Entrance for Studies in Finance

M&A会計 のれん代の償却見直しが課題

のれんの償却について:
 日本の現在の会計ルールではのれん(企業の買収価値と、時価価値との差額)を償却させている。これは のれんが表しているのは、収益力でそれが時間の経過とともに低下することを反映している。これに対して国際会計基準では償却させていないことが知られている。
IFRSでの のれんの償却 ifrs-in-english cocolog-nifty.com, 2010/02
IFRSを適用する会社では償却が廃止され利益が押し上げられること、負ののれんについては特別利益として一括計上されることになり利益の押し上げ効果が働くことなどを指摘している。
 のれんの償却は利益の減少要因であるので、IFRS基準に従って、のれんの償却を止めることは、日本企業の利益の押し上げにつながると考えられている。同様に企業買収時の「負ののれん」も利益押し上げ効果が指摘されている。このようにM&Aが、企業の利益に影響を与えることが知られている。
 言い換えると企業買収によって経費や利益は変動することがある。加えてその数値は会計処理方法によって変ってくる。そこで会計基準の変更が、企業買収の盛衰に影響することも十分想定できる。また企業買収が、会計操作(利益操作)を目的に行われることも排除できない。

 もともと国際会計基準は欧州発祥の会計ルール。2005年に欧州連合が域内に上場企業に強制適用。豪州、ブラジルなどが追随。しかし米国で移行のコストを中心に慎重姿勢が高まり日本の姿勢は変化。産業界で懐疑論が高まる中での東日本大震災は導入積極論の導入ありきの虚構を流し去った。ふ
まず日本企業に国際会計基準導入を義務付けすることに対し、相当の準備期間が必要として当面延期する方針が2011年6月に担当大臣から示され(当時の自見庄三郎金融担当相)、さらに2012年7月には米証券取引委員会が米国企業への国際会計基準適用の判断を先送りしたことで、日本にあった国際会計基準を絶対視する主張は事実上吹き飛んだ。2013年5月までに金融庁でも上場企業に対する国際会計基準強制適用の方針の見送りを固めた。
 しかし大変興味深いことは強制適用の話が吹くとんだあと、自発的に国際会計基準に移行する企業が、この前後から増えてきたことである。とくに企業買収ののれんの扱いは、日本の会計基準を採用する企業にとり、企業の利益の押し下げ要因になっている。そこで大型の企業買収を展開する企業のなかかから、国際会計基準に移行する企業が目立つようになった。(先行して住友商事、日本たばこ産業 2014年3月期からソフトバンク 武田薬品工業 アステラス製薬 2015年3月期から電通 富士通 など)。
    
M&A会計ルールの異同
 合併・買収などの会計処理方法として、買収した企業をどう帳簿に残すかについては、国際会計基準や米国基準で用いられてきたパーチェス法に日本でも一本化された。この方法では被買収企業の資産や負債を時価評価して、時価純資産額を計上。買収金額と時価純資産額の差額を、無形固定資産の「のれん」として資産に計上する。この「のれん」はブランド価値ともいえるものであり、一般にはプラスの大きさとして現れ資産に計上される。
のれん = 買収金額 - 時価純資産額
 2006年4月に導入された企業結合会計基準では、「のれん代」の20年以内の均等償却が導入されたが、これは「のれん代」の償却は行わない国際基準や米国基準とは違っている(償却期間などが恣意的になることが批判された 2002年に定期償却をアメリカは廃止した。その代わりに毎期、市場価値が低下していないか点検して、下がっていれば減損処理求められる このリスクに対して海外では自己資本を厚くもつ必要がある。買収が成功して利益が伸び、市場価値が上昇していれば費用計上は迫られない 日本の場合、償却するのは買収の経済効果が時間の減少とともに減少すると考えているのではないか)。
 直近ではソフトバンクによるスプリントネクステル買収(2013年7月)3000億円 20年で償還として1年に150億円。
 日本ルールのもとにある日本企業は利益が少なくみえる(企業の競争力が低く見られるリスクがある)。国際基準に移行すれば、利益水準は少し高くなるとの指摘がある。とくに大型買収になるほどこのことは企業収益に大きく影響する。一部の日本企業はこのことを嫌って、米国基準あるいはIFRS採用に踏み切るようになった(2014年3月期から日本たばこ産業 ソフトバンク 武田薬品工業 アステラス製薬 2015年3月期から電通)。
 国際基準では、固定資産の減価償却で定額法が多いがこのことも利益改善につながる。
 日本処理を支持する考え方) 
 超過収益は時間の経過とともに減少する可能性が高い。したがって償却した方がいい。
 のれんの大きさの測定が経営者にゆだねられているのは問題。
 将来価値がなくなり損失処理する可能性は残る。
 国際基準を支持する考え方)
 企業を比較するうえでは基準がそろっている方が比較しやすい。
 償却すると償却期間により利益がぶれる。
 
 (アメリカではパーチェス法のもとにある企業は40年償却をおこなっていたようだ。ところが国内で持ち分法の企業もあるなか、パーチェスに統合したときに、影響の大きさから償却そのものを止める判断をしたとのこと。)そのことが日本企業の企業買収を抑えているとの指摘がある。また利益が増えれば法人税収を増やすことにもなる。
 企業買収の扱い方を、米欧型にすると確かに企業買収直後の利益は高くなる。そのため企業の税負担が上昇する。ところが市場環境が悪化して、買収企業の価値が大きく下落した場合には、損失が急拡大するリスクがある。

 なお日本では対等合併のケース(統合後の議決権割合が45%から55%の範囲の場合)に限り、持ち分プーリング法を例外的に認めた(2006年4月時点)。この場合は、相手企業の資産・負債や純資産を簿価でひきつぐ。これは企業の継続を想定しているからとの説明を読んだ。この持分法でも「のれん」に相当する大きさがある。しかし、投資金額に「のれん」が含まれた形でしか、認識されない。買収対価を発生させないで
 
パーチェス法に一本化へ 大和総研 2007/12/27 ASBJの論点整理 2007/12/27 についての解説
2008年12月に企業結合基準が改定され、2010年4月以降、持ち分プーリング法の適用は禁止された。
2008/12/26公表の企業会計基準等(ASBJ)について
 この「のれんの償却」を含み損処理に悪用したのが2011年10月に発覚したオリンパスの不正経理だった。最初は含み損のある金融商品を簿価のまま売却する「とばし」という手法でファンドにつけかえたものの損失を回復できず損失はむしろ拡大。結局、企業買収に絡んで巨額ののれんを計上、これを償却することで、含み損を処理したとみられる。当初、オリンパスは問題を指摘した英国人社長を解任して、ことを会社ぐるみでごまかそうとした。事件発覚後も、英国人社長の解任に賛成し、また問題の企業買収に役員会で賛成票を投じた人物が社長を続けた。監査法人に対する責任問題、東京証券取引所での上場維持問題が絡んでいる。
 参照 「オリンパス含み損処理の全容」『エコノミスト』2011年12月13日号, pp.15-16.
    「オリンパスの調査報告書」『金融財政事情』2011年12月19日号, p.9. 

評判がよくなかった2006年4月の企業結合会計基準
 2006年4月に導入された企業結合会計基準では、対等合併以外の買収と認定されるケースについては、資産の時価評価が求められることになった。その点で日本のM&A会計ルールは国際ルールに近くなった。しかし「のれん」の償却という日本ルールは残され、かつ、従来、日本の企業の多くが行っていた、のれん代の一括償却を原則禁止した。原則として、実際の買収価格から純資産額を引いた額である「のれん代」を<20年以内に均等割り償却処理するもの>とした。
 また長期間の均等償却は、長期間にわたり企業収益の減益(営業外費用)となる点で、企業経営者が好まないやりかただった。
 国際基準などで償却しない背景には買収により取得されたブランド価値について、日本では時間とともに減少する(時間とともに劣化する)と考えるのに、国際基準(米国基準)ではブランド価値は変わらないとしているという考え方の違いがある。だから英米では大幅に価値が減ったときだけ減損処理をすればよいと考える。このような減損処理の考え方は、日本も同じである。
 2006年の企業結合会計基準が示した「のれん代」均等償却論は、正の「のれん」の償却をそもそも想定していない国際基準とは食い違っている。また一括償却が禁止されて、のれん代の償却の影響が長期化する点では、日本の企業経営者に不満を残す内容でもあった。 
 なお買収金額が被買収企業の純資産を下回る場合は「負ののれん」を負債計上する。その償却額は営業外収益の利益となる。これも最大20年かけて均等償却、つまり長期間にわたる増益要因とする。
 まとめると国際会計基準や米国会計基準では、のれん代を償却処理しない。しかしのれん代の価値を定期的に評価しなおし大幅に下落したら減損処理する点は日本と同じである。

日本のM&A会計ルールは国際会計基準にどこまで近寄るか
 このようなM&A会計ルールの違いは、日本の企業会計基準が海外の基準と違う残された大きな論点になっている。それが日本企業の企業買収を阻害しているとの指摘も行われている。もともと国際基準は、企業買収に積極的な国際企業の意向を受けて作成されたとされる。日本ルールは、時価会計の部分をつまみぐいする一方で、償却についての日本ルールを残すものとなっている。
 会計ルールの統一をコンバージェンスというが、日本の会計ルールが孤立することは結果として、企業活動に負担が多く好ましいことではない。妥協を求める声も強まり、2007年8月に日本の企業会計基準委員会(ASBJ)は、国際会計基準理事会(IASB)との間で2011年6月末までに基準を共通化することで合意した。2008年中に、ASBJは、持ち分プーリング法については廃止して、時価会計の原則を広げる方針を固めるとみられる。これは簿価会計方式を廃止して時価会計方式に一本化することを意味している。
 そして償却処理のうち「負ののれん」については、買収時に一括して利益計上するとの変更が確認されている。
 最後に残る問題は「正ののれん」の償却という日本ルールを廃止するかどうかである。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in December 15, 2011
reposted Mar.21, 2014
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