世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

中国、地方財政破綻防止のため自治体起債を許可 The local government debt burden

2011-10-22 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2011-10-22

Financial Timesは、中国政府が、上海市、浙江省、広東省、新セン市の4自治体に3年物と5年物の起債を認めたことを、重要ニュースとして報じている。

これは省や特別市が、2008年のリーマンショックの波及に驚いた中央政府の指示によって、巨額のインフラ投資を半ば強制されて、半ば便乗して行った際に、その資金を賄うために巨額の借り入れを行ったツケを払う時期が来たことを如実に示している。

中国政府は、地方政府の放縦な財政運営で破綻することを恐れて、地方が独自の起債をすることを1994年以来禁じている。しかし地方自治体は、特別目的会社(Special Purpose Company)を設立して、実質的に巨額の借り入れを行って、その「禁令」を骨抜きにしてきた。その実態は、怪しげ(murky)で、野放し(unregulated)であるとFTは評している。

中国には「決定事項について人々が抜け道を考え出す」という意味で使われる「上有政策、下有対策」という有名な言葉があるが、このまさにその言葉通りのことを省政府が行い、中央政府が黙認するという、いわば「大人の政治」が行われてきたわけである。

FTによれば、2008年の北京オリンピックと同時期に世界的にリーマンショックが走った際に、地方政府は、中央政府から景気刺激のための公共投資の積み上げを命令されたことを奇貨として、この仕組みを「活用」した結果、2007年の借り入れ総額4兆元が、2008年に14兆元に跳ね上がっている。

問題はさらに深いところにある。これらの借入金の使途が、採算の立つ見込みがない案件への投資がかなりあるとみられるため、地方政府が早晩債務不履行に陥る可能性が高いことが懸念されているのだ。

大半が、土地使用権を担保にした不動産投資に向けられていて、不動産バブルの原因となっている。このため中国の景気減速によって、バブルが崩壊すれば直ちに金融機関の破たんの懸念に繋がる。そして地方政府は土地使用権の販売で資金を作ってきたが、来るべきものは、いつか必ず来る。したがって上記4自治体のほかにもさらに地方起債を認めざるを得なくなると観測されている。

「オリンパス英人社長追放が写す」日本的経営の問題点 Anti-social Forces

2011-10-19 | 世界から見た日本
2011-10-19

先週からfinancial Timesや、The Wall Street Journalなどの一流経済紙は、オリンパスの菊川会長(70)が先導して、英人社長社長Michael Woodford氏(51)を就任6か月で解任したことを、好奇の目で報道を続けている。

解任の理由を会社側は、「経営の方向性と手法の違い」(“differences in management direction and methods”)と説明しているが、Woodford氏の主張は大きく異なる。

同社は2008年に英国の会社を約2000億円で買収した時に、アドバイザーを務めた会社に謝礼金として約700億円を支払っているが、「この額が過大であるだけでなく、その会社は謝礼金を受け取ったあと清算されて関係者は行方不明という事態となっていることに関して事実を糺したにもかかわらず、会長や関係役員は説明責任を果たしていない」というのが同氏の主張である。

本日のFinancial Timesの見出しは、「オリンパス、会長の謝礼金(は半額だった)という説明に矛盾露呈」(Olympus contradicts chaiman over fees.)となっている。会長が、「元社長の主張額は間違っており、謝礼金はその半分だった」と反論した翌日に、「やっぱり元社長の額が正しかった」と訂正したのである。そしてFTは通常の謝礼額は、取引額の1%が相場だと説明を加えている。

元社長は、この不明朗支出には、「金銭上の不正行為の疑いを排除しない」(financial misconduct could not be ruled out)との監査法人の意見を取り付けているが、「本件には反社会勢力(anti-social forces)がかかわっているらしいという雑誌報道を読んで震え上がった」と述懐している、とFTは報道している。

さらに「会社側は、ここ数年間で734億円を払って買った有象無象の会社を、買収後ほどなく清算してしまった、との元社長の主張を認めた」とも報じている。

廊下に落ちたチリを気にするほどきめ細かいことまでに神経を使いながら、会社のトップが、怪しげな資金導入に絡んで大きな詐欺事件に巻き込まれて巨額損失を出したり、反社会勢力に絡め取られたりすることが周期的に起こるのが日本の企業文化」の特徴である。


「占拠運動」は燎原の火のごとく広がるか “The Occupy Wall Street”

2011-10-16 | グローバル政治

2011-10-16

今週末の新聞各紙は、米国発の「ウォールストリートを占拠しよう」デモ(“The Occupy Wall Street Demonstration”)が、全米各地のみならず、全世界的な広がりを見せていることを大きく取り上げている。

その源となったNew York Cityでは土曜日、マンハッタンの Washington Square Parkで深夜に集合した人々が、北上してTimes Squareで約1,000人の集会を行ったが、解散させようと躍起となる警察との小競り合いの末に、80人の逮捕者を出して終息したと報じられている。

集まった人たちの矛先が向かうのは、銀行を中心とした金融界である。デモ隊が叫ぶのは、"Banks got bailed out. We got sold out," (銀行はリーマンショックから、政府の金で救済された。しかし我々は結局裏切られた。我々は長期に失業し、ローンが払えず家を失い、健康保険にも加入できない、我々の貧しさは深刻化するばかりではないか)。

USA Todayは、AP電を引用して、デモ隊のプラカードに書かれた "Keep your corporate hands off my government," and "Mr. Obama, Tear Down That Wall Street."という訴えを紹介している。「ウォールストリートよ、私の政府の政策決定に手出しをするのはやめよ。オバマ大統領、ウォールストリートの解体を」。放縦な貸し出しで巨額の損失を出し破たんした大銀行が救済されたのは2009年。ゼロ金利と、QE1とQE2と呼ばれる大規模なドル資金の供給が行われて金融界は立ち直った。


国家財政破たんから、経済危機に苦しむ欧州各国でも、銀行救済措置を優先し、庶民の苦しみが放置されていることに「怒れる人民」("the indignant")のデモが各都市に広がっている。特にローマでは、ついにデモは週末暴徒化した。

この「占拠運動」への人民の動員はインターネットが裏側から支えている。アラブ国家と社会を長年牛耳ってきた軍事独裁政権を内部崩壊させた同じ力が、西欧民主主義国家を内部から揺さぶり始めた。「選挙制度」を通して民意を反映するはずであった、民主政治システムは実は大いなる虚構ではなかったのか。そのような問いが発せられているのかもしれない。

中国になぜ「Steve Jobs」は出現しないのか “Not a Chance”

2011-10-09 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2011-10-09

PCとインターネットを万人のものとする技術革新を実現させ、Appleというビジネスモデルを創出して、20世紀後半から21世紀初頭の人類社会を大きく変革した巨人Steve Jobsがその短い人生を終えた。

まさに「巨星、墜つ」の衝撃を世界に与えたが、5億人のインターネット人口をすでに持つ中国でもその死を悼む声が、ネット上に多く出現している。

それを伝えるThe Wall Street Journalの7日の電子版の見出しは、「中国のインターネット:なぜ中国にはSteve Jobsが出ないのか?」(China’s Internet: Why China Has No Jobs)となっている。

同紙は、「中国のネット上の議論は、常に問題の核心が中国政治・社会の問題点に収れんしていく」として、「独裁国家体制、独占企業体制、万事後ろ向きの国民文化、蔓延する技術盗用のわが国で、『イノベーションの神様』の話?あり得ない。考えるのも無駄だ」(Not a chance! Don’t even think about it.)とのある文化人のブログを紹介している。

さらに、「今や世界の工場としての中国は、競争相手を倒すことに血道を上げる国になったが、業績はApple並みに上がっても、その製品の革新性においてAppleとは、比べるべくもない」との自己反省のブログ論評も紹介している。

一方、その原因を極める議論の中で、「それは、中国人が劣っているわけではない。教育に問題があるのだ。中国では人と違っている才能を伸ばすのではなく、その角をこすり落として丸くさせる金太郎あめ教育に専念するのが中国の教師だ」との大学教授の意見を引用している。

「もしAppleが木になった果物とすれば、その果物を育てた木の枝は、「思想と革新の自由」であり、根っこは「立憲民主制度」にある。独裁国家は集団でことをなすことには向いているが、科学技術の天才を育てることはできない」と言い切る大学からの意見を紹介し、さらにそれを補完するように、「その幹には、法治精神と知的財産権の尊重がある」という投資顧問会社幹部の指摘を紹介している。

さて、この理由づけが正しいとすれば、日本にもSteve Jobsは現れず、世界の工場でもなくなりつつある現実をどう説明すればよいのだろう。

名門コダックの孤独:特許切り売りでも出血止まらず Burn Through Cash

2011-10-01 | グローバル企業
2011-10-01

本日のThe New York Timesは、131年の名門写真フィルムメーカー、イーストマン・コダック社の経営危機を、「コダック、倒産のうわさの中、法律顧問と契約」との見出しで報道しているが、このニュースに同社株価は、金曜日のNY市場で54%下落し、同社は格付け機関Moody’sによって、「ジャンク」まで格下げされてしまった.


アナリストの一人は、「倒産のうわさは波紋を呼んでいるが、これはそうした連鎖反応(cascading effects)の一部である。いわば滝壺に真っ逆さまに落ちている状況といえる。」と評している。

同社は、2004年以来一度しか黒字決算をしたことがないという惨憺たる経営状況にある。原因はデジカメの普及でフィルム需要が急減したことにあるが、しかしそのデジカメも携帯端末にその地位を奪われるという、急速な技術革新が今なお進行中である。

同社は、起死回生を図るべく、フィルム以外の事業の拡大を図ってきた。インクジェット・プリンター部門への進出や、保有するディジタル・プリンティング特許の売却をもくろんだが、結局赤字の垂れ流し(burn through Cash)から脱却できていない。

今回の弁護士事務所2社と契約したことは、広く破産法適用申請準備(filing for bankruptcy)だと信じられているが、同社は必死にそれを打ち消している。リストラ実行や、知的財産権の売却のためには、法的な相談をする顧問弁護士事務所が絶対必要であるから、との説明である。

一方、倒産することを知りながら、片方で特許を売却して収益源とすることは、詐欺的権利譲渡(fraudulent conveyance)であるとの批判が出始めている。もちろんそのような事態となれば、買い手は詐害行為として、賠償を求めることはできる。しかし、こうした疑義が生じた以上、買い手としては購入に二の足を踏み、購入は倒産後に改めてということになるのは必定である。
100年続いたコア・ビジネスが、競合技術の出現で市場を喪失して蒸発してしまい、成功物語が一転、転落物語となってしまう典型例として、ビジネススクールのケーススタディーに長く使われることになるだろう。