私の研究日記(映画編)

ここは『智に働けば角が立つ』の姉妹ブログ。映画の感想や、その映画を通してあれこれ考えたことを紹介しております。

『トゥルーマン・ショー』(DVD)

2008-11-24 00:35:59 | た行

監督 ピーター・ウィアー
製作総指揮 リン・プレシェット
脚本 アンドリュー・ニコル
出演者 ジム・キャリー
    エド・ハリス
    ローラ・リニー
公開 1998年6月5日 アメリカ
時間 103分
製作国 アメリカ

 自宅DVDにて鑑賞(11月8日)。
 中学、高校時代に見た映画の中で、印象に残った作品を片っ端から挙げていったら、恐らくピーター・ウィア監督の『いまを生きる』や『グリーンカード』は、かなり早い段階で挙がるはずである。そのピーター・ウィア作品ということで、『トゥルーマン・ショー』は公開当時に絶対見よーと思っていた作品だった。だが、そのうち見ようと何度も先延ばししつつ、ついには公開から10年も経ってしまった。月日が過ぎるのは速いものだ(笑)。念願かなっての鑑賞である。

 物語の舞台は、アメリカのとある離島シーヘブン。主人公トゥルーマン(ジム・キャリー)は、そこで保険会社のセールスマンをしながら、妻メリル(ローラ・リニー)とともに毎日を明るく平和に暮らしている。
 だが彼には、自分でも気づいていないもう一つの顔がある。世界中で放映されている人気テレビ番組「トゥルーマン・ショー」の主人公というのが、それである。生まれた時から、彼の日頃の生活は常にテレビ局のスタッフに監視され、テレビカメラを通じて世界中に放送されている。「トゥルーマン・ショー」とは彼の人生そのものなのだ。また、彼は気づいていない。彼の住むシーヘブンの町のあらゆるものが、ハリウッドに作られた巨大なセットで、そこで暮らす人々はメリルも含め全員が俳優であるということを。彼はそれらのことを何も知らず、30年を生きてきたのだった・・・。

 この世の中は、誰かが見ている夢の世界で、自分はその中の単なる登場人物に過ぎないのではないか。子供の頃、そんな他愛もない想像をして、とても怖くなったことがある。この作品を鑑賞して、そんな昔の経験を思い出した。そういう他愛もない想像の何に怖くなったのか、幼い頃の自分は考えようともしなかったが、この映画を見て何となく分かった気がする。


 鑑賞後に改めてこの映画について調べてみた。
 上に書いているように、この作品の監督はピーター・ウィア。だが、当初、脚本を書いたアンドリュー・ニコルが監督を務める予定だったそうだ。アンドリュー・ニコルは『ガタカ』の脚本を書いた人物である。『ガタカ』は、何年か前に友人のタケシに紹介され鑑賞した映画だが、遺伝子操作によって優れた知能と体力を持った適正者が、不適正者を支配する差別社会を描いた作品。遺伝子操作技術によって将来起こりうる社会問題が描かれた、いわば社会派SF作品である。

 同様に『トゥルーマン・ショー』もまた、社会に対する彼の問題意識から織り上げられたような作品といえるだろう。企業の一つであるテレビ局が、番組の面白さや視聴率を追求する余り、法や社会的規範をたびたび踏み越えてしまうことは、近年の過剰報道や番組の捏造などの問題を持ち出すまでもない。「トゥルーマン・ショー」のように、ある特定の人間の一生をリアルタイムに撮影し放送するような番組が将来作られたとしても、可能性という点で決しておかしいことではないと思う。

 そういう番組があること自体怖いことだが、もっと怖いのは、主人公が番組のために作られた仮想の社会で生きてきたということである。自分が何者なのかということに苦悩した経験は、誰でもお持ちだろう。いわゆる個人のアイデンティティの問題である。仮想社会で生きてきたということが怖いのは、そうしたアイデンティティの問題と関わりがあるからである。

 普通アイデンティティは、家族や会社、学校など社会との関わりの中で確立される。だが、それまで築いてきた社会との絆が偽りのものだったら、一体どういうことになるのだろうか。あらすじに書いたように、親子関係や恋愛、友情、仕事、近所付き合いなど、これまでトゥルーマンが築いてきた社会的なあらゆる絆は、仮想のものである。映画では、それに気づいた主人公が、現実の世界へと旅立っていくというハッピー・エンドに終わる。だが実際にこういうことがあったら、このようなハッピー・エンドには終わらないであろう。

 というのも、彼が築いてきた社会との絆が仮想のものだったら、彼のアイデンティティも仮想のものだったということなるからだ。愛する妻や両親、友人、同僚がいるからこそ、トゥルーマンはトゥルーマンでいられたのに、それらが偽りものだったならば、彼は何者でもなくなってしまう。立場を換えていうならば、自分が何者なのかを完全に見失ってしまうのである。いわば完全なる孤独の状態。果たして人はそれに耐えられるだろうか。自分ならきっと絶望するだろう。作品ではその点にほとんど触れられておらず、少し楽観的、非現実的な物語になってしまっている気がする。

 とはいえ、アイディアに溢れ、物語も全体としてみれば十分楽しめる。まとめるとお薦めできる良い作品といえるだろう。

最新の画像もっと見る