Cafeのある散歩道 文学(シナリオ・小説・短歌・俳句・詩)・音楽・花・韓国語・男の料理の広場

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2007年・予定小説・シナリオ「踏み切りの向こうの街」ほか

2007-01-27 21:58:42 | 小説
2007年これから登場予定のシナリオ・小説
★短編~中篇小説「踏み切りの向こうの街」

あらすじ
坂井肇は、東京近郊の私鉄駅から歩いて10分くらいの集合住宅に住んでいる。
毎朝、武蔵野電鉄で新宿に向かい大学受験予備校の先生をしている。彼は熟年離婚で妻と子供二人と別れて今は一人住まいである。仕事も忙しいせいか、彼は踏み切りを渡り向こう側を歩いたことがない。肇が家に帰り一人で夕食の支度をしていると家を揺るがす地震が起きた。急いで電気・ガスを柱に捕まり、床を這いながら消した。入り口の鉄製ドアを開けて震度6弱の近頃なかった地震に驚いたものの急いで頑丈なテーブルに身を潜めて地震の止むのを待った。
長かった地震は止んだものの断水・ガス使用不能・パソコン・テレビ・電子レンジ・エアコン・電気冷蔵庫・AV装置など、電気の恩恵を受けていたものが一切使えなくなっていて、博之は砂上に築かれた楼閣のような空しさを感じていた。
こんなに現代のリビングライフはもろいものだなあと改めて全身で感じていた。
食事の準備をやめて彼はお金を持って外に出ていつも乗る私鉄駅に向かったが、共同住宅の立ち並ぶ小さな細い木、バス滞留所の表示板が倒れたり、木造住宅の立て看板が歪んだりなど、時折、市の広報車が地震のあとの停電・水道管の亀裂による断水などを緊急放送していた。小さい被害の道を歩いて駅の通りの今までぜんぜん渡ったことのない踏切を越えて街に入った。驚いたことにあの大きな地震にもかかわらずまったく被害がないようだった。腹が減って手軽な中華料理の店に寄った。「何になさいますか」店員が来てメニューを手元に置いてくれてそれを眺めて驚いた。ラーメン80円、チャーシューメン110円、餃子50円、野菜炒め50円などの表示があった。食事を済ませ200円を置いて外に出ると、そこには今まで見たこともない街並みが広がっていた。

これかれ先はネタバレです。
肇は町並みを見て歩くに連れて自分がかって学生時代の頃を思い出していた。西の空にオレンジ色の太陽が時間の経過とともに明から暗へ染めあげて行く雲を眺めながら両側の家並みが低く空がはてしなく大きいことを身体で感じていた。高い煙突のあるお風呂屋、畳を土間いっぱいに広げて畳の直し、修理をしている畳屋、駄菓子を一杯狭い古い家から軒先まで広げている駄菓子屋、漫画、古書を置いている古本屋などなど、日が沈むと電柱の裸の白熱球の上に黒い傘が被っていて丸い黄色の照明を道路に落としてあたたかい人影ができる、ふと振り返り線路の踏み切りの向こうを眺めると、さっきの地震で駅付近のビル・マンションなどが高い黒い塊として星空に空しく姿を見せている。華やかな光と音は完全にさっきの大地震で奪われてそれは墓場のような沈黙した光景だった。
科学、技術、情報の最先端を行く大都会のもろさを露呈していた。
こっちはビルもなく皆低い家並みだが、黄色い暖かい照明に包まれて肇の影を落としていた。さっきの大きな地震とはここは関係ないのだろうか。
歩いているうちに木造の庇が少し傾いた古い一軒の旅館が見つかって、線路の向こうがまだ電気も復旧していないなら、このまま引き返して帰っても仕方がない、この分では断水も、ガスも止まっているだろうとあきらめて旅館に止まることにした。
二階の部屋に案内されて、食事のときはお呼びしますからテレビでもごらんになててくださいといわれ、古いブラウン管のテレビをつけると白黒テレビがニュースを伝えている。
このあと、肇はこのホテルに泊まり、しばらくこの学生時代に味わった懐かしいにおいで一杯の街に滞在することにします、当座のお金が万が一に備えて持ってきた
翌日は日曜日だったので肇はこの不思議な街を探検してみることにした。旅館を出て右折をすると小さな公園があった。子供たちは冬の間近な小春日和の空の下で紙芝居屋のおじさんの拍子木の音に誘われて小路から集まっている。脇のブランコに興じたり、鉄棒では逆上がり、また3人くらいの子が腰にプラスチックの丸い輪を回して喜んでいる。見ているうちに肇の脳裏に昭和30年代の過ぎ去りし想い出が蘇る。「そうだ、丸い輪はフラフープだよ」
通りを走る自動車は日本の国産車、トヨペットクラウン、カローラ、日産ダットサンに混じってダイハツの三輪車、ミゼットがチョコチョコと通り過ぎて行く。
肇は、新宿に出ようと思い、公園から道を引き返して忍ヶ丘公園駅から切符を買おうと思ったが昨日まであった自動券売機がなく黒い板で白地で表示した運賃表があるだけで、新宿を探り当てたがなんと60円と表示されている。昨日買った時には、
390円取られたのに、どうやら昭和33年代に戻ってしまったらしい。
「新宿大人一枚」駅の係員が硬券を抜き取り日付印を押すためかちかちと音をさせて肇の目の前に置く。ホームが狭くなっている。
「これじゃ電車がホームにはみ出ちゃうよ」
昨日まで見たステンレス製20メートルの6輌編成は大丈夫なのと思った。
程なくして東京方面の緑色の3輌の電車が警笛を鳴らして入ってきた。
こんな電車、もう40年も前のことだったので肇の脳裏から消えていた。
電車が止まると赤い側灯が付いてガラガラと音がしてドアが開いた。車内の床は木造で元空気溜から出るコンプレッサーの音がごとごと音を立てて靴の裏に振動が伝わってくる。見るものすべてが忘れていたかなたの想い出が蘇ってくる。
電車が走り出すとあの懐かしいつりかけ式の重みのある重低音の音が高らかに鳴って徐々にスピードを上げて走る。
終点で国電に乗り換える。暗いチョコレート色の73系電車で新宿に向かう。
肇は、突然ブラックホールに投げ込まれていたような空虚さを感じていた。
新宿に着けば、魔法に掛けられたような過去へのトンネルのような旅からもしかして解放されるのではないかとも考えた。
新宿が近くなるに連れて西口周辺の超高層ビルの白い、灰色の大きな塊は、姿を現すことはなかった。
肇はお昼ご飯を食べようと新宿西口に出たが、ビルもほとんどなく、線路際にあの食べ物と飲み屋が密集したバラック建てのじゃんじゃん横丁があるではないか。
もつの煮込み屋、狭い店で外まで焼き鳥の煙が充満している焼き鳥屋、中華なべでチャーハンをかき混ぜている音が外まで聞こえてくる。皆3坪以下の椅子が6~7席あってそれで客はいっぱいなのだ。学生時代、よく腹をすかしていろんな食べ物があるここにきたものだ。食べ物のあらゆるにおいが充満して横丁全体にまで広がるジャンジャン横丁が今ここにある。肇は完全に昭和34年の人間になったことをたしかに受け止めていた。
しばらくこの学生時代に味わった懐かしいにおいで一杯の街に滞在することにしてみようと思う。当座のお金が万が一に備えて持ってきた10万円を両替するが、銀行で両替の1万円札を出すと、このような札を見たことがない、あなたは何者と問われるが、新宿の予備校の身分証明書とIDカードで未来からやってきた人だと一応信頼されて残り9万円を預金口座を開くことにする。
とにかくここでしばらく生活しようと職を探し、予備校講師だったこともあって職業安定所で予備校の社会科教師を勤めた。学校時代の旧友とか古いいろいろな人に会うことも楽しみだ。社会科の先生ということもあってある日、未来の21世紀の日本という教科で、「先生は私たちの未来、平成21世紀から来た人だからどんなになるのか話してほしい」生徒に頼まれて、ケータイ・インターネット・パソコン・メール・新幹線・大型テレビ・電子レンジ・テレビゲーム。超音波診断装置・大型ジェット機など・・・の話をすると、生徒たちは「僕たちもそういう生活をしたいです、何とか連れてってください」と頼まれるのだが、肇は「いや、たしかに40年後は科学・技術・医学・情報・交通がいろんな分野で発達しその恩恵を受けるが、このように人情味があふれ犯罪も少ないこの街がどれだけ幸せか。今ここで味わう昭和30年代と未来50年後の犯罪・環境汚染・自殺・紛争。交通事故件数などを具体的な統計で示して肇もこの街で過ごすことを決意した」と生徒に話して、ある日、別れた妻と子供の若かりし姿を街角で発見、僕たちは50年後離婚することになってるけど、もう一度お互いを見つめやりなおそうということで生活の再スタートを親子3人でするのだったという形にしたいと考えています。


★短編小説仮題「輝ける一日」
ある大手量販店に35年も在籍した退職当日の一社員、棚倉博之の回顧・心情の変化を会社の組織とともにリアルタイムに追いかけた物語です。

あらすじ
棚倉博之は、大手量販店トーツーに35年雨の日も風の日もずっと働いてきた。
創業時代から高度経済に支えられて急激に成長したときもバブルがはじけて苦難の時期にあったときもいわゆる団塊の世代として猪突まい進してきたのだった。
その博之も2007年2月1日満60歳を迎えてこの量販店トーツーを退職することになったのだ。妻明子は夫、博之をねぎらって今夜はあなたのための長い間のお礼として親戚を交えてごくろうさま会をするので早く帰っていらっしゃいと暖かい笑顔で玄関で見送るのだった。
トーツーに入社、地下食品売り場係員からスタートした彼は主任、本部企画部係長、営業一部課長、新埼玉店長、を経て創業50周年を記念する社長室付、歴史編纂室長を最後に今日を最後に退職するのだった、50年間の長い歴史の実証と調査のために最後の2年間は社長室で社史の編纂のために粉骨砕身して働いてきたのである。博之の筆はとうとう最後の1ページを飾ることになった。
彼は最後の筆を社史にしたためたあと、お世話になった関係の人たちの部署を廻った。彼にとっては50年の長い間、この社屋、最初は3階建ての小さな建物も今はトーツーグループの20階建ての高層ビルにまで発展したビルの中にいて感無量だった。最後の社史の1ページを書き終わりこれから6時の退社時間まで時計を眺めた。時計は10時半を過ぎていた。自分の50年間の軌跡が今日残されたあと6時間半のこの社屋に凝縮している。1分が果たして50年間働いた時間に換算されるのだろうと机から電卓を取り出してはじいても見た。
営業部・企画部・管理部、総務部、計算情報センター、食品部・・・・・、そのほかもほとんどが博之にとってこれまで接してきたかけ替えのないものに思えた。
そしてこれまでともに仕事をしてきた人に会う度にかっての博之の活躍の想い出が走馬灯のようにとめどなく浮かんでは消えて行くのだった。
秋山社長室長から、スタッフ全員で送別会を開きたいという提案は、「とにかく家で、家族、親戚が待っているから」という理由で先に延ばしてもらった。
ともに仕事を2年間してきた男女5人でいつもの定食屋に昼食に行った。
雨の日も風の日も庶民的な雰囲気のする和食の定食屋のほうが会社の20階の広い窓から周囲の大都会の光景を見ながら食べるバイキング形式の社員食堂よりここには人間的なぬくもりがあると思った。
午後4時になると、秘書が「社長がお呼びです」と博之のデスクに来た。
博之はトーツーグループの総氏、荒牧 文太郎社長のドアに手を掛けた。社長は勤続35年の博之をねぎらって言葉を掛けてくれたが、博之にはたんなる儀礼的なものに思えた。社長室を出て廊下を通ると、博之と同時に入社した間中専務取締役に出会った。君と僕はともに会社を担う一員として頑張ろう、いつも一緒にいようと約束した若き日の思い出が脳裏を掠めた。その彼は出世街道を驀進して取締役の椅子を手に入れていた。専務室に案内されて二人は入社当時のあの情熱に燃えていた時代を一通り話し合った。
時計は4時半を示していた。部屋に帰ると、若い秘書の朋美が、棚倉さん、ご苦労様でした。お帰りなさい」と言って熱いお茶とバームクーヘンをテーブルに運んでくれた。博之は「大下さんにも随分お世話になって、僕が会社に居れるのもあと1時間半か」と朋美の目を見つめながら話すと彼女は、「そんな棚倉さん、私はいつまでも棚倉さんを目に焼き付けておきます」と悲しそうな顔をして涙ぐんだ。
博之がデスクに座ってる間もいろいろな人が各部署から彼のデスクに来て挨拶をするのだった。
時は無残にも35年を振り返る博之の回顧には到底無理だった。
とうとう最後の5分、天井のスピーカーが終業の合図のバッハの曲を奏で始めた。
博之は、あらかじめ持ってきた大きなショルダーバッグに引き出しの身の回りの品を詰めて、給湯室の雑巾で博之自ら自分の座っていたデスクを磨いた。
そのあと、デスクの前の右側においてあった横書きの社史編纂室長 棚倉博之の大きなプレートを倒した。
「お世話になりました。どうか、お元気で」と丁寧に挨拶をして社長室の社員に送られて輝ける一日を静かに終えて、妻子家族、親戚が待っている我が家に急ぐのだった

★長編小説「うそを言わない社員たち」

東京赤坂にある七井物流株式会社の営業一課に新しく赴任してきた長山課長は何よりもうそを付くことが大嫌いだった。新聞を見ても政治から企業、個人までも今は「うそも方便」という古来の日本の慣習が横行している時としてそれは政治献金不実記載、自動車メーカーの製造過程の不良部品問題、菓子メーカーの賞味期限材料問題、役所のから出張問題など、あらゆる面ですべては、小さなうそから派生している、ほんの些細なうそがやがて雪ダルマのように拡がっていく、せめて自分の部署だけでもそのことを徹底しよう、それが会社全体に拡がればと考えていた。
今年はじめての社員出社の挨拶が終わって、皆が持ち場に戻ったとき課長は課員を前にこのような主張をした。課長のこの話を営業二課・三課の社員がびっくりして話を聞いていた。その翌日からこの課長の方針を実行したのだったが、この素晴らしい方針を巡って社内の中はもとより顧客外部関係まで思わぬ大混乱に陥るのだった。

★新童話「一箱のクレヨン」
山里小学校の1年1組のクラスで図工部の先生が1箱のクレヨンを1週間おきにクラスの5人が交替して使って2ヵ月後、交替して使った1箱のクレヨンでどんな絵を書いたかみんなで見せ合おうということになり、クレヨンの立場から一人ひとりの子供たちを見て使うに連れて減って行く12本のクレヨン同士が語り合ったりする,
赤色が一番減って、最後の5人がバラの花を描いて、赤クレヨンが「私がこんなに摩滅してなくなってしまい、皆さんと別れるのは悲しいけど、愛ちゃんの書いたバラの花が教室に飾られて皆に見てもらえば、私はとても幸せ」というちょっとしんみりした会話も含めて、今殺伐としている子供たちに物の大切さ、愛のメッセージを伝えたいと思うクレヨン同士の会話も含め、変わった視点での物語。

★シナリオ・長編小説・仮題「派遣コンサルタント物語」
この物語は、私のコンサルタントの経験をもとに物語として書いて行きたいと思っています。
私の頃は正社員として採用されて一定の研修とOJT訓練を経て教育訓練・市場調査・経営計画など企業・官公庁の仕事をコンサルティングしていましたが、いずれにしても一定の期間派遣されているのは事実でした。ですから、一生懸命、専門的知識・技能を駆使して働いていました。派遣の辛さと喜び、一定の期間働いて高く経営者・社員から評価されること、どんなに親しく長期間派遣されてもこちらでは親しくなったつもりなのに形式的に扱われたとき、社員でもなくコンサルタントで御用済みの身分の中途半端な立場、派遣の身分がわかるような気分がします。
そこで時代を現代に身分も派遣コンサルタントとして描こうと思いました。
時を同じくしてNTVで1月10日より「ハケンの品格」というテレビドラマが放映されていて派遣問題と正社員のあつれき問題がが大きく投げかけられています。
これとはまた、一味違った形で専門的な知識を備えて、あくまでも企業(派遣先)のプロジェクトを数人のコンサルタントが乗り込んで提案するという形で話を展開したいと思っています。いずれにしろ今派遣人口300万人といわれて、これらの人たちが昨今の好景気を支えているわけですから、派遣コンサルタントの生きがい、喜び、悲しみを描き、私も違った意味で、全体の派遣問題として提起したいと思いました。

東京・台場にある東西コンサルタント(株)は社員150人を抱える中堅経営コンサルタント会社であり、コンサルタント志望者を毎年厳しい選抜試験で派遣採用している。OJT教育を通じて一人前に育てているが、そこには経営コンサルタントの教育部があって、商社、百貨店・自動車会社・銀行調査部・マーケティング会社などのベテランの女性がスカウトされていた。そこでは男性といえどもたじろぐほどの厳しい訓練が行われていた。

あらすじ
基本給はあるものの企業へは日給の派遣コンサルタントとして処遇されていた。・・・・・
大泉太一は、民衆銀行に入社、語学が買われて1年間アメリカの大学に留学を命ぜられて赴任、そこで自分は帰国後外国関係の部署に配置されるだろうと帰国。
しかし、彼を待っていたものは、下町にある支店で毎日、中小企業や一軒ずつ家を廻って預金獲得という地味な仕事だった。
そこへ、ある日、ヘッドハンターを通じて東西コンサルタント(株)への誘い、
最低限度の基本給にあなたのような能力のある方は、派遣先企業・官公庁で仕事をしたら最低1日2万~5万円は保障しますという言葉に、銀行で安定した生活を送ってもいいが、自分の実力を掛けた仕事を選びたいということで結局応じることに、教育部の専門技能を有している女性によるOJT訓練、太一を待っていたものは・・・・
また、最初の派遣先は・・・・・・・・・・


★★短編小説「春への旅立ち」構想
春夏秋冬季節シリーズ「けだるい夏の日」に続く春シリーズ
それぞれの道を歩くべく3人の東花女子大を巣立つ彩音。梨佳。萌子の夢多き青春への旅立ちを描く



★中篇小説「大井田さくらのツアコン日記」
昨年から書き続けてる小説ですが今年は完結したいと思います。





1月17日登場連載小説「黒い地下鉄」①

2007-01-18 13:04:51 | 小説
この物語はノンフィクションであり、この小説に登場する人名、企業名は実在しません。

江ノ島に住む市来憲祐、彼の家族は妻・郁美(56歳)・娘、玲奈(25歳)の平和な三人家族である。
憲祐は60歳まで大手銀行を勤めた後、パソコン、情報技術の専門職を生かして
今のNJ(New Japanの略)情報センターに専門ハケンコンサルタントとして東京大手町に勤めている。
そんな冬の木枯らしとみぞれ交じりの朝、妻に送られて娘、玲奈とともに藤沢駅に着き、娘が去った後、折からの木枯らしで一枚のチラシが憲祐の顔に張り付き、驚いて右手で掴んだ一枚の紙には、

小田原から東京を結ぶ会員制地下鉄、藤沢ー大船ー戸塚ー横浜ーX-新馬込ーY-五反田ーZ-虎ノ門ー東京40分と書かれていた。

そもそも奇妙な会員制地下鉄の文字、なぜなのか
利用するには身元確認、指紋照合、ネットで住居確認
X,Y,Z駅とはなにか、
ミステリーじみた不思議なこの地下鉄の正体は、なぞは深まるばかりです。


それは暮れも押し迫った11月30日の出来事だった。
江ノ島の近くの海を見下ろす市来憲祐の高台の家からすぐ下を通る湘南電鉄がよく見えた。昨夜来のシベリア大陸から急速にこの冬初めての上空マイナス60度という寒気団が日本に南下、まだ11月というのに明け方から気温が急速に下がり薄いグレーを流したような夜空には雪がちらついていた。彼の2階の室からベランダに通じる窓ガラスが凍りつくように冷たかった。

湘電の湘南海岸駅からは江ノ島の海が狭く立て込んだ家と道路に挟まれて建っていてその先は海だった。いつも鏡のような静かな海も今日は白波が立っていた。江ノ島もまだうっすらと薄いグレーの空と濃いグレーの海を分けるように眠っていた。
時計を見ると朝6時だった。
夏ならばとっくにベランダいっぱいに朝日がさしてきて、彼はレースの白いカーテンを開けていつもベランダに出て背伸びをして身体をしなやかにしてそれから大手町の金融機関の情報センターに出かけてるのを日課にしていた。

ここに移ってはや20年か。憲祐の机の脇のショルダーバッグは40年の風雪に耐えて茶色の革がところどころめくれていたが、何よりも憲祐のことを知っているのかも知れない。
「僕を永年勤続で表彰するよりもこのバッグが受賞されなくちゃなあ」

テレビをつける
「よかった、間に合った、ハングル語が」
憲祐はパジャマの上にガウンをまとい、まだ寒い部屋で手をこすり合わせながら
テーブルの上にあったリモコンをクーラーのスイッチを入れた。
彼は好奇心が強かった。何でも興味があった。60歳過ぎても好奇心はちっとも変わらなかった。
ハングル語のテキストを見ながら、テレビの二人のレストランでの会話を一生懸命発音している憲祐に
「パパ、お早う、頑張ってるね」
後ろの背中を叩かれて、振り向くと黄色いカーディガンにグレーのジーンズをすでにまとった娘の玲奈がいた。

「玲奈、話できないよ、あと1分」
気が散ってはせっかく苦心して覚えている韓国語の集中して記憶している頭脳への
回路が切断されるのだ
一通り韓国語を終えると、父と娘の会話が飛び交う。
「玲奈、朝から早いなあ、お天気姉さんはお休みじゃないのか」
「うんんう、今日休みだけど、練習あるの」
「お父さんは?」
「ちょっと」
「えっ、お父さんハケンだよね、日曜日休みだよね」
「それが、うちの女子大新卒のハケンがちょっとミスして、それで皆で休日出勤して」
「女子大の新卒って仕事もだめなのよね」
父にとって愛娘の玲奈は、いつに間にか気象予報士の資格を取って、去年から東都テレビのお天気キャスターとしてテレビに出演しているのがとてもうれしいらしい。
玲奈にはもう一つの夢があって、高校時代から演劇部に所属して劇をやっていたこともあって、今は演劇の夢を忘れられず六本木にある小劇団サークルに入会していてお天気姉さんの傍ら時々演劇の練習に出かけることがある。
「どおれ、お母さん起こしてこよう」

隣の部屋をノックして声を掛けた。
「郁美、郁美」
二回呼びかけたが返事はなかった。
返事がないので部屋に入ると妻の郁美はまだまどろんでいる。憲祐は妻の寝ているベッドに行ってそっと髪の毛をなでた。
結婚以来30年、苦楽をともにしてきた妻の栗色の輝いていた髪も今は白髪が、いや結婚当時のきれいな栗色の髪が白髪に混じっているといったほうが適切かも知れない。君にもいろいろ辛い思いをさせたこともあったなあとひそかに思った。
妻は突然目を覚まして、びっくりしたような顔をして
「どうしたの、あなた、なに、もう7時近いの」、
「郁美、君を永遠に愛しているよ」
「朝からなに、驚かせないで」

ピンクのパジャマを着ている妻は身体を少し起こし、壁の柱に掛かっている大きな時計を見て
「いけないわ、あなた出かける時間ね」
そういいながら起き上がってテレビのスイッチを入れた。
ニュースが始まり、
「今日は、11月30日日曜日、朝7時です、では、政府はニューヨークの国際連合に・・・・・」
「なんだ、今日は日曜じゃないの」
と言って、眠そうな目をこすりながら
ベッドにもぐりこんで寝てしまった。
「じゃ、会社に出かけてくるよ」
「事情は知らないけど起きるわ」
といいながら、妻はがばっと起きて急いで1階に降りていき簡単な食事を作ってくれる。
「目玉焼きとウインナ、それにクロワッサン、フルーツサラダ、こんなもので悪いけど」
といいながら食卓の上に並べ、熱いコーヒーを入れてくれる。
「お父さん、減量しないとダイエット食でいいんじゃない」

「あなた、今日日曜日なのよ、お休みでしょう」
「それが・・・・」
「はっ何で、あなたハケン社員でしょう、日曜お休みじゃないの」
「まあね」
「で」
「そうなんだが、そうでないこともあるんだなあ、これが」
「えっ」
「実はね、僕の情報センターハケン会社から女子大出た新人が来てね」
「つまり、あたしみたいなドジな学卒のミスのおかげで」
玲奈は卒業して友達に薦められて最後の春休みにハケンとして登録してハケン社員として出社し、頼まれた稟議書をワードで打ったが、誤字が多く、会議室で原田常務の
「おい、誰だ、この漢字ミスは」
と言う声が室の外まで聞こえてくる。玲奈は、失礼しますといってドアを開けたらいきなり怒られて
「ハイ、私が打ちました、どうも申し訳ありません」
と頭を下げながら一人一人にお茶を配り終えるとドアを閉め、急いで逃げ帰るようにして自分の室に帰った苦い経験があるのだ。

「それで」
「彼女、PCのエキスパートだから、今まで残業だった市来さんももう残業しないでいいですよといわれて僕もこれから早く帰れると思ったんだけど」
「よかったじゃない」
「それが彼女せっかく作りあげたデータいじってるうちに保存しないで消去してしまって」

憲祐は時計を見ながら、
「それで、僕はその彼女、ハケンの僕がさあ、その彼女を助けなくなっちゃって急に出なきゃならなくなって」
妻は、憲祐の話を聞いていて
「変だわ、あなた、ハケンでしょう、それってその会社が面倒見るのが普通じゃない」
「本当はそうなんだけど」
「止めておきなさい、あなた、そうしないといつまでもそのハケンの女子大生仕事覚えないわよ」
「お父さん、その女子大生にパソコン教えるの、嬉しかったりして」
「玲奈、からかうもんじゃないよ」
「でも、約束したし」
「いいから、その会社のためにも、新人ハケンをのさばらせるだけよ」
「今日は情報部皆が出勤してそのデータを復元させる重大な日なんだよ」
「あなたは、これまでもそうだったわ、僕が行かないと会社は仕事が止まるって、
結婚以来ずっと聞かされてきたし」

そう、妻から突きつけられると、憲祐は妻に言葉を返せなかった。
「君には、本当にすまないと思ってる、この埋め合わせは」
と頭を低く下げる。
「いいわ、許してあげるから」

憲祐は朝ごはん食べながら新聞の朝刊に目を一通り目を通し終えて、郁美が洋服ダンスから
「今日は寒そうね、あなたダッフルコート着ていったら」
玄関で見送ってくれる妻を抱いて
「いつも君がいてくれるだけでうれしい」
スキンシップを結婚以来ずっと続けてきた。
家を出て湘南電鉄の湘南海岸駅に向かって坂を下りていった。

「待ってえ、お父さん、一緒に行くから」
娘の玲奈がトレンチコートを肩に引っ掛けて走ってきた。
彼は、足を止めて振り返り、玲奈が走って自分のところに来るのをじっと見つめていた。
玲奈とのこうした光景は、小学生になってからずっと続けていた。自分の手を引いて見上げるようにお父さんと一緒でうれしいといった小さな玲奈との想い出が蘇る。その玲奈も昔にしては170センチと高い身長だった憲祐を追い抜こうとしている。
「玲奈」
「お父さん、一緒に行こうよ」
娘は、トレンチコートに腕を通しながら、
「お父さん、恋人と歩いているつもりで居て」
玲奈が白い細い、しなやかな手をそっと父の日焼けした太い右腕に回してくる。
「寄せよ、玲奈、皆が見てるじゃないか」
憲祐は恥ずかしそうに玲奈の顔を見たが、微笑んでるところを見るとまんざらでもなさそうだ。

憲祐と娘は、傘を差して家を出て湘電湘南海岸駅に向かって坂を下りていった。
薄いグレー一面の空から、木枯らしが吹くせいか、時々雨に混じって雪のようなものが舞い降りてくる。玲奈も茶色の髪に降りかかるみぞれ模様の解けそうな雪を時々払っている。
雪は、憲祐のダッフルコートの袖について白いがすぐに雨の水滴に吸い込まれてしまう。電車は近年沿線駅の不動産開発が進んでラッシュアワーは2分おきなのに最大四輌なのにいっぱいで運行してる。
寒いせいかすし詰めの車内に何とか入るとぬくもりを感じる。

湘電は単線で雪のために途中駅の電車の交換も遅れ気味で30分かかって藤沢駅の高架ホームに入る頃は降り止んだものの強風が吹き荒れて下の通りのプラタナスの黄色に色づいた葉がくるくる廻っていて通行人もそれを避けるように身体を後ろ向きにして背を丸めて歩いていた。
湘電ホームから1階に降りて横断歩道を亘ると、首都圏鉄道藤沢駅が目の前にある。

横断信号が変わるのをいらいらしながら見つめている人の光景はいつもの通りだ。
違うのは強風が激しく吹いていて側の商店のシャッターが風にあったってがたがた音を立てている、木の葉と砂ほこりが舞っていて目もうっかり開けられないほどだ
横にいた玲奈は右足を路肩面にはみ出させ信号が変わったらダッシュしよう思っているようだ。
信号が青になったとたん、玲奈は走って後ろを振り返り両手を振って
「お父さん、お先に頑張ってね」
といいながら投げキッスして返した
「頑張れよ、練習」
憲祐は横断信号を渡って歩き出したときだった。
一枚のビラのようなものが風に吹かれて、健介の顔にぴたりと張り付いた。

瞬間、あわてて体の重心を失い、あやうく転びそうになりながら電柱につかまって身体をまっすぐにした。無意識のうちに右手に掴んだ紙には、11月30日、首都鉄道東湘線開通、本日より営業運転開始と大きく活字が躍っている。
第二東海道?怪訝な顔でそのビラを眺めた。
新線は小田原ー藤沢ー東京を結ぶ会員制地下鉄路線で藤沢ー東京を40分で結び、快適ですと書かれていた。

電車のイラストには、小田原-Vー松田ーWー平塚-藤沢ー大船ー横浜ーX-新馬込ーY-五反田ーZ-虎の門ー東京と掛かれ、快適な通勤をお約束する首都鉄道株式会社東湘線と印刷されている。、
「ああ、東海道線の朝、夕のラッシュ状況がひどく,四つ扉のF231系を入れても限界があるからかなあ」
と考えて、周りを眺めた。

でも、新線開通の広告看板も表示板もなかった。
「こちらが快適に行けるか」
そう考えながら、会員制地下鉄、停車駅が大船ー戸塚ー横浜ーXー新馬込ーY-五反田ーZー虎ノ門-東京、待てよ、会員制とX,Y,Z数学の方程式ではないよなあ」
憲祐には、会員制と数学の記号のような駅の名前が気になった。
時計を見ると8時だった。部員全体でドジな女子大新卒のくるみの失敗を皆でかばうのだから、今日は10時出勤にしようといったいきな計らいの椿課長の言葉を思い出していた。
10時までに充分余裕があるなあ、そう思うと、新線の会員制、地下鉄に乗って行きたい衝動心に駆られたのだった。

でも、今日から新線が開通したのに駅構内にはなんの表示もなくどこで聞けばわかるのか戸惑っていた。
その時だった
「お客さま、そのビラお持ちですね、なんだったら案内しましょうか」
「東京の会社に行くのですが、新線で会員制って」と聞いた。
50歳を過ぎた黒いブルゾンを着た男は襟を立てながら駅の地下通路を降りて行く。
いつもの駅の北側と南側を結ぶ地下通路を通って行くうちに大きなかんぬきドアがいつの間にか右側に設けられている。

「こちらです」
男はかんぬきドアを開けてこちらです」
と言って彼を中に入れて重そうな鉄製ドアのかんぬきを閉めるとそこは外部から遮断された空間が横たわっていた。
瞬間、憲祐は驚いた。打ちっ放し鉄筋コンクリートに覆われていて中央に四列の上り下りのエスカレーターが動いていたのだ。先は深くて見えない、暗い二列の天井の蛍光灯の空間に案内してくれた男と憲祐が二人向かい合っていた。、
よく耳に円筒を当てるとワ~ンという低い音が聞こえてくるが、ここでもエスカレーターが深いせいなのか、シーンという形容できない音が地底から聞こえてくるようだ。
深いエスカレーターに男は先に乗ってその後を続く彼のほうに振り返り説明をする。

下りエスカレーターが左右の壁際に設置されていて、よく見ると壁にはアクリルカバーが掛けてある緑色の照明灯がある。その上に5・10・15Mと書かれている。
男はその数字は深度・深さが記してあります。深度の数字はどんどん上がるもののまだ先は暗黒である。こんなに深くエスカレーターに大分乗ったのに上がってくる人は一人も居ない。
300・315・330・345と深度の数字ははどんどん進み、やっとエスカレーターが途切れた場所に350と記されている。
ビルに換算すると1階の床から天井までを3,5メートルと計算しても地下10階もの最深度とは驚いた。

この先は本当に地下鉄があるのか、あるいは、地上の首都圏鉄道MRの藤沢駅ホームの7時40分の喧騒としたラッシュアワーがここでは、そう思った瞬間、不気味さを感じたのだった。
「お客様、この先が新しい地下鉄の駅です」
男は先に立って憲祐を案内するのだった。
たしか、北朝鮮のピョンアンとかロシアのモスクワが核攻撃のシェルター代わりになるて聞いたけど。ここは、
最近東京は地下鉄が網の目のように走っていて、都心を走る新しい地下鉄は地下7階にも8回にも匹敵するくらいの深さだけど、ここはこんなに深いとは
エスカレーターにつかまって後ろを見るともう入り口の天井もなにも見えず暗黒だった。

「お客さま、ここが新しい地下鉄の駅です」
そこに東神鉄道の藤沢駅が見えてきたのだった。
エスカレーターを降りると円筒形の天井に大きなシャンデリアが下がっていて、中央は地下鉄のホームが見えるように吹き抜けになっていて、治安のためか頑丈なガラスで吹き抜け下のホームはさえぎられている。
ホームは二面あって憲祐の立っているフロアから自動改札口を通じてエスカレータがホームに伸びている。

憲祐をここへ案内してくれた男は、
「この鉄道をご利用になるのでしたら会員手続きとそれに」
「それに、第一会員手続きなんて鉄道に乗るのに」
「でも、規則なんで、それと」
「もう一つ、あなたの指紋登録を」
「はっ、ここは警察じゃないでしょう、何でそんな」
「あれ、見てください、お乗りになる方は、ああして指を押しているでしょう」
「はっ、」
見ると首に掛けているケースから顔写真の入ったID番号の入ったカードを取り出してカードを自動改札機に挿入している。

手前にバーがあって
「あなたの身分確認のため指紋照合を行います。お手数ですが、あなたの指を確認機の上においてください。
なんとも奇妙なSFっぽい光景だなあ、なにか機密を扱ってるような不思議な世界に誘われていた。
この光景って、考えてみた。そうだMGM映画の2010年で宇宙ステーションに着いて国家会議に出るのに目の虹彩を利用した身元確認機と同じシステムなんだ、心の中でそう思った。
「あなたの身元はただいま確認されました。どうぞバーを押してお通りください」
一人ひとりが見ていると3分ぐらい立ち止まって身元確認を受けているのだ。
憲祐は未来絵を見ている思いがした。
自分の住んでいる藤沢にまさかこのような未来志向のIT技術が詰まった駅があるとは、でもいくら考えても地下鉄に単に乗るのにこんなアメリカの核防御センターのような不法な侵入者を防ぐ厳密な管理システムがなぜ必要なのか、いくら考えてもなぞは解けなかった。
「近頃、銀行で指紋認証式を採用しているいるでしょう、当地下鉄は治安とか防犯のためにいち早く」
男は説明する。
「わかった」
男は駅員を呼びに行こうとしているのを憲祐は呼び止めた。

「疑うわけじゃないけど、ここから下のホームちょっとだけ見せてほしいんだ」
駅と言っても切符自動販売機も金額を付した駅名の表示もない奇妙な駅なのだ。
彼が疑いを持つのも当然だった。
鉄道ファンだった彼は、その地下鉄をガラス越しから見て自分の目で早く見たかったこともあって、またなによりも自分の目で確かめたかったのだ。
「まもなく2番線に小田原発東京行きが参ります。この電車は大船・戸塚・横浜・
X・新馬込・Y・五反田・Z・虎ノ門・東京の順にとまります」
「うそだろう」

憲祐は、ビラに出ていた駅名X・Y・Zとアナウンスが行ったのを耳にして唖然として口を開けたまま下を黙って眺めている。
やがて地下鉄独特の遠くから地鳴りのような音がしてそれは次第に周囲が、ガラスがびりびりと振動して地下鉄が近づいてくるのだった。
「どんな電車かなあ、ステンレスか、シルバーか、まさかゴールドじゃないだろうな」
想像力を働かせて瞬間考えてみた。ゴールド、純金の色の電車イコール会員制という言葉と結びついたのだった。

すごい響きを立てて全体をブラックに塗って運転台前面だけがホワイトのVVVF独自の甲高い音が一オクターブづつ下がって電車は定位置にぴたりととまった。
「お待たせしました。まもなく小田原行きが4番線に参ります。この電車は藤沢ー平塚ーW-松田ーV-小田原に止まります。」
こちらはW-V駅か、何でますますわからなくなっていた。しかもホームには30歳以下の若い人が。
ブラックマスクは近年かって国鉄が201系に採用してそれ以来、全国の国鉄から黒マスクは次第に普及し、それは私鉄に及んだのだった。
精悍なブラックマスクが電車全体のステンレスとかさまざまな色の塗装を塗った電車によく似合うのだった。

しかし、いままで全体の車輌が黒一色で塗られている電車はなかった。
電車は窓の淵が金色で黒色の車輌から浮き出ていて、金色の2007-01と金色の形式番号が輝いている。やはり会員制だからゴールドなのかなあ、首をひねって考えていた。
時計は8時をとっくに過ぎていた。
「今日は日曜日かあ」
普段の日は、地上の電車は満員でドアに通勤客が殺到して、駅員が駆けつけて中の乗客を押し込み、背中を向けてドアの淵に手で掴んで腰を曲げるようにして車内に入っていく。時には電車の遅延でダイア全体が狂うのを防ぐためにパートの社員が乗客を剥ぎ取ってしまうこともある。

電車の発車を知らせる放送が、
「3番線の東京行き、この辺でドアを閉めます。無理をなさらず次の電車をお待ちください、駆け込み乗車は大変危険ですのでお辞めください、ハイ、3番線ドアが閉まっております」と一段と切迫感を与えている。
日曜日にしても、客のほとんどが中年から先の年輩者でそれも数えるほどしか乗らない。なぜ中高年が、無言で静かで、こんなに乗客がいないことは地上の駅では到底考えられない。
「なぜ?」
何から何まで型破りのこの地下深い路線を走る地下鉄にただ唖然としているのだった。

男がその様子を見ていて黒い地下鉄も東京方面に走り去ったので声をかけてきた。
「いかがですか?、ご乗車になられますか」
「ええ、すごいシステムですね、乗ってみたいです。僕も60過ぎなので、毎日乗る地上の電車と比べると」
「わかりました、それでは早速乗車のための手続きをしましょう」
男はそう言って憲祐を顧客管理センターに連れて行った。
地下の右側のドアには、横文字で顧客管理センター(CUSTMAER CONTOROLE CENTER)と金文字で書かれている
「いらっしゃいませ」
黒色に金ボタン、金のステッチの入ったアテンダントが丁寧にお辞儀をする。

いわばJRのような緑の窓口のようにチケットも見えない。個室が5部屋ほどあって
黒色のユニフォームを来た女性が部屋に案内する。
憲祐にとっては、初めての経験で心なしか緊張してくる。
「どうぞ、お入りください」
NO4の部屋のドアを開けると、中は淡い茶色のマホガ二材の落ち着いたたたずまいの部屋だ。中央に液晶テレビがあり、画面を見ると二面の地下ホームの模様が中継されているようだ。
彼がテーブルを挟んで奥のソファに座ると、ドアをノックする音がしてブルーの制服を着たアテンダントが、丁寧に頭を下げて
「コーヒーをどうぞ」
と目の前において
「失礼します」
と一礼して静かにドアを閉めて去っていった。
部屋にはこの黒い地下鉄ではない、新しく開通した首都鉄道のパンフレットさへも置いていない奇妙な部屋だ。

憲祐は壁に設けられたテレビを見た。音楽が流れ、世界初の会員制地下鉄と大きな赤いタイトルが迫って、快適な通勤をお約束する安全第一の黒い地下鉄とタイトルが流れると同時にあの車体が黒で窓枠が金色の前面半分がホワイトマスクの地下鉄がクローズアップされる。続いて、きっと気にいっていただける車内のインテリアというタイトルとともに車内の模様を説明する黒い制服を着た美人アテンダントが
説明を始める。航空機並みのビジネスシートはピンク色でゆったりしたリクライニングの背もたれ、テレビ・ゲームが前面椅子にはめ込んであるようだ、

さらに皆様の健康をお約束する首都鉄道ならではの自動マッサージ装置、脇のスイッチを押すとなんと背中がぶるぶると震え、マッサージをしてくれる。
アテンダントのホスピタリティーな数々のサービスで新聞・飲み物・軽い食事を運んでくれるなど、サービスは今までの鉄道とは比較にならないことを知った。
3分くらいのCMが終わりあなたの幸せをお約束する首都鉄道をというアナウンスで説明は終わった。

憲祐はCMを見終わってなぜ普通のテレビで首都鉄道を取り上げないのだろうと不思議でならなかった。
その時、ドアをノックする音がして濃紺の制服に黒いスカーフを締めたアテンダントが「失礼します」と恭しく頭を下げて白い手袋に書類が入っているのか大きな紙袋を右手で脇に挟みその後を新人らしいアテンダントがいた。




さてお読みになりましてなぞは解けましたでしょうか。それは今後少しずつ明らかにしたいと思います。どうぞ次回をお楽しみに。
                                  (続)





今日のニュースから(2007年1月27日(土)

2007-01-15 20:55:39 | 今日のあれこれ 日記風
今日のニュースからは主要新聞・東京テレビ各局のニュースの中から評論を加えずに掲載するものです。しかし新聞の内容、テレビ報道についても著作権の問題もあって記事は内容を把握し管理人が二行以内にことばで独自に表現したものです。
ただいま更新中

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神奈川

 










短編音楽小説「雨宿りの幸せ」1月1日登場

2007-01-09 19:33:56 | 小説
短編音楽小説「雨宿りの幸せ」
この物語はノンフィクションであり、ここに登場する名前、学校名は実在しません。

高野真理子は音大時代の親しい友達がパリから帰ってきて赤坂のあるホールで開催されるピアノ演奏会の招待状を持って出かけたのだった。
真理子もまた、ピアノ科に籍を置いて将来はピアニストを夢見ていた。
ピアニストを目指す人たちは多く、大学を卒業しても才能と経済的な保障がないと難しかった。才能が認められて世間で認められて第一線で活躍できるピアニストはほんの一握りに過ぎない、でも卒業後、外国の音楽院に行ってさらに飛躍したいと思っていた。ある日、真理子の夢は突然父が脳梗塞で倒れてかえらぬ人となってしまったのだ。父の経営していたプラスチック加工工場も兄が継いだものの折からの不況もあって借金を抱えていたし時々真理子も手伝ったりしてドイツ留学どころでなかった。真理子はとても繊細でいろいろな特技を持っていた。音楽とかけ離れた小説を書いてある賞に応募し入賞したのだった。小説と音楽はかけ離れていると思ってる人もいるようだけど、いかに繊細にあるときは華麗にあるときは激しい感情を出して描きあげることは同じはずだわ、真理子の持論だった。それでピアニストの道を一旦あきらめてもう一つの夢、作家を目指して書籍の出版社に派遣社員として勤務し稼いだお金で今はピアノは自宅で子供を中心としたピアノ教室で教えている。
派遣の道を選んだのは、会社の就業時間にとらわれず契約どおり時間まで働いてあとは、たまに兄から家業のプラスチック加工を頼まれて手伝い、時間の大半以上は音楽の仕事に従事しながらなんとかして音楽家として世に出たいと試行錯誤していたからだ。
真理子は音楽家の夢を捨てきれず、地域での音楽愛好家によるオーケストラの結成に精進したり、時折ピアノ演奏家として都内での音楽コンサートにピアニストとして出演はするもののいろいろな掛け持ちで収入を得ているのだ。
いつの間にか5年経って真理子も30歳近くになっていた。
そんな時いわば学校でライバルだった友人磯辺美紀がパリから帰ってきて日本でのピアノ演奏会を開催したのだった。
赤坂ホールでは一躍ヨーロッパで有名になった磯辺美紀のピアノ曲を聴こうとする人で立錐の余地もないほど満員だった。
招待券を見ると特Aと書かれていた。座席にも特A・A・B・C席とあってピアノを鑑賞するには素晴らしくいい座席なのだ。
彼女が、あたしに特別席を招待券としてくれたのは友人としての親切心なのか、それともピアノが側にあるこの席で自分のピアノを自慢して見せようとしてるのかとも考えてみた。
幕が開くと東洋交響楽団の面々がずらっと並んでいて左側にグランドピアノがあった。団員が次々に紹介されて、左側からにこやかに微笑みながら真理子の友人ピアニストが入って来る。
「では、次にピアニスト磯辺美紀さんをご紹介します」
彼女は中央に来て丁寧に頭を下げたが、ちょっと左を向いて真理子がわかったらしく微笑んだ。真理子もまた右手をちょっと上げて小さく手を振った。
「演奏してくださる曲目は、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第二番、ショパンの2つのピアノ協奏曲、第一番変イ長調作品11番と第二番へ短調作品21番、それに小曲ノクターン作品9-2 変ホ長調でこの曲は映画「愛情物語」にも取り上げられました最後に別れの曲、12の練習曲作品10-3ホ長調です」
指揮者が指揮台に立って、会場は一瞬静寂になった。タクトが振られると荘重なオーケストラの調べがはじまり、ついで彼女のピアノが力強く鍵盤をたたきはじめた。彼女の指先がたたきだす調べがあるときは優雅に、あるときは激しい熱情的な調べとなって音響装置に跳ね返り次第に広いホール全体を覆った。
いつの間にかこんなにうまくなったのだろう、やっぱりヨーロッパに留学するとちがうんだなあ、真理子はそう思いながら白いバッグをひざに乗せて指を滑らせていた。
演奏が終わり、場内の満場の観衆の拍手とともに胸元が開いた白いドレスをまとって挨拶する彼女はまぶしいくらいに輝いていた。
真理子と美紀はよいライバル同士だったが、友達が今こうしてピアニストとして演壇に立っているのを見て拍手を惜しまなかった。
瞬間、自分がピアニストとして立っている姿と重ね合わせた。
実際、高野真理子と磯辺美紀はテストでもお互いが5位以内を争っていたし、よきライバルだったのだ、二人とも目指すところはポーランドのワルシャワの国際ピアノコンクールに参加することだった。
学期試験でも春は美紀が第1位、秋は真理子が第1位と、実力、技法は五分五分だった。
いったん忘れていたピアニストの夢が真理子の心に灯った。
ピアノ演奏会が終わるといつのまにか外は雨が降っている。
真理子は親友美紀に一言だけ「おめでとう」といいたかった。演奏会を終えて通路はまだ興奮が覚めやらぬ聴衆でホールの出口に向かう人であふれていた。真理子はそんな人並みを掻き分けて反対方向の楽屋裏を訪ねると彼女は記者会見に出ているとのことだった。
それを聴いてあんなに親しかった友人磯辺美紀がもう遠くにいるのだなあ、自分の存在が急に小さく見えて来た。
「彼女は、あのワルシャワの国際ピアニストコンクールで優勝して、今日、演奏会、あたしは子供たちのピアノ教室と時々小ホールの演奏会でピアニストとして狩り出されるのか」
彼女は、美紀に会えないことがわかるとあらかじめ用意していた手紙の入った封筒を係りの人にことづけてホールの外に出た。雨は依然降り止まず、駆け足で地下鉄赤坂見付駅の階段を下りて新宿に出て小田急で自宅の百合丘に帰るのだった。
電車は驟雨の中を走っていて窓の外は雫がたれていて真理子は座っていた座席から後ろを振り向いて曇っているガラスにゆめと書きながら一つ小さくため息をつくのだった。
百合丘から真理子の家は歩いて10分ほどのところにあった。雨は一向に降り止まず自分のあこがれていたピアニストの夢が友達磯辺美紀が実現しているのを見て今の自分の立場を考えると気持ちが沈んでしまう。
「いつの間にか自分の大切なものが変わってしまって」
いつまで待っても雨は止む気配はなく、電車が着く度に駅の建物は雨宿りをする人が膨らんできている。ケータイを取り出して家の母に電話しようとしていた。
その時突然、長身の男が
「あなたはもしかして東都音大のピアノ科にいた高野真理子さんじゃありませんか」と後ろから声をかけてきた。
真理子は、振り向いて
「あなたは」と聞いた。
「ほら、あなたたちのピアノ指導とか演奏会で指揮をした細田誠一郎ですよ」
真理子はそういわれて音大時代を思い出していた。
「あっ、あのときの、先輩」
思わず大声をあげたが、周囲の人がびっくりしてるのを見て右手で口を覆った。
「いやあ、ここで会おうとは」
真理子はピアノを教えてもらったり、演奏会の練習で厳しく指導してくれた誠一郎をひそかに尊敬し慕って先輩と呼んでいたのだ。
「真理子さんの家までお送りしたいんですがあいにく傘を持ってなくて、どうです、5年ぶりにお会いしたので、それに雨も降っていて、雨宿りにそこの喫茶店でお話しましょう」
誠一郎にそういわれて、
真理子も
「そうですね、本当にお会いできてうれしいです」
二人は、すぐ側の喫茶店に行き、窓の外の驟雨が止むまで音大時代の懐かしい話をするのだった。
店内は壁がところどころステンドグラスで飾られていて天井に組木の柱があって話をするには落ち着いたたたずまいだった。
折りしも「美しくも短く燃え」のBGMが流れていた。
「私、この曲大好きなんです、こうして聴くのもモーツアルトの原曲と違っていいわ」
「普段何気なく聞いている曲が実はクラシックだったりして、最近はCMにさへ一節が取り上げられていますよね」
「あたし、今日、音大の同期生の磯辺美紀の演奏会に行ってきました」
「僕も招待されて、彼女あんなにうまくなるとは思いませんでした。でも、二人を教えて真理子さんもピアノは本当にうまい、僕は是非同じように弾いてほしいと思ってるんです」
「あたしのピアノ、ほめていただいて、もう恥ずかしいです」
真理子は5年ぶりの再会なのに先輩が、いや助教授が会ったばかりなのにほめられてうれしかった。
「ところで先輩、ずっと居られなくて」
「僕はずっとパリにいってましたから、」
「いいなあ、イタリアには行きましたけど、あたしも一度ドイツ、オーストリア、そうそうウイーンに行きたいんです」
「ヨーロッパはいいですよ、音楽人口が違いますからねえ、理解者も多いし」
「あたし、テレビでベルリンフィルの夏の野外演奏会見たんです。皆、くだけた格好で、丘の上にも演奏を見てる人がいて」
「ヨーロッパではよく見る光景ですよ」
「皆、リラックスしていてすごい身近な感じで」
「真理子さんがごらんになったのは、毎年6月の夜9時から、ベルリンのワルトビューネで開かれるピクニックコンサートでヨーロッパでは有名ですよ」
「皆すごい楽しんで、踊ったりライト振ったり、手鳴らしたりとか仮面を被ってるとか、ローソクをつけて、花火まで鳴って、日本と違うんですね」
「クラシックの音楽が人々の生活に深く入り込んでいるんです」
誠一郎の話はパリに渡ってヨーロッパの音楽に触れた新鮮な話題で真理子は惹かれていた。
ベルリンフィルといえば、その昔はヘンベルト・フォン・カラヤンによって世界でももっとも名声が高く、権威があってちょっと近寄りがたい感じの交響楽団だった。それが、この間のテレビの野外コンサートを見て、まったく庶民の懐に飛び込みあの野外音楽会を開いている。真理子はもっと日本の交響楽団が同じようにどんどん野外演奏会を開いてほしいと思った。そうすれば、もっと音楽愛好家の層が広まってしいてはピアニストにとってももっと演奏会を広げて生活もずっと安定すると思っていたのだ。
「あの、」
「えっ」
「聞いていいですか」
「はい、何でも」
誠一郎は、真理子からそういわれてちょっと驚いたようだったが、
「あの、日本でももっと気楽に野外とかドームでクラシックの音楽会気楽にできないでしょうか」
「なかなか現状では難しいだろうね、最近はコミックでクラシック音楽をテーマに描いたものが評判になったり、若い人がクラシック音楽に関心持ってきてるけど、どこかのロックバンドのように数万人を集めてのクラシック野外演奏会は難しいだろうな」
誠一郎の答えもやはり消極的な、悲観的な見方だ。
「先輩があたしの家の近くに住んでるなんて」
「僕もようやくマンション買う頭金できて」
「そうだったんですか」
「ええ、ここに越してきて1ヶ月目です」
「道理で、先輩に合えないのも当然ですね」
音楽大学を卒業して、5年の月日はあっという間に流れていった。今こうして学生時代、音楽の指導を暖かく、しかしある時には厳しく怒られて何度もピアノをやり直された細田誠一郎を目の前にしてかっての思い出が鮮やかに蘇ってくるのだった。
「よく、先輩には怒られました。ショパンの曲を弾いたりしていると「子犬のワルツ」はもっと子犬が弾むようにとか」
「そんなこと言ったのか」
「私が期末試験でショパンの「雨だれ」を弾くと、先輩はもっと雨がぽろぽろと落ちるようなしなやかさがほしいなあ、君のは元気すぎるよ、とにかくよく怒られましたわ」
「そうでしたね、僕はラフマニノフのピアノ協奏曲第二番が気に入ってあなたに演奏してもらいたいといったら、私できたらチャイコフスキーのピアノ協奏曲第二番が弾きたいんですとか、よく言い争いましたよ」
「私はチャイコフスキーがとても好きです。最初の出だしから、特にピアノ曲は、第一楽章の序奏主題のテンポが、第三楽章のコーダ(終曲)直前の第二主題の直前とほぼ一致する、これって極致です。こんなこと誰もが出来ないじゃないですか、ほかにないし、観客の拍手とともに、ああ、弾いたなというか、満足感っていうか、成し遂げた達成感があってどきどきしちゃうんです」
「それは聴衆から見ても同じことが言えますよ、ピアニストとしてやりおおせたんだなあ、それが熱く胸に伝わって来ます」
「僕がラフマニノフに傾注するのは、ピアノの中でも難曲っていわれていますし、第一楽章で自由なソナタ形式ですが、最初から全体に壮大な重奏感があり、そこにピアノの連打が、印象的で最初から思わず曲に惹きこまれるこまれるんですよ」
そういって誠一郎は真理子の顔を見ながらコーヒーを一口飲んだ。
「ええ」
「まあ、難曲なんでピアノの熟達度がわかっちゃうんです、それであなたに」
「ええ、でも先輩にそういわれると嬉しいです」
「僕はやっぱりベートーベンです。力強くしかも勇壮で,第五の運命とか第九の合唱付とか」
「ベートーベンは、第六の田園が好きです。第一楽章から第三楽章まで、田舎の豊かな田園情景で第四楽章では打って変わってすさまじい嵐を表現する叩きつけるような怒涛の曲が、それだけにあとの第五楽章の静けさがとっても、田園風景が頭をよぎります」
「田園聞いた人は誰もがそういいますよね、僕はベートーベンを聴いて見たいという人は入門編として第六の田園をお勧めしてるんですよ、わかりやすくていろいろなクラシックの旋律のエッセンスがあの中に全部あると思っています」
「ベートーベンってたしかピアノソナタと呼ばれるものは第一番のへ短調から第32番のハ短調までありますが、月光ソナタとかもいいですが、でも私はチャイコフスキー、ショパンがいいです。」
「真理子さんはピアノの才能がありました。家の事情でドイツ行きを断念されて残念です」
「でも、先輩、今でも一週間に1回ピアノ習いに行ってるんです。子供たちのためのピアノ教室をやってるんで自分の腕を維持しないと、それに」
「それに?」
「あたし、音楽の灯だけはいつまでも消したくないのです、それで音楽愛好家とオーケストラの結成を呼びかけて見たり、時々都内の小ホールでピアノの演奏頼まれたり」
「そうでしたか、僕が真理子さんをドイツで音楽の勉強のために助けられればいいのですが、まだ留学中の身の上で時々オーケストラを指揮するだけで本当にお力になれなくて済みません」
「そんな」
「真理子さん、僕はあなたのピアノをもっと世に紹介したい、あなたみたいな方がうずもれてるなんて、機会作るようにします、頑張ってください、応援しますよ」
真理子は誠一郎にそういわれて、こんなにやさしいこと言われたの初めてだよ、ほかに誰もいないよ、そう思ってちょっと眼が潤んできて、うれしかった。
真理子は窓の大きなウインドーの外の雨を見ながら、このまままだ止まないでほしいとさへ思った。
「先輩、ここのチョコレートケーキおいしんですよ、いかがですか」
「僕がほめてチョコレートケーキか、もっとほめて次は何が出るか」
「はっ、先輩、いやだあ」
「冗談、冗談、ごめん」
真理子は大学時代、助教授で怒られて、厳しいまじめな人だと思っていたのに結構砕けていてと気持ちがリラックスして、誠一郎の思わぬやさしさに癒される想いがしてくる。
やがて運ばれてきたチョコレートケーキの右端をフォークで切って、口に運びながら真理子は、
「先輩、私、最近ジャズピアノに興味持ってるんです」
「はっ、驚きました。僕がジャズピアノを聴くのも違った意味でピアノの勉強になるよっていったことがありました」
「デューク・エりントンの「A列車でいこう」とかオスカーピーターソン、リチャード・クレーダーマンを聴いて家でピアノたたいたりするんですよ」
「真理子さんのそういうピアノ聞かせてほしいなあ」
「先輩、もう」
真理子はちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「リチャードクレーダーマンは、パリ音楽院を出てそれでクラシックでなくポピュラー音楽を選んだんだ」
「それってあたしも知ってます」
「パリ音楽院は、かの有名なビゼー・ドビュシー・ラベル・サラサーテも出てる歴史ある学校だよ」
誠一郎にいきなりそういわれて真理子は、先輩はあたしの音楽の知識を試しているのかと瞬間戸惑った。真理子は学校時代の音楽の歴史にあったのだろうか、5年前の授業の内容は詳しく覚えていなかった。
「そこまでは、でも、そういえばなにか聞いたような、聞かなかったような」
無難な返事をしてここを切り抜けなければやばいと思った。
「先輩、わかります、だから、クレーダーマンの曲で、ラブミーテンダーを聴くとピアノがやはりショパンのような感じを受けることがあります」
「だから。ジャズ・ポピュラーミュージックとクラシックのピアノって相通じる、これは、僕の持論だけどねえ」
「あたし、この歳になって、あの時先輩がおっしゃっていたことがよくわかります」
「ジョージ・ガーシュインのラプソディー・アンド・ブルーのあの終曲近くのピアノとても華麗で雄大で、先輩の好きな力強さもあって」
「ジョージガーシュインって言えば、真理子さんの言ってるラプソディー・アンド
ブルーのあのピアノをロスアンゼルスオリンピックの開会式で8台もピアノを使って広いスタディアムでボストンフィルでロジャーウイリアムスの指揮で演奏したときのあのピアノ演奏はすごかったなあ」
「あたしは、まだ幼稚園でした。でもテレビで見て覚えてるんですよ」
「僕は中学生だったけど、すごいインパクトがあったよ」
二人の話はどんどん広がって今から22年前のロスオリンピックまでさかのぼってのピアノの話をするのだった。
「真理子さんもずいぶん変わったなあ、僕が近代音楽のガーシュインとかもクラシックの曲と相通じるから、いろいろ聴いて自分で試すのも見方が違ってくるよと僕はいいましたよねえ」
「ええ」
「私、先輩のいわれる意味が最近になってよくわかるんです。クラッシックとジャズの技法がマッチしていて、あの曲はクラシックと次の世代のジャズの中継ぎをしてるんだなあと」
「あの頃、あなたは、いいえそんな暇はありません、私は徹底的にクラシックでショパン一筋に、ポーランドのワルシャワの国際ピアノコンクールに出ることですと、怖いくらい一途でしたよ」
「イやあ、先輩・・・よく覚えていますね」
雨がいつまでも降り続いていたこともあるが、真理子は誠一郎があたしのことをこんなにも考えていてくれてることがうれしかった。助教授である誠一郎と自分はその教え子であると自分から今まで距離を置き、自分から遠ざかっていた誠一郎との間が急に身近になってきたし、この今日の出会いが運命のように思えるのだった。
友人磯辺美紀からピアノ演奏会に行ったものの観衆の万来の拍手に美紀は包まれて真理子は自分に置き換えたときに嫉妬感を覚えると同時に小さな存在に見えたのだった。
しかし、今は真理子の表情は生き生きしていて喜びが誰の眼から見ても感じられるのだった。

二人は、クラシック音楽についてとことん話し合ったのだった。
真理子の胸に忘れていた雄一郎への想いがよみがえった。
「真理子さん、今度もっとゆっくりお話しましょう、ええと、僕のケータイは」といわれて真理子は自分のケータイを渡した。
誠一郎のケータイの押す指を真剣に見つめていた。
気がつけば、雨は上がって空には薄く虹が掛かっていた。
「雨が止みましたね、かえりましょう」
二人は、駅から坂を上ってそれぞれ家に帰るのだった。真理子は久しぶりに幸せを感じていた。真理子の歩みに誠一郎も合わせて、手こそ組まなかったが後姿を見ると恋人のようだった。もしかして、これを機会に誠一郎さんとお付き合いして
学校時代から先輩誠一郎と後輩で生徒の真理子の最初はたんなる関係が次第に好意を持つようになっていた。でも単なる私は生徒で先輩は音大の助教授だし、尊敬し段々誠一郎に好意を持つようになっていったが、これまで彼女のほうから距離を置いていた。
あたしが心から求めていた方ってこういう方だわ、真理子は5年ぶりに会った誠一郎のことで頭がいっぱいになっていた。
「真理子さん、今日はあなたに本当に会えてよかった」
真理子はだまってぽかんとして誠一郎を見つめていた。
「・・・・・・・・」
「真理子さん」
誠一郎に呼びかけられて真理子は、我に帰り
「はっ、あたし済みません、先輩、今日のあたしってどうかしてますよね」
といってごまかした。
じゃこの先が僕の家ですので、また、お会いしたいと思います」
「今日は先輩、誠一郎さんにお会いできてとても幸せでした、じゃ、また」
真理子はそういって丁寧にお辞儀して別れたがいつまでも誠一郎の後ろ姿を見送っていた。そのときだった、マンションの入り口に一人の女性が出てきて一生懸命に
雨に濡れたスーツをタオルで拭いてあげているようだった。
真理子の夢はこの瞬間潰えたのだった。

「結婚されて奥様がいらっしゃたんだ」
また、会って音楽の話がしたいとも思った。でもそれは許されないことだ。真理子は、誠一郎さんは東都音大の私の教師だし、教えていただく生徒があたしだし、単なる教師と教え子の関係ならいいじゃないの、とも考えても見た。
しかし、真理子の心は単なる関係を超えて親しさから次第に恋するようになっていた。先輩はそうでもあたしが愛したら、それは不幸な大変なことになる。
緩やかな坂を上りながらいつの間にか真剣に考えていた。
細田誠一郎の住んでいるマンションからちょっと坂をあがったところの左側が真理子の家だった。

「ああ、お帰りなさい、真理子、で、お友達の演奏会どうだったの、雨に濡れなかった」
そんな母の心配を背中の後ろで受け止めて
「お母さん、私ちょっと」
「どうしたの、真理子?」
階段を上がって二階の部屋に行く。
真理子はしばらく雨が上がって雲間から漏れてくる太陽の光を、窓の外を眺めていた。
「結婚されて奥様がいらっしゃたんだ」
「あんな近くに先輩の家があるなんて」
二階の窓から色とりどりの家の中が立ち並んでいる真ん中の雑木林に見え隠れする白いマンションが手の届きそうなところにあるように真理子には見えた。
物思いにふけっていた真理子だったが、細田誠一郎に会ったのに、雨宿りをしてあの喫茶店で話した生き生きとした彼とのクラシックの弾むような話、忘れていた彼との想いが募ってしまった。真理子は思い切り泣きたい気持ちになり、自分の部屋の鍵をロックした。彼女は、窓の外を見つめているうちに次第に一筋の涙が頬に伝わって流れ、やがて悲しくてとめどなく涙が流れて来て思いきり泣いた。あたしの幸せは、あの雨宿りのほんのわずかなんだ、この人ならと思った気持ちが、そう思うと悲しくて、壁際の椅子に座ってうつぶせになって泣くのだった。しばらくして、ケータイを取り出して090の彼の番号の表示が涙でかすんでぼうっと見えた。泣きじゃくりながらじっと見つめていた。涙をハンカチで左手でほほにあて拭きながら、
「やっぱり消去」
そういって右手の親指でケータイの番号を消去した。
部屋を出て廊下の角の洗面所で泣いたあとの顔を母に気づかれないように顔を洗ったあと、でも雨が降っていたから先輩に会えたんだ、だから雨宿りができて、考えをもっと前向きにしなければと思うのだった。
「そうだ、「雨宿りの幸せ」っていう作曲を、」そういってなにごともなかったかのように1階に降りて、「お母さんただいま」一声かけて応接間にあるピアノに向かうのだった。
                               (完)
著作権はすべて管理人(ヒロクン)に帰存します。この小説の文章の転用・引用は禁止します。



1月1日登場 新童話「美華のお手伝い」

2007-01-03 16:50:41 | 小説
新童話「美華のお手伝い」
この物語はノンフィクションであり、ここに登場する名前・会社名は実在しません。


東京から西に40キロ、多摩丘陵の一角にある高台のもみじ丘ハイツの建物が冬の短い陽を浴びて美しい。
もみじ丘ハイツは多摩丘陵の新多摩公園駅から歩いて10分、都心の新宿へも東西電鉄と京神電鉄があってとても便利である。一戸建てを中心に一部の建物は、12建ての中層マンションが集まって15棟ほど建っていた。駅はもみじ丘から見るとちょっと谷間になっていて、人口の増加に伴って駅前にはスーパー、大型電気店、DIY、それに図書館、美術館まであって日曜日はかなりの人でにぎわっている。矢田一樹・佳奈子は29歳で職場で出会い結婚した、3年経って二人は女の子を授かった。
美華は両親の愛を受けてすくすく育った。佳奈子の母がクリスチャンだったこともあって聖書を読んで、佳奈子は美華をやさしく、しかし時には厳しくしかって育てることも忘れない。
「少年をその道にしたがって育てよか、うん、なるほどね、」

「ねえ、美華、スパゲッティー作ってあげようと思ったんだけど、ひき肉とかケチャップがないの」
「ママ、ないの」
「ええ、それでねえ、ママ美華にスパゲッテーとかパンとか買ってきてほしいの」
母の佳奈子は、美華に独立心と自分で判断することがもう必要と考えてかねて考えていたことをこの機会に一人で出かけてケチャップとかパンを買ってきてもらうようにしなければと思った。美華は、母から突然言われて、目をくるくる回しながら、
「ねえ、ママ行かないの」
と白いエプロンのすそを引っ張って母を見上げるように話す。
「美華ももう来年は保育園から幼稚園、もうおねえちゃんになるのよ」
「でも、美華怖いよ」
「はっ、怖いって」
佳奈子は、美華の目線にあわせるようにかがんで、美華の手をしっかり握って
「ねえ、あなた何が怖いの」
と優しく聞いた、佳奈子はいつも美華になにか聞かれて答えるとき、少し腰を折って子供の目線に合わせて必ず手を握り話すのだった。
「ねええ、この坂の下のほら加藤さんのワンちゃんが怖いの」
加藤さんとは、美華の行ってる保育園の友達の沙織の家なのだ。
毎日午後になると、加藤さんのおじいさんがかわいい犬を連れて散歩に出て来るのだった。
「怖いのって、大丈夫よ、加藤さんのワンちゃん、きっと美華のことが好きななのかも」
「だってわんちゃん、美華が側に行くとワンワンってほえて」
「でもあなたが近づくといつも尻尾振ってるでしょう、あれはね加藤さんのわんちゃん、美華が好きだから尻尾振るの」
「へえ、そうなの」
「犬はねええ、喜んでるときには尻尾を振る習性があるの」
「ママ、習性って」
「うん、なんていったらいいかなあ、ああ習慣、わかる?」
「うん、ちょっとわかってるけど、わからない」
「くせっていえばわかるかなあ、美華には」
「うん」
そんな和やかな美華との会話を交わしてるときが、私にとって一番幸せだわ」
母はしみじみそう思った。
美華はこれまで佳奈子と一緒に駅前の東友スーパーに出かけていた。佳奈子は、美華にお使いを頼むのにいつもいく東友スーパーでは無理だと思った。身長100センチ足らずの小さな美華が買い物籠を持ってレジを通るのは無理だしそれにスーパーで小さい子が一人で買い物をしてかえって周囲の人たちから奇異な眼で見られてもかわいそうだとも思った。
新多摩公園駅から紅葉丘ハイツに亘る道路の左右には一戸建てとか中規模のマンションが立ち並び人口も増加の一途をたどって自然発生的に商店街が出来上がっている。
スーパーに対抗して新鮮な肉・野菜。鮮魚をはじめ一般食品は結構安かった。
商店街のお店の人も母が美華が可愛く顔を覚えてくれて、時々買い物をしていると、
「美華ちゃん、お母さんとお買い物でいいわね、これおばさんからご褒美」といって商店街大売出しの時には風船とか、そうでないときは店で売っている鉛筆一本とか、箱入り菓子一箱とかを美華の小さな手に握らせてくれることもある。
美華もまた、母、佳奈子の書いたメモをもみじのような可愛い手で持って、
「あのねえ、おばちゃん、コロッケ3つとええと、ぽ・て・と・サラダをこんだけちょうだい」と背伸びして肉屋のお店の人にメモを見せたりしているのだった。
母の佳奈子は、美華は皆から愛されていて幸せな子だわと心の中で喜んでいた。
美華が、「あのねえ、美華一人でお買い物行ってもいいよ」といったので、美華も大人になったと喜ぶ反面、もし、買い物に行く途中、わが子が見知らぬ人に誘拐されたり、事故に巻き込まれてもと心配もあった。
かって佳奈子も母から丁度幼稚園に進むことが決まって、一人でお買い物を頼まれた経験があった。しかし、その頃は公園にも子供たちが集まってブランコに乗ったり砂場で遊んだりしていた。子供はのびのびと外に出て歓声をあげて遊んでいた。そんなことを美華の顔を眺めて考えた。
でも、時が変わり、今は子供が安心して外に出ている姿も見られなくなり、治安の悪化でこの辺でも子供に話しかけてそのまま車に乗せようとしたり、歩いて見知らぬ男についていって危うく誘拐されそうな子供の犯罪が発生していた。
佳奈子は、美華が行ってる保育園の同じ父兄と子供が一人で出かけるときにはお互いが助け合って子供を見守りましょうという協力体制がいつのまにかできていた。
昨日美華に気がつかれぬようにひそかに商店街に通じる道筋の父兄仲間にあらかじめケータイで連絡、監視をしてもらう約束が出来上がっていた。
「美華ちゃん、頼むわよ、その間美華の大好きなホットケーキ作っとくからねえ」
そういって「これがお財布、この中に2000円入ってるから、お買い物できたら美華の大好きな絵本一冊だけ買っていいからねえ」
といいながら美華に財布を渡す。
美華は、「保育園に行くときの・・・・ええとアヒルさんのかばんに入れていくね」
といって柱にかけてあるかばんを小さな手で肩にかけた。
美華は、数ある保育園のかばんの中でも母親がミシンを掛けて刺繍をしてくれたあたたかい手作りのかばんが一番好きなのだ。
「美華、これが美華に頼むお買い物を書いてある紙よ、なくさないでね」
佳奈子は、美華の目線にあうようにかけているレースのエプロンを少し手繰って腰を屈めて、
「いいこと、ひき肉が300グラム。スパゲティーが一袋、ケチャップが一つ、それにソースが一つ、あとパンが一袋いいわね」
「ママ、美華わかった、ええとお肉、ひき肉でしょ、ええと、ええと、ああわかったスパゲティーが一つ、それにパンだよねえ」
佳奈子は、美華が眼をくるくるさせながら小さな指を折りながらわからないときにはちょっと首を傾けて子供なりに買い物の品を一生懸命に復唱している姿がなんとも言えず可愛く、思わず、美華を抱いて、
「美華ちゃん、いつのまにかお買い物の名前覚えて・・・・じゃ、行ってらっしゃい」と手を引いてエレベーターに乗り、1階のロビーから通りに出て、
「じゃ、行ってらっしゃい、頑張ってね」
そういって美華の姿が消えるまで手を振っていつまでも見送るのだった。
美華もときどき振り返って小さな手を振っていた。
佳奈子は、美華の姿が見えなくなるとケータイを取り出してまづ、同じ保育園の松本直子に連絡をすることにした。
「あのう、美華の母ですけど」
「あっ、佳奈子」
「あのねえ、美華が今買い物に出たの、で、あなたの家から美華を見たらそれとなく見張ってくれる」
「いいわよ、佳奈子、心配だったらあたし、美華ちゃんと一緒にお買い物に行ってもいいけど」
「はっ、それじゃ、今日一人でお買い物させてるのは美華のためだわ、お気持ちうれしく受けておきます」
一方、美華ははじめて一人で外に出て緩やかな坂を下っていた。駅に通じる通りは黄色や赤色に葉が色づいていてプラタナスの木々がきれいだった。
時折風が吹くと葉がぱらぱらと舞いながらくるくると落ちてくる。
美華は道路に落ちている赤いもみじの葉に眼を留めて
「もみじさん、とってもきれ~、美華に一つちょうだいね」
折りしも風が吹いてきて歩道に落ちた紅葉の葉がくるくる回って足元を廻ってゆくのだった。
「紅葉さん、ちょっと待って」
美華はちょっと駆け出して風の止むのを待ってしゃがんで
「この葉っぱ、赤くてきれ~い、美華これがいいなあ」
そういいながら赤い紅葉を二、三枚拾って、プラタナスの木に向かって
「ねえ、紅葉さん、きれいな紅葉をありがとう、美華大切にするからね」
頭をぴょこりと下げた。その様子をじっと2階の窓から見ていた松本真子の母、松本直子が気づいて、
「美華ちゃんががここを通るようだわ」
タンスの中からケータイを取り出して二階を降りて玄関から外に出て待つことにした。
遠くから美華が近づいてくるのだった。
美華は、生まれてはじめて外に出たのがうれしいのか
「ランラランラン・ランランラン」となにかわからないが、ハミングして松本直子の立ってる場所に近づいてきて、
「あっ、真子ちゃんのママ、こんにちは」と前に立ち止まって丁寧に頭を下げた。そのしぐさがとても可愛かった。
母、直子は、美華さんのままはとても子供をよくしつけてるわ、近頃は挨拶もしない子供もいるのにと思った。
「おばちゃん、そこで何してるの、真子ちゃんは」
と不意に聞かれて、
「おばさんはねえ、美華ちゃんを」
といいかけてあわてて口を閉じた。危うくいうところだった。危ない、危ない
「あのねえ、真子ちゃんは今お父さんと一緒に駅前の公園にいってるの」
と答えて美華の顔を眺めた。
「あのねえ、おばちゃん、美華はねえ」
「お使いに行くの、偉いわねえ」
「うん」
「気をつけて行ってらっしゃいね」
美華は、紅葉のような右手を振って
「さよなら」
と行って通りすぎて行った。
直子の母親はケータイをエプロンのポケットから取り出して、
「直子の母ですけど、美華ちゃんねえ、今家の前を通って行ったわよ」
と報告した。
美華は黒塀のある加藤さんの家に差し掛かってきた。
あっ、加藤さんのワンちゃんがいたら怖いなあと思っていた。
左折道路があって、美華は黒塀の角からそっと様子を見ていたが、そのときだった。
加藤さんのおじいさんが犬を連れて門から目の前に出てきた。
「あっ、わんちゃん、美華怖~い」
驚いて、あとずさりしようとしてる美華におじいさんが
「美華ちゃん、怖くないよ。ほらこんなに尻尾振っているよ」
加藤さんの家で買っている犬は決して大きくなくフランス原産のパピヨンで小さく大きくなっても4キロという犬だった。人なっつこくて陽気だといわれている。
小さな美華には犬が大きく見えるのだろう。犬は立っている美華をじっと見ているようだった。
「美華ちゃん、喜んでるよ、こっちに来てごらん」
美華は母がワンちゃんは尻尾を振ってるときは怖くはないのよといった言葉を思い出していた。
美華は、おじいさんに近づいた。
「ほら怖くないよ」
おじいさんに言われて美華は
「可愛いねえ、ねえ、ワンちゃんの名前なんていうの」
といいながら右手を恐る恐る出して毛をなでようとした。
犬は驚いて、舌を出して美華の小さな手をペロッとなめた。
「わっ、驚いた」
といいながらも犬になれてきたようだ。
「わんちゃんの名前はねえ、ごん太郎というんだ」
「ごん太郎」
犬の側にいつまでもいて様子を見ている美華だったが、
「おじいちゃん、美華ねえ、ママに買い物頼まれたの、さよなら」
そういってまっすぐ道を渡って歩いていった。
加藤さんのおじいさんもケータイを取り出して、ひそかに美華に知られないように
美華の母に連絡した。

美華は、
「ええと、お買い物は、スパゲティーにええとケチャップにええとごん太郎に・・・」といいながら
「ええと、スパゲティーにええとああ、ごん太郎に」
犬の名前を教えてもらって美華には珍しかったのか、立ち止まって、
右指を折りながら、
「ええと、スパゲティーに、ええとケチャップに、それからごん太郎に」
と後の買い物の名前が思い出せない。
「ええと、ええと」
首をかしげながら思い出そうとするけど、思い出せない。
美華は、小公園に差し掛かった。この公園は地域の環境整備のために市が地区ごとに作った公園で、土、日のウイークエンドには周辺の子供を連れた親子でにぎわっている。

                               (続)
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現代の鉄道車両東武鉄道特急「スペーシア」

2007-01-03 13:01:20 | 現代の鉄道車両
東武鉄道特急スペーシア100系特急電車は、浅草ー日光・鬼怒川を結んでいるほかにJR線との相互乗り入れが実現し、日光線・東北本線・旧山手貨物線を径由して新宿まで運転されている。
登場は1990年6月1日、特急専用車輌として製作された。
「Specia・スペーシア」の命名は、公募されたが、宇宙・空間などのSpaceスペースに温泉SPAスパを造語としてスペーシアとされたようである。
車内装備も特急にふさわしく豪華でサービスカウンター・電話室・自動販売機・ビュッフェのほかに私鉄ではじめての個室が設けられている。

長編小説「ホテルの恋人たち」改訂版①

2006-12-29 18:04:21 | 小説
この小説は僕の創作TVドラマシナリオ「ホテルの恋人たち」の小説化したものです。以前ホテルの仕事を経験しましたのでそれをもとに巨大ホテルでホテルマンとして成長していく3組の恋人たちを描きました。

第1章 恋人たちの出会い
うららかなもやの掛かった春の朝、上野奈央子はモノレールユリカモメの座席に腰掛けていた。今日は、奈央子が待ちに待った東京台場セントラルホテルに入社、第一期幹部候補生の研修の初日だった。奈央子は短大を卒業後、父、母を説得してアメリカのニューヨ―クにあるホテル経営学を専攻し、いずれ日本に帰ってから一流シティホテルに就職したいとその機会を虎視眈々と狙っていたのだった。
奈央子は派遣社員として外資系コンピューター会社に勤務し、彼女の働きぶりは
正社員より優れていると部内でも評判になっていたが、せっかくアメリカで身に着けたホテルの経験を生かしたいと思っていたとき新聞でホテル要員募集が大きく掲載されて応募したのだった。面接、筆記試験が通って奈央子はいよいよ自分の出番がきたと思った。

 ラッシュアワーが終わり、九時を過ぎたモノレールの車内は人影もまばらだった。
 ほどよい車内の暖房とうっすらと雲間から覗いた朝陽がほのかに車内に差し込んできてうたた寝をするには絶好の場所だった。
 奈央子はいつしか心地よいモノレールのゆるやかな揺れに釣り込まれてこくりこくりと居眠りを始めた。
 買ったばかりのブルーのコートに身を包み、首にはピンクのバラ模様のスカーフを巻き膝には母が就職を祝って買ってくれた大き目の赤いショルダーバッグを大切に載せていた。
「ここってどこ、ああミスった。早くおりなくちゃ」
 ふと気がつくと東京国際センター駅だった。
 奈央子は気がついて立ち上がりドアに行ったが、同時にドアは閉まってしまった。

 「これじゃ、最初から遅刻だわ」
一人遅刻して重い雰囲気の中に居る自分を想像していた。
 ドアの前には立っていたが、次の青海駅につく時間がこれほど長いとはと、気持ちは少しいらだっていた。
 ドアが開いて、ちょうど反対側に入ってきていたモノレールに急いで新橋行きに飛び乗ったが同時にドアは閉まり赤いショルダーバッグがドアに引っかかってしまった。
 「あっいけない。バッグの紐がドアに、あたしっていつもドジなのだから」
 奈央子は、バッグの紐を持って手前に引いたがなかなか取れなかった。
 赤いバッグは奈央子がホテルに就職したのを母は喜んで銀座で買ってくれたのだった。
 「あっ取れない、どうしよう」
 奈央子はモノレールのドアのゴムの部分に指を入れた。
 そのときだった。閉まって居たドアが緩衝装置が作動して少し開きそうになった。奈央子は急いで赤いバッグの紐を引いた。

 「ああ、よかった。紐が取れたらあたしママにしかられちゃうよ」
 国際センター駅に着いてドアが開いたとたん、彼女はかけだしてエスカレーターを降りてホテルに通じる街路樹のある通りに出た。
 春のいぶきがようやく感じられようやく芽吹いたマロニエの並木通りを時計を見ながら駆けた。

 同じ頃に深川洋一郎は東京臨海鉄道に乗っていた。
 学生時代から英語が得意だった。それで英語が行かせる分野でということで四菱商事に学校推薦を受けて入社して英語力を買われて部長、役員と随行し相手と交渉のため通訳を行っていたが、あるとき人事異動で社長室に移動してからというもの英語を使う機会を失っていた。
 登録していた人材センターからの斡旋でセントラルホテルに入社が決まったのだった。
 洋一郎の家族は入社を喜んでくれて昨夜ははしゃぎすぎて今朝寝坊することになってしまった。
「国際センター」駅に着くや否や洋一郎は脱兎のように地下エスカレーターを駆け上がり道路に出た。
 「俺ってどうしてこうなんだ、大切な人生の出発の時にうっかりして遅刻するなんて」
 駆けながらつぶやいた。

 奈央子もまた洋一郎の前を駆けていた。その時ケータイの着信音が周囲に響き亘った。
 「何で、こんな時に」
 そう云いつつバッグからケータイを取り出して見ると親友ゆっこからだった。
「ああ、奈央子、ねえ今日暇だったらデパート行かない?春のファンションセールが30%OFFよ」
「ねええ、あたし今忙しいの、またね、じゃあ」
 そう云ってケータイの電源を切ろうとした時だった。手にしていたケータイをポロリと落としてしまった。
 洋一郎は、
道路に落としてしまったオレンジ色のケータイを拾い、
「もしもしケータイが落ちていますよ」
と言い拾い彼女のあとを追いかけた。

 その声に走っていた奈央子は立ち止まり、
「ああ、どうもすいません」
そういって洋一郎の方を振り向いて側に来て持っていたオレンジ色のケータイを受け取って、
「じゃ、あたし急いでいますから」
と言いながら走って行こうとしたが立ち止まり後ろを振り向いて、
「ところであなたのお名前は?」
と言った。
「深川洋一郎と云います」
「大切なケータイを拾ってくださって、・・お礼を」
奈央子にそういわれても気持ちは落ち着かなかった。
「お礼なんて、当然のことしたまでで」
洋一郎は突然女性から聞かれて一瞬とまどったものの
「この人悪い人じゃないし」
と思いながらどこか高校時代の初恋の人に似てるなあと思いながら電話番語を教えた。
「どうも、夜改めて、失礼します」
と言って女性は走り去って行った。

洋一郎も右側の曲がり角を曲がってホテルに向かって走った。
走りながら
「あの人が僕の高校時代のずっと会いたかった初恋の人に似ているし」
と思いながら
「まさか、そんな馬鹿な」
と考えを打ち消すようにしてホテルの正面に着いた。
ふと見るとさっきの女性もホテルの正面のドアを開けて中に入った。
奈央子は
「わっすご~いホテルだよ」
と云った。
奈央子の目の前には大理石の床・広々とした空間に滝のある噴水、ギリシャ彫刻風の柱、モニュメント、吹き抜けの天井とシースルーエレベーター、1階から3階までのテナントの店舗をつなぐ螺旋階段、壁のきれいなモザイク絵画など、
奈央子の望んでいたホテルだった。

それもそのはずであった。
東京のお台場一帯は発展を遂げてすでにホテルが建てられてホテル間の競争は激化しつつあった。
いろいろな商業、アミューズメント、放送施設がすでに開業しており都心までわずか20分という地の利のよさが最近はアパート・マンションなどがどんどん建てられてかなりの定住人口が確保できることが予想された。
一番後発のセントラルホテル800室の収容客にふさわしく複合施設を有するホテルだった。
「いいなあ、このホテルで働けるなんてあたしラッキー」
奈央子は立ち止まり瞑想していた。

ふと、われに返るとそばにさっきの青年がいた。
「あっ、あなたはさきほどの」
「はっ、あなたはさっきケータイを拾ってくださった方ですね、上野奈央子といいます。この新しいホテルに勤めることになって、研修の最初の日なんで」
「いや、驚きました。実は僕も深川洋一郎です。」
「とにかく急ぎましょうよ、もうはじまってるし」
「だけど、あなたと二人でよかった、怒られ感も二人だと分けあえるし」
 シースルーエレベーターに乗って6階会議室の研修会場に急いだ。

 6階を降りると右側に会議室がありそこがホテル幹部社員の研修会場だった。
 ドアの入り口には机が二つ置かれてホテルの総務の男女の係員がじっとこっちを眺めていた。二人はちょっとバツの悪い顔で少しうつむいて近づいた。
 「どうも遅くなりまして申し訳ありません」と洋一郎が言った。
続いて
 「私も遅くなりました。ごめんなさい」と頭を下げた。
係員は
「お名前は?」
と言って机に置いている社員名簿を見た。
「深川洋一郎と申します」
「上野奈央子でございます」
係員は名簿を見ながら二人の名前にチェックを入れたあと、
「今日はまあかまいませんが、ホテルは24時間お客様のサービスを行うところですから明日は遅れず」にいらっしてください」
と言って脇にあった分厚い研修用のテキストを揃えて
「これがテキストです」
と言って二人に渡した。

「どうぞ、このドアを開けて中にお入りください」
と言って遅刻したことを許してくれたので二人はほっとしたものの遅刻した事実は覆い隠せなかった。奈央子は瞬間とまどい
「どうしよう」
ドアのノブをつかんで洋一郎のほうを振り向いた。
「いまさら」
「そうね」
洋一郎は率先してドアノブを掴んで引っ張って部屋の中に入った。
会議場が当てられていて高い天井のライトが社長の縁談をてらしているほかは思いのほか暗く二人はほっとした。ちょうどホテル社長の挨拶が行われているところだった。

 瞬間、皆の顔が後ろを振り向いて二人は冷たい視線を浴びた。
二人は目線をそらすかのようにして腰を屈めて一番後ろの空席に腰を下ろした。
 「で、ありますから21世紀の新しい時代にふさわしい24時間シティーコミュニケーションホテルを担われるみなさまには当社として大きな期待を持っております。今回日本ではじめて外国籍の方を7名も採用いたしましたのも国際化時代にふさわしく門戸を世界に開放したからにほかなりません。
 すなわち、アメリカ2名、中国2名、フランス1名、韓国1名、イギリス1名
計7名・・・・・」
 では、このホテルの企画から設計・建設に携わりました太陽建設の事業コンサルタントの・・・・・」
コンサルタントの大泉重雄が指示すると正面の大型液晶画面を総務の女子社員が操作をして同時にブラインドが下ろされて一段と部屋が暗くなった。

「皆様がこれからお仕事をされるホテルについてパネルでご説明いたします」
パネルNO1. 
東京都中央区台場1丁目、再開発用地
基本コンセプト
泊まる、安らぐ・・・・・・・・東京セントラルホテル
鍛える、見る・・・・・・・・・併設スポーツクラブ
選ぶ、楽しむ・・・・・・・・・SC SERIENA
パネルNO2
特色ある施設、360度シネスクリーン ワンダフルとうきょう
東京、横浜周辺の迫力ある光景(日本ではじめて)
常設館
パネルNO3
階層構成
32F展望ラウンジ
31F客室
客室
客室
客室
8F 客室
7F 大・中宴会場、
6F 結婚式場、フォト・スタジオ、フラワー・ショップ キッズルーム
貸衣装、理容室、美容室
5F 中・小宴会場・兼会議室、
4Fレストラン、コーヒー・ショップ、ミーティング・ルーム、クリニック
3Fショップ部門、
2F ショップ部門 
1F吹き抜けロビー、フロント、ガイドセンター、銀行、郵便局 ビジネス・センター、
B1駐車場
B2駐車場、 機械室、 カラオケ、地下BAR
ホテル部門  総室数 800室
ロイヤル・スイートルーム、スイート・ルーム、ツインルーム、シングル・ルーム。
各室、インターネット、液晶多目的TV、冷蔵庫、BGM、
FM装置、空調装置、電話、バス、洗面所、
大宴会場 800人収容、小宴会場、会議室、控え室
結婚式場、フォートスタジオ、美容室、理容室
郵便局、両替交換所、コンビニ店、案内所、フラワーショップ、バー、レストラン。
ショップアーケード。
パネルNO5  開発による相乗効果
台場周辺の住宅開発による定住人口の確保
住民の利便性の増大
ホテル利用者、定住者の健康促進
周辺ホテルとの協力、国内、海外宿泊客需要に対応
ベイエリア全体の経済効果
パネルのわかりやすいコンサルタント大泉の説明に研修生たち、静かに聴きいっていた。

 午前中の研修が終わって皆総務係から配られたお弁当を食べていたが、研修から開放されて誰言うことなくホテルの34階の展望室に上がった。
 昼休みの屋上展望等から見る光景は素晴らしかった。
 東はレインブリッジを挟んで品川・新橋・汐留・霞ヶ関から遠く新宿の超高層ビルまでが春霞にかすんで見えた。
 西は台場一帯、晴海から近くは築地・銀座まで一望のもとに収められた。
 滝沢が隣に居る女性の研修生に声をかけた。
「ここから見る景色はすごいなあ、だって東京タワーから新宿まで見えるし」
 「本当、東京タワーが小さく見えるよ」
 井上麻美が答えた。彼女は健康そうな日焼けした顔をにっこりさせて滝沢のほうを振り向きながら答えた。

 それもそのはず、彼女はホテルに就職して念願のそれもシティーホテルで、しばらくはホテルの仕事に燃えねばとつい二週間前友達麻香・優衣。奈美恵と三人でグアムに行って思い切りサーフィンを楽しんできたからだった。別れ際彼女は
「じゃ、、またね」
「ううん、でもあたしにとって遊びはもうお終い」
と友達にも宣言したのだった。
南国の強烈な太陽を避けるためサングラスを掛けていたのでいまだに目の周りと鼻の部分が白く残っているのを気にしていた。
「どうしたの、鼻と目の辺りがちょっと白いし」
滝沢に聞かれて、
「ううん、何でもないよ」
と答えたものの見破られたかと思った。麻美は話題を変えねばと思い、
「ところで、あなたは何でこのホテルを志望したの?」
「あっ、俺?・・・なんでって大した理由はないし」
「って言うか、ホテルは同じサービス業でもかっこいいじゃん、フロント立ってて若い女性に会える機会も多いし」
「はっ、あなた自分の将来決めるのにただ漠然と」

麻美は自分とあまりに対照的で驚いた。家業が関西のしにせの旅館っていうこともあって、最近の温泉旅館の凋落振りを目の当たりにして、父の後をいずれ継ぐからには新しい
「どっか入って仕事やらなくちゃ、だめもとと思って受けたら入って」
重信は直美の顔を見ながら
「俺って昔からすごい楽天的で、あなたは家はどこ?」
「あっ、あたしのこと、家は関西、父が旅館やってるの」
「何、関西?」
「温泉がどんどん少なくなって、それで将来ホテルをやろうということで」
「そうなんだ、それで家出したってわけか」
「ちょっとあなた、家出って人聞きの悪いこと言わないで、ねえ、あたし父にホテルをやりたいと言ったの、勉強してホテルで成功すれば旅館でもホテルでも宿泊業には代わらないでしょう?」
て父にいってやったのよ。

 「そうしたら、お前のいうことはもっともだ、筋がとおているからなあ」
 「ふーん、それで」
「あたし、アメリカのカリフォルニアのホテル学校に2年間留学したの」
という麻美の話に重信も感心した。
「君ってずいぶん努力家なんだなあ」
「そうよ、何でも一生懸命努力して勝ち取るの」
 重信は麻美に言った。
「俺は学校でサッカーの選手やって何回も優勝させたことがあるんだ。家には
二人のあねごが居て・・・デパートとか喫茶店に付き合わされて」
 「ちょっ、あなた、サッカー選手なんてかっこよくてさ、だけど今聞いているとお姉さんに玩具にされてんじゃない」
麻美は重信の顔を見ながらあきれた顔で云った。
 「そうなんだ、あねご二人に付き合わされて段々酒も飲めなくなってしまって」
と真剣になって
 「ちょっと気の毒みたいな」
と同情をした。

「じゃあ、同僚やスポーツの会合の時とかどうするの」
「そうなんだ、だから皆と飲むときなんかジュースで」
と答える重信を見て
 「あたしんちは反対ね、父の相手をさせられてね・・・少しだけ麻美も飲んで見るかと、二人のお兄さんと一緒にされて」
と麻美が言うのを聞いて重信は
「はあ、僕のところと君のところはまるっきり反対なんだ」
と云った。

「これってあなたんちとあたしんちを足して2で割るといいかもね」
「ところでえ・・・ホテルでなにをやりたいの」
「お、俺、フロントでも料理でも、営業でも身体を動かしている仕事したいと思うよ」
「あっ、そう」
「君は」
と訪ねた。
「あたしは料飲レストランでもいいわ。何しろお金になって世界料理まで覚えられたらいいよ」
「すげえ、現実的」
「でもね、企画とか経理とかの事務でもいいわ」
「なんだかあたしとあなた。友達になれそう、正反対がいいのかも」
「うん、俺も」
「じゃ、いい友達で」
「うん」
「あらためてっと、あたし井上麻美よろしくね」
「僕は、長谷川重信っていうんだ、よろしく」
長谷川重信は手を麻美に差し伸べた。麻美も微笑して手を差し伸べ二人は握手をした。

「ちょっと待って、この手をそのままでええと」
「何するの?」
手のひらにサインして
「サインしたからこれを持っていよう」
と言って、重信は手を滑らせ
「じいってコピー」
とコピーの真似をして麻美の手を滑らせた。
「コピーしたからもう大丈夫だ」
「なるほど、コピーね、面白~い」
と感心して云った。

一方奈央子は会社が支給した弁当を食べていた。皆、昼休みでこの部屋を出ていて研修会場は空虚な雰囲気で二人だけになっていた。
食べ終わって
「よかったら32階の喫茶室でお茶しない?」
と洋一郎を誘った。
「そうしようか」
二人は食べ終わった弁当を入り口の脇の箱に置いて通路に出た。
エレベーターに乗り32階で降りた。
奈央子は
「窓際に座ろうよ、船の見えるところがいいわ」
と云ってさきに立って歩きティーサロンルームの中に入り海のよく見える窓際に座った。

「あなたは何でこのホテルを?」
「僕、商社辞めてこのホテルに」
洋一郎がそういうと沙耶香は商社のようなところにいて不思議に思って
「そこを辞めるなんてもったいない」
と言った。
「誰もそういうね」
「そうなの、それで?」
「ところが僕の希望とは違い、まあ部長と中近東に二回出張したりしてよかったんだけど」
「部長さんと中近東2回もいけるなんて、もったいない」
「出張はそれ以来なくて経営管理室に回されて、毎朝、コンピューターで会議のための日報、月間統計表づくりなんだ」
「ずいぶん大変だけど地味な仕事なのね」
「商社って華やかな感じだけど」
「それでもっと人と人とのつながりを求めてホテルに転職したわけ」
「あら、もう時間」
「本当だ、行こうか」
自分にとっては大切なケータイを洋一郎が拾ってくれたことをお礼しなければと思い、
「ところであたしのケータイ拾ってくれた大切な人にお礼しなくちゃ、それにあたしの話も夜聞いてね」
と云った。

洋一郎は
「お礼なんていいよ、ほかの人でも拾ってあげたよ」
とさらりとした気持ちで云った。
奈央子は意外な洋一郎の冷たい反応に
「ああ、そうそりゃそうだけど、あたし想い出のケータイ拾ってくれた人っていってるのに」
と少し怒って見せた。
洋一郎は
「ごめん、いまの言葉取り消すよ」
と素直に謝った。
思い直して、
「ま、いっか。・・・・許してあげる」
と言って二人は仲直りをした。
「私って借りは返さないと気がすまない性分ないの」
「借りはいつでもいいよ、そんなに気を遣わないように」
「そうそうあたしの知っているところでお食事して、ケーキ食べて、ピアノ演奏聴きながら楽しむたりしたところあるの」
「君がそんなに言うなら借りを返してもらおうか」
「あなたが、私が落としたケータイ拾って呉れなければ・・・改めてお礼いうわ。あのケータイ、私にとっては想い出の・・・」
と言葉が詰まる

そういって奈央子の顔を見た。洋一郎の頭には
「この人、心の中で高校時代の初恋の人に似てる」
と気持ちが消えなかった。                         
展望台では研修生が思い思いの昼休みを過ごしていたが一人寂しそうな表情で海を眺めている韓国出身のキム・オルソがいた。
奈美は
「ねえ、ここで記念の写真撮らない」
と云って寂しそうな韓国のキムを仲間に加えようと思っていた。
太一は
「おーいっ、写真撮るぞ」
と大声で仲間を集めた。
奈美もさらに
「キムさんもいっしょに撮りましょうよ」
と誘った。
絵里奈も
「いっしょに撮りましょうよ」
といってキムの手を引いて彼も仲間に入れた。

紀夫は
「じゃいい、はいチーズも古いし、1+1はにっつこれも古いし、キムさん、韓国ではこういうときに何ていうんだ」
と彼に肩を持たせたいと思って尋ねた。
キム・オルソは
「韓国じゃ1・2・3のこと、ハナ・トウ・セッツていうんだ」

「OK,それできまり、国際親善で」
紀夫は
「ハナ・トウー・セッ」
キム・オルソも笑ったが写真を撮り終えるとまたさびしそうな顔に戻った。
傍の絵理奈がそれを見て心配そうに彼に尋ねた。

絵理奈は
「ねえ、聞いていいかなあ?あなた一人でさびそうだけど何か心配事でもあるの」
キムは
「絵理奈さん・・・・、僕のことを気遣ってくださってありがとう、カムサハムニダ。実は・・・・ソウルの高校時代の初恋の人がいなくなってその後日本に来てることが・・わかったんです」
絵理奈は
「ああ、そうなの?。ここは日本だからきっとその人に会えるよ、元気出しなさい」
キムは
「どうもありがとうございます」
と絵里奈に丁寧に頭を下げて韓国でよく見せる礼儀正しさを示した。
                               未完 執筆中



長編小説「愛は時を越えて」①

2006-12-29 18:02:40 | 小説
愛は時を越えて 

この物語はノンフィクションであり、ここに登場する名前・会社名は実在しません。

     目   次

愛は時を越えて
第一章   旅立ち                                        
第二章   ギャレーの仲間たち              
第三章   運命の出逢い                 
第四章   揺れ動く心                  
第五章   亜理紗の償い                 
第六章   ホリデー                   
第七章   再会                     
第八章   想い出                    
第九章   新人類の青春                                  
第十章   回顧                     
第十一章  五番街                    
第十二章  白い観光馬車                
第十三章  フィナーレ                 


二 けだるい夏の日                
  
三 終電車                    



「愛は時を越えて」

第一章   旅立ち

昭和四十一年、、長かった残暑も終わりを告げ、街を行きかう人々にも夏の疲労が消えて、落ちついた表情を見せていた。昨日の雨も上がり、限りなく青に近い秋の空を見つめながら、錦小路裕彦は、羽田空港国際線出発ロビーに着いた。あるメーカーの北米販売網拡充のための予備調査を一任されて思わず身震いするような気持ちだった。

思わず両手を拡げて背伸びして
「よおし、やるぞ」
と決意を固めた。出発までまだ二時間くらいあったので、公衆電話で電話を掛けようと受話器を取る。

「錦小路ですが、ニューヨークに行ってきます」
部下の井上が出てきて、
「主任心配しないでください。まかせてください」
という声を聞いて安心した。電話のそばで
「誰なんだ、えっ錦小路君、僕に貸して」
せっかちな声がして。部長が出てきて、
「錦小路君、大変だろうがしっかり頼むよ。ユナイテッド・デリバリー社と契約するための調査だから、君を信頼しているよ」
裕彦は一切を任されていることを改めて感じた。

「部長安心してください、満足な結果得られる調査報告書持って帰りますから」
「身体には気をつけてな、じゃあ」
裕彦は三十歳を過ぎて今一番働き盛りを迎えようとしていた。同じ時期に入社した同期生はもうほとんどが結婚し家庭を持っている。裕彦の母はいつまでも独身でいることを心配し、いろいろ縁談を持ち込んできた。もちろん、いくつかお見合いをしたが、結局このお見合いはなかったことにしてください、本当にごめんなさいと断ったのだった。父は、裕彦に教育熱心だった。特に英語を厳しく教えてくれたが、それ以外の結婚については、裕彦が自分で決めることだとまったく干渉してこなかった。

そういう家庭環境に育った裕彦にはどうしても忘れることのできない想い出があった。
それは太平洋戦争中、幼稚園で知り合った女の子と小学校時代までずっと一緒だった高梨亜理紗を忘れることができなかったのである。なぜなんだ、幼稚園の聖書劇で一緒に出た女の子を好きになってそれから小学校までずっと一緒に過ごしてきてもう二十年たっているのに忘れられないなんて。初恋の人ってこういうものだろうか。
いまだに独身で母に心配掛けて、
「ごめんね」
と謝った。

胸の中では、年齢も三十二歳と不惑の年を迎えたものの仕事を選ぶか、それとも皆と同じように結婚して家庭を持つかで悩んでいるのだった。
そんなことを思いめぐらしている裕彦の頭上に搭乗案内の声が降り注いだ。
「皆様にご搭乗便のご案内を申し上げます。極東航空808便、ホノルル径由サンフランシスコ国際空港へお出でのお客様は27便ゲートにお越しください」

同じころ、出発前の極東航空808便北米線フライトのチェックが行われチーフキャビンアテンダントの高梨亜理紗もそこにいた。プリブリーフィング(ブリーフィングの前段階)、は空港会社内の極東航空のコンピューターの端末チェック、端末を使って搭乗便の乗客数、乗客インフォーメーション、機材、駐機場番号、などをチェックして同乗する七人のキャビン、アテンダントたちの一連の確認なのだ。

亜理紗は入社十年たっていた。幼い頃戦争の苦難を乗り切ってきた。戦争が終わり平和が戻ると、自らの経験から、結局戦争があるのは、相手の国の人たちの理解が足りないからと思っていた。海外渡航が自由化されて人々が世界に雄飛するとこれからは世界を飛んで自分の目で世界の人々を確かめてもっとお互いが理解しなければ、それが平和につながるはずだと固い信念を抱いていた。

それで、アメリカの二年間の大学留学から帰国して極東航空に入社、企画開発室を経て一年前チーフパーサーキャビン・アテンダントになった。
それだけに、仕事に掛ける情熱はすさまじいものがあった。
極東航空は後発会社だったが、高岡社長のお客さまサービス主義を第一とし、現場でお客さまに接するCA、クルーの会合に出席し、意見をどんどん取り入れて利用客も大幅に増加しつつあった。現場の社員を本社各部門に配置し働きやすい職場だった。それだけに仕事に掛ける情熱はすさまじいものがあった。かってキャビンアテンダントの頃は先輩に叱られその辛さ、厳しさを知っているので早く一人前になってほしいという情熱がありいつしか鬼の亜理紗と呼ばれた。
そんな仲間たちから恐れられている亜理紗にもさびしさを漂わせることがあった。もちろん、仕事に掛けては優秀で、新人の教育も徹底していて上司からも信頼されていて、チーフキャビンアテンダントまで上り詰めて何ひとつ不自由なことはなかった。

キャビンアテンダントの仕事は時間も不規則で搭乗客のサービスに満面の笑みを浮かべながら、襲ってくる時差との戦いにも耐えて、フライトを終えて空港から全身に疲れが出て制服のままでタクシーで帰宅することもままある。フライトを終えて会社を出て立派なマンションに戻り、鍵を開けて中に入るとソファ、テーブル、テレビ、本棚、衣装ケースとオランダから買ってきた西洋人形がさびしそうにしていて、壁には蛍光時計が時を刻んでいるほかはそこには誰もいない空虚な空間が横たわっていた。壁にもたれて制服も着替えずに身体を少し屈めて
「あたし三十二だよね。なにやってんだろう」

亜理紗には、幼稚園、小学校時代に、自分を好きになってくれた男の子、錦小路裕彦がいた。、あんなに小さいときの裕彦の初恋って、裕彦さんが私を好きなんだから。最初は軽い気持ちで、あたしを好きな男の子が居るのと友達に伝えていたのだが、次第に裕彦への思いが深まっていった。

もちろん、自分はキャビンアテンダントでこのまま仕事をして行く行くは客室部長になれないでもない。会社は実力主義を取り始めていたし彼女の仕事ぶりをみなが認めていた。亜理紗にはいろいろな人たちから縁談の話も沢山集まって。それらの話から何回かお見合いした。また同じ会社のクルー、木下機長からも
「僕と結婚してください」
という話もあった。しかし、亜理紗は最後には断ったのだった。自分を好きになってくれた人やお見合いをした人を断ったためにいつしか周囲も亜理紗はきっと仕事に生きる人と周囲に思わせるようになり、お見合いの話も途絶えたのだった。

「私がいけないんだ。いいお話もあったし、木下機長だって、私を愛してくれてるのに」
でも一方では、
「自分が本当に好きだという人に私の愛を差し出したい。どんなにお見合いのいい話があっても自分の心を閉ざして結婚することは自分にとって不幸になるし、相手の人を幸福にできない、そんな偽善的な気持ちで結婚はできない」
と考えていた。

亜理紗はふとわれに帰り
「いけない、いけない、こんなセンチメンタルな気持ちになって、私には大切なことがある。」
と一筋の涙を拭い気持ちを無理に切り替えた。極東航空空港支店ではサンフランシスコ808便の出発準備のために慌しかった。
化粧室でユニフォーム姿を鏡で見ながら
「ええと一にスマイル、二にスマイルか」
がっつポーズを取って
「私はやる、ようしがんばるぞ」
と気合を入れて化粧室を出て行った。

長い通路を極東航空客室部に向かって歩く間、羽田空港に乗り入れているさまざまな航空会社のCAの制服が趣向を凝らしていて多くは紺色の制服だが、中にはオレンジ・イエロー・レッド・スカイブルー・ブラウンなどに混じってアジア各国の民族衣装をモチーフにした制服を纏っているキャビンアテンダントたちも行き来していて亜理紗は国際的雰囲気を醸し出している光景が好きだった

極東航空の客室部のドアを開けて、中に入ると秘書が、
「高梨さん、部長がお呼びです」
亜理紗は、部長が私を呼ぶなんていったい何なんだろうと思った。部長は亜理紗に期待を寄せていて、ホノルルフライトの桜田チーフパーサーが病気、入院しているので、ヨーロッパフライトで時差の疲れも出て休みを取っているにもかかわらず電話してくるなどあって部長のところに行くのが不安だった。
亜理紗は、そう思って部長席に行った。

「部長、お呼びですか?、高梨ですが」
「おお、高梨君、ご苦労さま、今回、うちの新しいニューヨークツアーの企画開発のために今日のサンフランシスコ808便で乗り継ぎをして急遽ニューヨークまで飛んでもらうことにした。それでどうだろう伊東葉月、後藤いずみの新人にも経験してもらって」
「はっ、あの新人ですか?」
「たしかにあの二人は、個性が強いとか、自己中心主義とか言われてるようだが、僕はあの二人育て方によっては立派なCAになると思うよ」

「部長、こんなこと言うと怒られるでしょうか、、ほらこの頃の子ってこうだから、こうしてねと言ってもわかってますとか、どうしてですか?とか結構こっちの方で後輩に気使うんですよ」
チーフとしての自覚は持っていたが、最近研修を終えて入ってくる新人CA(キャビンアテンダントの略)は苦手と思っている。
「二人とも研修は終わってるし、合格してるし、君なら大丈夫だし」
と部長は一番仕事はできるしと思っているようだ。

「鬼の亜理紗君なら大丈夫」
「部長、鬼の亜理紗ってその言葉止めてください」
そう言い終わると、ちょっとふくれっ面した顔でぴょこんと部長にお辞儀して用意していたカートを手に持った。彼女は、小走りでカートを引いてプリ・ブリーフィング(前の段階でのブリーフィング)の行われる部屋に向かう。すでに六人のキャビンアテンダント仲間と本多パーサーが待ち構えていた。
「遅れてどうもごめんなさい」
軽くお辞儀して直ぐに打ち合わせが始まる。

亜理紗は、
「これから打ち合わせをします。自己紹介のあと、皆様各自の受け持ち、サービスの内容、各クラス別の乗客数、そのほかキャビン関係で生ずる事柄などを行いましょう。本日は伊東葉月、後藤いずみさんの新人2名を加えて七人のキャビンアテンダントで搭乗します。
「では、まず、私から、秋野さん、小西さんの順にお願いします。」、
「高梨亜理紗と申します。私は極東航空入社十年を経ていて七期生です。海外線勤務五年を経過しています。どうぞよろしくお願いいたします」
「秋野絵里子といいます。九期生です。どうぞよろしくお願いいたします。国際線搭乗経験は三年目です」

亜理紗は
「はい、次ぎの方」
「私の名前は小西優子で十一期生で」
「山下はるかと申します。十三期生で」
次々に自己紹介があって新人二人の番が巡って来る。              
「伊東葉月と申します。同じ十五期生で国際線勤務は二回目です。、よろしくお願いします」
「後藤いずみといいます。同じ十五期生で国際線搭乗はこれで二回目です。どうかよろしくお願いします」

亜理紗は、
「では次の方」
(わっやばい、次ぎって言ったけど、私しかいないじゃないか。そそっかしいなあ。)
そう思いながら、皆に伝えておかなければと思い、急にすまし顔を作り、
「ええと、本日ファースト、エコノミーともほぼ満席です。お客様が何を求めているか、注意を払ってクレームが出ないように気をつけてください。サンフランシスコまで約十二時間、途中、ホノルル国際空港に寄航します。長時間のフライトですのでお互い助け合って、交代して休息取って疲れないようにしてまいりましょう」

皆は納得して亜理紗の説明を聞いていた。なおも皆の指示、キャビン関係、緊急事態発生の対応などについて説明は続いていた。プリブリーフィングを終えて亜理紗は、乗客インフォーメーションを見て車椅子の客、UM(無添乗の子供)を見て
「一七七人プラスゼロかあ」
プリブリーフィングを終えると、続いて、平井機長、福島副操縦士、小林機関士のクルーが待っている室に入った。

「さあ、合同ブリーフィングを始めよう」
平井機長が言った。合同ブリーフィングとは、クルーとキャビン関係者のCAが緊急脱出時の対応、非常口の確認、到着地までの飛行ルートの説明、天候とか、キャビンアテンダントとして必要とされる説明を行うことなのだ。皆は、長身の平井機長の説明を聞いて、航路上の天気も安定していて、ジェット気流に乗れればサンフランシスコまでの時間も一時間ほど短縮されることを聞いて安心した。

代わって、亜理紗が、
「では、私たちのサービスプランについて簡単に説明します。離陸後二時間で最初のお夕食ミールサービスを行います。本日のお客様は、ファースト五名、エコノミーが百七十二名、トータルで百七十七名様の予定です。あわせてお客さまの入国書類の配布、食前酒とドリンクサービスの用意を行います。なお、本日は、ベジタリアン(菜食主義者)のお客様が五名ほど居られます。ベジタリアン食は、万一に備え七名様分用意してありますが、間違わぬように充分注意してください。このほか免税商品販売も行いますのでそちらのほうもよろしくお願いします」

皆の顔を眺めながら新人二人にもわかるように丁寧に説明し頭を下げた。皆に説明しながら亜理紗は、ふと本多木綿子のことを考えていた。今から、一年前までは、キャビンアテンダントとして本多チーフパーサーの指図に従って言うことを聞いて、乗客サービスに対応していた。亜理紗は、乗客から頼まれたことを他の仕事をしていてついうっかり忘れたり、行動が遅く厳しくあなたは信用できないと乗客から怒られたとき、深くわびたあと、ギャレーの片隅で泣いていた。

そんな時、
「高梨さん、元気を出しなさい、どうしたの、私に話してごらんなさい」
といつも優しく亜理紗の話を聞いて、励ましたり、家に呼んだり、暖かく抱きしめてくれたり、時には食事に誘ってくれたりしてかけがえのない頼れる先輩だった。
そんな本多が、ある日、
「亜理紗、私、9月1日付で地上勤務になったの」
と一枚の辞令を見せた。
辞令には。
「極東航空本社、企画開発部課長を命ず」
と書かれていた。
「本多チーフパーサー、おめでとうございます。けど、チーフが本社に行かれたら私は誰に相談したらいいかなあ」 
と少しか細い声で本多の顔を見つめた。

「しっかりしてよ、亜理紗、私の後任っていうか、立派なチーフパーサーよ。もう、あなたに教えることないし、これからも色々なれないこともあって戸惑うこともあるでしょうが、あなたなら大丈夫、頑張ってね」
そういわれてもう一年たった。今までは、何か起こっても本多チーフが責任を負ってくれて安心していられた、まるで風雨が強く、防波堤の中に居るように高波から自分を守ってくれるような本多の大きな存在を感じた。これからは、すべて私が六人のCAの前に立って機内の出来事に立ち向かわなければと覚悟しなければと思っていた。

合同ブリーフィングを終えると、クルーは去って、いつものように亜理紗は、駐機場に続く長い通路を六人のキャビン・アテンダントたちと歩いた。歩きながら
「もう十年目かあ」
とつぶやいた。
駐機場には機体にグリーンでFALをデザイン化したダグラスDC8スーパーコンステレーション(空の貴婦人)が大きな巨体を横たえていて銀翼がきらきら陽の光りに輝いていた。搭乗機を眺めながら世界の空に羽ばたこうとするこの瞬間が大好きだった。これだからキャビン・アテンダント辞められないんだわといつも大きな瞳で見上げていた。
(しかし、でもあたしは結婚願望でおいおい二重人格者かよ)
と心の中は複雑だった。

階段を上がり機内に入ると亜理紗は並んでいる五人のキャビンアテンダント一人ひとりに手を合わせて微笑みながら、
「さあ、頑張っていこうよ」
といつものようにエールの交換を行った。この仕事はなによりも皆と一緒にチームワークを形成することが大切と考えていた。搭乗客を迎えるためにキャビンアテンダントたちがやらなければならないことは非常に多かった。さあこれからが戦場だ。

亜理紗は
「機内の整備状況、サービス物品点検、飲み物とか、お食事の量の搭載、オーデオチェック、それにトイレの確認とか仕事、山ほどあるんで、このチェックリスト見てチェックしてちょうだい」
新人2名が入っているので、
「乗客搭乗まで少ししか時間がないの、協力してやりましょう。葉月さん、いずみさん、頑張ってねえ」。
二人は
「はい」
と返事して、葉月はトイレと収納棚チェック、いずみはオーデオチェックに廻るのだった。

乗客の搭乗まで目前に控えていて七人のキャビンアテンダントはトイレの水の流れ具合、客席のオーディオの確認、国内外の新聞の確認、テレビの状況、荷物収納棚一つ一つのチェックなどをこなさなければならず駆け巡って戦場のように混乱している。一方、ギャレーでも三食分の食材、食器、飲み物の量、免税商品の確認などを短時間で終えねばならず喧騒だった。
「いつも戦場になるし」
亜理紗は低い声でつぶやいた。

「お食事の数、ミート、フィッシュ、それぞれ、それと・・・・そうそうベジタリアン食も」
客席ではキャビンアテンダントたちの声が飛び交っていた。亜理紗はチェックリストを持ち由佳里の数えた結果を記入確認している。
その時、
「乗客搭乗五分前です」
という声が天井から響いた。

その瞬間、今まで喧騒だった機内がシーンとして元の静けさに戻った。いよいよ搭乗客を迎えるこの一瞬は亜理紗たちを緊張させた。三人のキャビンアテンダントとチーフパーは搭乗口に立ち搭乗客を迎えた。
「ウエルカム・トゥー・ボーデイング」、
「いらっしゃいませ」
「こんばんは、ようこそ」、
とことばこそさまざまだったがお客様を心から迎えることには代わりがなかった。客席に立っていたいずみが素早く
「お客様、お席がお分かりになりませんか」
七十歳過ぎたと思われた白髪の婦人は小さなボストンバッグを手にしていたが、重そうだった。

「20のCのお座席はこちらです」
と婦人が持っていたボストンバッグを収納棚に上げた。乗客が搭乗し終わると七人のキャビンアテンダントで機内をめまぐるしく廻り、仕事をこなさざるを得ない。快いパーシーフェイスの音楽のBGMが止むと、亜理紗はハンドマイクを手にして「ただいまの音楽はパーシーフェイスオーケストラで、夏の日の恋・サンホセへの道・酒とバラの日々・・以上10曲担当はチーフパーサーの高梨亜理紗でした」とユニークな乗客サービスの一つだった。キャビンアテンダントは通路に立ち救命胴着を身につけて非常の際の脱出方法を説明しはじめる。亜理紗は時計を見ると出発十五分前を指していた。マイクを取りアナウンスをはじめた。

「皆様こんばんは、本日は極東航空DC8・808便にご搭乗くださいましてありがとうございます。当機は途中ホノルル国際空港に寄港、サンフランシスコ空港に参ります。当機はまもなく離陸いたします。お座席のシートベルトを今一度ご確認くださいませ」
葉月といずみは新人なので亜理紗の傍のシートに座った。
続いて
「ウエルカム・ボーディング・トゥー・ファーイーストエアーラインDC8・808フライト・・・・・・・・」
座席のシートベルトの確認をアテンダントたちがお客様の席を見回りながら確認している。

「シートベルトのご着用をお願いいたします」
「ジス・フライト・テイクオフ・フュー・メネッツ・プリーズ・メイクシュアー・シートベルト・サンキュー」
放送を終わると亜理紗もほっとして緊急脱出ドアの傍のシートに座りシートベルトを閉めた。
 
一方、コックピットでは、機長、副操縦士が最終点検を行い離陸準備を始めていた。
 羽田航空管制塔とファーイーストエアーラインの航空機の間で交信が始まっていた。機長が
「こちらは極東航空808便サンフランシスコ行きです」
「ジス・イズ・ファーイースト・エアー27、クリア・トウー・スタート・・・」
副操縦士が復唱して、
「ビフォーアー・スタート・チェックリスト」、
「エンジンスタート3」
「エンジンスタート4」

次々に動作確認をすると、エンジン音がひときわ高くなり、
「ナンバー4スタート、フルパワー」
最後に四つのエンジンが全開して離陸体制が完了するのだった。
一方、機内では、キャビンアテンダントも着席、やがて轟音とともにエンジン全開で滑走路を疾走、、轟音と共に離陸し大空に舞い上がった。やがて、シートベルトサインが消えてFALをデザインした七色のエプロンをそれぞれがまとってキャビンアテンダントたちは忙しそうに働き始めた。


創作TVドラマシナリオ「新浦島竜太郎物語」第一部

2006-12-24 14:15:55 | 創作TVドラマシナリオ
この物語は、おとぎ話の現代版である。浦島竜太郎は、沼津の羽衣海岸の漁師である。竜太郎たちは、漁船を操って沖合いへと出かけ、定置網で魚を獲るのであったが、最近は海洋汚染とか不漁が続き、竜太郎も困惑していた。組合でも対応策を考えたが対応策は見出せなかった。
そんなある日、子供たちが海岸に打ち上げられた数匹の海亀が子供たちによって虐待されているのを竜太郎が動物を虐待してはいけないと子供たちを諭して海亀を逃がしてやった。
その夜、家族が寝静まったころ、竜太郎のポケットのケータイが鳴り、男の声で「この間、亀を助けたお礼があり、あなたにお会いしたいので海岸に来てほしい。」ということだった。
竜太郎は狐につままれた面持ちで約束の海岸に出かけたが
すでに夜中を過ぎていた。、その時きれいな衣装をまとった女性が一人いた。
彼女は、亀を助けた御礼と、自分は海の魚たちの管理と保護を行っている国家であるが、是非海の魚類保護と水質の汚染破壊防止に協力したいということであった。
竜太郎は怪訝に思ったものの、話の本質は筋が通っていて、竜太郎も近年海洋汚染によって魚が獲れないこともあり、この問題を解決したいと思っていたので相手の要求に応えることとした。。
女性は小箱を取り出して、「決して危険なことはありません、これから私たちの国にお連れするまでのことは秘密で誰にも話さないでほしい」と言って小箱を開けた。
箱の中から白い煙が立ち上ると、竜太郎は煙を吸ったとたん、意識がボウッとなった。
どれくらい時間が経ったのだろうか、「お目覚めですか。もう大丈夫です。」と頭上から声がした。竜太郎があたりを見るとそれは潜水艦の中だった。
「どうして私はここへ。」と聞いたが、傍に居た乗組員は、「思い出すことはできないでしょう、あなたをわが海底の国にお連れするためにはやむを得ないことです。どうぞご了承ください]
ということだった。
私たちの自慢の原子力潜水艇をお見せしましょうと女性の乗組員が竜太郎を案内してくれたが、想像を絶するものだった。
それは、映画館、スポーツ施設、医療センター、インターネットカフェから美容院・総合クリニック、シアター、大食堂、キッズルーム、小型SCと何一つ不自由しない地上での施設がそろっていたのだった。
こうして数時間後、海底に立派な建物があって竜太郎は、海岸で亀を助けたお礼ということでもてなしを受けるのだった。
海底の国だけに魚料理一色であった。
しばらくおもてなしを受けたあと、年配の紳士が現れて、私たちは海底にある国で、魚だけしか食べない民族です。
私たちにとって魚資源の枯渇は生死にかかる大きな問題です。陸に住んでいる地球民族が私たちの存在を知ったら戦争をしに来るでしょう。それで誰にも知られたくないのです。
あなた方は近年地球環境汚染で特にあなた方も魚が不漁で困って居られるようですな。
海洋汚染と言っても一朝一夕に解決される問題ではありません。
竜太郎と年配の紳士は海洋汚染について真剣に話し合い、お互いのためにも認識を新たにし、竜太郎たちは海への不法投棄を防止、監視パトロールを行うこと、組合を通じて海洋汚染の啓蒙活動を行うこととか、船舶の海上での不法投棄をしないことで海洋汚染を防止し、アトランティス国を守ることなどを話し合った。
そのあと、海洋牧場、食料生産工場、医薬施設などを見学、
地球上の技術よりさらに高度なアトランティス国の水準の高さに驚いた。
7日後、竜太郎はなつかしい故郷に帰った。
竜太郎が去るとき、不思議な小箱のようなものをプレゼントされたが魚群探査機で、コンピューターと連動して船舶に載せることにより、どの海域に魚がどれほどいるか測定できる機械だった。
不漁に泣いていた竜太郎たちはこの魔法のような正確な探知機で魚を追跡、探査機に示された数量の魚を獲ることができて喜び合うのだった。
めでたし、めでたし。、




新浦島太郎物語

■沖合い漁船
沖合いの定置網を見に行く一艘の漁船(遠景、次第にズームアップ)
龍太郎「今日こそは定置網にいわしが掛かっているだろうよ」
義男 「ならいいが」
太一 「昔はこないことあらへんかったが」
康夫 「魚が獲れんからって、俺ら漁師が魚屋でいわし買ってたら、話にならん」(笑)
 
■三笠海岸

子供たちが4~5人集まって、台風で打ち上げられた数匹の海亀を囲んで棒を持って、亀をたたいたりしていじめている。
そこへ漁師、浦島竜太郎が通りかかる。
龍太郎「これこれ、亀をいじめるのを止めなさい」
子供A「(不審そうに)おじさん誰?」
龍太郎「浦島竜太郎だが、とにかく罪もない動物をいじめるのだけは止めなさい」
子供B「(驚いた顔で)おじさんてっ、あっ、知ってる、あの浦島太郎の孫?」
龍太郎「まさか、あれはおとぎ話だ」
子供C「でも名前とか似ているし」
龍太郎「まあ、とにかく亀を棒でたたいたり、いけないことだよ。昨日台風もあって死にそうじゃないか」
子供D「たしかに、おじさんの言うとおり、逃がしてやろうかねえ、皆」
一同 「そうだ、おじさんの言うとおりかわいそうだよ」

龍太郎「じゃ、皆で海に帰してやろう」
子供A「もう二度と捕まってはいけないよ。さようなら」
龍太郎「皆いいことをしたね」
龍太郎、ポケットからお金を出して
竜太郎「皆でノートでも買いなさい」

■龍太郎のマンション(一人住まい)
コンビにで買った弁当を食べて時々お茶を飲んでいる。
机で一生懸命何か書いている。
昨日の不漁対策のための対策を書き上げて
龍太郎「さあ、寝るか」
その時、ポケットのケータイの着信音
龍太郎「はい、浦島ですが、どちらさま」
女性の声「浦島竜太郎さまですね。この間は海亀を助けていただいてありがとうございました」
龍太郎「はあっ。?」
女性の声「実は、あなたは大切な海亀を助けてくれたので、?」
龍太郎「それで、何でしょうか」
女性の声「あなたにお礼したいのです。それに助けを借りたいこともあるし」
龍太郎「わかった。で場所は」
女性の声「三笠海岸の三本松の木の下で」

■タイトル 新浦島竜太郎物語
      出演者・・・・・

■深夜の三本松 木の下(波の打ち寄せる音)

三本松の木の下で
龍太郎「何だ、誰もいないじゃないか、するとあのケータイは」
そういいながら時計見て
龍太郎「もう1時かよ、いたずらかあ」
その時後ろから光を感じる。
任えの女性「浦島竜太郎さまでいらっしゃいますね?」
浦島竜太郎「は、はいそうですが」
仕えの女性「あなたは、私たちが大切にしている海亀と子亀を助けてくださってありがとうございました」
龍太郎「いえいえ、可哀想で見てたら」
仕えの女性「あなたさまは心のやさしい方です。それで私たちはお礼をしたいと、それと私たちは今深刻なある問題を抱えています。それであなたとご相談したいことがあります。是非協力していただきたいと」
龍太郎「えっ、で相談とは」
仕えの女性「あなたも漁師で困って居られると思います。それでお互い困っていれば」
龍太郎「わかった、それでどこで?。いったいあなたは?」
仕えの女性「私たちは海底に済むもので」
龍太郎「まさか竜宮城っていうんでは」
仕えの女性「いえいえ海底でも、おとぎ話と違います」
龍太郎「わかった、話を聞こう」
仕えの女性「それでは、これからあなたを私たちの国にお連れします、で」
龍太郎「で?」
仕えの女性「あなたをお連れするには、このことは絶対秘密です。あなたの記憶を一時的になくします」
と言って女性が袋から箱を取り出す。
龍太郎「まさか煙とか出ておとぎ話の・・・・・・まだお爺さんには」
仕えの女性「いえいえ、そんなものでは」
龍太郎「そんなものって」
仕えの女性「私たちはあなた方のように嘘つきません」
龍太郎「それを信じよう、でもその箱は玉手箱みたいな」
仕えの女性「じゃないんですよ」
龍太郎「・・・・・」
仕えの女性「あなたを私たちの国にお連れするには。やむを得ないんです」
龍太郎「わかったよ」
女性が近づいて箱を開ける。中から煙が出て
次第に龍太郎は眠くなったくる。
仕えの女性「ごめんなさい、1時間くらい寝ていただきます」
龍太郎「やっぱりだまされた、俺はなんて馬鹿だ、これはら、拉致された・・・・・・・」
と言いながら龍太郎、倒れて寝てしまう。

■原子力潜水艇

1時間後
寝ていた龍太郎、館内のベッドで目を覚ます
龍太郎「ここはどこ」(あたりをきょろきょろ見回すように)
女性覗き込むように、
3201「おめざめですか?、ご気分は?」
龍太郎「あ、あなたはだれですか?」
3201「ご心配なく、あなたを私たちの国にこれからお連れするだけです」
龍太郎「名前は?」
3201「私たちは皆統一番号で呼ばれています3201です、おいやでしたら花子でも、裕子でもどうぞ」
龍太郎「驚いた、なあ・・・、けど、ここに来るまでの道とかがわからないが。3201さん?」
3201「それは、・・・それは困るんです」
龍太郎「なぜ?3201さん、何か変だなあ、よしこれからは花子って呼ぶことにするよ」
3201「陸に住んでいる方に知られては困るんです」
龍太郎「ええと、花子さん、なぜ記憶がないのか」
3201「私たちにとっては、魚は重要な食料で、陸に住んでおられる人たちが、私たちの国を知ったら、きっと武力を使っても攻めてくると思います」
龍太郎「たしかに」
3201「ここにお連れする際に煙で眠らせてしまったことはおわびします」
龍太郎「わかったからいいよ」
3201「それでは、海底の国に着くまで、この潜水艇の中を見てください。よろしければ私がご案内します」
龍太郎「何か見たくないような、でもやっぱり見てみたいような気もするよ。花子さん」
3201「私が艇内をご案内します」
女性3201(花子)がさきに立って竜太郎が後に続く
歩きながら、
龍太郎「でもずいぶん大きいなあ」
3201「ここには何でもあるんですよ」
竜太郎 「これって原子力潜水艦?」
3201「私たちは潜水艇と言ってます。潜水艦だと兵器持っていますが、私たち軍隊ありません」
竜太郎 「それにしてもめちゃくちゃ船内が大きいなあ」

■翌日 竜太郎の漁業組合
組合理事長「ところで海野竜太郎がまだ姿を現さないが、だれか知らないか」
仲間A「あいつのことだからきっと寝てるに違いない」
仲間Bケータイ取り出し電話、発信音だけ鳴り続く
   「あっ竜太郎いません」

■潜水艇の中

3201「わたしたちのこの潜水艇には、映画館、スポーツ施設、医療センターから、美容院、大食堂、小型SCと何一つ不自由しない施設がそろっています」
艇内の諸施設を3201(花子)と見る。
龍太郎「いや、ただ驚くばかりです」

■医療センター前

3201「ここは医療センターです。小手術室も完備してます。まさかの急病にも対処できます」
龍太郎「いや、驚きました。われわれの国の潜水艦では、頭もつかえるくらいの狭さですよ」
3201「私たちは、魚を主食としてる海底国家なので、海底牧場とか飼育センターとか、また海底資源管理のためにも長期間航行できる潜水艇が必要なんです」
龍太郎「よくわかります。そんな海を保護するためのあなた方に、地球の国の人たちは何と無神経でしょう」
3201「この医療センターでは、海の魚類たちを細かく分析して医薬品とか医療材料とか食品、燃料などを開発使用してます。私たちは無公害の例えば海老、蟹の甲羅から取れるキチン質を人工皮膚に、やけどした場合とかに使います」
龍太郎「それって聞いたことがあります、えびとか、かにの甲羅からとれるキチン膜が人口皮膚の役割をすることを」

■映画館の前

3201「ここは映画館です」
龍太郎「さっきから驚きの連続です。」
3201「さっきもお話したとおり、潜水艇は長期間航行しますので、乗組員を癒すこういう施設がどうしても必要なんです。そうしないと精神衛生的にも」

■スポーツ施設の前

3201「ここは、乗組員たちが運動不足にならないよう、体を動かし健康維持のための施設なんです」
しかし野球とかサッカーはできませんが」
龍太郎「いや、私も遠洋漁業でマグロとか採りに行く時、遠洋漁業船に乗りますが甲板でせいぜい体操するくらいです」

■スポーツ施設の中

3201「この広さではスカッシュ、体操、卓球くらいに限られますが」
龍太郎「いいえ、それでも」

■リラックス・ルーム

3201「ここは、リラックスルームです」
龍太郎「これって何ですか?」
3201「乗組員たちが、交代でTV見たりテレビゲームとか将棋、麻雀、チェス、囲碁とか楽しんだりくつろいだりします」
龍太郎、部屋の一角でテレビゲームやってる人に気がついて、
龍太郎「ああ、これスーパーマリオの冒険、人気あるんですよ」
3201「陸の皆さんがおやりになるテレビゲームは揃っています」
龍太郎「あれ、懐かしいNHKとかテレビやってる」
3201「あなた方の世界各国のTVと私たちの国のTV放送見れます」
龍太郎「海底で、しかもNHKを見るなんて、いや驚いたなあ」
3201「海底には情報、通信とかの大きなケーブルが走っています。インターネットで私たちもすべての情報知ることができます」
龍太郎「インターネットはわたしたちも使っていますが、アトランティス海底国のこと、さっぱりわかりません」
3201「それは、あなた方の国は、インターネットを悪用しているからです。ネットを利用してマガイ物の商品販売、出会い系ネットで犯罪犯したり、正直言ってあなた方、陸の方、あなたは違いますが、信用できません」
3201「あなたは、私たちが大切にしている海亀を助けてくださいました
陸の国では、今動物虐待とか、年とった人とか、立場の弱い人とか、いじめたり殺害しています。私たちは動物を助ける人って心のやさしい人と思っています」
龍太郎「そのとおり・・・・あれっ、今一番左のテレビで魚と会話する放送してますが」
3201「魚たちのコミニュケーションを大切にしてるんです。何しろ、海底の国ですから、魚たちの会話はいちばん大切なものです」
3201「陸のあなた方は、数え切れないほど、いろいろな動物がいるのに」
龍太郎「私たちは、犬にしぐさを教えて、はい、お手と言うと手を私たちの手に置いたり、鳥のオウムが人間の言葉をちょっと真似るので、お利口さんとか言って喜んでいるくらいです」

3201に龍太郎、いろいろ案内される。

■ティ―ルーム

3201「お疲れでしょう。ティ―ルームでゆっくり休みましょう」
龍太郎「う~ん、これはおいしいデザートだ」
3201「皆、これらのデザートは魚類、海草類で作られています。」
3201「これはコーヒーゼリーです」
竜太郎 「知ってます。私たちも海の天草からとって寒天という材料にしてそれを使います」

■原子力潜水艇内

アナウンス「アテンション・プリーズ、スーン・ウィル・ビー、アプローチ ザ・アトランティス・アイランド・・・・・・・・」

■アトランティス国

3201「さあ、ここが私たちのアトランティス海底国です。どうぞ。ご案内します」
5034「ようこそ、私たちのアトランティス国へ」
7093「どうか浦島さま、ごゆっくりお楽しみください」

■頭上のモノレール
竜太郎 「あっ、上をモノレールが」
5034「あれに乗っていきましょう」

■モノレールの中
竜太郎 「われわれの世界と同じだ、タクシーもあるし」
5034「我々の世界では、水素を燃料にしています」
竜太郎 「何か夢を見ている見たいな」
5034「ここで降りましょう、沢山の魚たちがいます」
竜太郎 「ここは」
3201「まあ、降りてみてください」

■踊る魚の劇場(巨大水槽)

3201「踊る魚の劇場です」
竜太郎 「花子さん、やっぱり、竜宮城で鯛やひらめの舞い踊りか、それに乙姫様が来るのですね」
3201「いいえ、違います」
竜太郎 「えっ。違う?」
5034「あれは、浦島太郎のおとぎ話で」
竜太郎 「じゃ、なにが」
3201「まあ、楽しみにしていてください」
竜太郎 「・・・・・・・・」
6754「大きなガラス窓でしょう」
龍太郎「江ノ島の水族館も大きいが、ここはすごい」
6754「アピアピ。ポプパレ・プピパ」
龍太郎 「えっ、今のは、アピアピとか」
3201「これは魚たちと話すための言葉なんです」
龍太郎 「わっすごいっ、ものすごいひらめの大群が」
6754「アピアピは魚語でひらめという言葉です」
3201「ひらめさん、こちらに集まって」って言う言葉
     なんです」
龍太郎 「そんな言葉が」
6754「アプアプはいわし、プラプラはマグロ、ペナペナは鯛という具合で」
龍太郎 「そいつは面白い、私は漁師なので、じゃ秋刀魚さん、私のところに集まってっていうのは」
6754「秋刀魚はポレポレなので、ポレポレ パロパ・
     ポプバレ・プピパ」
龍太郎 「もし、魚と自由に話すことができたらと思っていましたが・・・・・・・・うーんん素晴らしい」

7611「見ていてください、このひらめたちが」
6754「音楽スタート。」
7611「アピアピ・ペロペロ・ポパピポ・パパポ」
龍太郎 「ひらめが音楽に合わせて踊っている、すごいっ
6754「これは美しき青きドナウですが、音楽に合わせて踊っているでしょう」
龍太郎 「こんな素晴らしい魚の踊りみたことない」
龍太郎「烏賊がこんなに立ち踊りするとは」
7611「今にすごいことが起きます」
龍太郎 「あっ、すごいっ、いかが墨を」
6754「まあ、見ていてください、今に」
龍太郎 「墨が、えっウエルカム・トウー・リュウタロウ」
6754「すごいでしょう」
龍太郎 「驚きの連続でもう、」


■レストラン

9231「さあ、遠慮なく召しあがってください。陸の方のように肉はここにありませんが」
龍太郎 「これはハンバーグでおいしい」
8017「鮭で作ってあります」
龍太郎 「するとこのカツは?」
9231「秋刀魚、鯵、で」
龍太郎 「おすしはねたがあたらしいし、大きいし」
8017「どうです、気に入っていただけました」
龍太郎 「こんなおいしいお料理ははじめてです」
9231「野菜はありませんが、野菜代わりに海藻とか昆布とか」
9231「どうです、お食事お気に召したでしょうか?」
龍太郎「ええ、何もかも、それにしても魚たちの踊りはたいしたものでした」
8017「それはよかったです」
龍太郎「あなたは、とてもお美しい乙姫様のようだ」
8017「乙姫様って、あたしもそのええと竜宮城の話知っています」
龍太郎「乙姫様ですか、あなたは?」
8017「いいえ、姫は姫でもミスアトランティスで一年間ここへ来られたかたをおもてなしする役です」
3201「そろそろ、あなたにお会いしたいって言う方が来られます。海洋汚染について話をしたいと言っておられます」

■三笠警察署

組合理事長「あのう、私の組合員の海野竜太郎が行方不明で?」

警察官「えっ、いつからですか」
仲間A「3日前からです。夜中にどうも出ていったらしいんです」
警察官「今、調書を取りますから」
組合理事長「もしかして浜辺で例の・・・拉致されたんじゃないでしょうね?」
警察官「まあ、落ち着いてください、海上パトロールも最近やってますから、不審な船が来ればわかります」

警察官「誰か不審な人とか船とかみなかったか早速捜査します」

■会議室
3201「竜太郎さま、このお部屋でお待ちください、直にあなたにお礼を申し上げたいと私たちの代表が参りますので」
竜太郎 「わかりました」

3201「竜太郎さま、参りました」
代表  「浦島竜太郎さまとはあなたですか?」
竜太郎 「はい、私でございますが」
代表  「この間は浜辺で弱っているウミガメたちを子供のいじめから助けて海に放っていただいて本当にありがとうございました」
竜太郎 「いいえ、お礼を云われるには及びません、当然のことをしただけです」
代表  「どうでしたか?私たちのお礼のおもてなしは?お気に入っていただけましたでしょうか」
竜太郎 「ええ、大変な歓迎とおいしい食事までいただいて」
代表  「あなたに気に入っていただいてそれはよかったです」
竜太郎 「ごちそうもおいしかったですけどこの海の中の海底のアトランティス国
の科学技術は私たち陸にいる技術よりはるかに進んでいて驚きました」
代表  「でも私たちインターネットで陸の国の人たちの生活見ていますがうらやましいですよ」
竜太郎 「たしかに、ITとかの技術は進んで居ますが、まだ動物たちとの会話など出来ないんですよ」
代表 「ところで今日、あなたにご相談したいことがあって」
竜太郎「はっつ私に・・・相談ですか」
代表 「ええ、是非」
竜太郎「けど、私あなたのような偉い方とは、私は・・・・」
代表 「・・・・・・」
竜太郎「私は、私は陸でただの漁師で・・・えらくありません」
代表 「それだからいいのです、あなたは普通の方で、そして海の生き物を大切にされて海がめの命を救ってくれた、私たちにとっては大切な方なのです」


      (未完、資料海洋汚染など分析中です)

著作権はすべて管理人(ヒロクン)に帰存します。このシナリオの文章の転用・引用は禁止します


400字ショートストーリー「よろしかったでしょうか」「~じゃないですか」「超」「する人」「来た」ほか

2006-12-15 22:50:59 | 今日のあれこれ 日記風
12月上旬掲載⑬コンビ二ことば「よろしかったでしょうか」
近頃コンビ二ストアー・レストランなどで、例えば買い物をし1000円札を出して店員に示すと、「1000円からでよろしかったでしょうか」と言う風に盛んに用いる
また、郊外レストランに入り、食べる物をオーダーすると店員が「ハンバーグにポテトスープに野菜サラダ、コーヒーですね、かしこまりました」と一応お客の注文を聞いてから「以上でよろしかったでしょうか」とここでも相手に対して強調のことばを用いているようだ。
「~からでよろしかったでしょうか」と言われると、つい出したお金のほかに財布のお金を見る事もある。かなり強調したことばと言える気になることばでもある。
従来は、買い物をすると「1000円お預かりします」とか「1000円でよいでしょうか」という具合に相手の出したお金を肯定する形で使われてきた。

12月上旬⑫~じゃないですか
従来は、「私は会社員じゃないです」とか「スポーツは見るのは嫌いじゃないです」と言う風に否定または肯定されて用いられてきた。
ところが、最近は~ないですの次にかをつけて~ないですかと言う風にあらわすようになってきてる。
例えば従来ならば「私ってお菓子が好きです」と表現法では、単に卵焼きが好きな事を相手に示すだけであるが、これ好きじゃないですかという表現になると、自分の好きな食べ物を示すだけでなく、ついお菓子を食べ過ぎたときなど、謝る意味もかねてしていたのが「私ってお菓子が好きじゃないですか?」と自分を強調して極端に言えば相手を強く失敗したものを相手に説得させる強調の意味を持っているように思えるのである。
新しい日本語の一つであるといえよう

11月下旬掲載⑪微妙(ビミョー)
微妙という意味は、本来は国語辞典によれば①美しさ・味わい・状態などの細かなところに重要な意味がこめられていて、口で言えないとか一口にこうだと言い表せない状態を指していうこと、②どっちともはっきりいえない様子を指す意味で用いる。金利の引き下げは微妙とか用いる。
最近は微妙をカタカナで「ビミョー」とカタカナでも表す。
意味としては、どちらともいえないような状態をいう。自分にとってはどちらともいえないとか、感情面でどちらともいえないとか、人とか物とかが好きか嫌いかどちらともいえない微細な状態など悪い状態のときでも微妙(ビミョー)と悪い意味で多く用いるようになった。


11月下旬掲載⑩「超」(ちょう)
これまで超ということばは普通考えていた限度をはるかに越えたという意味で超特急とか超越とかいう意味に用いてきた。
三省堂国語百科事典によれば、「超」は①基準・限度を越えたという意味で「超高速」「超満員」が事例に挙げてあり、②超越するで超党派という具合にすべてを含んで賛成も反対も超えてという意味、俗語としてとても、とびきりという意味があって、超うまいとか反対に超まずいという具合に用いる。そのほか超過するという意味もあり二千円越えたという意味で用いることもある。
これが若者ことばになると、「超まずい」「超まずっ」「超最悪」「超むかつく」という具合に悪いことを最高に表現する用い方に変化してきているのである。


11月中旬掲載⑨「~する人」
「~する人」とは名詞、格助詞で自分を第三者に見立ててそれをあいまいなぼかした表現で用いるように変化してきている。
 従来は、「船を動かす人」とか「消防署の火を消すおじさん」とか明確に第三者が何か行為を行う意味で用いてきた。
最近は、自分のことを「~する人」だからという形に推量して使うことからこれをぼかして例えば「私的には料理が好きな人で」「「私とか夢を追う人みたいな」とか「僕的には日本食的なほうが好きな人」とか専ら自分のことを表現するのであるが、あらかじめそれがわかりきっていることでも、その意味で曖昧にしてしまうことである。従来は若者に多く使われてきたのだが、次第に中高年者にまで広がってきており、「私は部屋をきれいにする人だけど、旦那は散らかしても平気」・・とか今の不確実性を象徴してか拡がってきている。

11月中旬掲載⑧「来た、来た」
来たということばは、従来は「彼が来た」とか「犬が我が家にやって来た」とか人物・動植物、自然界の現象、事物などがあるところからどこかに移動した場合の表現法である。
まれに電気がびりびりと感じることを「ああ、電気がびりびり来た」と使うこともあるが、そのことが原因である状態になることをいうこともある。
これが最近「来た、来た」という形で例えばなにか相手から自分にとって都合の悪いこととか欠点を指摘されたときに「あっつ、来た来た」という形で表現されるように変化してきているのである。
例えばテレビドラマの中で農家の長男に嫁いで3年後、一郎の母から「明子さんあなた本当にお料理が上手になりましたね?」とほめられて嫁の明子は「本当ですかお母さん、ありがとうございます」といったんは喜ぶのですが、「それだけお料理が上手なのに一郎は疲れた顔をしてますよ」と遠まわしに子供ができないのはそのせいといいたいことを察して「ほら、来た、来た」というのですが、自分のことを言われてやっぱりかというときの意味で「来た、来た」と反抗的な態度を表すことばとして表現されるように思えるのである。
ただ、これは母親が子供に「表で遊ぶんだったら先に宿題やりなさい」といわれて昔なら「はい」とか「わかった」とかいうであろうが、今は「ほら来た来た」というのであろうか。

11月掲載⑦「~じゃん」
いわゆる「~じゃん」(いいじゃない)ということばは昔から使われてきた。
このことばのルーツを調べると私の住んでる横浜ことばから派生している。
文明開化で横浜は外国からあらゆるものが入ってきて外人居留地となった。日本人がはじめて長崎とともに外国人と接してきた地であり、案外今使われていることばが横浜ことばとして定着したのかも知れない。
昔、一時「ハイカラ」ということばが使われてしゃれてるとかセンスがあるという名称で用いられて当時の今風ことばであったであろうが、調べてみると明治時代、開港した横浜は当時和服をまとっていたが、調べてみると、明治時代、開港した横浜は当時和服を男女まとっていたが外国人の洋服・ワイシャツ姿、中でもカラーが高くとても日本人には素敵な姿に移り英語の「ハイカラー」High Colorがいつの間にかハイカラと変化したといわれる。
さて「~じゃん」であるが、今日では「まあ、いいじゃん」「自分でいいじゃん」
「騒いでもいいじゃん」「何だっていいじゃん」「気楽でいいじゃん」「休んだっていいじゃん」「気楽でいいじゃん」「休んだっていいじゃん」「「普通でいいじゃん」「下手でいいじゃん」「暇でいいじゃん」と枚挙に暇もないくらい使われている。
「~じゃん」にかをつけて「いいじゃんかよ」となるともっと意味が強調されてきて相手にその行為をはっきりと認めさせることになる。
横浜の近郊では、「~だべ」とローカルカラーたっぷりのことばが使われており、この「だべ」は関東地方の広い地域で使われ、時として若者の今風ことばでも「~だべ」と使うことがあるようである。
そうなると、今のことばも結構地方のことばから派生しているのかも知れないと親しみを感じるのである。

10月下旬掲載新しい日本語⑥「系」
私は鉄道ファンなので「系」ということばは古くから用いてきたおなじみのことばでもある。例えばJRの電車の分類に100系新幹線とか113系近距離電車とか用いてきた。
この「系」は一般的に何かを分類する意味で最近は使用されている。何でもあらゆるものを分類するために系を用いている。
例えば、「アキバ系」「オタク系」「なごみ系」「癒し系」「渋谷系」果ては食べ物の「カレー系」とかなど若い人は何でも分類するときに系を使うようである。系の使い方に制限はなく自分でなにかを分類して表現するために用いるためにことばの使い方の制限はないようである。また全体の雰囲気を伝える~っぽいみたいなという感じを系で表現することもあるように思える。

10月下旬掲載新しい日本語⑤「やばっ」「やばい」
従来は「やばい」はなにか見つかったらまずいとか取り返しがつかないとか否定の意味で使われていた。
例えば「明日までに宿題やらないとあの先生はうるさいしやばいよ」とか「見つかったらちょっとやばいけど」とかいずれも危険性を含んだ行動のときに使用していた。今もこの用法は変わらなく使っているが、最近は「やばっ」と想像も付かなかったとか言う意味で使われることが多くなってきてこのことばがきわめて多様性を帯びてきている。
例えば、食べ物を食べて思いもよらないほどおいしいことを「このラーメンやばっ」とか桃を食べて「う~ん、この桃やばっ」という風に使用することがある。
「やばい」でなく「やばっ」という風に用いるようである。

10月下旬掲載新しい日本語④「~れる」
食べれる・着れる・掛けれる・行けれるといういわゆる「ら」抜きことばは完全に定着したようだ。
すでに各出版社が出している種々の国語辞典にも取り上げられていて食べられる・着られる・掛けられるという「ら」語は完全に死語となった感がある。
もうことばづかいをうるさくされるアナウンサーでさへ「はい、そちらに1時間くらいで行けれます」と言ってるのである。
それにしても私が学生のときは学校で、ら・り・る・る・れ・れと四段変則活用を厳しく教えられて文法の用法に従ってことばの使い方をうるさく指導されたものである。四段変則活用を覚えてそれを実際のことばに当てはめるのは以外に大変だったことを今でも覚えている。
ドラマでもTBSの「花嫁は厄年っ」で農家の長男として3ヶ月花嫁に修行している武富明子(篠原涼子)に長男の母親安土幸恵(岩下志麻)が浴衣を持ち出して「あなた、浴衣一人で着ることできますね」と聞くのに対して「はい、着れます」と答えて「あなた、らが抜けてます、着れるでなく着られますです」と苦言を呈す場面があるがすでに完全に定着した「~れる」と使う度に正しくは「~られる」と考えている人が何人いるだろうかと思うのである。

10月下旬掲載新しい日本語③「~過ぎ」
最近テレビを見てると若い人の番組、ドラマにしても「~過ぎ」ということばがよく使われている。
従来は「仕事をやり過ぎだった」「遊び過ぎて疲れた」とか~過ぎの次にその理由がはっきりと述べられていた。またその行為はあらかじめ予見できなくて結果がそうなったということである。
最近の過ぎの用法は、すでに現象・結果が説明されているのを「~過ぎ」ときわめて広範囲に使うようになってきた。
例えば「あんたはわかり過ぎ」「それは出来過ぎ」「あんた少しわからな過ぎ」など、きわめて「~過ぎ」は広範囲に使用されるようになったようだ。

10月下旬掲載 新しい日本語② ~ていうか
~ていうかが使われてもう数年たって今ではすっかりこのことばも定着したのではないかと思う。
ていうかは一つは言い換えの用法であり、AではあるがBもと言い換えるときに用いると日本語の研究者は言っている。また、Aていう感じ、むしろBみたいなという形容詞的役割をしているそうであるが、また若い人が相手に話しかける場合のことばとして用いることもあるようだ、でも私には質問でかりにA君がBさんになにか聞いた場合、Bさんがなんと答えるかを期待していたのが、Bさんから~ていうかと言われると折角期待を持って投げかけてボールはBさんに投げかけられたのに~ていうかでまだ答えてもらわないうちにボールが投げ返されてきたような感じがするものだ。
また、こちらが期待している答えが~ていうかですりかえられた感じもすることもあるような気がするものである。
でも~っていうかはある面で結論が早く知ることができて反面便利なフレーズでもある。
かくいう私も時として結論を早く言うために、またむしろこうだよという場合に~ていうかを使うことさへある。

10月中旬掲載 新しい日本語①いい感じ
今回からテレビで、巷で話されているまったく新しい日本語について書いてみたい。新しい日本語として最近台頭してきた言葉に「いい感じ」がある。
私は最近テレビの「花嫁は厄年ッ」で若い女性が桃農園の一郎を訪ねてきてお風呂に入り「湯加減どうですか」とたずねているのに「ああ、いい感じです」という場面があり、温泉を訪ねて和室から月に照らされた日本庭園を眺めて「ああ、いい感じねえ」、グルメ探訪でおいしい中華料理をたべて「いい感じ」ともう何回も聴いたのである。「いい感じ」という表現は例えばおいしい料理に店内部の雰囲気(ムード)とかここで食べるのに全体のからだで感じるすべてを捉えていい感じというのであり、それを一言で表現するのであろう。
でも、このいい感じも乱用は避けたいものだと思った。
例えばどこか遠くに旅に出かけて「いい感じ」をそのつど使っていたら旅先にしかない日本とか外国独特の趣き、風情・食物を見逃してしまうのではないかと思う。
「いい感じ」も簡明でよいこともあるが、時には美しい景色とか食物とか日本語の持つ美しい表現を工夫して使い感性的にも情緒的にも秀れたいと思う、


10月掲載「ケータイ」
街を歩く、電車に乗るケータイがいたるところで人とともに闊歩している。電車で
メールを打つ、見る、ニュースを見る、音楽をダウンロードする、ゲームをする、テレビを見る、あの手の掌に収まるケータイが魔法のように変身する、しかしメールは便利でいつでも打てるのだが、今は例えばケータイで別れて直ぐに「好きだよ」「楽しかったよ」「明後日どう」「OK」「じゃあね」「バイバイ」と絵文字も交えてやりとりするならば余韻は感じられないかと思っている。
昔は特に遠距離恋愛の場合、しばらくして届く手紙は宝石のように尊く胸をときめかして読んだものである。
ある若い人から以前お礼として「ケータイかメールと思いましたけど手紙が気持ちを伝えると思いました」と手紙をいただいたが奥ゆかしさと優しさと思いやりを持った方と感じたのものである


9月掲載  「月」
小さい頃月の中にウサギがいると教えられて本気にしてきた。童謡にも♪うさぎ、うさぎ、なに見てはねる、十五夜お月さま見てはねる♪と歌われていて子供の世界では月とウサギは切りはなして考えることは出来なかった。月はまた「名月や池をめぐりて夜もすがら」と俳句にも歌われてきた。そのイメージが段々崩れてきたのはアメリカの宇宙船の月打ち上げだった。月のイメージは宇宙探査船から送られてくる画像がロマンチックなイメージを覆してしまった。
杵があってウサギが餅をついているという語り伝えの話はごつごつした岩塊とか深いくぼみなど広漠としたその光景は月には人が住んでいないことを証拠だてた。
今では中秋の名月といってお団子を作って月見をするという風情も消えてしまって月を見る目はあそこに資源があるのか人は住めるのかと言う現実的な見方をするようになった。でも満月を見るとやはり童謡を思い出すのである。

8月掲載  「花火」
夏の楽しみといえば全国各地で行われる花火である。私と花火との出逢いは新潟市の信濃川で行われる川開き、花火であった。父の会社が借りた屋形船で見る花火は格別であった。川の真ん中に船を係留して頭上で炸裂して花火の傘に体が覆われると歓声があがった。しかし花火が頭上で炸裂すると次の花火までに時間の空白がある。次の花火はどんなかなあ、きれいだろうかといろいろと瞑目して楽しみと期待を寄せるのである。あれから30年経って松戸の江戸川で、隅田川の両国で見る花火は数箇所から花火がスターマイン・大花火と間断なく打ち上げられて夜をあざむく光の洪水なのである。趣向をこらした最新の花火は驚嘆するばかりであるが、なぜか花火といえば過ぎ去りし日のゆっくりと時間を追いながら打ち上げられた新潟のあの川開きを思い出すのである


7月掲載  「最初の記憶」
私がまだ4歳の頃の出来事である。父25歳母21歳で結婚し、私は,長男として生まれ住居は横浜だった。
母の親戚に当たる叔父漆谷健三さんは、私を本牧三渓園に連れて行ってくれた。
原家の旧華族の庭園を開放した三渓園は、庭園や五重塔や池があって眺望が秀れているのだが、4歳の私は、そんなことを憶えている筈もなく、海軍の茶色のセーラー服を着せられて右手で涙を拭ってきりっと立っている姿を思い出すのである。
三渓園の裏側は、当時は直ぐ海だったようで健三叔父さんとボートに乗ってそれが怖かったのかとにかく泣いているのである。我が家にあるたった一枚のセピア色のような色あせた写真が当時の記憶を呼び戻させてくれて、私もこんなに可愛い時代があったのだなあと郷愁を誘うと共に古き良き幼い思い出を大切にしている.





こんな電車はいかがかなあ 「レストラン専用車」

2006-12-15 13:46:19 | エッセイ
「女性専用」以外にも! 欲しい専用車両ランキング - goo ランキング
以前新幹線には食堂車が連結されていて出張の度に利用したものですが、僕の考えているのは、例えばJR山手線にレストラン専用車を作って走行させてほしいことです。山手線は東京中心部を一周しますので利用者が入れ替わっても大丈夫です。
和食・洋食専用車を2輌連結して比較的本数が少なくなる夜9時以降また土、日、祭日を貸切で運転したらと思います。おいしい食事を取りながらいつも通勤してる区間を見ながらちょっと豪華な気分を味わってはと思います。
ヒントは以前オーストラリアのメルボルンで夕方から貸切のレストラン路面電車があることをビデオで見てこれが可能ならば山手線電車でも出来るはずだと考えたわけです。


「寝台専用電車」

東京は24時間都市であり、夜も眠らない都市である。毎日終電車に乗り遅れる乗客とかつい夜の楽しみで遅くまでいて家に帰れない人のためにビジネスホテルは盛況をきわめているが、そこで山手線を利用して寝台電車を製造し終電以降の時間に運転してはどうであろうか。この電車は山手線を循環して走るので終電以降最寄り駅で何回も乗れる利点がある。

ビジネスホテルより低めの料金を設定して終電以降から運転を行って翌日それぞれの最寄り駅から会社に出勤、また接続路線に乗り換えて帰宅することができる利点があると思う。
問題は夜通し電車を走らせるので、線路の保守点検に支障をきたすことも考えられるが、寝台専用電車は1本程度なので解決できると思う。


短編小説「終電車」

2006-12-14 14:12:23 | 小説
短編小説「終電車」

この物語はノンフィクションであり、ここに登場する名前・会社名は実在しません。

その鉄道は明彦の住んでいる大都会から3時間ほど電車で山間に入った過疎の町を走っていた。井田明彦はなによりも鉄道が好きで鉄道雑誌を見てはカメラ片手に一人で出かけるのだった。
妻の真紀子は、
「あなたがデパートが好きだったらよかった」と思わず愚痴をこぼした。
「鉄道好きだとあなた一人で楽しむだけだし」
「ごめんよ、ときどき君を一人にさせて、この穴埋めはきっと・・・」
「あなた、結婚前にそんな話聞かなかったわ、もし聞いてたら・・・・」
妻は相当怒っているなと思った。
「それともたまにはどうだ、僕と一緒に来るか」
「いやよ、この前だってさ、あなたSL撮るからって言ってさ、1時間も帰ってこなくてさ」、
「あの、何も汽車みなくても、ほら・・・・ええと、あの何とか言った
麦とろのおいしい店、ごちそうしてあげるから」
「丸子庵」でしょう?」
妻はぶっきらぼうに答えた。
なだめてもすかしてもどうにもならないと悟った和彦は、書斎の引き出しから映画の鑑賞券を2枚出して、
「これ二人でと言われたんだけど君のお母さんと一緒に見てきたら」
「今日のところ許してあげるわ、行ってらっしゃい」
「久しぶりに映画のあと、君のお母さんの家に泊まったら」
「でも、あなたのお食事のこと気になるし」
「いいよ、コンビニもあるし、冷蔵庫にも残り物が」
「あなたの何ていうかそういうとこに負けちゃうのよね」
明彦は交渉成立してほっとして家を出た。
大東駅から都心に出て新幹線で2時間のところに過疎の鉄道があった。
新幹線ホームをエスカレーターで下りてビルの立ち並ぶ駅前の広い通りを300メートル歩くとと木造の不似合いな小さな駅舎があった。すでに鉄道廃止をどこから聞きつけたのか大勢の群衆に混じって鉄道ファンも詰め掛けていて駅はごった返しだった。
赤色の電車は15メートルの長さで玩具のように可愛かった。
明彦はやまと鉄道の廃線記念切符を手に入れて狭いホームで電車の来るのを待った。
間もなくして赤い車体を左右にゆらせて赤い四両編成の電車が到着した。
いつもは1時間おきの運転も今日が最後の日で乗客も裁ききれないほどの人たちのために20分おきに電車を運行していた。
車体には横断幕でやまと鉄道さようならと書かれていてホームの頭上のスピーカーは
「今日を持ちましてやまと鉄道は廃止となります。長い間のご愛顧ありがとうございました」
と繰り返し放送していた。
鈴なりの乗客を乗せて蛍の光の調べに乗って赤い電車はホームを離れた。
駅を離れ500メートルほど走り鉄橋を渡り大きく左に曲がり、5分ほど走り、最初の停車駅、北浜南駅を過ぎると家並みも少なくなってあたりは茶畑になった。
電車はすぐ側を併行して走る県道の自動車に何台も追い抜かれて古いモーター音をさせながら甲高い音をさせて走った。
点々と農家があり、柿が赤く色づいた実をつけていてのんびりした秋の光景を醸し出していた。屋敷田、久保塚、やまと高井、重原、平石を過ぎて、秋の木漏れ日に電車の陰が長くどこまでもついてきた。単線のこの鉄道は山中駅で対向電車といつもすれ違うのだった。
閑散としたこの駅も今日ばかりは鉄道ファンがカメラを電車にいっせいに向けて最後の電車を撮り続けていた。
上り電車が林の向こうから姿を現し鈴なりの乗客を乗せて到着した。
明彦の電車は山中駅を出ると上り勾配に差し掛かり鉄道に沿って流れている川幅も狭くなり渓谷と変わって行った。原沢を過ぎてトンネルを二つくぐり、川久保と無人駅にも今日が最後の運転とあって電車が近づくといっせいにカメラのフラッシュの攻撃が待ち構えていた。トンネルをくぐって鉄橋を渡ると左の車窓に見えていた渓谷が右側に変わってしばらく10分も走るとそこはやまと鉄道の過疎の町やまと追分駅だった。
人口8千人のこの町は主に林業で成り立っていた。
狭い車両からどっと人が吐き出されて改札口へと流れていく
明彦もまた、切符を出して駅舎から出て後戻りして小さな車庫に向かった
やまと鉄道の小さな車庫の前には黒山のような人だかりだった。
カメラを持った鉄道ファンを中心に地元の人たちが電車の周りを囲んでいた。
明彦ももう50年近く走り続けている赤いレトロな小さな電車を撮影しようとバッグからカメラを取り出し大きな望遠レンズを取り付けた。
やまと鉄道の制服を来た職員がやってきて電車を取り囲んでいる皆に説明しはじめた。
「皆さん、こんにちは、ようこそやまと鉄道にお出でくださいました。長い間皆様にご愛顧いただいた鉄道線浜南―やまと追分間21,3キロは本日を持ちまして廃止されることになりました」
と挨拶した。
明彦は大勢の見物客とともに職員の挨拶を聞いてたが、明彦のほうに目を向けた瞬間、明彦は思わず
「あっ」
と叫んだ。
それもそのはず何と中学時代の親友だったからである。
明彦は思わず見物客の人並みを掻き分けて前に出た。
挨拶をし終えた彼も明彦の顔を見て、
「おお、鶴見じゃないか」、
「井田しばらくだなあ」二人は駆け寄って思わず握手をした。
明彦は
「君に逢いたかったよ、いったいどこ行ってたんだ。?」
「ごめん、ごめん、僕もどうしているかと気になってたんだ」
と言いながら脇の職員に
「この電車の説明僕に代わってやってくれないか」
と頼んだ。
明彦は、
「いいのか、君が説明しないでも」
「大丈夫、こんなとこで逢おうとはなあ」
「いったいどこに雲隠れしてたんだよ」
「君には本当に済まなかったと思ってるよ。実は?」
「どうなったんだ」
「実は、親父のやってた工場が不況で不渡り出して倒産して・・・・」
「そうだったのか、あの頃、君の家は羽振りがよくて僕はうらやましく思ったんだけど」
「それで借金取りは来るわで、叔父が浜南市に住んでて、こっちに来たんだ。」
「そういうわけだったのか、大変だったなあ」
と明彦は言った。
「そういうわけで高校出て地元の工業大学何とか出て、やまと鉄道に入ったという訳」
「やまと鉄道って言えば、鉄道のほかに県内のバス・百貨店・スーパー・コンビ二・不動産までやってていいじゃないか」
「地元ではまあまあだけど君は?」
「僕は平凡だよ、サラリーマンで、今日はやまと鉄道が最後の運転をするというんで新幹線でここまで来たんだ。写真撮ろうと思って」
「今日はすごい見物客だなあ」
「いつもこんなだとな、鉄道廃線しなくてもなあ」
と鶴見はためいきをつきながら言った。
「それじゃ、僕から説明しようか」
と鶴見は車庫のすぐ側に陳列されているレトロな5つ窓の電車を指差しながら
「これはモハ10という形式で中部鉄道で、名古屋の岐阜を走っていたのを払い下げてもらった大正5年製造の一番古い電車なんだ」
「知ってる。何度か岐阜で乗ったけど、こいつが岐阜の市内の道路を走るときにはのろのろと左右に車体を揺らせて駅まで走ったよ」
「これは大正時代の古典的価値があって円形の窓が特徴あるんだよ。」
と鶴見が言うのを聞いてて
、明彦は、
「君もずいぶん詳しくなったなあ」
と言った。
鶴見は
「まあ、やまと鉄道に入ってからなあ、商売柄しょうがないよ」
と鶴見は、
「僕、鉄道部長なんだ」
と明彦に名詞を見せて笑った。
「この車両もうちが鉄道廃止になったらもう全国でも見られないんじゃないか」
と鶴見は電車を見上げながら言った。
「ところで、君の仕事の鉄道部が終わったら」
「今度は、やまと百貨店入りだよ」
 「いいじゃないか、百貨店なら地方で有名だし」
「わが社の電車はほら阪神地方を走っていた加速・減速の早いジェットカーか、これの屋根に冷房装置を取り付けて、やっとわが社にも冷房電車が走って皆に喜んでもらったと思ったら、3年で廃止だもんな」
と鶴見はしみじみと話した。
「記念に写真撮るか」
と明彦は、バッグからカメラを取り出し三脚を引き伸ばしてカメラを三脚に固定した。
明彦は、セルフタイマーを押して急いで鶴見の立っているところに戻り肩を組んで写真に納まった。
明彦は、鶴見に案内されて10系古典電車と右側の15メートルの短い車両と一番左に止まっているやま鉄ご自慢の1000系の冷房電車を見て廻った。
明彦は、要所要所で電車をカメラに収めた。
「うちの事務所に来るか。あげたいものがあるんだ」
鶴見は明彦の方に手を掛けて、
「さあ、行くか」
と言って駅に向かって歩きだした。
「ここがうちのやまと追分事務所だ。」
と鶴見は言って、観光案内センターの3階の建物脇の自販機にお金を入れて缶コーヒーを二つ買って2階に通じる狭い階段を登った。
「悪いなあ、仕事中に」
「狭いけどそこに座って」
鶴見はソファーに明彦を座らせて、左の壁のロッカーを開けてなにやら取り出した。
「これは、当社の鉄道の開業50周年を記念して作った写真集で」
「ええと電車の文鎮どこだっけなあ」
とロッカーの中を探した。
若い社員が、
「部長、ここの箱の中に・・・・・でも結構皆に配ったし」
と言いながら左の隅にある机の引き出しを捜した。
「部長、これでしょう」
と言ってほこりを被った金属の塊を取り出して、ほこりを払って鶴見に差し出した。
「こんなもので良かったら、さっき見た10系電車の文鎮だ」
と言って缶コーヒーを開けて鶴見の前に置いた。
「悪いなあ大切にするよ、これもらっていいの?」
「ああ」
明彦にとっては何にもましてかけがいのない物だった。
「ところで、君はさっきサラリーマンだって言ってたが、電車の好きな君のことだから」
井田は興味深く鶴見の返事を待っていた。
「ああ、僕のこと、大したことじゃないが武蔵鉄道なんだよ」
「大したもんだなあ、武蔵鉄道は電車も大きくVVVF方式の新車だしな」
「うちは、つり掛け方式で、いや走ってもうるさいしな」
「つりかけ方式は貴重だよ、もう全国でも貴重だよ」
「いや、君のところは、規模が違うもんな、安全なATC方式だから、事故も起きにくいし」
「ああ」
「でも併行して多摩鉄道も走っているし、結構大変だよ」
そんな話をしているうちに、秋の日差しも影って来て山並みが赤く染まっていた。
「そろそろ、今日の終電車の運転時間も迫ってきたしなあ、飯食いに行くとするか」
二人は事務所の階段を下りて駅前の道路を左折して歩いた。
鶴見は、
「ここのとろろは名物なんだ」と言って「丸子庵」と書かれた看板を見て中に入った。
「済まない、こんなとこで、運転があるんで酒はちょっと」
と明彦の顔をすまなさそうな顔で言った。
「いいんだ、僕は酒は全然飲めないんだよ」
と明彦は言った。
明彦は、以前妻と一緒にここへ来たんだよと危うく口にしそうになって、ご馳走してくれる鶴見に申し訳ないと思って
「こんな自然の特産物なんて口にできなくて」
と感謝して言った。
二人の前にお櫃に入った麦ご飯ととろろ汁が運ばれてきた。
外は、すっかり夜の帳が下りていて遠くのやまと追分駅の周りだけがこうこうと灯りがついていて明るかった。
「ところで、君にお願いがあるんだけど」
「僕が住民数人から花束受けるところを新聞社のカメラマンが写真撮ることになってるんだけど、そんな形式的なものでなく、君は僕の親友としてもっと自由な角度で写真撮ってほしんだけど」
「はっ。僕に、新聞社でもなく、ここの住民でないのに」
「僕の親しい親友っていうことで。君の自由なというか、きっとあたたかい、僕にとってたった一回の想い出になると思うんだけど」
「OK、わかった。僕でよければ」
駅に入ると最終電車はホームに入っていた。
電車は、ホームにはみ出る長い5両編成でご自慢の冷房電車1000系に混じってさっき見た大正時代の古典的な5つ窓、丸窓の10系電車も連結していた。
明彦はすでに新聞社のカメラマンより遠い場所に陣取って待っていた。
制服姿の鶴見が構内の詰め所から歩いてきて、
「当社はじまって以来の5両編成だよ、まあ、ファンと住民サービスかなあ」と笑いながら明彦に言った。
「皆様、やまと鉄道を長い間ご利用くださいまして本当にありがとうございました。いよいよこの列車を持ちまして当駅の営業を終わらせていただきます。明日からはバスが運行いたしますので今後ともご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます」
とアナウンスを繰り返した。
ホームのやまと追分駅の赤い電車の周りにはこの時間でも鉄道ファン、住民で一杯だった。
町の有力者の挨拶のあと、終電車を運転する鶴見に花束を送った。その光景を見ていた明彦は鶴見の一番にこやかな瞬間を狙って、連写した。
鶴見は、明彦の顔を見つめて
「すまないなあ、君まで借り出して」
と小さな声で言った。
制服を着た鶴見はきりっと帽子の紐を締めなおして運転室に入った。
明彦は一番前の窓から井田の後ろ姿を見ていた。
ホームの中学校のブラスバンドが「線路は続くよどこまでも」を演奏しはじめた。鉄道ファンが群がってカメラのシャッターを押した。フラッシュを受けてまばゆかった。
出発のベルが鳴り終わると、鶴見は正面の信号が緑に変わったのを確認して「出発進行、定時、制限15と立て続けに指差歓呼しながらコントローラーを白手袋でノッチ2の位置まで操作した。
「ファーン。」とタイフォンを鳴らして電車はホームを離れはじめた。
電車はやまと追分駅の構内を離れると町の家の軒並みが明るいほか闇に包まれ電車の前照灯だけが線路の先を照らしていた。
鶴見は前を見つめて
「制限解除、信号よおし、速度50」
と言ってコントローラーのノッチ5一杯まで持って行った。
電車は甲高いモーター音を出して速度を増して走った。
明彦は、鶴見の電車を運転する姿を見てなにか不思議なめぐりあわせを感じながら、親友のあたたかさを感じ、今日の感動の出来事そのままに妻にどう伝えたらいいかと心の中で迷っていた。


著作権はすべて管理人(ヒロクン)に帰存します。この小説の文章の転用・引用は禁止します




短編小説けだるい夏の日

2006-12-14 13:07:40 | 小説
短編小説「けだるい夏の日」

この物語はノンフィクションであり、ここに登場する名前・会社名は実在しません。

鉄道ファンの幸一は、Tシャツと短パン姿で湿気が身体にまつわりつくようなけだるい夏のお昼前、湘南電鉄に乗っていた。湘南電鉄は湘南地方の鎌倉―藤沢を海岸沿いに結ぶ電鉄で海と山の変化ある光景と家の軒並みをすれすれに走る全長10.0キロメートルの小さな鉄道は自動車の普及により、一時は廃止のうわさもあったが、近年沿線の宅地開発も進み、通勤客の増加と観光地が見直されて電車の増発とともに活気を帯びていた。レトロさに最近は非常に鉄道ファンも増えて人気のある鉄道に変わった。
 幸一も35ミリカメラを持って湘電の姿を気に入ったところで下車しては写真を撮るのを楽しみにしていた。
 鎌倉駅を出て、横須賀線の高架線に平行して走り踏切を抜けて右折すると目の前に民家が迫り、和田塚、長谷までは軒すれすれに走るのだった。
 幸一の乗った電車は、近年ここにも車両の冷房化が進んでいる中で、300系と言ってかっては東急玉川線を走った楕円形前面4つ窓がユニークな、旧式の電車で、天井の扇風機がけだるい湿った空気をかき回していた。
 幸一は、極楽寺で降りて電車を撮ることにした。
 ここは、湘南電鉄の車庫があり、切り通しのトンネルをホームに向けて走ってくる光景が、鉄道ファンもがあこがれる撮影場所として知られていたからである。
 坂を少し上りトンネルを見下ろす場所でカメラを構えて電車がトンネルから出てくるところを狙ってシャッターを押して撮影した。
まずまずだなあと幸一は満足して坂を下って再び極楽寺駅ホームに向かって歩いた。
 再び車窓の人となった。極楽寺を出て数々の電車が留置してある車庫を右手に見て、由比ガ浜を過ぎると切り通しは終わり左にカーブすると車窓一杯の夏の海と海の香りが車内一杯に広がった。幸一はこの瞬間が好きだった。
 カタタン・カタタタンとのんびりした轍の音をさせて海岸沿いの道路に沿って走った。
 鎌倉高校前から腰越を過ぎるとここから道路の路面を時速15キロの超低速度でゆっくりと江ノ島に向かって左右の平行する自動車を気にしながら江ノ島に向けて走るのだった。
 電車が江ノ島に着いて上り電車の列車交換を待っていた。しばらくして2分遅れて上り電車がやってきた。
 着いた電車は、なんともう引退したはずの単・コロ10系が2両編成だった。その時、車内アナウンスで構内の信号機の故障でしばらく電車が停車するとの放送があった。
「おや、単・コロ10系が、なんで?」
 幸一は不思議に思った。
 自然に幸一は座席を離れて向かい側に止まっている単・コロに向かって足が進んだ。ホームの時計は10時20分を過ぎていた。
 鉄道がなによりも好きだったので向かい側ホームに止まっている10型車両の車体をなでながら、木製ドアに乗り込んだとたん、手を掛けて乗ると軽いめまいを感じた。ふわっとして景色がぼけていく。幸一は、どうしてと思いながら運転台の柱に捕まって倒れそうな身体を支えた。
 もやもやとかすんだ景色がまた元へ戻ると、
「あっ」
と心の中で驚いた。
 驚いて声も出なかった。ティーシャツにジーンズの短パンが白いワイシャツに黒い学生ズボン姿に戻っていたのである。
「わっ、高校生、何で?」
 幸一は低い声でつぶやいた。幸一はさっぱりわけがわからず左のほほを思い切ってつねった。
「あいたた」
 夢ではないな、あたりを見回すと車内の広告にNECのバザールでごザールのサルの広告とノートPCの発売表示が示されていた。週刊誌の広告があり、雲仙普賢岳の爆発の惨状と書かれていた。幸一はそれを見て雲仙普賢岳・雲仙普賢岳・・・・と何回もつぶやいてはっと思った。
 僕は高校生、それも10年前に戻ったと思った。幸一は車内を歩き、2両目の車両に移った。前に進むとそこにセーラー服を着てテニスのラケットを持った涼子が座席に座って気持ち良さそうに眠っていたのを発見した。
 幸一は、思わず近づいて
「涼子さん」
と声を掛けた。
「あっ、幸一さん、ここってどこ?」
 涼子は目を覚ましふと窓の後ろを振り返った。
「江ノ島ね、幸一さんとは学校も違うし、久しぶりだし、どう江ノ島に行って見ない?」
「うん、降りよう」
と言って二人は電車を降りた。
 涼子がテニスのラケットを持っていたので、
「部活は?」
「ああ、今日練習だったんだけどさ、キャプテンが風邪で休んで、それで中止っていうわけ。」
「幸一さんは?」
「あっ、僕の演劇部?」
 幸一は高校の演劇部に所属していた。
「この間、シェクスピアのハムレットやったんだけど、今度はオリジナル作品作ろうということで」
「がんばってねえ、あたし、応援するから」
「ありがとう」
 そんな会話をお互い交わしながら江ノ島駅を降りた二人は海岸に向かって歩いた。
「ちょっと待ってて」
 涼子にそういって右側の店の前でソフト・クリームを二つとハンバーガを二つ幸一は買った。
「どうもありがとう」
 涼子と幸一はのどの渇きをソフトクリームでいやしながらゆっくり歩いた。
 その時、幸一のかばんの中のケータイが鳴った。母からだった。
「幸一、今どこに居るの」
「ああ、今江ノ島、涼子さんに会って」
「ああ、涼子さんね」
と母のいとこにあたる涼子ならば安心だと思った。
 江ノ島海岸に出ると、気が早い海水浴客が数人いた。沖合いを白いヨットが二隻進んでいた。
 江ノ島に通じる弁天橋の下を歩いて砂浜に立っていた。
海風が二人の頬をなでた。長い栗色の髪が涼子の顔に掛かった。涼子はそれを打ち払うかのように右手で後ろに持っていった。
 幸一は、
「涼子さんて可愛いなあ」
とひそかに思った。
 幸一は小石を拾って
「見てて」
と涼子に言いながら身体を少し曲げて右手で思い切って波に向かって投げた。小石はポン・ポンと弾みながら遠くに飛んで行った。
「面白~い」
 涼子も小石を拾って右手で水平に飛んで行くように投げた。幸一は涼子に気づかれないように秘かに写真を撮った。
 小石は小波をけって飛んで行った。二人は顔を見合わせて笑った。
 それから二人は江ノ島をつなぐ弁天橋を渡って歩いた。
 沖合いを白いヨットが2隻、波をけって進んでいた。
 橋を渡り終えて、二人は左の道路を歩いて防波堤の方に向かって歩いた。
 海からの微風が二人の顔をなでた。涼子は顔に掛かった髪を手で振り払った。
 防波堤には、釣り糸をたれて海釣りを楽しんでいる一人の老人がいた。
 涼子は側に行って老人に尋ねた。
「おじさん、釣れますか?」
 老人は、
「今朝からまだ1匹しか釣れていないよ」
 そう云ってボックスを開けて魚を見せてくれた。
「昔は防波堤もなくてこの辺なにもなくて、魚もよう釣れたんだけど」
 老人はそういって麦藁帽の下の日焼けした顔で笑った。
「幸一さんは、釣りするの?」
 涼子に突然尋ねられて幸一は
「やるけどさ、あまり好きじゃないんだ」と答えた。
「昔、父の会社の釣り愛好会があって、小さいとき近くの沼に行って、いきなり雷魚が二匹釣れて恐くなって。それが僕の顔をにらんでいるようで」
と話すと
「面白~い」
と涼子は笑った。
「それ以来釣りに行かなくなって」
と幸一は言った。
 しばらく二人は休んで元来た道を戻り、海産物やみやげ物店の並ぶ細い江ノ島参堂の道を登った。
 潮の香を含んださざえを焼いてる香りが漂ってくる。
「おいしそうな匂い」
涼子は言った。
「食べる?」
 幸一はそういって店の中の奥の椅子に腰掛けた。
 涼子は運んできたサザエのつぼ焼きをおいしそうに食べながら、
「食べないの?幸一さん」と聞いた。
「僕はどうも海の香りの強いものは」
と言ってコーラを飲んだ。
 店を出て、江ノ島神社に通じる赤い鳥居を左に上ると江ノ島エスカーが見えた。
「以前はここから長い階段で頂上近くまで歩いて20分近くかかったけど、今はこの江ノ島エスカーで楽に5分くらいで行けるようになったんだ。」
「ずいぶん便利になったのねえ」
 二人は、エスカーに乗り換えては歩いていくと右側に江ノ島植物園と展望塔があった。
「ここ入って見ようか」
「うん」
 幸一と涼子は江ノ島植物園の中に入った。
 公園の小道は熱帯植物の木々が覆っていて海から吹いてくる風がけだるいような暑さを和らげた。
「あたし、江ノ島っていつでも来れると思ったりしてえ、ここは入ったことなかった」
「僕もなんだよ、いつも素通りしてこの先の階段下りて岩屋の洞窟には行くんだけど」
 二人は、園内をゆっくり回った。
「この植物園には100年に一度しか咲かないアオノリュウゼツランとか、5000本の珍しい亜熱帯植物があるんだよ」
「いま、咲いているなら見た~い。まあ、100年に1回なの?。らんって夏咲くんでしょう」
 二人はアオノリュウゼツランの花を見にいったが、葉っぱだけだけだった。
「やっぱ、無理ね」
「あっ、リスがいる。見て、見て」
 涼子がびっくりした声で幸一に言った。
「本当だ、可愛いなあ」
リスは木の枝にいて両手で一生懸命木の実を食べていた。
 「あっ可愛いい~」
 二人はリスをしばらく見つめていた。
 小動物のいる小さな動物園には子供たちが喜んでいた。しばらく歩くと目の前に展望台が二人を見下ろすかのように行くてをさえぎるように屹立していた。
「ねえ、あの上に上ろうよ、きっと眺めがいいと思うよ」
 幸一は展望等を見上げるようにぽつんと言った。
「そうねえ、だってここでさえも高いんだから、きっといろんなとこが」
 二人は、屋上に続く長い階段を登りはじめた。展望塔をさえぎるものはなく、階段の隙間から海風が吹き上げてきてここちよかった。
 屋上は江ノ島の最先端で、二人はそろって
「すご~い」
と言った。360度の眺望は、少し霞んでいたが箱根の山々から伊豆・そして三浦半島、葉山、鎌倉と、目を東に転ずると遠く横浜まで見えて横浜スランドマークタワーが霞んで見えた。
「晴れていると、富士山とか大島が見えるそうだよ」
、幸一は、欄干にもたれている涼子に言った。
「う~んん、富士山見えなくてもいいわ。幸一さんと久しぶりに会えただけで」涼子は、振り返えり首を横に振って言った。
 幸一は涼子の仕草を見て
「涼子さんって可愛いなあ」
と心の中で思った。
 二人は展望塔の欄干にもたれてしばらくうっとりとして景観を楽しんだ。
 展望塔を降りて、植物園のベンチで二人は休んだ。
「ねえ、せっかく来たんだから、写真撮ってもらおうよ」
と涼子はかばんの中からインスタントのカメラを取り出した。
「ああ、ポラロイドカメラだ、すご~いっ」
幸一はちょうどとおりかかった若者に声を掛けた。
「はい、チーズ」
二人はVの字を大きく手で示し写真を撮ってもらった。
涼子は、若者から写真を撮った後、カメラを受け取った。
「ハンバーガーだけど」
 幸一はそういってかばんの中に入っているハンバーガーの入っている袋から取り出して涼子に差し出した。
「あれ、幸一さん、いつ買ったの?」
「さっき、ソフトクリーム買ったとき、一緒に」
「幸一さんてずいぶん気が効くのねえ」
 涼子はそう云ってうれしそうにハンバーガーを被りついた。幸一は走って行って、氷で冷やした缶コーラを手にとってほほにあて冷たそうな缶を選んで買って急いで戻り、
「はい、飲み物」
と言って涼子に差し出した。
 二人は、右手にハンバーガー、左手に缶コーラを持って話した。
「あと、どこ行こう」
「そうねえ、岩屋洞窟もあるけど、遠いし、駅に近い江ノ島水族館ってどう」
「そうだなあ、案外魚見るのもいいね」
 二人は元来た道を再びエスカーに乗って下り江ノ島を後にした。弁天橋を渡ると喧騒な音と排気ガスのにおいや湿った風が身体の回りをまつわいつきけだるさをさらに増して自動車が行き来していて江ノ島の静けさがうそのようだった。
「ちょっと待ってて」
幸一はそういって涼子を待たせてマクドナルドの店に入り、マックドポテトを注文して涼子の元に駆けながら戻ってきた。
少し歩いて江ノ島水族館の中に入ると冷気が二人を包んだ。
「わあ、涼し~いっ」
 けだるい暑さから開放されて巨大水槽のある場所に駆けて行った。
「ここは、相模の海を切り取ったような大水槽で8千匹のいわしが泳いでいるんだよ」
「すご~い、いろいろな魚が居るみたいな」
涼子は驚いて大きな瞳で上を見つめていた。
「あまり高くって首が痛くなる」
と言った。
 水族館とマリンランドを結ぶ約40メートルの地下通路は壁面には発光アートアクア・パラダイスがあってラッコ・いるか・ペンギン・ザトウクジラ・クラゲ・ウミガメなど、いろいろな海の生き物が黒く浮き上がっていた。
二人は、壁画を眺めながら左右、天井の円形水槽を泳ぐえいやさめにも目を配って歩いた。
「海の中に居るみた~い」
 涼子は立ち止まってそう言った。
「あの中で泳いで見たい?」
「まさか、えいとかさめが居たら恐いよ」
「この水族館に来たからには・・・・・・」、
「そうそういるかショー見なきゃ」
と二人はショー会場に急いだ。幸一は自販機で缶入りドリンクを買った。
「ちょうど良かった、3時30分の最終に間に合ったよ」
 二人は扇状のスタジアムの席に腰掛けた。
「食べる」
と幸一は、さっき買ってきたポテトフライの箱と缶コーヒーを涼子に差し出した。
二人は、箱に入ったポテトフライをr突っつきながら仲良く食べた。
 水族館の飼育スタッフが出てきて
「それでは、今日最後のハッピー・テイルショーを行います」
とアナウンスがあり円形の水槽の中のいるかに話しかける。
 子供と大人たちが水槽の中のいるかと握手をしたり触ったりしていた。
いるかは水槽をゆうゆうと泳いでいたが、突然空中を舞うかのように見事にフライングした。水しぶきが飛び散って水槽の前の観客に掛かった。
 二人は大勢の観衆に混じって拍手をした。
 涼子は、ふとわれに帰って、腕時計を見て、
「もう4時だわ、あたし、帰らないと」
と言った。その時、涼子のかばんの中のケータイが鳴った。ケータイを取り出すと母からだった。
「どうしたの、涼子」、
「お母さん、幸一さんに会って」
「ああそう、よかったね」、
と母は安心したようだった。
「楽しかった幸一さん。部活が休みになってよかった」
「僕も涼子さんと一緒でよかった。・・・・ぼ、僕は・・・涼子さんが好きだよ。・・・・・・」
 幸一はそういい掛けながら、
「でも・・・・涼子さんが・・・うちの母の従姉妹だなんて」
 涼子は、
「幸一さんからあたしを好きだって言われるのって悪い気持ちはしないし・・・・・・・」
と答えた。
「でも、あたしがあなたのお母さんと従姉妹だからいいと思う・・・・だっていつまでも・・・・今の気持ちで、また・・・・・・逢えるじゃない」
と涼子は幸一の顔を見て言った。
と言った。二人は江ノ島駅に向かって歩いた。。
 江ノ島駅に着き、涼子を単・コロ10型レトロ電車に送った。
「幸一さん、またねえ」
 涼子の声を背中で聞きながら、振り返ってガラス窓越しの涼子に手を振って2番線の停車中の電車に向かって歩いた。電車のドアに手をかけて足を踏み入れたとたん、幸一はまためまいを感じ耳がつーんとしてきた。周囲の景色が次第に霞み、ふらふらとした身体を握り手でしっかり掴んだ。どうしたんだろう、2回もめまいがして、不安な気持ちが襲うと同時にぼんやりしていた視野がはっきりしてきた。遠くに聞こえていた音もはっきりと戻った。
 ああ良かった。気がつくと元のTシャツに短パン姿に戻っていた。
 僕は夢を見ていたのだろうか、幸一はそう思った。
「お待たせいたしました。ただいま信号機が直りましたのでまもなく藤沢行きが発車いたします」
 電車は何事もないかのように5分遅れでけだるい夏の午後の日を藤沢に向けて走るのだった。
 カメラを収めたバッグを開けると、そこには涼子と一緒に撮ったセピア色に変色した写真があった。
「夢じゃなかったんだ、写真がここに」
 そう思って幸一は写真をしみじみといつまでも見つめているのだった。

                              (完)
著作権はすべて管理人(ヒロクン)に帰存します。この小説の文章の転用・引用は禁止します









予告編シナリオ「大井田さくらのツアーコン日記」1月1日より掲載

2006-12-07 12:39:39 | 今日のあれこれ 日記風
このシナリオは、私が海外旅行で今まで経験したいろいろな失敗とか経験などを帝国観光旅行社(仮想)の大井田さくらというツアーガイドが悪戦苦闘する明るいコメディー調の物語です。現在執筆中ですが完成部分から順次掲載いたします。
なお、ここに登場する人物は実在しませんが、物語の内容は大部分は経験に基づき、一部は脚色しています。

登場する国名
アメリカ・メキシコ・カナダ・タイ・シンガポール・マレーシアなど
都市
サンフランシスコ・ロスアンゼルス・ホノルル・ニューヨーク・ティファナ・バンコク・シンガポール・クアラルンプールなど
あらすじ
大井田さくらは、霞ヶ関の帝国観光旅行に勤務する10年以上のキャリアOLです。
旅行の企画開発を手がけて今は海外旅行旅客部に籍を置いています。
持田部長に重宝されていろいろさくらも部長のためによく働きます、長い間の仕事の経験を生かして皆のよき相談相手です。
仕事を今まで一生懸命頑張って年休もそのため山のように残っています。
気がついたらさくらはいつの間にか30歳を過ぎてしまいました。
そういうさくらを見て、部長は人事の役員会で課長昇格を具申しますが、男性で候補者がいてなかなか難しいといわれて検討の結果主任に昇格させます。
部長はある日さくらに海外旅行のツアーコンダクターの仕事を任せたいと思い、そのことを話します。いつも会社の中で頑張ってきたさくらに海外の経験をさせてあげようという気遣いなのです。
さくらは、経験不足で私は小心者でといったんは断りますが、部長の薦めでたまに海外を旅行して視野も広がるしと結局引き受けます。
さくらははじめてのツアーコンダクターでと内心不安になるのですが、そこにさらに追い討ちをかけるようにアメリカンウエスト航空のストライキがあってさくらの悪戦奮闘が始まります。


2006年7月27日(木)物書きの楽しみ

2006-07-08 00:45:08 | 今日のあれこれ 日記風
私のシナリオ・小説歴
私がシナリオとか小説を書こうと思った動機は、昨年長年の激務がたたり、体もぼろぼろになり、なんと4回も入院の羽目になりました。
今まで夢中で駆けて来た人生で初めて生死を知って、それで見舞いに着てくださっつた方からノートとボールペンをいただいてそれでベッドでまずシナリオを書いてみようかという気持ちになりました。

入院していて朝6時から夜9時までの時間、いやというほどあるので午前中は心を穏やかにする読書、午後からは時間があり夜のTVドラマも犯罪サスペンスが多く、それで自分のホテル経験を基に、都会のホテルに働く恋人たちを書いてみたいと思い、「ホテルの恋人たち」をなんと13話を設定、あらすじは全部書いたのですがシナリオはやはり60%程度しか完成していません。

僕は多分に韓流ドラマ「冬のソナタ」を観てあの高校時代のぺ・ヨンジュン、チェ・ジュウの純愛に惹かれたのか、人間の美しさを書いてみたいと思いました。
その後、ふとしたとき私の幼稚園・小学校での幼馴染(戦争で音信普通)と20年ぶりに国際線ニューヨーク行きの機内で彼女はCA(チーフキャビンアテンダント)彼はビジネスコンサルタントとして運命の再会をする物語を書いて出来上がりました。

当初シナリオとしてTV局シナリオ登竜門に応募する予定でしたが民放が今年から当分中止するということで昨年12月から小説化して6月完成しました。
現在ブログにいろいろ公開していますので見ていただければうれしく思います。

★「ホテルの恋人たち」シナリオ・現在小説化中
★「愛は時を越えて」シナリオ・小説完成
★短編小説「けだるい夏の日」
★短編小説「終電車」
★シナリオ「大井田さくらのツアーコン日記」未完成・進行中
★中篇小説「山手線」未完成・進行中

物書きのメリット

①物を書くということは、目・耳・鼻・口など、また頭脳などの五感を動かすわけですから心・精神・身体を鍛えることになると思います。
目で見たことをいろいろな視点でとらえ、耳で聞いたことを正確に表現し、鼻でかいだにおいを伝えて右脳・左脳の持つ情緒性・論理性などをいかんなく伝えることができると思っています。

②自己を文という形で表現できること

人間には、思ってる、考えてることを誰かに伝えたいと言う本能が誰にもあります。それをシナリオ・小説。エッセイという形で伝えることに、読み手に伝えることに喜びを感じると思います。

③さまざまな人間模様を自由に描き出す楽しみがある。

シナリオ・小説はまずどんなキャラクターを持った人物を登場させる書き手に自由にゆだねられています。登場人物の性格によって、それが喜劇にも悲劇にも、また
コミック風とか、に大きく変化するのです。

④背景・舞台の設定が自由にできる。

登場人物の舞台・背景はそれが歴史的観点で江戸・明治・大正・昭和・平成の今自由に置くことができます。また、それが日本・外国のいずれにも設定できる面白さがあります。

物書きのデメリット

あえて物を書くことのデメリットについて僕の個人的な考えを述べたいと思います。
物を書いてゆくうちに登場人物の描写が細かくなってあたかもその人物が実在するように考えてしまうことです。
ですからいつも登場人物を描きながら離れていて客観的見方を保たなくてはいけないことがわかります。
これが愛を持った親切な優しい人ならばそれはそれでよいのですが、残忍で殺人を犯したり金と欲望に目がくらむ人物だと心はその人によってですが暗くなるのではないのかと思います。

ですから、あまりに熱中して妄想を抱くようになってはいけないと思います。
たまに人を殺害するTVゲームを見ていて自分もその気になったと言う人がいますが心に悪の気持ちが芽生えたとのだと思います。
僕は心が純粋で明るい愛のある人を気遣う物語りを書いていきたいと思っています。


小説のジャンルについて

一口に小説と言ってもいろいろあります。
いわゆる戦前・戦後の文豪の香り高い文学的手法を用いた小説
ブログの日記が認められて小説、そして圧倒的支持を得て映画化、ドラマ化される
ブログ小説 鬼嫁日記など
ケータイに投稿しまとめて小説とするケータイ小説
日常起き得るさまざまな出来事を軽く描いたライトノベル
など、
今やいろいろな手法や表現を自由に描いた小説が認められる世の中になりました。
誰でも気軽に自分を表現し小説を書く時代が来たといっても過言ではありません。

小説で一番大切にする点

まず、全体のあらすじを書きます。そして書かれた筋に従って物語を進めてゆきますがあくまでもこの段階では荒削りです。
絵で言えば全体の輪郭を書きます。輪郭ですので細かい点はいくらでも修正できます。

第二に僕の場合はあらかじめ物語の登場人物のプロフィールを設定することにしています。

たとえば僕の書いた作品の「愛は時を越えて」がありますが、
登場人物別に細かくキャラクターを設定します。
高梨亜理紗(30歳)極東航空チーフキャビンアテンダント
いつも穏やかで人のことを第一に気遣う、穏やかで落ち着きと優雅さを持った女性である。CAのチーフパーサーであることから仕事のプロを目指し率先垂範して実践し、同僚・後輩から尊敬される反面、新人の研修は凄まじく鬼の亜理紗といわれている。

錦小路裕彦(31歳)

落ち着いていて真面目な性格である。仕事熱心である。
幼稚園時代の幼馴染の亜理紗を忘れられない純粋さを持っている。
高所恐怖症である。
本多木綿子(37歳)

元チーフパーサーとしてCAとクルーの潤滑油的存在である。CAの仕事を暖かく見守り亜理紗をよく理解し信頼している。

伊東葉月(23歳)

新人でいずみと同期生、今風の価値観と個性的で亜理紗と距離感がある。

後藤いずみ(24歳)

新人で葉月と同期生、二人はやりあっているが実は一卵性双生児のように仲がいい。短歌をこよなく愛しインスタントに作った短歌を披露し亜理紗が苦手としている。
と言った具合にです。

徹底的な資料収集と状況分析
たとえば、処女作である「ホテルの恋人たち」を書くとしましょう。
その場合過去のホテルの経験をもとにフロントとかメインテナンスとか厨房などの自分の経験をもとにしてもっと掘り下げてインターネットでホテルを索引したり、ホテル関係の書籍とか雑誌を買ってきて創造性を高めます。

インターネットは紙の百科事典より今の時点での情報を提供してくれます。
たとえば、
ホテルフロントマンの実務・顧客の苦情・フロント業務の一日・ホテルの階層構成・各室の面積・料金・付帯施設までわかります。
同様に厨房では、食品管理・厨房業務・料理手順などさまざまな情報が得られます。
メンテナンス・安全管理などについても同様です。
そのほか巨大ホテルには、ホテルの快適な生活が送れる飲食・ファッション・健康・旅行・公共施設などがあります。


ホテルの実査
時として実際のホテルに赴いてフロントとか喫茶施設でゆっくり休養しながら物語りを構築します。
この方法は、実際にホテルを描く場合非常に役に立ちよりリアルにすることが出来ます。
フロントの人とお客の応対を頭で描く場合でも実際のお客との応対を観察するとフロントとホテルマンとのつながりがわかってきます。
それに、ホテルの内部の構造とか装飾がわかります。

ホテルは人々の憩いの場であり物事を考えるには最適の場所です。
ただ、どこでも自由にホテル内を歩けるからと言っても最近は治安が不安で警備員もいますので利用者が歩ける範囲内に留めることが大切といえましょう。

シナリオで大切にしていること

僕はもともとシナリオを書くことからスタートしました。
ですから書いた作品を小説化しても映像の面が強く浮かんでくるのも無理ありません。
たとえば「愛は時を越えて」も拙作を読まれた方から読んでいて目に映像が浮かんでくるようだと意見いただきます。
小説は、文学的、抽象的な文言が多い作品もあり、そこから各自が頭に映像として浮かび上がってくればよいのですが、何しろ最初からシナリオを書くことからスタートしたものですからどうしても具体的な映像重視主義になっています。

そこでシナリオとして大切な条件も大切にして小説を書くことにしています。
あるシナリオ雑誌で見たのですが、シナリオ審査委員の方の覆面座談会だったのですが、こういう作品は審査員が注目するという10か条が載せられていました。

①映像が目に浮かんでくること
②せりふは効果的で短めに
③監督・ディレクター・俳優の三者にたった立場から書く
④背景・洋服などの説明は簡単に、見ればわかる
⑤恋愛物ならば最初から始まって5分くらいで予感を感じさせるように、だらだら引っ張って最後にわかるはよくない
⑥CMごとに物語、せりふの山場を作る、見せ所を作る
⑦せりふは今風言葉を活用する。時代が古くても視聴者は今の感覚で見ている
⑧効果的な場面とせりふを作っておく、俳優は台本渡されると自分が一番個性の現れているところに注目する
⑨全体的に自然な流れを持たせる
⑩登場人物の性格を明らかにする、
などが注目点だそうです


小説のジャンル

①伝統の文学小説
②プロレタリアート小説
③時代劇小説
④推理小説
⑤官能小説
⑥サイエンスフィクション小説
新しい小説
①ライトノベル
②ケータイ小説
③NET小説
④ブログ小説
⑤コミック小説

①古典的文学
日本にいつごろから文学的表現の書物があったのでしょうか。
古くは「日本書記」と言われています。
ついで平安時代を経て、清少納言の「枕草子」「徒然草」などがあります。
中でも「枕草子」は当時の女官の日常の出来事を女性らしい繊細な目で書いたものです。
中でも高校時代に学んだ「枕草子」はその叙情的な美しい表現がいまだに記憶として深く刻まれています。
鎌倉時代に完成した平家の隆盛で華美な姿と壇ノ浦の戦いで滅没するさまを描いた「平家物語」など、江戸時代に入ると華やかな町民文化が到来しまた商業も発展したことから井原西鶴の「当世胸算用」は商いをどのように行い成功させるかを細かく書いた書物として注目されます。また当時の華やかな浮世絵文化を描いた「好色五人男」があります。

①伝統的文学小説
これは、明治・大正・昭和時代に生きてきた香りの高い文学的手法で書いてきた文学者です。

明治時代
森鴎外・二葉亭四迷・樋口一葉(初の女流作家)徳富蘆花などがあげられます。
異色は樋口一葉で貧乏だった自分の生活をモチーフにした「たけくらべ」で僅か27歳でこの世を去っています。

大正時代
有島武郎・坪内逍遥・徳多秋声・石川啄木などがあげられます。
中でも石川啄木は東北の貧しい農家の出身で昭和初期の東北地方が度々冷害に見舞われて不作となった時代の生活ぶりを描写しています。石川啄木は「働けど働けどわが暮らし楽にならず・・・・じっと手を見る」と歌ったことはあまりのも有名で当時の日本の農業の大地主制度の搾取・米作中心の不安定な要素を抱えていたからにほかありません。

昭和時代
川端康成・谷崎潤一郎・堀辰雄・太宰治の戦前派から戦後はきら星のように伊藤整・佐多稲子・高見順・井伏鱒二・三島由紀夫・井上ひさし・松本清張・最近では村上龍など優れた作家を輩出しています。

川端康成の「雪国」「伊豆の踊り子」は美しい日本の光景を背景にきわめて叙情的に物語りを展開していて世界的に日本文学が認められました。
その反面厭世的な世の中を背景を描写した太宰治の作品「人間失格」「グッドバイ」があります。

作家を目指す人は、谷崎潤一郎の作品を読むことがいいとある審査員は述べています。谷崎潤一郎の代表的作品は「細雪」ですが、いまだに恥ずかしいことながら見ていませんので文学を語る資格はありません。この当時の文豪の作品を読むことは日本文学を築いてきた方だけに必要だと思います。

最近では芥川賞・直木賞・などの作家の登竜門の受賞者もぐっと年齢が若返っています。
因みに最近芥川賞を受賞した金原ひとみ「蛇にピアスを」はわずか19歳です。
今年度の直木賞は森絵都の「まほろば駅前多田便利軒」三浦しおんの「風に舞い上がるビニールシート」です。芥川賞は伊藤たかみの「八月の路上に捨てる」となっています。

②プロレタリアート小説
大正時代になると、国家が主体となって近代化のひずみが現れて低賃金で搾取される労働者の抵抗が現れて、当時の劣悪な労働条件を表わした「蟹工船」が有名になり作家の小林多喜二が有名になりました。

③時代劇小説
時代劇小説はほとんど知識がないのですが、日本の忠実な歴史を再現したものとかとか当時の偉人を描いた小説、当時の庶民の生活を描いた小説、またたび物の小説があるようです。

当時の偉人を描いた小説家としては、大仏次郎・吉川英二が上げられます。
吉川英二の「徳川家康」はあまりに有名です。当時NHKラジオで徳川無声の連続小説「徳川無声」は全盛を風靡しました。

当時の庶民の生活や侍、奉行の行動を描いたものとしては、
山手樹一郎・山岡宗八・池波正太郎・などが上げられると思いますが詳しい知識がなくてごめんなさい。

③推理小説
推理小説の元祖は、まずなんと言っても江戸川乱歩でしょう。
江戸川乱歩はいまだに高い評価を得ていて少年から年輩者まで広い層で読まれているようです。
その手法は今でも新鮮で奇抜な発想で読むものをひきつけてしまう魅力があります。

戦後派としてはなんといっても松本清張に留めをさすでしょう。
戦後の不可解な事件を探った「帝銀殺人事件」をはじめ日本の政界を抉った「日本の黒い霧」巨大金融の「日本銀行」そのほか「東京大学」などがあります。
また完璧なアリバイを崩して犯人を時間と線でたどって追いかけた「点と線」などがあります。
なお、松本清張の作品については下記サイトを見るといいでしょう。
http://dennoutosi.seesaa.net/

⑤官能小説
戦後荒廃した世相の中にあってその日を生きてゆくさまを描いた田村泰二郎の「肉体の門」があげられます。

⑥サイエンスフィクション小説
代表的作家は
小松左京・星信一などがあげられます。
星新一の代表的作品として「ポッコちゃん」「マイ国家」長編小説「きまぐれ指数」などがあります。
同時に一般の人を対象に「ショートショートストーリー」を公募して新人の発掘を行いました。
小松左京は星信一とともに本格的なSF作家で「日本沈没」「首都焼失」などが上げられます。

時代は2000年を超えてからは、コンピューターの飛躍的発展、中でもインターネット、ケータイ電話の技術の飛躍的発展により、従来考えなかった5つの部門が発展して誰でも気軽に小説家を目指すことが出来るようになったということです。
会話の表現も今風の感性的言葉が使われています。

僕が書いた小説も「愛は時を超えて」短編小説「けだるい夏の日」「終電車」もある面では登場人物の会話の面白さとちょっとした表現で微妙に変化する人間の心理の変化を掬いあげています。これなどは僕が最初シナリオからスタートしたので、私のこの一言わかって欲しいというドラマの会話の面白さを書いているつもりです。

従来の伝統的文学では考えられなかったこれらの部門である日それがコミックとして、小説として発表されると爆発的増刷でたちまち50万部で、それをドラマ化、映画化されるようになってきていて、何が読まれる基準なのかわからなく不透明な時代であると難しさを主張する出版社も出てきている有様です。

①ライトノベル
僕の考えですが、楽しく明るく読める軽い読み物という意味でライトノベルという名前がつけられたのではないかと思います。
この小説は従来の文学的表現にとらわれず、見てみるとシナリオのように会話の羅列されたところがありますが、シナリオと従来の小説が合体したのではないのではないかと思っています。僕が書いた小説も「愛は時を超えて」短編小説「けだるい夏の日」「終電車」もある面では登場人物の会話の面白さとちょっとした表現で微妙に変化する人間の変化を掬いあげています。これなどは僕が最初シナリオからスタートしたので、私のこの一言わかって欲しいというドラマの会話の面白さを書いているつもりです。

②NET小説(HP・ブログ)
これらの範疇としてインターネットのHP,またはブログで自分の作品を掲載して皆に見てもらうことです。
特に小説は自分で書いていてどこがよいかわからなくなることがまだありますので読んでもらってコメントをしてもらうと客観的に判断ができて励みにもなるようです。

因みに最近はブログの小説・日記がある日映画化・ドラマ化されることが多くなってきてます。
怖い嫁の言動をユーモラスに綴った「鬼嫁日記」電車内のちょっとした事件をブログに書いてそれが評判になって投書を元にした「電車男」は映画化までされました。

一方、最近は活字離れでかわってコミックに人気が集まって中にはたちまち何十万部という驚異的な販売冊数を記録することがあります。そしてそれが視聴率の増加につながればということでいきなりTVドラマ化、映画化される例が多くなってきています。
たとえばつい最近もNTVの「ごくせん」「女王の教室」TBSの「CAとお呼び」などがコミックのドラマ化されたものが放映されている状況です。

もの書きとして目指す点

もの書きとして目指さなければならないことは、いったん書き出したらその作品が完成するまでは終わりまでずっと書き続けることが大切だといわれています。
決して途中で投げ出さずそれを最後まで貫く忍耐力・持久力・探究心が大切だと言うことです。とは言っても書いてて途中で指が進まなくなってしまうことがあります。

出来るだけ沢山書くこと

もの書きとして表現とか情緒とか、感情の表現とか大切なことは沢山ありますが、どんな下手な人でも原稿用紙に1千枚くらいを目標にして書くと自分の伝えたい言葉が自然に出てくるようになるそうです。
僕も昨年からシナリオ・小説・エッセイなどをこの1年間といにかく書き続けてきたので小説にしてもボキャブラリーが豊かになっていろいろな表現が出てくるようになったと思っています。

情景に敏感であること

一口に小説につきものの情景といっても自然の表現がたとえば夕方を表わすのに「茜色の雲」とか「心地よいそよ風」とか当たり前の言葉で表現していてはもの書きとしては落第とある審査員は言ってました。
風といえば20種くらいの表現がなくてはいけないそうです。
夕日の表現でも天気・雲によって時間の変化によって違ってくるので、色彩辞典を持っていることが大切だそうです。
二人は海辺で茜色に染まった雲のある夕焼けを見て「きれいだね」といつまでも寄り添っていた×
二人は海辺でオレンジ色に染まった夕陽が黄色・紫やがて濃い灰色に変わってゆく
雲の色を見て「きれいだね」といつまでも寄り添っていたの方がよいのでしょうか。

同じ言葉で締めくくらないこと

これは文の終わりが「遅く来てごめん」と言った、「私何分待ったと思う」と言ったとゆう具合に「言った」「だった」など同じ文言を羅列しないことです。
この場合「言った」「だった」と過去形文言を使用すると物語そのものは継続的動作なのにあたかも長い麺がぷつっと切れてしまって冷たい平板な感じになってしまうことに最近気がつきました。

現在進行形の「~している」「感じる」「遊んでいる」という形の文言を挿入することにより全体としての文体が引き締まってきます。
登場人物のそのときのなぜそういったのかを考えてみることが必要だと思います。
これは最近僕が言ったの羅列をしていていえないんですけど、果たしてこれが皆に読んでもらえるだろうかを真剣に考えるようになって書店で文庫本を見て今頃にして気づきました。

物語に意外性をもたらせること

読者が小説を読んでいて、読み進むうちに読者が考えていなかった意外なこととかどんでん返し的な手法が読者の興味を誘うようです。
意外性とは読むものは最初の部分をよんでいるうちにすでにこれはきっとこうなるのだろうと頭にイメージつけてしまう傾向があるので読んでいるものの想定と違った結果を表わすことにより読む人の気持ちを高めることが大切と思っていますが、実際書くとなると非常に難しい部分です。


今風若者言葉も時には必要

物語りを書く場合、いつも正しい言葉が大切とは限りません。
登場人物によって30台の男女と20台の男女の場合、年代の相違を明確に表わすには言葉の相違によって表わすことが効果的だと思います。
あるシナリオ教室では受講生にテーマを与えて書かせるんだそうですが、50台以降の人は丁寧なザーマス調で書いてるので、先生が若者言葉がわからなければ大勢の若者が集まる渋谷などへ出かけて街を歩き感覚を掴んで来いというそうです。
場合によってはドラマをDVD・ビデオなどで収録しそこから20台の若い人たちの言葉を研究することもいいかも知れません。



原稿用紙かPCか

よく作品を書く場合原稿用紙かPCかどちらがよいかが議論の的になるようですが、僕の経験から見るとどちらも一長一短あるようです。
原稿で書き物をするとPCと異なってとにかく何百ページと言う作品をペンで書くわけですから一句一字間違ってはいけないことになり、神経を集中させてわからない字を辞書で調べる必要があります。
もし、誤まった字とか書きながら何節かを付け加えたりすると極端な場合は最初から書き直す必要があります。

僕もはじめて原稿用紙に150ページ分を書きましたが最初にきれいな乱れない字が書けても最後まで字を一糸乱れずに書くことがいかに困難かを実感しました。
物語りを途中から書いたり書けるところから書いていくことは出来ないようです。
PCがこんなに発展している世の中でいまだに原稿用紙で応募すことが条件付けられているのを見ても原稿用紙の重要性がわかると思います。

一方、PCで指でキーをたたいて作品を書くということは原稿と異なってどこからでもかけることです。初めから、または途中から、最後から思いついた構想をメモに書いていてそれをやがて作品に高めていくことが出来ます。
また早打ちをして作品を描いてゆくことが出来ます。
PCは該当漢字がいろいろと出てきますので正確な漢字を調べないで書いてゆくので誤字が出てしまいます。

またPCで書くと時折ここが説明不足とかもっと情感を高めなければとかいうことで挿入が多くなり、甚だしいときは当初意図していたこととまったく異なった作品になってしまうことがあります。
その結果いつまでも作品が出来ず修正に固持してしまうことがあります。
一方、原稿用紙だと一度書いたものは挿入・訂正が不可能なので書き終わったもの、すなわち完成品ということです。