最近,論文の被引用数が重視されている.僕が少し前に人事関係の資料を提出した際にも,自分の論文の被引用数を書く必要があった.Web of ScienceやScopusといったデータベースを使うと,主要な雑誌における論文の引用数を把握できる.被引用数による評価には問題もあり,誤りの例として引用されても数が増えるし,真に個性的な論文よりも時流に乗った論文がすぐに引用されやすい.しかし,インパクトファクターを含め,被引用数が論文や雑誌の評価の指標になっている現状を認める必要もある.
最近,Computers & Geosciencesに2003年に書いた地形学の
論文が,International Journal of Remote Sensingに2009年に出た論文で引用されたことを知った.その標題を見て驚いた.調査地域がトルコのKarasu Basinだったからである.引用された僕の論文は,北アルプスの烏川流域に関するもので,こちらもKarasu Basinと呼べる.トルコのKarasu Basinは,論文に載っていた上の画像のように,底が平坦な盆地である.一方,烏川流域は急峻である.地球科学の研究者には周知であるが,Basinの語は盆地と流域という二つの意味を持つ.
トルコ語のオンライン辞典でKarasuの意味を調べたところ,その一つに「slowly moving water=淀んだ水」があった.これだと思った.平坦な場所にぴったりである.
論文の著者であるDr. Kaanにメールを送ってみた.「論文読んだよ.面白かった.引用ありがとう.調査地域の名前が偶然にも同じだね.そっちは淀んだ水だけれど,こっちはcrow=黒い鳥だ」と書いた.数日後に来た返事を見て驚いた.「Karasu=黒い水だ.トルコ語でkara=黒,su=水だから」と書かれていた.
面白くなってきたので,さらにネットで調べたところ,
関連した話題が見つかった.英語のcrowの語源はラテン語のcorvusで,それはサンスクリット語で黒を意味するkalasまたはkarasに由来するという説である.これが正しければ,「カラス」という音がcrowの語源となる.さらにcrowの発音は「黒」.ちょっと出来過ぎだ.
Dr. Kaanには,「良いネタがあったらGeomorphologyに投稿して」と伝えた.人と知り合いになるきっかけは,実に多様である.
And the black gold started flowing.
Just like Boston tea.
(Gasoline / Sheryl Crow)