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此の儘、野村堅太郎(のむら けんんたろう)と結婚して良いのだろうか?其の答えを出す為、「妙高山」で初めての登山をする百貨店勤めの江藤律子(えとう りつこ)。一緒に登る同僚の芝田由美(しばた ゆみ)は、仲人で在る元原(もとはら)部長と不倫中だ。由美の言動が、何も彼も気に入らない律子は、つい彼女に厳しく当たってしまう。
医者の妻で在る姉から、「利尻山」に誘われた宮川希美(みやがわ のぞみ)。翻訳家の仕事がう上手く行かず、親の脛を齧る希美は、雨の登山中、ずっと姉から見下されているという思いが拭えない。
トレッキング・ツアーに参加した帽子デザイナーの柚月(ゆづき)。前に来た時は、吉田(よしだ)君との自由旅行だった。彼と結婚する積りだったのに、どうして、今、私は1人なのだろうか。
真面目に、正直に、懸命に生きて来た。私の人生は、こんな筈では無かったのに・・・。誰にも言えない「思い」を抱え、一歩一歩、山を登る女達は、軈て自分形の小さな光を見出だして行く。
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湊かなえさんの小説「山女日記」は、「真面目に生きて来たものの、人には言えない悩みや迷いを抱えた女性達が、登山する中で光明を見出して行く姿を描いている。「妙高山」、「火打山」、「槍ヶ岳」、「利尻山」、「白馬岳」、「金時山」、「トンガリロ」という、山の名前が冠された7つの短編小説から構成されており、其れ其れが独立した作品では在るのだけれど、登場する人物達が、別の作品にも顔を出していたりする。
メインで登場する女性達、共通して感じるのは「随分、肩肘張って生きているなあ。此れじゃあ、嘸かし疲れる事だろう。もっとリラックスして生きれば良いのに。」という事。特に「火打山」に登場する美津子(みつこ)は“バブル世代”という事で、周りから“御高い女性”と思われ、其の誤解に合わせて自分自身を“演じている”のが、同年代の自分には、痛い程気持ちが判ってしまう所も在る。
山道を歩くのは嫌いで無いけれど、と言って、積極的に登山をする習慣が無い自分には、初めて知る「山のルール」が在った。「海外では、山の在来種を外来種から守る為、山中での排泄行為にも煩い所が在る。」というのはニュースか何かで聞いた事が在ったけれど、「入山前、外来種を持ち込まない為に、水場で靴底を洗う。」なんていうのは、「其処迄するんだ・・・。」と驚きだった。
湊さんの作品に触れる度に感じるのは、「もう少し、タイトルを工夫した方が良いんじゃないかなあ?」という事。プロの作家に対してこんな事を言うのは僭越だが、「白ゆき姫殺人事件」や「豆の上で眠る」、そして今回の「山女日記」等、兎に角、タイトル付けのセンスが良く無い。
又、彼女のデビュー作「告白」は、「巷間言われている程、高い評価を与えられる作品では無いなあ。」とは思ったものの、まあ読ませる内容だったが、以降の作品は正直パッとしない。「粗製乱造」と言ったら失礼になってしまうだろうが、そんな感じがしている。今回の「山女日記」も、「火打山」や「トンガリロ」はまあまあの作品だったが、全体とすれば「うーん・・・。」といった感じ。
総合評価は、星3つとする。