引用Ⅳ 刑場の隣にはもう一つの小さな部屋があった。わずか数畳ほどの、薄暗い小部屋。制服と制帽に身を包んだ若き刑務官は、胃液が逆流しそうなほどの緊張に耐えながら壁に向かって立っていた。(中略)
刑務官たちの目の前の壁には、複数のボタンが横一列に並んでいた。5センチ四方の枠に囲まれた赤いボタン。古い刑場なら5つ、新しい刑場なら3つ。このボタンのうちのどれか一つが、死刑囚の立たされる1メートル四方の床を開閉する油圧装置に連結されている。
バタンコ──。死刑執行装置のことを、先輩の刑務官たちはそう呼んだ。1メートル四方の床が開く時に発する激しい音に由来する言葉。誰のボタンがつながっているかは分からない。が、誰か一人のボタンは間違いなくバタンコにつながっている。
ボタンから少し離れたところの壁には、金庫のダイヤルのような装置が見えた。どのボタンと油圧装置を連結するかは、そのダイヤルが決定する。ボタンの前に立つ刑務官たちはダイヤルが導き出した結果を永久に知らされることはない。
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