快晴。気温も上がってまるで初夏の気分。早朝に家を出て、前日光の山を歩いてきた。
奥日光の山の西側に足尾山地が連なっているが、その足尾と深い渡良瀬渓谷を挟んで東西に関東平野と接するところまで伸びている山塊が、前日光と呼ばれる。ことに、日光と足尾を隔てる稜線を横切る古い峠道は、足尾銅山と日光清滝にある古川鉱業の結びつきもあって、よく使われてきた。今は日足トンネルが抜けて容易に行き来ができるようになったが、標高1200mほどに位置する旧道の細尾峠への道は補修されることもなく、落石や倒木の落ちるがままに捨て置かれているような気配がある。
このコースが紹介されていた雑誌の記事では、「ゴールデンウィークも最後の日で、ヤシオツツジが満開とあって峠の車道には30台以上もの路上駐車」と記載されていた。昨日はゴールデンウィーク前の月曜日とあってか、2台を見かけただけ。ここからは、奥日光の茶ノ木平への縦走路も通じているから、どちらへ行ったかはわからない。
8時前に歩き始める。東へ延びる稜線は細い。大岩を避けて回り込むところなどは、道が削れて危なっかしい。国土地理院の地図では薬師岳の山頂を踏まないで回り込むルートが記載されているが、踏み跡はどんどん山頂へと通じている。雑誌の記事も、「巻き道コース」の分岐が分かりにくいと記してある。すでにヤシオツツジがポツリポツリと花をつけている。山はほぼ葉の落ちた木ばかりだから、余計に目立つ。
35分で薬師岳山頂1420mに着く。北側に女峰山、男体山、白根山と雪をかぶった山並みがスカイラインを縁どる。そこから南へ稜線は曲がる。アカゲラのドラミングがすぐ近くなのに渡良瀬川の渓にこだまするように響く。すぐ目の前で飛び立って、木の幹を換える。足尾の方から、ポポッポポッとツツドリの鳴く声が随伴するように聞こえてくる。コガラが枝を渡って姿を見せる。急斜面に葉を落とした落葉樹をまとった谷は深い。1400m前後の標高を下ったり登ったりしながら歩いていると、やって来た50年配の登山者が破顔一笑「やっとひとに会えた」と、声をあげる。聞くと古峰ヶ原から登って細尾峠に下り、そこからさらに日光清滝へ降りて麓の温泉に浸かろうというコースだ。「それにしても速いですね」というと、朝6時半に歩き始めたという。人に会えてうれしいというのが、人懐っこい表情に表われている。
ほぼコースタイムの1時間で三ツ目1491mに来る。ここから東へ分岐しているのが夕日岳で向かう道。南へつづくのが地蔵岳への道だ。夕日岳へ向かう。標高で言うと50mほど下って80mほど登る。稜線は広く、やはりヤシオツツジがところどころを彩る。夕日岳の山頂1526mは、薬師岳よりももっと広い。北側が開けて白根山がひときわ大きく白い姿を屹立させている。
三ツ目に戻り地蔵岳へ向かう。また、古峰ヶ原方面からの登山者に出逢う。20代半ば。夕日岳へ行って引き返すという。細尾峠に車で入れるかと聞く。彼は茶の木平の方に関心があるようだ。古峰ヶ原からのルートは、ヤシオツツジが咲き始めている、このあたりは少ないともいう。だが、ツツジの木はずいぶんたくさんある。来週あたりになると、ヤシオツツジのトンネルができるのかもしれない。地蔵岳の山頂1483mは潅木に囲まれた稜線上のちょっとした突起という感じ。すぐに折り返す。
ところが、ここからの折り返しで、体がずいぶん疲れていることに気づいた。今日は標高差もそれほどないし、コースタイムよりちょっと早い程度で歩いているだけなのに、どうしたことだ。5日前の赤城山の疲れが今ごろ出てきているのか。帰りの三ツ目までの脚が重い。そこからさらに薬師岳への1時間のルート上の登りが太ももの疲れに感じられて、歩度が遅くなる。薬師岳山頂の手前で山腹を巻く「巻き道」の標識がある。笹をかき分けるそちらの道をたどる。ちょっと笹がかぶさっているから注意しながら歩く必要はあるが、「わかりにくい」どころか、踏み跡はしっかりついている。すぐに笹を抜けて稜線を降る。こんなに下るのかと思うほど降って渓をひとつ乗越して、登り道と合流するのは標高1285mのところであった。たしかに入口は「わかりにくい」。木の枝を置いてこちらへ入るなと表示しているからだ。下りには使っても登りに使うもんじゃないと思う。
12時に峠に到着。巻き道をとったせいでか、山頂手前の分岐から25分で着いた。出発してからほぼ4時間。まあ、コースタイムで歩くのは、まだまだ大丈夫だとは思った。じつはお昼をとっていない。むろん持参していたのだが、夕日岳の山頂についたとき、この分なら12時ころに峠に着く。ならば、麓・清滝の中華料理屋「香楽」のニラレバ定食を食べようと思って、持参の品に手をつけないでいた。香楽に着いたのは12時半、古川鉱業の社員がまだ昼食をとっていた。少し待って席に割り込み、空揚げにしたレバとニラを炒めたやつを頂戴した。満腹で眠くなったのは困ったが、順調に運転して帰宅したという次第。