ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「片眼の猿」

2007年04月24日 | 書籍関連
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昔、九百九十九匹の猿の国があった。その国の猿たちは、すべて片眼だった。顔に、左眼だけしかなかったのだ。ところがある日その国に、たった一匹だけ、両眼の猿が産まれた。その猿は、国中の仲間にあざけられ、笑われた。思い悩んだ末、とうとうその猿は自分の右眼をつぶし、ほかの猿たちと同化した-。そんな話だった。

「なあ、猿がつぶした右眼は、何だったと思う?」俺が訊ねると、冬絵は戸惑ったように首をかしげた。

「俺はこう思うんだ。猿がつぶしたのは、そいつの自尊心だったんじゃないかって。」
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昨年度の「本格ミステリベスト10」に3作品を入選させる等、各種ミステリー・ランキングに突如登場した新進気鋭の作家・道尾秀介氏。これ迄「背の眼」に「向日葵の咲かない夏」、「シャドウ」と読破して来たが(彼の著書では「骸の爪」だけが未読。)、概して非現実的な世界観が漂うものの、伏線の敷き方の絶妙さとそれに基づく”やられた感”が心地良く、新作の「片眼の猿」も迷わずに購入した。

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この作品の主人公は、”或る特技”によって業界では知られる存在の私立探偵。常人には無い”音に関する特技”を持った彼が、「ライバル会社による産業スパイの証拠を押さえて欲しい。」という依頼を受ける。破格の成功報酬が約束された仕事だったが、その過程で彼はとんでもな現場に遭遇してしまう。
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彼を取り巻く人間達のキャラクターが皆、とても際立っている。「彼等は一体どんな人間なのだろうか?」と読者の興味を惹かせる設定なのだが、恐らくこの作品を映像化するのは”或る理由に於いて”非常に困難だろう。その理由を此処で書いてしまうと、この作品を読む上での”やられた感”が減じられてしまうで在ろうから控えておく。

全体を通して言えるのは”道尾ワールド”、即ち様々意味での”非現実的な世界観”は健在だし、伏線の敷き方がやはり上手い作家だなあという事。特にこの作品は一字一句に神経を集中して読み進めないと、言葉のレトリックにまんまと騙されてしまう事請け合いだ。

不思議な世界を彷徨いつつ、最後に苦笑してしまう様な”やられた感”を覚えたい方には、この作品がジャスト・フィットする事だろう。総合評価は星3.5

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5 コメント

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落語にもあります (破壊王子)
2007-04-25 01:23:34
「一眼国」っていう古典が。一つ目の人間しかいない国があるときき、捕まえて見世物にしようとしたら逆に捕まり「二つ目とは珍しい!見世物にしよう」っていうんですがね。
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また、興味惹かれる小説を紹介いただきありがとうございます (マヌケ)
2007-04-25 20:58:44
確か星新一の小説にもありましたね。 宇宙人に見えなくなった目を治してもらった人間の子供が、宇宙人の姿かたちと自分があまりにも違い体まで改造してもらうのですが、地球に帰ってから後悔しないといったはずなのに地球人の姿を見て驚いてしまうという落ちだったと思います。 中学の頃読んでいてちょっと無理があるよなと思っていました。 それから見えないがゆえに人に対する偏見がなく純粋な心の目で人を見ることができるものだというストーリーをご存知でしょうか。 「いつか見た青い空」という絶対に泣ける映画です。 60年代なので白人女性と黒人男性が一緒に道を歩いているだけでも大変な時代のアメリカでの話しです。 ある若い盲人の女性が危ないところを救われたり困っているところを何度も助けられて好意を抱いたのが優しい黒人の医学生でしたが、女性が白人であることから黒人学生の方が気を使って好意に応えることをためらいました。 彼女があなたの顔を見たいと手で触れながら「大きな鼻、大きな唇、大きな目、優しいお顔・・・パパの顔とはずいぶんちがうのね・・・」それはボクが黒人だからですと言ったのですが彼女にはその言葉の意味がわからず、当然当時の黒人が置かれていた状況も知りません。 目が見えないがゆえに偏見も黒人への誤った恐怖心などもありません。 目が見えていたらどうだったでしょうか。
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>マヌケ様 (giants-55)
2007-04-25 21:39:56
書き込み有難う御座いました。

小学校高学年から中学にかけて、星新一氏の作品にはまり読み漁りました。軽いタッチの中に秘められら強烈な”毒”が好きで、「自分もこの様な社会を風刺した作品を書いてみたい。」と思ったものです。唯、残念乍らマヌケ様の触れられた作品は記憶に無いのですが、星氏らしい内容だなあと感じます。

「いつか見た青い空」(全く無関係な話ですが、1977年に製作&放送された「いつか見た青空」というドラマ。今から四半世紀程前に深夜帯で再放送されていたのですが、受験勉強をしつつ夢中になって見ていました。吉行和子さんが主演で、受験戦争に関連したの裏口入学、家庭崩壊、不倫等、様々な要素が盛り込まれたドラマで、これが病み付きになる作品でした。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%84%E3%81%A4%E3%81%8B%E8%A6%8B%E3%81%9F%E9%9D%92%E7%A9%BA)、「夜の大捜査線」や「いつも心に太陽を」にも出演していたシドニー・ポワチエ氏の名作ですね。何処と無く「シラノ・ド・ベルジュラック」を彷彿とさせる作品で、自分も強く印象に残っております。
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いつか見た青い空というのは失明する前に見た最後の美しい景色だったんですよね (マヌケ)
2007-04-25 23:28:36
シラノはロミオ&ジュリエットなみにいろんなラブストーリーのネタモトですよね。 B級でも名優のスティーブ・マーチン主演の「いとしのロクサーヌ」はもろシラノでした。 日本の学園ドラマでも時代劇でもこりゃシラノだなと思えるものもたくさん目にしました。 古今東西恋愛にまつわる心温まるストーリーや笑い話には似たようなものがあるようですね。 時代が違っても恋愛や人間関係の愛憎劇というものは普遍なんですよね。 シェイクスピアを読んだ若者が今でも全然カッコイイと思えるくらいですし。 私が見たシラノは本当に鼻がデカイあのジェラールなんとかというフランス人俳優が主演してハンサムで女性が苦手な方をいかにもイケメンな優男バンサン・ペレーズという俳優が演じていました。 ヒロインは忘れました。ロクサーヌではダリル・ハナでした。   
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>マヌケ様 (giants-55)
2007-04-26 00:31:13
以前書いた事が在るのですが、自分が社会の様々な事柄に関心を持つ様になったのは、手塚治虫氏の影響が多大なのです。特に古典文学や戯曲に関しては、手塚作品と出遭わなければ恐らく読まないで一生を終えてしまった作品ばかりになるのではないかと。「シラノ・ド・ベルジュラック」なる戯曲の存在も知らなかった自分が、シラノ・ド・ベルジュラックをモチーフにした「ブラック・ジャック」の一篇を読み、それから後追いで戯曲を目にした位ですから。

P.S. 「愛しのロクサーヌ」は未見作品なのですが、一時期はインパクトの在るポスターを良く目にしました。
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