Entrance for Studies in Finance

アジアインフラ銀行(AIIB)とBRICS開銀の設立

 中国が主導するアジアインフラ銀行Asian Infrastracture Investment Bankは2016年1月に57ケ国に発足した。2023年1月現在では106の国と地域が参加している。同行が中国主導であることは疑いないが、背景には既存のIMF-世界銀行-アジア開発銀行という体制に、途上国側からの不満があったことも見落とせない。
 世界最大の4兆ドルの外貨準備を持つ中国であり外貨準備の活用が狙いの一つとされる。AIIBとBRICS開銀、これら2つの新設銀行の融資は既存の国際金融機関に比べて迅速で条件も緩いものになる可能性がある。先進国の立場からみた条件付け・・・人権・市場化などが弱まる可能性について懸念する意見もある。しかし背景には、インフラ投資のための膨大な資金ニーズを既存の国際金融機関だけでは賄えないとみられていること、そして既存の国際金融機関の出資額拡大あるいは見直しに米日が消極的だったことも響いている。
 まずアジア開発銀行ADBの試算では2010-2020年にアジアのインフラ整備に8兆ドル以上(年8000億ドル以上)の資金が必要 されていた。アジア開発銀行ADB(マニラに本拠 1966年設立 67ケ国地域が参加 資本金1750億ドル)は歴代総裁が日本 (2013年末 出資比率 日本15.7% 米国15.6% 中国6.5% インド6.4% オーストラリア5.8%  カナダ5.3% インドネシア5.2% その他39.5% 2013年の投融資・信用保証の総額は210億ドル)である。
 中国が主導する新設銀行が環境や人権に配慮しない融資を行うのではとの懸念がADBの側にあるとされる。たとえば人権問題で欧米がためらう国に中国主導の機関は資金を流すかもしれないといった意見がある。しかし途上国としては、こうしたADBの対応に不満があったのではないだろうか。中国は其れを突いているのではないか。
   中国は一方では人民元圏を形成しようとしているが、新設銀行は人民元国際化とつながるとの意見もある。というのも人民元が国際通貨になるためには人民元を準備通貨 貿易決済通貨 証券投資手段として各国が利用することを促すことが重要である。これらの機関が人民元を使って融資を拡大すれば、人民元国際化は確かに進みそうだ。
 2013年9月29日 上海に中国自由貿易試験区が設置され企業設立時の資本金準備を不要にされたとのこと(2014年3月はこれを全国に広げる 試験区設置から1ケ月で同区内登記企業数は外資系21社含む234社 7月末時点で1万1230社 9月15日まででは1万2266社 うち外資系1667社 3月に全国化 期限内に登録) 300万ドル未満の小口外貨預金金利の自由化(2014年6月27日から上海市全域に広げる) 通関手続きの簡素化(電子化)(2014年9月18日から全国の税関で実施) などを進めている。特区制度については先例として1980年に開始された経済特区制度の経験が中国にはある。また上海に続き各地で自由貿易区構想があるとされる。こうした動きと新設銀行の話がつながっているように見える。
 AIIBにはアメリカー日本の影響力の排除の狙いがあるとの指摘がある。2014年5月 上海で開かれたアジア信頼醸成措置会議CICAは アジアの安全はアジアの国民が守るとして米国の影響力排除を公然と掲げた。非米国 脱ドル経済圏の形成の一つの方法として人民元を新興国に注ぎ込み人民元経済地域を拡大する。新設銀行はその動きと絡んでいるのではないかと指摘される。 こうした指摘を受けての日本のAIIB創設メムバーに加わらない方針に対して、それは中国の台頭阻止を狙った動きで、アジアの利益を考えたものではないとして批判が出ている。
 日本の表向きの主張は、中国主導の銀行では公正な融資の決定や環境への影響で懸念があるというもの。しかし自ら主導するアジア開銀の機動性の低さへの不満に十分対応してきただろうか。中国に懸念があるのなら創設メムバーに加わって、内部で牽制するべきではないか。そもそも既得権益をまもるために、アジア開銀など既存の機関の改革をさぼってきた(新興国の意見を入れるため出資比率の見直しを進めるべきとの新興国側の指摘が繰り返しありながら、長年改革をわざとしなかった 慎重な審査を名目に審査に長期の時間をかけ迅速な審査を求める新興国の要望を無視し続けた:現在の審査期間は21ケ月)。こうした新興国側の不満があるなかで新しい出資構造の国際機関の登場はむしろ必然的かもしれない。既存の機関が時代の変化に合わせた改革に遅れをとったことが、中国主導のAIIBを可能にした一因ともいえる。
 AIIBが設立されること自体は確かに既存の秩序の変更であるが、それは世界が米国や先進国中心の世界から、新興国が一定の役割を果たす多極化した世界に移行する流れに対応したものという冷めた視点も必要かもしれない。中国が主導権を誇示している側面はあるが、そのことを含めて大きな時代の流れと変化を反映しており、これに反発だけを示すのは時代に逆行するものかもしれない。
 中国は環太平洋経済連携協定TPPに対抗して米国抜きのRCEP東アジア地域包括的経済連携(日中韓とASEANなど16ケ国)の2015年末妥結を目指している。
 アジア諸国の中国への態度は分裂している。2014年8月 ASEAN外相会議では対中姿勢で分裂が鮮明になった(フィリッピン ベトナムは中国に対して挑発自粛求めたが、カンボジアは親中姿勢が明らか。さらにタイはいち早くインフラ銀への参加を表明)。ただ中国とASEANとの関係が一部で緊張していることについては中国の減速や領土紛争に伴う緊張が中国ーASEANの貿易を減速させ さらにはASEAN地域の経済成長を押し下げるマイナス面もみえている。中国は貿易自由化をすすめASEANとの貿易額を2012年の実績約4000億ドルの2.5倍1兆ドルに2020年までに増やす方針を掲げている。
 ところで2014年9月12日 インド外務省は 上海協力機構(SCO 2001年設立 中国 ロシア 中央アジア4ケ国)への加盟を正式に申請した(これまではオブザーバーであった)。領土などでは対中国で緊張関係にあるインドがここでは実利をとったことは注目される。SCOは米国への一極集中に反対し多極化を掲げる地域機関 9月12日まで開かれたSCO会議では中国が共同事業のため50億ドルの借款供与を表明。 インド(そしてロシア)は一連の問題で中国と歩調を合わせている。
アジアインフラ銀行AIIB  2013年10月 習近平主席の東南アジア歴訪中に提唱 2014年1月 設立に向けた1回目の準備会議 2014年10月24日 24ケ国による合意覚書署名(出資比率や組織統治など詳細はなお今後の協議事項 大変興味深いのは領土・領海で緊張が続くフィリピン、ベトナム、インドが参加 他方 韓国は後述するように米国の要請を入れて参加を見送った点だ 21ケ国と設立合意文書 資本金は約500億ドル インフラの質を重視する日本に対して資金供給の重要性説く中国) 2015年中の正式発足目指す(11月11日閉幕のAPEC直前アジア太平洋経済協力会議) 資本金500億ドル以上 出資額1000億ドル規模でpその半分を中国が出すという 資金は中國だけでなく各国の商業銀行から借り入れ 債券発行でまかなう インドネシアも参加を表明(11月9日 ジョコ・ウイドドインドネシア大統領) 東南アジア 中東などによびかけ 日米欧にもよびかけ オーストラリア・韓国は米国の要請のもと参加署名見送り(10月24日 論点 透明性・ガバナンス) ⇒世界銀行やアジア開発銀行など既存の枠組みと競合する恐れが指摘されている。2015年3月英国が参加表明(最終的に創設時メムバーは57ケ国にまで増加した。 欧州諸国はほぼこぞって参加 当初500億ドル。最終的資本規模は1000億ドル。
なお上海協力機構もインフラ投資銀行設立を検討している
なお5月2日のアジア開銀ADB総会で、中尾武彦総裁は、AIIB総裁に就任が予定される金立群総裁と5月1日に会談し、AIIBが融資に際して国際基準を満たすことを表明したことを受けて、両行で協調融資を実施する考えを表明した。またADBの問題として指摘されてきた、審査期間の短縮化に取り組む等改革に取り組む姿勢をしめした。すでにADBは自己資本183億ドルに「アジア開発基金346億円」を統合して自己資本を2017年1月に530億ドルに増強して、見合いで発行する債券発行を増やし貸し出し原資を拡大する方針(融資枠を現在の1.5倍の200億ドルに2017年から引き上げる方針 2014年の注所得国向け融資額は102億3000万ドル)。日米はADBの出資比率の引き上げに反対する一方、総裁ポストの独占を続けてきた(ADB:資本金1650億ドルは1966年から9代続けて総裁は日本 参加は67の国・地域 2014年末の出資比率は15.7%日本 15.6%アメリカ 6.5%中国 6.4%インド)。そもそも開銀が改革を怠ってきたことがAIIBが支持される背景にあるが、外圧を受けてであるにせよ、アジア開銀が改革に取り組むことは望ましい。
 2015年5月に入ってから、中国政府が発足当初500億ドルとしていたAIIBの資本を1000億ドルに引き上げることを表明したと報道された。アジア域内75% 域外25%とするもともとの出資比率案に対して、中国をけん制したい欧州は域外30%という案をだしたとされる。この当初出資金額の引き上げには、域外出資比率で引き上げを望む欧州勢を必要となる金額を引き上げてけん制する意味があるとのこと。そのほか総裁の権限を強める当初案に対して、常設の理事会を設けて監視機能とするかも論点。

    AIIBは57ケ国が参加して2016年1月16日開業した(2015年12月25日発足 設立協定の批准が17ケ国を越え、出資比率の合計も全体の50%を超えた 資本金1000億ドル 中国が約30%出資 議決権の約26%を保有 初代任期5年 総裁金立群 金氏がもと中国財務次官 ADB副総裁など歴任 文革で苦労した世代と言われる 天生我材必有用。融資はドル建てで実施 組織内の言語は英語)

    2016年6月25日初めての年次総会。加盟国57.加盟希望は24。融資目標は2016年12億ドル 2017年25億ドル 2018年35億ドル。

   また習近平国家主席が提唱するシルクロード経済圏(中央アジアから欧州に至る陸路のシルクロード経済圏ベルト、そして中国沿岸部からアラビア半島までをむすぶ海路の21世紀の海のシルクロードで結ばれるアジアから欧州を結ぶ経済圏を指し2つを合わせて「一帯一路」と呼ぶ 総人口44億人 経済規模21兆ドル)のインフラ整備や資源開発を支援するシルクロード基金400億ドルも中国が独自に創設するとしている。
   世界銀行・・・米国が主導。米欧支配の国際金融秩序への挑戦 米国に代わるヘゲモニー(覇権)樹立狙う。AIIBはこのシルクロード構想の先兵とも評される。

BRICS開発銀行 2012年に構想提案 以降中印などで激しい主導権争いで合意遅れる 2013年3月28日 南アフリカ ダーバンで開かれたBRICS首脳会議で「BRICS開発銀行」設立で基本合意したと、議長国の南アフリカ大統領ズマ大統領が述べた。このとき(3月26日)中国とブラジルの中央銀行は年300億ドルを上限に自国通貨を相互に融通し合う通貨交換協定を結んでいる。すでにBRICSについては中進国のワナと呼ばれる現象が表面化(成長とともに賃金が上昇 新興国に対する競争力が低下 成長に必要な生産性の向上や技術革新が遅れる中で汚職や貧富格差拡大ナドヒズミが兵表面化)。
2014年7月15日-16日 BRICS首脳会議 フォルタレザ宣言 新興5ケ国がBRICS開発銀行と緊急時の外貨準備の共同基金設立で合意 当初500億ドル。出資比率は5ケ国均等出資とされる. 本部は上海市浦東地区。 アフリカ 中南米などの援助 当初500億ドル 7年間で1000億ドルへ インドから初代総裁(任期年その後 ブラジル、ロシア、南ア、中国の順。インドは同国最大手の民間銀行会長KVカマート氏を充てることを決める。中国は財務省出身で世銀副総裁の祝憲氏を副総裁に指名) 
フォルタレザ宣言ではIMFへの新興国出資比率引き上げと米欧の比率引き下げも提案 2014年11月6日 オーストラリアブリスベンでG20首脳会議直前にBRICS非公式会議 BRICS開発銀行(新興国版の世界銀行)の早期開業の作業加速 金融危機時に外貨を融通し合う1000億ドルの基金創設(新興国版のIMF) 日米が加わらないアジアインフラ銀行AIIBを2015年中に設立 米国とすれば米国主導の国際金融秩序への挑戦 新興国にすればIMF改革の遅れ(米議会がIMF改革案を承認しない)。これにより世界銀行と国際通貨基金IMFの代替機関が誕生へ 背景にはIMFに対する反感や不満。たとえばIMFが市場改革に固執するのは貧しい国を貧困にとどめておくためではないか。既存の機関が性格を改める必要もある。同様にADBについても日米は出資比率の引き上げに対し妨害を続けてきた。
中国では素材産業の過剰能力が知られている。 石炭 鉄 アルミ ガラス セメント 新設銀行によるインフラ輸出は途上国援助に名を借りた自国産業の対外進出を促すもの  メイドインチャイナの輸出が狙いとの指摘がある

2015年5月15日 中国財務省はBRICS銀行が2015年末あるいは2016年初めに運営開始と発表。 6月29日 北京で設立協定の調印式が開かれた。ここで参加表明57ケ国からフィリッピンなど7ケ国が抜けたことが注目される。出資は中国 インド ロシアの順。資本金1000億ドルのうち中国は297億ドルを出資

2015年3月11日稿 2016年6月26日校正再up
分類:Area Studies 金融システム論

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