最後の死刑執行から1年を迎えるのを機に、江田法相が「法務省で死刑制度のあり方の議論が進められていることから、議論の最中に執行することは、なかなかできる話ではない」と述べ、当面は執行を命じない意向を明らかにした…との報道を聞く。
日本の死刑執行の根拠は刑事訴訟法の第475条。そこにはこう書かれている。
1 死刑の執行は、法務大臣の命令による。
2 前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であつた者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。
死刑廃止論者の方はいろいろ理屈を言われるのだが、条文に「しなければならない」とちゃんと書かれているので、普通に読めば、確定した者に対しては法務大臣は6箇月以内に死刑執行命令を出さなければならないわけだ。
しかしながら、実際には条文どおり死刑確定から、6か月以内で命令が出されることはなく、大阪の小学校乱入児童殺傷事件で死刑判決を受けた囚人は死刑確定後、1年程で死刑執行がなされたが、その時は「異例のスピード処刑」と言われたのは記憶に新しい。実際5~6年以上経過してから許可がだされるのが通常のようだ。在任中、命令を出さなかった大臣も数多く、つまり、法を司る法務大臣自ら法律を守っていないという訳。
「法務大臣に与えられた権限をどう行使するか、世界の趨勢をにらみながら考えている」とか江田法務大臣は言っているようだが、法務省内で死刑制度のあり方の議論が進められているだけで、法律は生きている状態。「議論の最中に執行することは、なかなかできる話ではない」ではなくて「命令しなければならない」のである。実際問題、たとえ死刑が廃止になるにしても、それがいつになることか、全く不透明だ。(各種調査から、国民の多数は「死刑制度存続」であり、すぐに刑法改正が成立するとは到底思えないし…。)
江田五月さんなどは東大在学中に司法試験合格、裁判官に任官した秀才中の大秀才であって、こんなことは百も承知なのだろうが、自分が裁判官だった当時はどういうつもりで判決文を書いていたのだろうか?良く分からないところである。死刑廃止論者であることは別にかまわないが、やはりそう言う人は法務大臣就任について辞退するのが筋というものだろう。
昔、後藤田正晴氏が法務大臣だった時、「法務大臣には死刑執行をする法的義務がある、だから執行しないのは怠慢だし、執行しないならば法務大臣を辞めるべきだ。そもそも執行しない者は法務大臣に就くべきではない。」と発言し、非難を浴びた(なんで?)ことがあるが、法務大臣に就く者は、そのような気構えを持って椅子に座るべきと思う。
私は死刑存続論者ではあるが、ヒステリックに叫ぶ気はない。だが、法を司る最高責任者である法務大臣自ら法律を遵守しないというのは、国民の遵法意識や他の行政機関に対しても悪影響を潜在的に与えているような気がする。だいたい、ギャンブルの項でも書いたが、日本の法律は適用がいい加減過ぎるのではないだろうか。
法の適正な執行…このような基本的なことが実行されない日本と言う国は本当に法治国家なのだろうか?改めてそう思わざるを得ない江田法務大臣発言であった。