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1月1日登場 新童話「美華のお手伝い」

2007-01-03 16:50:41 | 小説
新童話「美華のお手伝い」
この物語はノンフィクションであり、ここに登場する名前・会社名は実在しません。


東京から西に40キロ、多摩丘陵の一角にある高台のもみじ丘ハイツの建物が冬の短い陽を浴びて美しい。
もみじ丘ハイツは多摩丘陵の新多摩公園駅から歩いて10分、都心の新宿へも東西電鉄と京神電鉄があってとても便利である。一戸建てを中心に一部の建物は、12建ての中層マンションが集まって15棟ほど建っていた。駅はもみじ丘から見るとちょっと谷間になっていて、人口の増加に伴って駅前にはスーパー、大型電気店、DIY、それに図書館、美術館まであって日曜日はかなりの人でにぎわっている。矢田一樹・佳奈子は29歳で職場で出会い結婚した、3年経って二人は女の子を授かった。
美華は両親の愛を受けてすくすく育った。佳奈子の母がクリスチャンだったこともあって聖書を読んで、佳奈子は美華をやさしく、しかし時には厳しくしかって育てることも忘れない。
「少年をその道にしたがって育てよか、うん、なるほどね、」

「ねえ、美華、スパゲッティー作ってあげようと思ったんだけど、ひき肉とかケチャップがないの」
「ママ、ないの」
「ええ、それでねえ、ママ美華にスパゲッテーとかパンとか買ってきてほしいの」
母の佳奈子は、美華に独立心と自分で判断することがもう必要と考えてかねて考えていたことをこの機会に一人で出かけてケチャップとかパンを買ってきてもらうようにしなければと思った。美華は、母から突然言われて、目をくるくる回しながら、
「ねえ、ママ行かないの」
と白いエプロンのすそを引っ張って母を見上げるように話す。
「美華ももう来年は保育園から幼稚園、もうおねえちゃんになるのよ」
「でも、美華怖いよ」
「はっ、怖いって」
佳奈子は、美華の目線にあわせるようにかがんで、美華の手をしっかり握って
「ねえ、あなた何が怖いの」
と優しく聞いた、佳奈子はいつも美華になにか聞かれて答えるとき、少し腰を折って子供の目線に合わせて必ず手を握り話すのだった。
「ねええ、この坂の下のほら加藤さんのワンちゃんが怖いの」
加藤さんとは、美華の行ってる保育園の友達の沙織の家なのだ。
毎日午後になると、加藤さんのおじいさんがかわいい犬を連れて散歩に出て来るのだった。
「怖いのって、大丈夫よ、加藤さんのワンちゃん、きっと美華のことが好きななのかも」
「だってわんちゃん、美華が側に行くとワンワンってほえて」
「でもあなたが近づくといつも尻尾振ってるでしょう、あれはね加藤さんのわんちゃん、美華が好きだから尻尾振るの」
「へえ、そうなの」
「犬はねええ、喜んでるときには尻尾を振る習性があるの」
「ママ、習性って」
「うん、なんていったらいいかなあ、ああ習慣、わかる?」
「うん、ちょっとわかってるけど、わからない」
「くせっていえばわかるかなあ、美華には」
「うん」
そんな和やかな美華との会話を交わしてるときが、私にとって一番幸せだわ」
母はしみじみそう思った。
美華はこれまで佳奈子と一緒に駅前の東友スーパーに出かけていた。佳奈子は、美華にお使いを頼むのにいつもいく東友スーパーでは無理だと思った。身長100センチ足らずの小さな美華が買い物籠を持ってレジを通るのは無理だしそれにスーパーで小さい子が一人で買い物をしてかえって周囲の人たちから奇異な眼で見られてもかわいそうだとも思った。
新多摩公園駅から紅葉丘ハイツに亘る道路の左右には一戸建てとか中規模のマンションが立ち並び人口も増加の一途をたどって自然発生的に商店街が出来上がっている。
スーパーに対抗して新鮮な肉・野菜。鮮魚をはじめ一般食品は結構安かった。
商店街のお店の人も母が美華が可愛く顔を覚えてくれて、時々買い物をしていると、
「美華ちゃん、お母さんとお買い物でいいわね、これおばさんからご褒美」といって商店街大売出しの時には風船とか、そうでないときは店で売っている鉛筆一本とか、箱入り菓子一箱とかを美華の小さな手に握らせてくれることもある。
美華もまた、母、佳奈子の書いたメモをもみじのような可愛い手で持って、
「あのねえ、おばちゃん、コロッケ3つとええと、ぽ・て・と・サラダをこんだけちょうだい」と背伸びして肉屋のお店の人にメモを見せたりしているのだった。
母の佳奈子は、美華は皆から愛されていて幸せな子だわと心の中で喜んでいた。
美華が、「あのねえ、美華一人でお買い物行ってもいいよ」といったので、美華も大人になったと喜ぶ反面、もし、買い物に行く途中、わが子が見知らぬ人に誘拐されたり、事故に巻き込まれてもと心配もあった。
かって佳奈子も母から丁度幼稚園に進むことが決まって、一人でお買い物を頼まれた経験があった。しかし、その頃は公園にも子供たちが集まってブランコに乗ったり砂場で遊んだりしていた。子供はのびのびと外に出て歓声をあげて遊んでいた。そんなことを美華の顔を眺めて考えた。
でも、時が変わり、今は子供が安心して外に出ている姿も見られなくなり、治安の悪化でこの辺でも子供に話しかけてそのまま車に乗せようとしたり、歩いて見知らぬ男についていって危うく誘拐されそうな子供の犯罪が発生していた。
佳奈子は、美華が行ってる保育園の同じ父兄と子供が一人で出かけるときにはお互いが助け合って子供を見守りましょうという協力体制がいつのまにかできていた。
昨日美華に気がつかれぬようにひそかに商店街に通じる道筋の父兄仲間にあらかじめケータイで連絡、監視をしてもらう約束が出来上がっていた。
「美華ちゃん、頼むわよ、その間美華の大好きなホットケーキ作っとくからねえ」
そういって「これがお財布、この中に2000円入ってるから、お買い物できたら美華の大好きな絵本一冊だけ買っていいからねえ」
といいながら美華に財布を渡す。
美華は、「保育園に行くときの・・・・ええとアヒルさんのかばんに入れていくね」
といって柱にかけてあるかばんを小さな手で肩にかけた。
美華は、数ある保育園のかばんの中でも母親がミシンを掛けて刺繍をしてくれたあたたかい手作りのかばんが一番好きなのだ。
「美華、これが美華に頼むお買い物を書いてある紙よ、なくさないでね」
佳奈子は、美華の目線にあうようにかけているレースのエプロンを少し手繰って腰を屈めて、
「いいこと、ひき肉が300グラム。スパゲティーが一袋、ケチャップが一つ、それにソースが一つ、あとパンが一袋いいわね」
「ママ、美華わかった、ええとお肉、ひき肉でしょ、ええと、ええと、ああわかったスパゲティーが一つ、それにパンだよねえ」
佳奈子は、美華が眼をくるくるさせながら小さな指を折りながらわからないときにはちょっと首を傾けて子供なりに買い物の品を一生懸命に復唱している姿がなんとも言えず可愛く、思わず、美華を抱いて、
「美華ちゃん、いつのまにかお買い物の名前覚えて・・・・じゃ、行ってらっしゃい」と手を引いてエレベーターに乗り、1階のロビーから通りに出て、
「じゃ、行ってらっしゃい、頑張ってね」
そういって美華の姿が消えるまで手を振っていつまでも見送るのだった。
美華もときどき振り返って小さな手を振っていた。
佳奈子は、美華の姿が見えなくなるとケータイを取り出してまづ、同じ保育園の松本直子に連絡をすることにした。
「あのう、美華の母ですけど」
「あっ、佳奈子」
「あのねえ、美華が今買い物に出たの、で、あなたの家から美華を見たらそれとなく見張ってくれる」
「いいわよ、佳奈子、心配だったらあたし、美華ちゃんと一緒にお買い物に行ってもいいけど」
「はっ、それじゃ、今日一人でお買い物させてるのは美華のためだわ、お気持ちうれしく受けておきます」
一方、美華ははじめて一人で外に出て緩やかな坂を下っていた。駅に通じる通りは黄色や赤色に葉が色づいていてプラタナスの木々がきれいだった。
時折風が吹くと葉がぱらぱらと舞いながらくるくると落ちてくる。
美華は道路に落ちている赤いもみじの葉に眼を留めて
「もみじさん、とってもきれ~、美華に一つちょうだいね」
折りしも風が吹いてきて歩道に落ちた紅葉の葉がくるくる回って足元を廻ってゆくのだった。
「紅葉さん、ちょっと待って」
美華はちょっと駆け出して風の止むのを待ってしゃがんで
「この葉っぱ、赤くてきれ~い、美華これがいいなあ」
そういいながら赤い紅葉を二、三枚拾って、プラタナスの木に向かって
「ねえ、紅葉さん、きれいな紅葉をありがとう、美華大切にするからね」
頭をぴょこりと下げた。その様子をじっと2階の窓から見ていた松本真子の母、松本直子が気づいて、
「美華ちゃんががここを通るようだわ」
タンスの中からケータイを取り出して二階を降りて玄関から外に出て待つことにした。
遠くから美華が近づいてくるのだった。
美華は、生まれてはじめて外に出たのがうれしいのか
「ランラランラン・ランランラン」となにかわからないが、ハミングして松本直子の立ってる場所に近づいてきて、
「あっ、真子ちゃんのママ、こんにちは」と前に立ち止まって丁寧に頭を下げた。そのしぐさがとても可愛かった。
母、直子は、美華さんのままはとても子供をよくしつけてるわ、近頃は挨拶もしない子供もいるのにと思った。
「おばちゃん、そこで何してるの、真子ちゃんは」
と不意に聞かれて、
「おばさんはねえ、美華ちゃんを」
といいかけてあわてて口を閉じた。危うくいうところだった。危ない、危ない
「あのねえ、真子ちゃんは今お父さんと一緒に駅前の公園にいってるの」
と答えて美華の顔を眺めた。
「あのねえ、おばちゃん、美華はねえ」
「お使いに行くの、偉いわねえ」
「うん」
「気をつけて行ってらっしゃいね」
美華は、紅葉のような右手を振って
「さよなら」
と行って通りすぎて行った。
直子の母親はケータイをエプロンのポケットから取り出して、
「直子の母ですけど、美華ちゃんねえ、今家の前を通って行ったわよ」
と報告した。
美華は黒塀のある加藤さんの家に差し掛かってきた。
あっ、加藤さんのワンちゃんがいたら怖いなあと思っていた。
左折道路があって、美華は黒塀の角からそっと様子を見ていたが、そのときだった。
加藤さんのおじいさんが犬を連れて門から目の前に出てきた。
「あっ、わんちゃん、美華怖~い」
驚いて、あとずさりしようとしてる美華におじいさんが
「美華ちゃん、怖くないよ。ほらこんなに尻尾振っているよ」
加藤さんの家で買っている犬は決して大きくなくフランス原産のパピヨンで小さく大きくなっても4キロという犬だった。人なっつこくて陽気だといわれている。
小さな美華には犬が大きく見えるのだろう。犬は立っている美華をじっと見ているようだった。
「美華ちゃん、喜んでるよ、こっちに来てごらん」
美華は母がワンちゃんは尻尾を振ってるときは怖くはないのよといった言葉を思い出していた。
美華は、おじいさんに近づいた。
「ほら怖くないよ」
おじいさんに言われて美華は
「可愛いねえ、ねえ、ワンちゃんの名前なんていうの」
といいながら右手を恐る恐る出して毛をなでようとした。
犬は驚いて、舌を出して美華の小さな手をペロッとなめた。
「わっ、驚いた」
といいながらも犬になれてきたようだ。
「わんちゃんの名前はねえ、ごん太郎というんだ」
「ごん太郎」
犬の側にいつまでもいて様子を見ている美華だったが、
「おじいちゃん、美華ねえ、ママに買い物頼まれたの、さよなら」
そういってまっすぐ道を渡って歩いていった。
加藤さんのおじいさんもケータイを取り出して、ひそかに美華に知られないように
美華の母に連絡した。

美華は、
「ええと、お買い物は、スパゲティーにええとケチャップにええとごん太郎に・・・」といいながら
「ええと、スパゲティーにええとああ、ごん太郎に」
犬の名前を教えてもらって美華には珍しかったのか、立ち止まって、
右指を折りながら、
「ええと、スパゲティーに、ええとケチャップに、それからごん太郎に」
と後の買い物の名前が思い出せない。
「ええと、ええと」
首をかしげながら思い出そうとするけど、思い出せない。
美華は、小公園に差し掛かった。この公園は地域の環境整備のために市が地区ごとに作った公園で、土、日のウイークエンドには周辺の子供を連れた親子でにぎわっている。

                               (続)
著作権はすべて管理人(ヒロクン)に帰属します。この小説の転写・引用すべてを禁止します。









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1 コメント

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新年明けましておめでとう御座います。 (ランチャン)
2007-01-05 08:34:38
お母さんは94歳とのこと、高齢のかたの、健康法
はどうなんでしうか?
友人は母親の介護で苦労しています。
健康に老いていく方法はないものでしょうか?
我々もその歳にだんだん近ずいています。
今年も健康でなんとか、過ごしたいと思います。
新作の発表を楽しみにしています。
ご健闘をお祈りしています。