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佐藤優「深層レポート」「封印された橋洋一証言」(※『現代プレミア』より)
>>>第1回から読む


官僚たちの「おらが春」
 さて、率直に言うと、筆者は、橋氏が竹中平蔵氏を支えて進めてきた新自由主義的経済政策には強い疑念をもっている。新自由主義、市場原理主義など表現は違っていても、要は純粋な資本主義により、資本の自己増殖の歯止めがきかなくなり、それが2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻に行き着いて、未曾有の不況と絶対的貧困を生んだと考えるからだ。その点について、単刀直入に尋ねてみた。

***

佐藤 ところで、橋さんはサブプライム問題以降の金融危機をどう見ますか。政府による救済とか、企業の国有化など、マーケット至上主義とは正反対の動きになっていますね。
橋 ぼくは新自由主義者と言われるんですけど、そうじゃないですよ。イデオロギーは全然なくて、すごくテクニカルな人間なんです。何かの症状が出たとき、それを分析して症状を和らげるにはどうすべきかという処方箋を書くのが専門家の役割だと思っています。新自由主義者だろうと誰だろうと、目の前に死にそうな人がいるのに放っておく人はいない。未曾有の金融危機を目の当たりにして、政府が介入するのは当たり前の話だと思いますね。
佐藤 リーマン・ブラザーズは死んでもいいけど、シティバンクやAIGは死んだら困る。そういう判断の違いが出てきてますよね。
橋 救う企業の線引きは、正直なところ非常に難しい問題です。でも、何らかの対策を打つのは当たり前だと思う。
佐藤 現在の国家は小さな政府といっても非常に大きい。歴史的に見れば、かつてないほど大きな政府です。いまの経済危機に国家が介入するのは当然としても、注意が必要なのは、国家というのは抽象的な存在ではなくて官僚階級と結びついているということ。官僚たちが具体的にどういう影響力を振るうようになるのかを見極めるのが重要だと思います。私が見るところ、官僚は悪い方向に変わるか、うんと悪い方向に変わるか、そのどちらかだと思いますが。
橋 いまの霞が関官僚たちは無能だから、変われないんじゃないかな。世間が動いていても、指をくわえて見ている。そんな気がしますね。
佐藤 ただ、指をくわえて見ているといっても、「おらが春」という感じで見ていると思いますけどね。
橋 そうそう、「おらが春」になってますね。世間の動きとは関係なく、「おらが春」の世界を構築していくという感じがする。私がやった公務員制度改革なんて、4歩進んだと思ったら、あっという間に2歩か3歩戻っちゃった。自己中心的で変化を拒む力は、本当に強力ですよ。
佐藤 だからこそ、橋さんが指摘した霞が関官僚の能力問題というのが、これから非常に重要な論点になってくると思います。


***

 橋氏の自己認識は、「イデオロギーは全然なくて、すごくテクニカルな人間なんです」ということだ。しかし、筆者の理解では、イデオロギーがない人間というのが、実は最もイデオロギッシュなのである。つまり、われわれの眼前にある商品、貨幣、資本、株式、賃銀労働などをすべて自明のものとしているからだ。このイデオロギーは新自由主義と親和的なのである。
 もっとも、橋氏には、イデオロギーにとらわれない現実主義がそなわっている。これは数学者としての橋洋一と深いところで関係しているのだと筆者は考えている。「何かの症状が出たとき、それを分析して症状を和らげるにはどうすべきかという処方箋を書くのが専門家の役割だと思っています。新自由主義者だろうと誰だろうと、目の前に死にそうな人がいるのに放っておく人はいない。未曾有の金融危機を目の当たりにして、政府が介入するのは当たり前の話だと思います」という橋氏の直観は正しい。それを理論的に裏づけることが橋氏に期待されていたまさにそのときに、今回の窃盗事件が起きて、ほんとうに残念である。
 今回の窃盗事件が、事実ならば、それに対して橋氏は刑事責任をとらなくてはならない。その刑事責任をとった後、橋氏の能力を日本の社会と国家のために生かしてほしいと、筆者は心から願っている。


この項、了


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