アルファヴィーレ(Alphaville)という高級住宅街サンパウロから20キロ少し離れたところにある。1970年代から開発がはじまったところで、もうそのころから都市化が激しかったサンパウロの中心街を逃れて金持ちが移り住んだところである。余談だがアルファヴィーレのデベロッパーはタカオカという日系のグループで戦前日系社会の医療に貢献した高岡専太郎医師の子孫である。
いわゆる周りを塀で囲み人の出入りをコントロールするコンドミニアムだが、ブラジルでは珍しい前庭付きでオープンな豪邸が充分な間隔をおいて並んでいる。そこに住んでいるお金持ちの知り合いなんていないけど、何回かコマーシャルフィルムの撮影で僕も中に入ったことがある。それらの家は優秀な建築家が設計、材料費を惜しまず建てられたものだから内装も素晴らしく、撮影にはもってこいなのである。
コンドミニアムの中にはスポーツクラブもあり、いわば金持ちが自分たちのための街を作ってしまったようなものである。ここからヘリコプターで渋滞を避けてサンパウロにビジネスで通うというのが一つのスタイルとよくいわれる(そんなことにしているのが何人いるか知らなけが)。
しかし、このモルドミア(特権)が怪しくなってきている。コンドミニアムの周りに住民相手のレストランや店などの建物、そして高層のアパートが増えすぎ、またオフィスや工場などもできたので、渋滞がひどい状態になっているのである。先日、仕事で用があり久しぶりに出かけたが、コンドミニアムにつながるメインストリートがまったく車の列で動かない。この渋滞はひょっとするとサンパウロ市内よりひどいのではないか。住んでいる人というより、そこで働く人たちの車でごった返している。これには驚いた。サンパウロとの間を結ぶカステーロ・ブランコ街道も朝夕は混むので、実際、仕事場まで何時間かからるのだろう。
これでは何のためにサンパウロから逃げ出したのかわからない。聞いた話によるとアパートの家賃なんかもそれを反映してサンパウロ市内より安くなっているそうだ。 アルファ・ヴィレに限らず、2002年からの好景気による建築ラッシュで新しい建物がどんどんできているが、インフラ、つまり道路が追いついていない。大規模な開発は道路を作るための立ち退きも伴うから、需要予測というのは行われているんだろうけど、それに追いつかないということだと思う。
例えば南部のビラ・オリンピア。ここにパートナーの広告会社があったので、10年ぐらい前によく通った。そころはまだいわゆるガラス張りのインテリジェンスビルができ始めたころで、その会社も新築のビルのワンフロワーを買ってオフィスにしたのだが、それから周囲にニュキニョキとビルが増え始め、すっかり様相が変わってしまった。ショッピングモールまでできた。当然働く人間は増えて、朝夕は大変なことになっている。
ブラジルは道路に限らずインフラが経済成長にとって最大のネックになっていて(教育もそうだがこれは別のところで)、今のリズムでの成長を実現するなら、港湾、エネルギーなどの問題を解決しなければいけならず、政府はそれに必死となっている。そのさじ加減を間違えれば、アルファヴィレのような問題が国単位でおこってしまう。