.
一部の週刊誌をはじめとするメディアが、東大名誉教授の村井俊治氏(JESEA・地震科学探査機構)の地震予測を絶賛して紹介し続けているようです。
村井俊治氏は電子基準点の観測データをもとに地殻変動を監視し、有料メルマガ『週刊 MEGA地震予測』などで地震予測を行っています。ですが、その内容をみてみますと、村井氏の地震予測には非常に怪しい点が見受けられます。怪しいというより、ほとんどデタラメとしか言いようがありません。以下にご説明します。
■ 観測データがあり得ない値を示している
村井俊治氏は、JESEAのウェブサイトや週刊誌上で、電子基準点が示す週間地殻変動が4センチを超えると地震の前触れだと主張しています。そして、日本の各地で、それを超える地殻変動が観測されており(大きなところでは10センチ)、それが地震の前兆だと言うのです。
(週刊ポスト9月19・26日号より予測図を引用)
…ですが、1週間も経たないうちに地殻が数センチも動いているという時点で、デタラメのデータであると断じざるを得ません。
一般に、数センチ規模で断層が一度にズレると、おおむねM3~M4クラスの地震が起こるレベルです。また、ごく浅い震源での地震を除けば、地表での変動はもっと少なくなります。ですので、1週間に9センチだの10センチだのという地表の変動は、地殻変動というより、極めて大規模なスロー地震と呼べるほどの異常です。こんなものが日本各地で頻繁に起こっているとするなら、それこそ地震学を揺るがす大発見です。
そもそも、1週間のうちに10センチもの局所的な地殻変動があれば、地割れや建築物の倒壊が起こりかねません。そこまでの被害はなくとも、地震動も起こさずに1週間に数センチもの変動が日本各地で頻繁に起こっているというのは、ちょっと信じることができません。
■ 国土地理院のデータとも矛盾
ではここで、国土地理院で公表されている地殻変動をみてみましょう。
上の図は、最近1年間の地殻変動を示しています。左上にスケールがありますが、大きく動いた場所でも、1年間で5~6センチしか動いていないことが見てとれます。
また、国土地理院で観測を強化している特定地点の地殻変動をみてみましょう。
これら強化観測地域における観測結果においても、年間で5センチも動いていないことが分かります。
このように、一般的に言うと、水平・鉛直いずれの方向にも、地殻変動は年間5センチ程度かそれ未満しか観測されないのです。にもかかわらず、村井俊治氏は、たった1週間のうちに9センチだの10センチだのという大きな地殻変動を捉えて、地震の前兆だとしています。つまり、国土地理院などで発表されている誤差補正後の地殻変動データとも、やはり明らかに相容れないのです。
■ GPSの誤差を補正していない
なぜ村井俊治氏は、このようなあり得ない値を提示しているのでしょうか。
村井氏は自身のツイッターなどで、電子基準点の「日々データ」を見ていることを自ら明言しています。実は、国土地理院で出している「日々の座標値」は、気象条件などの各種影響を完全に取り去ったものとは程遠く、近隣点との比較や基線ベクトルをみた修正(単独のデータをみるより格段に精度が高くなる)を行う前のデータなのです。各基準点のデータを単独でとると、いわば誤差まみれのデータとなるはずです。
GPSに代表される全地球測位システム(GNSS)というのは、幾ら受信機や衛星の機械を精度よく作っても、(単独では)誤差を免れません。電波が通過する電離層の状態や、成層圏内での水蒸気量や温度などによって、散乱やマルチパスが生じて、誤差がどうしても出てしまうのです。たとえ気象条件を加味して誤差を補正しても、短期間では数センチの誤差は残ってしまうのです。
このように考えますと、1週間単位で数センチ規模の地殻変動を、日本のあちこちで、年間に何度も何度も観測しているとする村井氏らのデータは、単にGPS(GNSS)の誤差を適切な補正なく示しているものと考えるのが自然です。すなわち、実際には地殻は動いていないのに、GPSデータのノイズによる変動をみて「地殻が動いている」と勘違いして、地震の予兆だと騒いでいるだけなのです。
■ 過去の観測データとも矛盾
なお、これまでに発生した大きな地震の前にも、地殻変動はほとんど観測されていません。たとえば、あの兵庫県南部地震(1995年)の前でさえ、震源に最も近かった箕面市をはじめとする近隣の全ての観測点で、1センチを超える地殻変動は一切見られなかったのです(岩波出版「阪神・淡路大震災と地震の予測」10頁等)。GNSSはおろか、震央の近くに高精度な傾斜計や伸縮計がある場合であっても、地震前に有意な前兆的異常はほとんどみられていないのです(宇津徳治「地震学第3版」322頁等)。
このように、大きな地震の前であっても、数センチ規模の地殻変動は一切観測されない場合がほとんどであるということは、地震学界では半ば常識です。測量学がご専門の村井氏は、この事実を全く知らないのでしょう。
あらためて指摘するまでもないことですが、「地震の前には地殻が動いているのではないか?」といった程度のことは、地震学者たちは当然にすでに検討済みなのです。GNSSの精度や観測点密度が上がってきて、実際にデータを見てみた結果、思いのほか地震の前にも地殻変動がほとんど先行しないことが明らかになってきているのです。
なのに、いまさら「地震の前には地殻が動いている」などと、ノイズまみれのデータを適切な補正もせずに提示して騒いでいる村井俊治氏の見識は、正直言って噴飯ものです。
■ 他にも不備などが一杯
村井俊治氏の地震予測が実際に当たっていない点については、下記を参照ください。
村井俊治氏は、9月16日の茨城県南部の地震を、実は予測できていません
村井俊治氏の地震予測について
また、村井氏の地震予測方法についての特許明細書の不備については、下記を参照ください。
地震科学探査機構(JESEA)による地震予測サービスについて
…以上のとおり、デタラメなデータを持ち出して、全然当たっていない地震予測を開陳しているだけの村井俊治氏を、信用するべき要因は全くないということです。
.
一部の週刊誌をはじめとするメディアが、東大名誉教授の村井俊治氏(JESEA・地震科学探査機構)の地震予測を絶賛して紹介し続けているようです。
村井俊治氏は電子基準点の観測データをもとに地殻変動を監視し、有料メルマガ『週刊 MEGA地震予測』などで地震予測を行っています。ですが、その内容をみてみますと、村井氏の地震予測には非常に怪しい点が見受けられます。怪しいというより、ほとんどデタラメとしか言いようがありません。以下にご説明します。
■ 観測データがあり得ない値を示している
村井俊治氏は、JESEAのウェブサイトや週刊誌上で、電子基準点が示す週間地殻変動が4センチを超えると地震の前触れだと主張しています。そして、日本の各地で、それを超える地殻変動が観測されており(大きなところでは10センチ)、それが地震の前兆だと言うのです。
(週刊ポスト9月19・26日号より予測図を引用)
…ですが、1週間も経たないうちに地殻が数センチも動いているという時点で、デタラメのデータであると断じざるを得ません。
一般に、数センチ規模で断層が一度にズレると、おおむねM3~M4クラスの地震が起こるレベルです。また、ごく浅い震源での地震を除けば、地表での変動はもっと少なくなります。ですので、1週間に9センチだの10センチだのという地表の変動は、地殻変動というより、極めて大規模なスロー地震と呼べるほどの異常です。こんなものが日本各地で頻繁に起こっているとするなら、それこそ地震学を揺るがす大発見です。
そもそも、1週間のうちに10センチもの局所的な地殻変動があれば、地割れや建築物の倒壊が起こりかねません。そこまでの被害はなくとも、地震動も起こさずに1週間に数センチもの変動が日本各地で頻繁に起こっているというのは、ちょっと信じることができません。
■ 国土地理院のデータとも矛盾
ではここで、国土地理院で公表されている地殻変動をみてみましょう。
上の図は、最近1年間の地殻変動を示しています。左上にスケールがありますが、大きく動いた場所でも、1年間で5~6センチしか動いていないことが見てとれます。
また、国土地理院で観測を強化している特定地点の地殻変動をみてみましょう。
これら強化観測地域における観測結果においても、年間で5センチも動いていないことが分かります。
このように、一般的に言うと、水平・鉛直いずれの方向にも、地殻変動は年間5センチ程度かそれ未満しか観測されないのです。にもかかわらず、村井俊治氏は、たった1週間のうちに9センチだの10センチだのという大きな地殻変動を捉えて、地震の前兆だとしています。つまり、国土地理院などで発表されている誤差補正後の地殻変動データとも、やはり明らかに相容れないのです。
■ GPSの誤差を補正していない
なぜ村井俊治氏は、このようなあり得ない値を提示しているのでしょうか。
村井氏は自身のツイッターなどで、電子基準点の「日々データ」を見ていることを自ら明言しています。実は、国土地理院で出している「日々の座標値」は、気象条件などの各種影響を完全に取り去ったものとは程遠く、近隣点との比較や基線ベクトルをみた修正(単独のデータをみるより格段に精度が高くなる)を行う前のデータなのです。各基準点のデータを単独でとると、いわば誤差まみれのデータとなるはずです。
GPSに代表される全地球測位システム(GNSS)というのは、幾ら受信機や衛星の機械を精度よく作っても、(単独では)誤差を免れません。電波が通過する電離層の状態や、成層圏内での水蒸気量や温度などによって、散乱やマルチパスが生じて、誤差がどうしても出てしまうのです。たとえ気象条件を加味して誤差を補正しても、短期間では数センチの誤差は残ってしまうのです。
このように考えますと、1週間単位で数センチ規模の地殻変動を、日本のあちこちで、年間に何度も何度も観測しているとする村井氏らのデータは、単にGPS(GNSS)の誤差を適切な補正なく示しているものと考えるのが自然です。すなわち、実際には地殻は動いていないのに、GPSデータのノイズによる変動をみて「地殻が動いている」と勘違いして、地震の予兆だと騒いでいるだけなのです。
■ 過去の観測データとも矛盾
なお、これまでに発生した大きな地震の前にも、地殻変動はほとんど観測されていません。たとえば、あの兵庫県南部地震(1995年)の前でさえ、震源に最も近かった箕面市をはじめとする近隣の全ての観測点で、1センチを超える地殻変動は一切見られなかったのです(岩波出版「阪神・淡路大震災と地震の予測」10頁等)。GNSSはおろか、震央の近くに高精度な傾斜計や伸縮計がある場合であっても、地震前に有意な前兆的異常はほとんどみられていないのです(宇津徳治「地震学第3版」322頁等)。
このように、大きな地震の前であっても、数センチ規模の地殻変動は一切観測されない場合がほとんどであるということは、地震学界では半ば常識です。測量学がご専門の村井氏は、この事実を全く知らないのでしょう。
あらためて指摘するまでもないことですが、「地震の前には地殻が動いているのではないか?」といった程度のことは、地震学者たちは当然にすでに検討済みなのです。GNSSの精度や観測点密度が上がってきて、実際にデータを見てみた結果、思いのほか地震の前にも地殻変動がほとんど先行しないことが明らかになってきているのです。
なのに、いまさら「地震の前には地殻が動いている」などと、ノイズまみれのデータを適切な補正もせずに提示して騒いでいる村井俊治氏の見識は、正直言って噴飯ものです。
■ 他にも不備などが一杯
村井俊治氏の地震予測が実際に当たっていない点については、下記を参照ください。
村井俊治氏は、9月16日の茨城県南部の地震を、実は予測できていません
村井俊治氏の地震予測について
また、村井氏の地震予測方法についての特許明細書の不備については、下記を参照ください。
地震科学探査機構(JESEA)による地震予測サービスについて
…以上のとおり、デタラメなデータを持ち出して、全然当たっていない地震予測を開陳しているだけの村井俊治氏を、信用するべき要因は全くないということです。
.