横浜地球物理学研究所

地震予知・地震予測の検証など

地震雲は存在しません

2012年03月23日 | 宏観異常現象
阪神淡路大震災(1995年1月17日)の直前に撮影された1枚の写真が、「地震雲」をとらえたものとして非常に有名になっています。写真家の杉江輝美氏が撮影したもので、1995年1月9日の17時ころ、神戸の垂水港から明石大橋に向かう方向に見えた雲です。

夕景に、煙のようなひと筋の雲が立ち上っているように見え、渦を巻いているように見える写真です(こちら)。

あまりこのような雲を見慣れていない方には、奇妙な雲に思われるかも知れません。ですが、これは明らかに飛行機雲です。



このような形の雲を地震雲だとする方々は、飛行機雲との違いとして以下のような根拠を主張します。

(1)垂直方向に伸びている
(2)飛行機雲は10分以内に消えるが、地震雲は消えない
(3)渦巻き状を呈している
(4)高度が5000mほどと低い

しかし、いずれも簡単に却下できます。

(1)飛行機の航跡の真下から見ると、飛行機雲は垂直方向に立ちのぼるように見えます。
(2)水蒸気量が多いときには、飛行機雲は10分以上消えないことが普通です。
(3)飛行機雲は、形成直後から渦巻き状になることが多々あります。
(4)飛行機雲は短距離の国内線が飛行する高度5000m前後でも形成されます。



本研究所がある横浜市戸塚区は、羽田空港から西日本へ向かう旅客機や、厚木の航空基地で離着陸する軍用機が、真上を頻繁に通ります。ですので、「垂直方向に伸び渦巻き状の飛行機雲」を、我々は実に頻繁に見ています。杉江輝美氏の写真を地震雲だと信じているひとが多いことに、逆に驚いているくらいです。



本研究所付近で撮影したこの写真では、2機の航空機が手前(右上)から奥(左下)へ向かって飛行しています。その航跡が、上空の複雑な風によって広がりながら流され、まるで煙が上がってたなびいているようになり、場合によっては渦を巻いているように見えるわけです。

実際、航空図を見ると明らかなのですが、垂水港から明石大橋に向いた、まさにその上空を、伊丹から高知などに向かって国内線が通っています(嘘だと思われる方は、JALやANAの機内誌で確認するか、お手元の日本地図で伊丹と高知を直線で結んで見てください)。

また、東日本大震災の直前に、神奈川県川崎市で地震雲が見られたと報告されていることは、宏観異常現象に興味がある方ならご存知かも知れません。なぜ、震源から遠く離れた川崎だったのか。それは単に、羽田や成田で発着する飛行機が川崎上空をよく飛ぶからです。



ほかにも、空一面を覆うような筋状の雲や、虹のような光が見える雲などが、地震雲の例として挙げられることがあります。ですが、これらも気象学的に典型的な雲に過ぎません。

前者は偏西風の影響で生じるものであり、後者は彩雲といって頻繁に見られるものです。機会があればまた説明したいと思いますが、詳しくは雲の分類などを示した書籍や写真集をご参照ください。



以上のとおり、いま世間で「地震雲」だと騒がれているもののほとんどは、地震雲ではありません。

少なくとも、阪神淡路大震災のときも、東日本大震災のときも、普通の雲とは違うといえる雲は全く観測されていません。これだけ未曽有の大震災でも現れてくれないのですから、地震雲というものは存在しないと考えて、まず間違いないのです。

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4 コメント

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宏観現象の裏側 (伊牟田勝美)
2016-06-23 01:47:08
巷に蔓延る宏観現象の共通点は、以下の三つでしょうか。

1.地震発生後に気付く。
2.偶然の可能性を検証しない。
3.以前に発生した地震の影響の可能性は、一切考慮しない。

特に、3.は顕著かなと思います。
前震より余震の方がはるかに影響が大きいのに、見つけた現象が地震の前兆だと妄信してしまう傾向にあります。
早川氏も、その一人かなと・・・
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地震発生 (小林勝芳)
2016-11-04 20:39:18
地震雲はありません。その根拠は何処からですか?。火山噴火前の彩雲もどう説明出来ますか?。東東北大震災前にも目撃されていますよ。
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小林勝芳さんへ (相模太郎)
2016-11-06 11:46:52
>地震雲はありません。その根拠は何処からですか?。火山噴火前の彩雲もどう説明出来ますか?。東東北大震災前にも目撃されていますよ。

ブログに書かれていることを理解できるまで読め。根拠が書いてあるだろうが。

あと地震雲と呼ばれるものは、たいてい毎日見られる。
あなたは、たまたま地震が起きたときに見かけた雲を、地震雲だと思いこんだだけだろうな。

ソースは俺。昔地震雲をまじめに探していた頃、よく見ていた。でも地震は起きなかったよ。震災が起きたときにあなたの言う雲はあったかもしれない。でもそれは日常現象だ。

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Unknown (サンピラー)
2016-11-12 04:39:32
小林勝芳さんが言う「地震雲が存在しない根拠」とは、おそらく、
「『地震雲が存在する』という、これまでにあるものから将来できるであろう如何なる説も間違いであることの物理的な証明」
なのでしょう。
既存の地震雲説を否定したところで「だからといって地震雲が存在しないとは言い切れない。まだまだ科学は発達途上だ。諦められたわけではない。」と無限に言い続けていくことになります。
しかも、中には「だからといって地震雲が存在しないとは言い切れない」と無限に言い続けていくことができることを、地震雲が存在することの根拠にする人もいます。


地震雲とされる雲や光学現象は、よく見るものが多く、もはや統計的に考えて地震雲説はおかしいです。
彩雲や暈は、たまにTVで放送されてますが、はっきりいうと虹より見れる回数が圧倒的に多いですよね(だから珍しいとか言わないでほしいものです)。
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