の前に帝国観光商事ビルがある。
信号を横断して向かい側道路を歩くとさくらは立ち止まって目を留めた。
さくらのビルの二件前の中華料理店の袖看板を見つめた。
看板には、
「おかげさまで開店10周年・ランチサービス」
さくらは、
「う~ん、10周年かあ、あたしも10年目かあ、おかげさまじゃないよ,ずっとあねごやっててさ」」
独り言を言ってると
「さくら、お早うあなたなに一人ごと言ってんの」
といつもさくらの悩み事を聞いてくれる由香里に声を掛けられた。
二人は同期生で気心も知れていて、会社では上司の言うことを聞いてよく働いた。
そのため、男子社員から
あまり仕事に熱中してると嫁の行き遅れになるよと冷やかされていた。
さくらは
「あなた、朝からなに考えてんの」
「ああ、驚いたさくらお早う、うーん何でもないよ」
二人は
帝国商事ビルのドアを開けてエレベーター・ホールに行った。
エレベータを待ちながら、
さくらは、
「ゆかりはいいねえ、いつも海外に行けて。あたしなんか」
「でも、大変よ、ツアーだと、自分の時間なくて、あたしなんかまだルーブル美術館かじっただけ」
二人はエレベーターに乗った。
さくらは、
「でも、ルーブル美術館入口くぐったんでしょう」
「それはね、たしかに」
「でも、本物見ただけでいいじゃない」
とさくらはうらやましそうに言った。絵を描くことが大好きな彼女としては、本物ルノアール・セザンヌ・ゴッホなどの画家の絵を見たいといつも考えていたのだった。
6階を降りると帝国観光旅行海外旅客部のドアを開けて二人は入った。
「お早うございます」
「ああ、お早う」
「お早うございます」
たがいに挨拶を交わしながらさくらは新入社員大下の向かい側の席に座った。
「部長、おはようございます」
「おはよう、大井田君。例の件できた」
部長は、何かというとさくらを頼っていた。さくらもまた部長は私に仕事を任せてくれるし、頑張らなければと考えて、ほかの社員が休んでも彼女は会社に出てきてがむしゃらに働いた。そのため年休も消化しきれず、山ほど残っていた。
そんなさくらの働き振りを見ていて、人事の役員会で部長は、
「わが部の大井田さくら君は、女子社員ですが、仕事は正確で、語学も堪能ですし、私の出した課題を片っ端から片付けてくれます」
大川人事部長が、
「それは判るんだが、男性社員で候補者もいるしね」
「判ってます。課長にとお願いしているわけではありません、係長に、勤務評定も充分推薦するだけのものを持ってます」
「う~ん、君のいうこともわかるが、女性は結婚を控えてるしなあ」
杉田専務が
「じゃ、主任ということで、これで勘弁してくれないか」
ということでさくらは海外旅行第一部の主任となったのだった。
そんなさくらは、
「ええ、まとめました」
さくらはバッグから資料を取り出して、部長席に行った。
「部長、これです」
「君、短時間でよくまとめたね、イスラエルの食べ物とか情報なかなかなくてね」
さくらの叔父は東和通商に勤めていた。部長は大井田さくらを信用していた。入社10年の最古参でベテランの彼女は、いつも部長の片腕的な存在だった。
「あたしのこと信用してくれてるのはうれしいけどさ・・・・でも何かと言うと、
おおい、さくら君、これって便利屋さんなのかなあ」
そんなことを考えながら、最後には部長の言うことは率先して仕事をした。
でも、いつもさくら一人の力ではどうにもならない難問題をぶつけられたのだった。今度も中近東、イスラエルの食事についてまとめてくれるように頼まれたのだった。
「お願いです、叔父様あたしを助けてください」
「さくら君からそういわれると僕も」
と現地の事務所に連絡してイスラエルの情報をあつめてくれた。旅行観光会社同士の競争はすさまじくツアー料金の引き下げとかツアー年代を高齢化社会時代の到来に合わせて新しい企画開発が必要だった。ヨーロッパやアメリカ・東南アジアの国々へのツアーは企画も出揃って、新しい販路としてトルコ・イスラエル・ギリシャなどの中近東諸国の旅行が帝国観光がこれから力を入れて他社にない特色作りを行うことだった。
トルコナイル川の旅・イスラエル巡礼の旅・ギリシャ地中海の旅・ギリシャ遺跡の旅など打ち出した企画は当たってなぜか中高年の人たちの人気を呼んだのだった。
そんな時、さくらは部長から信頼されて何よりも現地の食べ物・レストラン情報が集めにくいため部長からなにかというと情報収集を依頼されたのだった。
さくらは
「ルートがあるものですから、何とか、部長、失礼します」
席に戻って机上のパソコンのスイッチを入れて海外ツアーの集客状況を見ようと思った。
そのとき、大井田君ちょっとと部長が呼んだ。
「おおい、さくら君、君にお願いがあって」
今度はどんな難問題かしら、さくらはそう思いながら椅子を立ち上がって部長席に行った。
「はい」
「君に、今回・・・]
特に今回といわれたことにどこかツアーの添乗を頼まれるのかなあと推理した。
さくらはこの課でもう数年間も帝国観光のツアー企画を集めてきたパンフレット、現地資料、日本での収集資料を分析、具体化することには秀でていた。
「なんですか。今回って」
「君に、アメリカ・東・西海岸10日間のツアコンしてほしいんだ」
「はっ?、この私に・・ですか」
さくらは心の中でゆかりに言ったこと本物だなと思った。
「ええと、折角のお言葉で・・・・・ええと・・ありがたいんですが・・・
 でも未経験ですし。あたしよりほかに」
と手を前に置いてほかに適当な人はいないのかなあと考えていた。
部長はそんなさくらの心配をよそに
「大井田君は、たしかうちに来る前は企画部だっだよね」
部長にそう言われて、さくらは、
「ええ、そうですけど、それと、部長、なにか関係が」
とたずねた。
「企画部時代、現地視察で東南アジアとか、ヨーロッパとか」
「ああ、たしかに、あれはツアーの企画の資料集めで、企画課長と三人で」
「その・・・経験があれば、さくら君だったら大丈夫」
部長はさくらをすっかり信用しているようだった。
「お言葉返すようですが、部長、現地視察ってたった2回ですよ」と言うと、
「回数には関係ないよ、要は、やる気さへあれば」
「ええ、でも、あたし、まだお客様を連れて・・・・・っていうか
 お客様大勢いたらあがって、小心者なんです」
さくらは出来ることならこのツアーは断りたかった。
「ほかにだれも居ないしね、私を除いては来月皆出かけちゃうんだ。
 ベテランの山口君だけど、インフルエンザで急に入院しちゃうし」
「ちょっと、待って・・・・・・・そうですか?。それでは・・・・お引き受けしまなければいけませんよね」
さくらは、もう部長が言い出したら覆すことは出来ないことを知っていた。
それに、変なところに部長はいつもあたしを高く評価してくれているしと思った。
あたしのように入社一〇年選手になると結構会社に忠節なのよねと思いながら部長の返事を待っていた。
「行ってくれるかね。大井田君、いやあ、君のためにも、ツアコン経験してほしいんだ、出発はまだ10日間あるから準備して」
さくらは軽くお辞儀をして自分の席に戻った。
由佳里が
「さくらさん、おめでとうございます。いよいよあねごの出番ですね」
さくらになにかというと突っかかってくる大下が苦手だったが、あたしが一番古株だし仕方がないよと心の中で思いながら軽く受け流した。
「って云うか、遅い・・・出番だよね」
「わたし、大井田さんのこと尊敬しています」
と言った。
さくらの向かい側に座っていた大下が
「アネゴもいよいよツア・コンの洗礼か」
「大下君、人ごとのように行ってるけど、あんただって、いずれ」
「僕、アネゴを応援します。大丈夫です。アネゴはなんかあっても驚かないし」
「それって、ほめてるの、けなしてるの」
大きな声に仕事をしている皆がさくらのほうを振り向いた。思わず身を少し乗り出して顔は大下のパソコンを覗き込んでいた。
さくらは午後の会議に使う全国海外ツアー集客状況をパソコンでまとめていた。
入社10年海外旅客部全員からさくらは嘱望されていた。入社10年という長いキャリアからいつのまにか海外旅行の生き字引とさえ言われ部長の持田までもがさくらを頼りきっていた。
壁の時計は12時をとっくに過ぎていたのにさくらはエクセルで集計の計算を行っている。
「さくら、もう昼休みよ、社食いこうよ」
由香里がさくらの肩に手を置いて誘った。
「あっ、そっかそっか行こうか」
すでに海外旅客部は皆外に出ていた。自分は正午も気づかずに仕事をするなんて、明らかに最近の若い子たちと違っていた。由香里に声をかけられなければ、まだEXCELLの仕事をしているところだった。EXCELLの集計をファイルに保存してパソコンのスイッチを切った。
「あのねええ、由香里教えてほしいの」
「私でよければいつでも」
「じゃ、外のレストラン行こうよ、あたしおごるから」
さくらと由香里はエレベーターで1階ホールに下りて外のまぶしい光の中に吸い込まれて行った。
さくらと由香里はレストランの窓際に座った。
「部長から是非って言われて引き受けたけど・・・・・ああ困ったなあ。」
「困ることないよ。気を楽にしてやれば・・・・・どうって言うことないよ」
「あたし、ずっと前にヨーロッパのツアーの新しいパックの企画で、それも部長とか課長のお供で行っただけよ」
「大丈夫よ、さくらさん頭いいし、お客のクレームも機転利かせるし」
「いやだあ、あたしがカキフライ定食おごったからと言ってお世辞使わないでもいいよ」
「由佳里、で世界中お客様連れて・・・・・・・何回」
「う~んと百回位かなあ」
「どうっていうことないよ、さくらさん頭いいし、経験長いし」

翌日のことさくらが出勤すると、部内にさくらがはじめてツアーコンダクターとして外国に出かけることが知れ渡っていた。
「ああ、大井田君」
と部長に呼ばれた。さくらはまた何か部長の提案があるのではないかと心配しながら部長席に行った。
「はい、大井田 さくらです」
「実はね、さくら君が乗るアメリカン・ウエスト航空だけど、乗務員労働組合と会社側の交渉がうまくいかなくて、ストライキに入る公算大だそうだ」
「はっ、ストライキ、じゃ、あたしのツアコンもないんですね」
「いや、万一ストでも非組合員で運行するそうだ」
「わかりました」
といって席に戻りパソコンのスイッチを入れて頬ずえをつきながら
「こんなのあり」
ツアーのスケジュール表を眺め、ためいきをついた。

.翌日さくらは、4階の帝国観光旅行社 海外旅行部のドアを開けた。
「おはようございます」
「おはよう」
「さくらさん、おはようございます」
「ああ、おはよう、大下君」
「アネゴ、いよいよ明後日ですね、アメリカ・ツアコン?」
「いろいろ準備で忙しいだろうから大井田君、成田前日泊まっていいよ」
「ありがとうございます。ところでアメリカン・ウエストのストってあるんですか」
部長は机の上のファックスを眺めながら
「うちに入った情報では明日午前零時からスト突入だそうだ」
「はっ。スト・・・・・やっぱり」
初めて10年ぶりに仕事でしかもツアーコンダクターとして海外に出かける緊張感で大変なのに、しかも出発から搭乗する航空会社がストライキなんて、ああ私はついてないようと思った。
大下がまた意地悪をするなあ、あいつはいつも私に平気で言ってくるよ、そう思っていると、
「さくらさん、ストライキって、アネゴついてるよ」
「ストって、アネゴは」
「何なの、大下君」
「アネゴは嵐を呼ぶ女っていうわけ」
「大井田君、あたしが嵐を呼ぶってどういうことなの」
「さくらさん、明日は午後から天気が崩れて春の嵐が来るって天気予報言ってましたよ。それにあいにく飛行機はストでしょう?だからアネゴは嵐を呼ぶというわけ」
「あなた、もういい加減にしなさいよ」
さくらは向かい側のデスクの大下に少し身を乗り出してにらみつけた。
「大井田君、安心して、あの航空会社は今までもストやったけど、飛行機は飛んだということもあるし、安心した方が」
「ああ、安心してっていっても、なにもあたしがはじめてと言うのにストやらなくても」
その晩さくらは、一家で夕食を囲みながら、しかしこの日は、さくらは落ち着かなかった、気持ちもそわそわしていたし、まして自分がこれから搭乗するアメリカンウエストラインの002便を心配していたのだった。
「ねえ、ママ、明日の海外ツアコンだけど、あたしこれから成田に入ってホテルに泊まろうと思うの」
「さくら、出発はたしか夕方だろう、だったら今夜はゆっくりと家で泊まって、朝田午後からでもいいじゃないか」
「ありがとうパパ、でももしかして電車でも故障したら、あたし一人だし、それに35人のお客様連れて行かなきゃいけないし」
さくらは父と母に言った。
「さくらがそう言うんだったら仕方がないな、パパはお前がいないと十日間も顔見られないなんて」
側で弟が、
「なんて言うか、俺がどっか行っても父さん平気だし、アネキがたまに海外行くと子離れって言うか、アネキ離れが悪いよ、親父は」
「皆、ありがとう、私、頑張ってきます」
さくらは、そういって衣装ケースから会社の制服に着替えて、玄関においてあったカートを引いて成田に向かった。
京王線で新宿に着いたときはあたりは真っ暗く夜の帳が下りていたが、変わってビルの灯が彼女に降り注ぐように照らしていた。
上野からは、京成スカイライナーで成田国際空港に向かった。
夕方から深夜にかけてはアメリカ・ヨーロッパ線の長距離路線のラッシュアワーが始まるのだった。
スカイライナーは全席満席だったが運のいいことにさくらは入り口付近の座席が空いていたのだった。
いよいよ自分が明日35人のツアー客を連れて10日間の海外旅行を添乗すると思うと改めて身の引き締まる思いがした。

「ええ、でも、あたし、まだお客様を連れて・・・・・っていうか
 お客様大勢いたらあがって、小心者なんです」
「回数には関係ないよ、要は、やる気さへあれば」
さくらは思い出していた。

成田国際空港の傍のオリエンタル成田空港ホテルに入った。
「いらっしゃいませ」
「帝国観光商事の私、大井田さくらですが」
さくらは、少し緊張して自分の名前をいうと、
「ご予約承っておりますが、持田敦夫さまから」
早手回しに持田部長はホテルの予約を頼んで暮れてたのだった。


ホテルについてシャワーを浴びてバスローブに着替えて、備え付けの冷蔵庫から缶ビールを取り出して飲みながら旅行のスケジュール表を眺めた。
「ええと、第一日はサンフランシスコ市内観光で・・・・・ロスアンゼルスからニューヨーク市内・・・・ナイアガラ行って・・・・・九日目にハワイ・ホノルルかあ」
さくらは見終わった後、テレビも消して明日に備えて充分睡眠をしようと思った。
電気を消してベッドに横たわったものの容易に眠れなかった。
「ああ、寝れないよ」
「ああ、まだ一時かあ」

翌日、さくらは成田国際空港第二空港国際線ロビー構内のTV天気予報を見ていた。何よりも大下が言ったアネゴは嵐を呼ぶ男といわれたことが気になっていた。
国際線空港ロビーから見える晴れ渡った空を見て安心していたが、天気予報を見てこれからの天気を非常に気にしていたのだった。
「今日ははじめは晴れですが次第に雲に覆われて低気圧前線の関係で風速が強くなり、陸上で15メートル以上、海上では25メートル近い春の嵐が・・・・・」
見ながらさくらは、大下の言うことがいまさらのようによみがえる。
「えっ、大下の云うこと本当じゃない、大変だょ」
「まだ、早いよ、出発5時までまだ5時間あるよ」
腕時計を見つめながら少し早すぎたかなと考えた。
さくらはとても用心深く、高校時代も友達と旅行するときもいつも予定より30分も早くついて皆を待っていたので、深見洋介から「用心さん」とニックネームをつけられた。後ろから
「さくらさん、」
由佳里が大下を連れてきていた。さくらは振り向いて
「ああ、由佳里さんに、大下君どうしたの?。駄目じゃないの仕事しなくちゃ大下君、二人ともどうしたの」
思わず言った。
由香里は、
「部長から大井田君、初めてだからちょっと大下君連れて行って励ましてやってくれって」
それを聞いてやっぱり部長は、あたしがしかも30歳を越えてアメリカ10日間ツアーに行くことを心配してくれてるんだ。
「ありがとね。二人とも」
大下が
「アネゴ、飛行機飛ぶんですか?」
「まあ、飛ぶんじゃない」
ここでいまさら心配しても仕方がない。この航空会社は今までもストライキをやってきてると部長もいってることだし、ここであせっても落ち着いていないととさくらは思いなおしていた。
由香里が
「心配だったの、で、ホテル電話したら。居なくて」
「ありがとう、やはり後輩だわ」
「ツアコンやってると何が起きるかわかんないの、突然、予想しないことが起きて」
もう百回もツアー添乗をしている由香里の言葉は真実だった。
さくらは、はじめて部長からの命令で、しかも三十路を越えた私がいくのにいきなり予想もしない出来事に遭遇し、
「突然っていうか、あのさ行く前から、飛行機ストライキなのよ、でも飛ぶらしいけど、あんまりだよ。こんなのないよ」
と飛行機のストライキに、さらに天候異変で春の嵐まで吹くなんてと思わず口にした。
「そういうときこそ落ち着くの」
由香里は、さくらに助け舟を出そうとしていた。
「落ち着くって」
「あのね、うちの祖母が言ってたけど、手のひらに人っていう字を書いてそれを飲み込むの」
「ええと、こうやって」
と言って飲み込む
「どう、落ち着いた」
「う~んん、落ち着かないよ、ああお客様に説明してわかってくれるかなあ、ツアー料金返せって・・・・・・ああ困った」
自分で、さくら、そんなことでどうするの、やるっきゃないでしょう、頑張れさくら、暗示をかけるように頭の中で何度もことばを繰り返して見た。
「とにかく飛行機飛ぶって云ってるんだから、安心してくださいって何回も云うのよ」
「わかった」
「あと、時として、はじめてのお客様に多いんだけど、緊張してしまって具合が悪くなる方が」
「そういう時、緊張して酸素欠乏症になるの、ええと・・・・・・・・。」
「過呼吸酸素症候群でしょう?」
「、ああ、そうそうそのそれ、それ、でも必ずお医者様いらっしゃいませんかとアナウンスしてね。でビニール袋をお客様の口にあてて息を吐き出させるの。そうするとよくなることもあるの」
「うん」
くららのベテランツアコンの話を聞いていた大下が、くららの顔をしみじみと眺めながら、
「さすがですね、ベテランは、僕初添乗するときは由佳里さんについていこうかなあ」
「何言ってんの、大下君。二人って言うわけ行かないの」
「どうしてですか?」
「あのねえ、団体の海外ツアー添乗員は全部の費用から差し引いて一人分の費用が浮くの、二人行くと赤字なの」
「そんなに厳しいんだ」
「さくら、あと、両替はなるべくこっちで、アメリカって時間によっては開いていないし、フイルムもこっちが安いし、それからツアーの時間厳守はうるさく言って」
「日本人って時間ルーズな人がいるよね」
「バスで移動するとき、時間守らなくて遅い人いるじゃない?。皆も迷惑そうな顔するけど、ドライバーが大切な時間を返せって怒り出すの、気をつけてね」
「ありがとう」
「あと、ニューヨークからナイアガラ行くでしょう?。ホテルにパスポート忘れてしまう人がいるのよねえ」
「なるほど」
「ナイアガラ滝って対岸のカナダ滝がスケールが大きいじゃない。忘れるとカナダ領に絶対入れないの」
「そうだよね」
「そうするとお客様がなぜ教えてくれないんだって、自分が忘れているのにツアコンが悪いと怒り出すの、だから・・・・」
「由佳里、いろいろありがとね。大下君も留守中しっかり頼むわ」

さくらは、帝国観光旅行社の小さな旗を持って
「こんにちは、私は帝国観光旅行株式会社、エンパイア・ツアーの皆様をお世話します添乗員の大井田さくらと申します。これから搭乗券をお渡しいたします。」
と言って皆に搭乗券を配った。
「よろしいですか?搭乗券はパスポートと一緒にお持ちになってください。
では、次に出国手続きについ・・・・・」
さえぎるように、団体客から
「大井田さん、あなたは手続きって言っておられるが、あそこのカウンターにはただいま、48時間スト決行中と書いてあるじゃないか。」
「そうよ、私ははじめての海外旅行で楽しみにしていたのに・・・・
何なんですか、これは?」
「そうだ、そうだ」
「さくらさん、もし飛行機飛ばなかったら、旅行費用全額返してくださいよ」
「帝国観光旅行社さんならって信頼したんだけど」
「二日前に会社からは連絡あったんだけど・・大丈夫と思ってきたら。」
さくらは、ツアー客の異様な雰囲気を感じていた。でもこちらが落ち着かなければねえ、
「皆、皆様、あのおっしゃられることはよ~くわかりますが、どうぞ私の言うことをよくお聞きください。お願いします。」
「いくら、お願いしますって言われても」
「航空会社のカウンターにはスト決行中の表示がありますが、組合員以外の非組合員で運行するとの返事を得ていますので、どうかご安心ください」
「非組合員っておっしゃるが、部長とか課長が飛行機飛ばすんですか?」
さくらは、ツアー客の中年の紳士の思いがけない質問に戸惑うが、
「これは、アメリカの航空会社の組織になるので日本と事情が違うようなので、まあ、組合に加入していない非組合員が運行するという返事を得ておりますのでその点はどうぞご安心ください」
と言いながら
「あの、皆様アメリカン・ウエストのカウンターで出発時間の確認に行って参ります。」

カウンターで話しているさくらと航空会社係
さくら小走りで皆の居る場所へ帰る。
「皆様予定通りの時間に出発出来ることが確認されました。ストは行っておりますが非組合員で運行いたします」
「大井田さん、ああほっとしました、なにここにいる女房がもし中止だったら私は殺されるよ。」
「さくらさん、私はやっぱり帝国観光社さんに申し込んでよかったよ」
「さくらさんはたいした人だ、あそこにスト決行中と書いてあるのに飛行機飛ばさせるんだから」
(何いってんのよ、さっきまで皆あたしを責めまくって、これってあたしへのごますりっていうわけ)
と心の中で思いながら、
「皆様、本当にご心配、ご迷惑をおかけしました。それでは出国手続きのため向こうのゲートに参ります」

                                (続)

著作権はすべて管理人(ヒロクン)に帰存します。この小説の文章の転用・引用は禁止します


最新の画像もっと見る