ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「微笑む人」

2012年12月16日 | 書籍関連

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「高学歴」で「高収入」、そして「イケメン」と、所謂三高”のエリート銀行員・仁藤俊実(にとう・としみ)の妻子が安治川(あじがわ)で死亡した。「家族3人で安治川に遊びに行った際、川で遊んでいた娘が流されたのを妻が助け様として深みに嵌ってしまった。夫の俊実が2人を引き上げ、そして119番通報をした。」、当初は単なる水難事故と思われたが、一転して夫による殺人事件で在る事が判明。其の理由として俊実が口にしたのは、「(大好きな)本が増えて家が手狭になり、妻子がなくなれば、其の分部屋が空き、本が置ける様になるから。」という理解し難い物だった。俊実の驚くべき供述に世間は騒然とし、ワイド・ショー此の事件を連日報道。

 

此の事件に興味を持った小説家の「私」は、ノンフィクションとして纏めるべく、関係者への取材を開始する。「何時如何なる時でも、穏やか微笑んでいる人。」、「面倒見の良い人。」、「家族を大事にしている人。」等々、周辺の人物は一様に俊実を擁護。しかし、取材を続けて行く中で、俊実の冷酷さを証言する者も現れ始め、更に元同僚や大学の同級生等、過去に彼の周囲で不審な死を遂げている者が居る事を突き止めた。

 

俊実は、本当に殺人を犯しているのか?もしそうならば、其の理由は何なのか?

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凶悪な事件の犯人が捕まった際、「あんな大人しい人が何故?」とか「良い人だったので、全く信じられない。」といった驚きの声が、周囲から上がったりする。其の犯人とは一面識も無い自分で在っても、犯人の顔写真を見て、「こんな普通の人が、あんな恐ろしい事をしてしまうのか・・・。」と意外に感じる事も少なくは無い。

 

貫井徳郎氏の小説「微笑む人」は、周囲の殆どが「良い人」と絶賛する俊実の“意外な素顔”(俊実の他に、「良い奴」と「な奴」という、全く相反する評価の人物が登場するのだが。)が明らかにされて行き、人間の複雑さを痛感させられる。

 

「常に穏やかで、顔色を変える事も無い。」という評価の俊実だが、其の過去を遡って行く事で、意外な相手に恐れ戦いたり、激したりという、今では考えられない行動を見せていた事が判る。又、殺害した妻と同じ「ショウコ」という名前の女性が過去にも2人、彼と近しい関係に在った事も。そういった意外性が、ストーリーの中に自分を引き込んで行った。しかし・・・。

 

或る人物の意外な正体に“遣られた感”は在ったけれど、曖昧過ぎる結末にはガッカリ。「だから何なの?」と感じてしまったし、3人の「ショウコ」を設定した意味合いも全く判らない。貫井氏本人は「僕のミステリーの最高到達点です。」と自負している様だが、追憶のかけら」等、過去の作品にもっと評価すべき物が在ったと思う。

 

総合評価は、星3つとする。


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