地形学とGIS / Geomorphology & GIS

ある研究者の活動と思考の記録

災い転じて福

2010-01-25 | 昔話
前回に引き続き,卒論に関連した話です.写真は,学部3年の春休みに撮影したもので,阿蘇カルデラの中央火口丘にある夜峰山(913 m)の中腹からカルデラの南東部(南郷谷)を見たものです.春霞のために,ぼやけています.

このときは,国鉄が発行していた20日間有効の九州周遊券を使って旅行をしていました.貧乏学生だったので,激安で泊まれた大学の自治寮の談話室,車中泊,駅寝などで過ごし,たまに銭湯やコインランドリーに行きました.今なら確実に体を壊しますが,当時は何とかなりました.

阿蘇では,南側の阿蘇下田駅(現:阿蘇下田城ふれあい温泉駅)から中岳の火口を経て,北側の阿蘇駅に徒歩で向かいました.一日がかりのルートです.ところが出発して間もなく道を間違え,夜峰山の南斜面に行ってしまいました.誤りに気づいて戻りはじめましたが,その際に見えた風景に感動して撮ったのが上の写真です.狭い範囲に山地斜面,山麓緩斜面,扇状地,河岸段丘,蛇行河川などが分布しています.まるで箱庭のようでした.

当時,地形学に興味を持ち,大学院への進学を希望していました.卒論のフィールドは実家の近くにする予定でしたが,上の「箱庭」に魅了されてしまいました.ここなら短時間でいろいろな地形を研究できると思いました.九州周遊券と熊本大学の寮での宿泊を組み合わせれば,お金はさほどかからないこともわかりました.結局,阿蘇を卒論のフィールドにしました.

ノーベル賞をとるような偉大な研究が,手続きを間違えた実験から始まったというような話を時々耳にします.僕の場合は,卒論で優れた研究を行うことにはなりませんでしたが,その後につながる多くのアイディアを得ました.火山の中に面白い斜面や河川地形があるのは,全く予想外でしたが,道を間違えたために知ることができました.明らかに「災い転じて福」でした.

なお,九州旅行の時には「ウォークマンもどき」で音楽を聴いていました(SONY製は高くて買えなかった).その時に,一人旅に実に似合うと思った曲を引用します.

We sailed for parts, unknown to man.
(A Salty Dog / Procol Harum)

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