第一章 私達は「病気になる油」を食べ続けている
【トランス脂肪だらけの加工食品】
ここまで読んだみなさんは、いかにマーガリンに含まれているトランス脂肪が“百害あって一利なし”であるか、よく解っていただけたかと思います。
しかし、みなさんの家の冷蔵庫にあるマーガリンを捨てれば安全、というわけではありません。
なぜなら、マーガリン以外にも、トランス脂肪は名前を変えてさまざまな食品に使われているからです。
買い物をするときに、食品のパッケージに記載されているラベルを確かめてみてください。
菓子パンやクッキー、クラッカー、ケーキ、チョコレート、スナック菓子、アイスクリーム、フライ、レトルトカレーなど多くの加工食品の原材料名に「ショートニング」「加工油脂」、あるいは「ファットスプレッド」などと書かれていませんか?
実は、これらはすべてマーガリンの仲間で、トランス脂肪が大量に含まれている可能性があるのです。
まず、ショートニングについて説明しましょう。
正式にはショートニングオイルといいます。
「もろくする」という意味の「shorten」からきている言葉で、揚げ物やクッキーなどのサクサクとした歯ごたえを出します。
マーガリンが油脂に水や乳化剤を加えてバター状に練り上げられたものに対して、ショートニングはこれらが加えられることがなく、ラードの代用品として用いられます。
飲食店やデパートの地下などで売られている、できあいのコロッケやフライを食べると、「家で揚げるよりもカラッと仕上がっている」と感じる人も多いでしょう。
「さすが専門店の職人技」と感心していたら、実はショートニングを入れた油で揚げているだけ、なんてことも決して珍しくありません。
私にいわせれば、ショートニングでもろく崩れていくのは、それらを口にする私達自身です。
ファットスプレッドとは、水分や乳化剤の混合割合が多く、よりクリーム状になったマーガリンを指します。
水分などが多い分、通常のマーガリンよりも油脂を含む量は少なくなるので、「低カロリーのマーガリン」「ソフトで軽いマーガリン」などの謳い文句でよく見かけます。
ほかにも、市販のサラダ油やマヨネーズ、ドレッシングのほとんどに、マーガリンと同じように水素を添加した油が使われています。
しかし、これらのラベルを見ると「植物性油脂」「食用精製加工油脂」としか表示されていません。
もちろん植物油を原料にしているでしょうが、化学反応によって全く別の性質のものに変えられた、不自然な危険極まりない油です。
「動物性脂はコレステロールを高くするから、少しでも植物性由来のものを使って健康に」と選んで買っていた食品が実はとんでもないものだった、なんてことになったら本末転倒です。
本来、食事とは体の機能を高めて健康を維持していくためのものですが、これではわざわざ病気になるために食品を買い漁っているようなものです。
確かに、マーガリンが発明されたときは世界中で大絶賛されました。
水素を添加することにより、植物油の「酸化しやすい」という欠点がカバーできたからです。
バターに比べて安価で、長期の保存ができるようになり、食品メーカーから外食産業、各家庭に至るまできっと重宝されたことでしょう。
そして、その利便性から、現在ではさまざまな加工食品や料理にあまねく使われるようになりましたが、結果として、以前は考えられなかったような多くの現代病が続出したといえるのです。
【店頭に並ぶ「死んだ油」】
トランス脂肪は、日本ではごく普通に売られている食用油にも入っています。
スーパーマーケットの棚に並んでいる食用油をよくみてください。
サラダ油やゴマ油、ベニバナ油など、植物を原料に使った、いかにも健康に良さそうな図柄のパッケージに身を包んだ油が、たくさん並んでいることでしょう。
でも、どこか変だと思いませんか?
本来、食用油は生鮮食品と同類のものです。
なぜなら、長く保存ができないものだからです。
本物の油であれば、冷蔵されていたり、暗くて寒いところに置かれているはずです。
まず常温の棚には並ばないでしょう。
もうひとつ注意したいのが、油が入っている容器です。
油は、光に当たると酸化が進みます。
なるべく光に当たらないように黒い瓶に入っているのが本来の姿なのです。
さて、みなさん。
もう一度、よくスーパーマーケットの棚に並んでいる食用油をみてください。
ほとんどの商品が透明のプラスチック容器に詰められ、店内の光をさんざん浴びていませんか?
本物の油ならば、酸化して黒ずみ、使いものにならなくなるでしょう。
ところが、これらの油は黒ずむどころか、いつまでもきれいな色をしています。
これは一体、どういうことなのでしょうか?
かつての食用油は、種実類、ナッツ類、果実類からシンプルに搾り取っていくのが普通でした。
搾取法は国や地域によってさまざまですが、たとえば底に穴をあけた大きな乳鉢に食材を入れて乳棒を取りつけ、水牛などの家畜にくくりつけて乳鉢の周囲に円を描いてぐるぐると歩かせると、材料の果肉や種が砕けて油が下に置いた容器の中に垂れ込むといった方法などでつくられてきました。
そして、油は「一度にたくさん摂れない貴重なもの」「すぐに使わないと悪くなってしまうもの」として扱われ、なるべく新しいうちに使い、光を通さない陶器などに入れて冷暗所で保存されていたのです。
ところが、現在スーパーマーケットなどで売られている、大手メーカーの食用油のほとんどは、このような方法ではつくられていません。
多くの油のCMでは「ピュア」という言葉を使っていかにもナチュラルで健康そうな印象を与えています。
が、実は、化学溶剤を添加した「溶剤抽出法」という、「ピュア」にはほど遠いつくり方をしているのです。
では、具体的に、一般的な抽出法を順を追って紹介しましょう。
まず、油の原料になる植物の種、木の実、豆などは洗浄され、外皮が取り除かれます。
そして、原料を細かくフレーク状にして、溶剤を添加します。
実は、この溶剤は「ヘキサン」や「ヘプタン」と呼ばれる、ほとんどガソリンのような石油系の物質です。
そのガソリンのような揮発性の高い油を、フレーク状にした食用油の材料に混ぜ合わせて熱して撹拌し、材料から根こそぎ油分を溶かし出すわけです。
その後、高温で溶剤を気化させ、食べる油分だけ残します。
このとき、溶剤が残ってしまう場合もあります。
次に、油分に水とリン酸を加えて熱し、油分に含まれるレシチンや食物繊維、カルシウム、マグネシウム、鉄などの栄養素を取り除きます。
なぜなら、これらの栄養素は長期保存するためには邪魔な成分と考えられているからです。
その後、製品ができあがったときに変色すると古さが目立つという理由で、110度という高温で脱色します。
この段階で、ベータ-カロテンやビタミンEとともに香りまでもが取り除かれてしまいます。
そして最後に、これまでの高温下での激しい工程で発生した脂肪酸の劣化臭を取り除くために、240~270度もの高温に長時間放置して脱臭し、保存剤などを添加して商品にするのです。
実は、この高温で脱臭する工程がもっともトランス脂肪を生み出してしまいます。
なぜなら、不飽和脂肪酸は、150度を超えると分子構造が突然変異を起こし、160度を超えると確実にトランス脂肪へと変貌し、さらに200度を超えるとトランス脂肪が連鎖するように急激に増加してしまうからです。
大切な栄養素や風味までもが抜き取られた油は、もはやフレッシュな油とはいえません。
まさに「死んだ油」です。
死んだ食べ物は、体の中に取り込んでもまったく健康の役に立ちません。
それどころか、このような凄まじい製造工程のなかで、トランス脂肪をはじめ、活性酸素や過酸化脂質などの有害物質が大量に発生し、私達の体にダメージを与えてしまうのです。
ラベルの表示に「植物性油脂」「食用精製加工油脂」と書かれているものは、溶剤抽出法でつくられた可能性が高いので注意したほうがよいでしょう。
では、どんな油を選べばよいのでしょうか?
それは、ラベルの表示に「コールドプレス(低温圧搾)」と書かれているものです。
コールドプレスとは、30度以上の熱を一切かけずに原料を搾って油を抽出し、そのままボトル詰めをしたシンプルなつくり方のこと。
昔ながらの方法で抽出した搾りたてのフレッシュな油が、栄養が豊富で、しかも一番安全というわけです。
割高感は否めませんが、むしろ植物油が安価で手に入ること自体が「異常」なのだ、と考えてください。
貴重な油を少量だけ用いるような食生活を送れば、結果として油の摂りすぎも防げます。
なお、商品を長持ちさせるために、コールドプレスで抽出した油をさらに脱ガム・脱色・脱臭してボトル詰めをしたものがあります。
専門的には「放出性圧縮油」といいますが、これでは意味がありません。
繰り返し書きますが、本来、食用油は生鮮食品です。
実際に、欧米の自然食品店などでは、本物のフレッシュな油は、冷蔵棚で光を通さない容器に入って販売されているのです。
【コーヒーフレッシュの驚くべき正体】
トランス脂肪を含んだ油は、思いがけない食品にも使われています。
たとえば、ファミリーレストランやコーヒーショップ、ファーストフードなどでセルフサービスになっている小容器(ポーションタイプ)のコーヒーフレッシュがあります。
容器が小さいので一つひとつには原材料名が書いていないのですが、スーパーマーケットでいくつかまとめて袋詰めになって売られているものにはラベル表示があります。
それをよくのぞいてみてください。
いずれも原材料名の最初に「植物性油脂」と書かれているはずです。
「え? コーヒーフレッシュは生クリームや牛乳が原材料じゃないの?」と思う人も多いかもしれませんね。
実は、コーヒーフレッシュには、牛乳や生クリームは一滴も入っていません。
サラダ油と水、乳化剤、増粘多糖類、カラメル色素、pH調整剤でつくられているのです。
では、驚きのレシピをみてみましょう。
まず、水にサラダ油を入れます。
水と油は元来混ざらないので、乳化剤を加えてこれらを混ざりやすくします。
次に、とろみをつけるために増粘多糖類を加えます。
そして、見た目をクリームのように演出するためにカラメル色素で黄ばみをつけ、最後にpH調整剤を加えて日持ちをよくします。
これで簡単にコーヒーフレッシュができあがるのです。
しかも、先ほど説明したように、安価で大量生産されているサラダ油にはトランス脂肪がたっぷり含まれています。
まさに「コーヒーフレッシュはミルク仕立てのトランス脂肪である」といっても過言ではありません。
私達消費者は、「フレッシュ」というネーミングと「クリーミー」な見た目、「ナチュラル」なイメージの広告に、つい「新鮮な牛乳や生クリームが入っているもの」と思い込んでしまいがちです。
考えてみれば、外食店で常温でセルフサービスされているものです。
フレッシュな乳製品が使われていれば、少なくとも常温で1日中置きっ放しにする、なんてことはありえません。
使い放題のものには、やはりそれだけの理由があるのです。
ちなみに、ファーストフードなどでミルクティーを頼むと、ストレートの紅茶にコーヒーフレッシュがついてくるときがあります。
この場合も、当然、本物のミルクは一滴も入っていません。
とはいえ、本物の牛乳や乳製品を入れればよい、というわけではないので注意を。
今回は説明は割愛しますが、牛乳や乳製品は「健康を害する食品」であると私は考えています。
詳しくは、『病気になりたくない人が読む本』(アスコム刊)にて説明しているので、ぜひご覧ください。
【フライドポテトが腐らない理由】
みなさんは『スーパーサイズ・ミー』というアメリカのドキュメンタリー映画をご覧になったことがあるでしょうか?
この映画は、監督のモーガン・スパーロック氏が30日間ファーストフードを食べ続け、健康上どうなるのかを記録したものです。
彼は、この実験で体重が11キロ増え、うつ、性欲減退、かなり深刻な肝臓の炎症を起こしました。
また、ファーストフードを食べないと体がだるい、頭が痛くなる、という中毒に似た症状も現れました。
実験終了後、彼は解毒を促す野菜中心の食生活に変えましたが、体の機能を戻すのに2ヶ月、体重を戻すのに14ヶ月もかかったそうです。
彼の体に起こった異常は、ファーストフード店で使われている油とその調理法がいかにおぞましいものであるかを如実に示しています。
なかでも、彼が毎日大量に食べていたであろうフライドポテトは、私にいわせると、まさにトランス脂肪や過酸化脂質などの有害物質がてんこ盛りになった「病気になる食べ物」です。
それを象徴しているのが、同映画のDVDの特典映像でみられる“ファーストフードの生命力”です。
これは、ハンバーガーやフィッシュバーガーなど、ファーストフードのレギュラーメニューの腐敗度を比較したものです。
奇妙なことに、ハンバーガーなどが1週間程度で次々と腐敗していくなか、フライドポテトは1週間たっても2週間たっても腐らず、とうとう10週間目に入っても外見上は買いたてのときと変わりませんでした。
比較用に用意したレストランのフライドポテトはすぐに腐ったのに、なぜファーストフード店のフライドポテトは腐らないのだろう?
いったいどんな技術が施されているのだろうか?
映像は結局、ファーストフード店のフライドポテトが腐るのを見届けることなく「実験を切り上げ」て終了し、この問いを投げかけています。
私はこの映像を見て、ファーストフード店のフライドポテトは、防腐剤の代わりにポテトの表面にプラスチックをコーティングしたものだといえるのではないだろうか?
だから、腐りにくいのではないだろうか?
と本気で感じました。
なぜなら、ロー氏の「マーガリン(トランス脂肪)はプラスチックと分子構造が酷使している」というエピソード(「今すぐマーガリンは捨てよう!」)を思い出したからです。
余談になりますが、私の知人がファーストフードについて興味深い話をしてくれたので紹介しましょう。
彼は、会社の人から某ハンバーガー・チェーン店のハンバーガーを貰い、「後で食べよう」と思ってロッカールームに片づけました。
ところが、すっかり忘れてしまい、そのまま5日間出張に行ってしまいました。
出張から戻った後、彼は「腐ってしまって、とんでもないことになっているにちがいない」と恐る恐る紙袋を開けました。
すると・・・・・・、ハンバーガーは腐るどころか、見た目は買ったときのままの状態だったのです。
彼は予想とのあまりの違いに、大変驚いたそうです。
もしかすると、この知人が買った店では、フライドポテトだけではなく、ハンバーガーのバンズやパテにもマーガリンやショートニングが大量に用いられているのかもしれません。
国内外問わず、ほぼすべてのファーストフード店では、ポテトやチキンをカラッと仕上げたり、ドーナツをサクサクとした歯ごたえにするために、植物性ショートニングを高温で溶かして揚げ油として使っています。
もちろん、植物性ショートニングはマーガリンと同様に水素を添加してつくられるので、トランス脂肪が含まれています。
しかも、トランス脂肪は160度以上の高温になるとどんどん増加します。
超高温の揚げ油に使うと、どうなってしまうのか想像がつくでしょう。
まさに危険極まりない油のプールにポテトやドーナツをどっぷりと漬け込んでいるといっても過言ではありません。
しかも、多くのファーストフード店では、古くなって黒ずんだ揚げ油をろ過して何度も使い回しています。
その間、さらにトランス脂肪や過酸化脂質が増えるのですから、まったく体に良いわけがありません。
最悪の油を使って、最悪の調理法をしているのです。
WHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)の「食事、栄養および慢性疾患予防に関する合同専門家会合」では、食事からのトランス脂肪の摂取はきわめて低く抑えるべきで、最大でも1日の総エネルギーの1%未満にするように勧告しています。
日本人の場合、トランス脂肪の摂取量は、推計によると1日あたり平均1.56グラムで、すでに摂取エネルギーの0.7%に相当します。
ちなみにアメリカでは、20歳以上の成人の場合、1日あたりの平均摂取量は約5.8グラムと推計されており、すでに勧告値を超えています。
では、WHOとFAOが勧告している「1日の総エネルギーの1%」とは具体的にどれくらいかというと、日本の場合、先ほどの数字を逆算して計算すると約2.23グラムとなります。
さて、ここで下の表をよくみてください。
単品ではトランス脂肪の1日摂取量の目安の範囲内であっても、たとえばハンバーガーとフライドポテトをセットで食べれば、あっという間に超えてしまいます。
シェークを飲んだり、デザートの代わりにアイスクリームを食べたりすれば、もっともっと増える可能性があります。
いつの間にか、どんどん蓄積してしまう。
それが恐いのです。
念を押すと、トランス脂肪は「何グラム以下なら良い」というものではありません。
まったく摂らない、つまり0グラムがベストであって「やむを得ず食べてしまう場合でも1%以下に」ということなので、意味をはき違えないようにしてください。
なお、食べ物を反すうして消化する牛や羊は、胃の中の微生物によってトランス脂肪が生成されるため、バター・チーズ・牛肉・羊肉などの動物性油脂には、天然のトランス脂肪が脂肪中の4~5%存在するといわれています。
ただし、この天然のトランス脂肪は、トランス型とシス型の混在する共役リノール酸というもので、マーガリンやショートニングなどの人工的なトランス脂肪とは構造が異なります。
ある日本の大手ファーストフードチェーン店では、なんと揚げ油に使うショートニングの約半分がトランス脂肪になっているそうです。
日本の場合、スナック菓子などの油脂中に含まれるトランス脂肪は15%以下がほとんどで、アメリカでも20%程度とされているのに、この数字は本当に異常です。
しかも、ある日本の企業では自社分析でわかっているにもかかわらず、トランス脂肪の含有量のデータを一般公開していないそうです。
私達は、健康のリスクをなにも知らされないまま製品を買わされているのです。
これだけ普及してしまった昨今、「ファーストフードを一切売るな」というのもあまり現実的ではありませんが、せめて、トランス脂肪の含有量をラベル表示にするなど、どれだけのリスクがあるのかを公開して、消費者が選択できるようにしてほしいと思います。
タバコやアルコールのように。
「知っていれば買わなかったのに」と後で病気になって思う人が出てくるかもしれない。
ひょっとしたら、すでにいるかもしれません。
これは、ファーストフードだけではなく、トランス脂肪を含む全商品に対して行ってほしいと思います。
アメリカでは、実際に消費者が行動を起こしています。
アメリカ・マクドナルドは2002年9月に「2003年2月までに調理油のすべてをトランス脂肪を含まない油に切り替える」と発表しました。
ところが、そのスケジュール通りに計画が進まず、健康問題活動家によって訴訟を起こされています。
2004年9月24日付けのニューヨーク・タイムズの広告には、マクドナルドが計画を実行できなかったことを非難し、心臓発作の応急処置場面の写真を載せてトランス脂肪が心臓に与える害をストレートに表現しました。
裁判では、マクドナルド側に、アメリカ心臓学会に700万ドル(約7億7000万円)を寄付してトランス脂肪の知識普及などに使用すること、そして現在のトランス脂肪の使用状況を消費者に知らせる広報活動に1500万ドル(約16億5000万円)を投じるように命じています。
なお、裁判官から「トランス脂肪が心臓血管に与える害について、広く国民に伝えるべきである」とのコメントがあったそうです。
また、アメリカ・KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)も2006年6月に消費者団体によって訴訟を起こされています。
訴訟の内容は、トランス脂肪を含む油の使用を止めるか、あるいは消費者に健康上のリスクを知らせる一文を挿入するべきである、というものでした。
同社は、10月に「トランス脂肪を含む調理油の使用は2007年4月までに全店舗で止め、以後は同脂肪酸を含まない大豆油を使用する」と発表しています。
これらの事態を受け、ウェンディーズは同年6月にトランス脂肪の使用量を大幅に削減すると発表、10月にはバーガーキングも一部店舗でトランス脂肪を含まない油を試験的に使用することを発表しました。
さらに、大手コーヒーチェーン・スターバックスも、ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市を中心にマフィンやサンドイッチなどのすべてのメニューでトランス脂肪を含む油の使用を停止すると宣言、ウォルト・ディズニーも将来的にテーマパークで提供する食品や菓子類にトランス脂肪入りの油を使わない方針を決めているようです。
確かに、消費者の動きに応えて、アメリカの各企業も前向きに取り組み出したことは大変素晴らしいことだと思います。
しかし、まだまだ課題はあります。
まず、そもそもトランス脂肪ゼロで健康によいマーガリンなどあり得るのか、ということです。
アメリカのある企業では、すでにトランス脂肪ゼロのマーガリンを開発し、健康に良いと謳っています。
ところが、そのつくり方をみると、部分的水素添加を完全水素添加にしているだけなのです。
そして、完全水素添加状態では硬くて食べられないため、さらに大豆油を添加してクリーム状にしているのです。
完全水素添加すれば、水素が飽和した構造になる、つまり、不飽和脂肪酸から飽和脂肪酸へと完全に構造を変えてしまうのでトランス脂肪は発生しません。
しかし、かえって飽和脂肪酸も不飽和脂肪酸も摂取量が増えることになるので、果たして「健康的」といえるのか、という点で疑問が出てきます。
しかもこの飽和脂肪酸も、結局は人工的につくられたものなのできわめて不自然です。
また、触媒としてニッケルが添加されているため、長期的に摂取すると、ニッケルの毒性として、発ガン・不眠・皮膚炎・アレルギー・呼吸困難などのリスクが高まる可能性も考えられます。
なお、アメリカでは、トランス脂肪含有量が一サービング(一皿分)あたり0.5グラム未満であれば0グラムと記載できます。
たとえトランス脂肪が含まれていても、0.5グラムまでであれば、ラベルには「トランス脂肪ゼロ」と表示できるわけです。
ですから、たくさん食べれば規定量を超えることも当然あり得るわけです。
そして、意外に見落としがちなのが調理法です。
なぜなら、たとえトランス脂肪を含まない植物油を使ったとしても、高温でポテトやチキン、ドーナツなどを揚げる、ハンバーグを焼く、といった従来の調理法では、調理の過程でトランス脂肪が大量に生成してしまう恐れがあるからです。
根本から解決するためには、使う油そのものだけではなく、調理法の見直しも大きな課題になるでしょう。
【「揚げる」「焼く」「炒める」は控えよう】
油を使って高温で「揚げる」「焼く」そして「炒める」ことで、トランス脂肪が発生する以外にやっかいな問題がもうひとつあるのでお話ししましょう。
それは、アクリルアミドという発ガン性の高い物質が発生してしまう恐れがあることです。
あまり耳にしない言葉かと思いますが、トランス脂肪が不飽和脂肪酸の構造が変わって悪玉と化したものであるのに対し、アクリルアミドはジャガイモなどのデンプンが関係するのが特徴です。
実は、アクリルアミドは、ダムの工事などに土壌凝固剤や漏水防止剤として用いられる化学薬品でもあります。
こちらに神経毒性や発ガン性が疑われたことから、最近、食品中のアクリルアミドの有害性について指摘されるようになりました。
通常の摂取量であれば害はない、とされていますが、私はトランス脂肪のケースと同じように、多くの人が摂取オーバーになっていると考えています。
注意していただきたいのは、アクリルアミドは「油でジャガイモなどのデンプンを揚げること」などによって発生するという点です。
現に、茹でたジャガイモからはアクリルアミドは検出されません。
国立医薬品食品衛生研究所調査データによると、フレンチフライからは最大で約0.78マイクログラム、「ポテトチップス」からは同3.54マイクログラムのアクリルアミドが検出されています。
また、同調査データによると、「かりんとう」もアクリルアミドを意外に多く含んでいました。
黒砂糖などを使ったヘルシーなおやつかと思いきや、揚げることによって有害物質が発生してしまうのです。
アクリルアミドは、国際ガン研究機関(IARC)の評価によると、防腐剤やディーゼル排気ガスと同列の「2A(人に対しておそらく発ガン性がある)」に属します。
アクリルアミドは、120度以上の加熱で生成し、100度そこそこの「茹でる」「煮る」「蒸す」、そして「生のまま食べる」では生成しないことがわかっています。
これらの調理法は、昆布やシイタケからダシをとって煮炊きする、日本の伝統的な和食のつくり方と重なると思いませんか?
私達日本人が親しんできた和食は、食材だけではなく、その調理法までもが健康長寿に役立っていたのです。
たとえ体に良い油を使っていても、調理法で有害物質を発生させていたのでは元も子もありません。
トランス脂肪と同様に、アクリルアミドにも注意を払いたいものです。
山田豊文先生 著
『病気がイヤなら「油」を変えなさい!~危ない“トランス脂肪”だらけの食の改善法~』 より抜粋
【トランス脂肪だらけの加工食品】
ここまで読んだみなさんは、いかにマーガリンに含まれているトランス脂肪が“百害あって一利なし”であるか、よく解っていただけたかと思います。
しかし、みなさんの家の冷蔵庫にあるマーガリンを捨てれば安全、というわけではありません。
なぜなら、マーガリン以外にも、トランス脂肪は名前を変えてさまざまな食品に使われているからです。
買い物をするときに、食品のパッケージに記載されているラベルを確かめてみてください。
菓子パンやクッキー、クラッカー、ケーキ、チョコレート、スナック菓子、アイスクリーム、フライ、レトルトカレーなど多くの加工食品の原材料名に「ショートニング」「加工油脂」、あるいは「ファットスプレッド」などと書かれていませんか?
実は、これらはすべてマーガリンの仲間で、トランス脂肪が大量に含まれている可能性があるのです。
まず、ショートニングについて説明しましょう。
正式にはショートニングオイルといいます。
「もろくする」という意味の「shorten」からきている言葉で、揚げ物やクッキーなどのサクサクとした歯ごたえを出します。
マーガリンが油脂に水や乳化剤を加えてバター状に練り上げられたものに対して、ショートニングはこれらが加えられることがなく、ラードの代用品として用いられます。
飲食店やデパートの地下などで売られている、できあいのコロッケやフライを食べると、「家で揚げるよりもカラッと仕上がっている」と感じる人も多いでしょう。
「さすが専門店の職人技」と感心していたら、実はショートニングを入れた油で揚げているだけ、なんてことも決して珍しくありません。
私にいわせれば、ショートニングでもろく崩れていくのは、それらを口にする私達自身です。
ファットスプレッドとは、水分や乳化剤の混合割合が多く、よりクリーム状になったマーガリンを指します。
水分などが多い分、通常のマーガリンよりも油脂を含む量は少なくなるので、「低カロリーのマーガリン」「ソフトで軽いマーガリン」などの謳い文句でよく見かけます。
ほかにも、市販のサラダ油やマヨネーズ、ドレッシングのほとんどに、マーガリンと同じように水素を添加した油が使われています。
しかし、これらのラベルを見ると「植物性油脂」「食用精製加工油脂」としか表示されていません。
もちろん植物油を原料にしているでしょうが、化学反応によって全く別の性質のものに変えられた、不自然な危険極まりない油です。
「動物性脂はコレステロールを高くするから、少しでも植物性由来のものを使って健康に」と選んで買っていた食品が実はとんでもないものだった、なんてことになったら本末転倒です。
本来、食事とは体の機能を高めて健康を維持していくためのものですが、これではわざわざ病気になるために食品を買い漁っているようなものです。
確かに、マーガリンが発明されたときは世界中で大絶賛されました。
水素を添加することにより、植物油の「酸化しやすい」という欠点がカバーできたからです。
バターに比べて安価で、長期の保存ができるようになり、食品メーカーから外食産業、各家庭に至るまできっと重宝されたことでしょう。
そして、その利便性から、現在ではさまざまな加工食品や料理にあまねく使われるようになりましたが、結果として、以前は考えられなかったような多くの現代病が続出したといえるのです。
【店頭に並ぶ「死んだ油」】
トランス脂肪は、日本ではごく普通に売られている食用油にも入っています。
スーパーマーケットの棚に並んでいる食用油をよくみてください。
サラダ油やゴマ油、ベニバナ油など、植物を原料に使った、いかにも健康に良さそうな図柄のパッケージに身を包んだ油が、たくさん並んでいることでしょう。
でも、どこか変だと思いませんか?
本来、食用油は生鮮食品と同類のものです。
なぜなら、長く保存ができないものだからです。
本物の油であれば、冷蔵されていたり、暗くて寒いところに置かれているはずです。
まず常温の棚には並ばないでしょう。
もうひとつ注意したいのが、油が入っている容器です。
油は、光に当たると酸化が進みます。
なるべく光に当たらないように黒い瓶に入っているのが本来の姿なのです。
さて、みなさん。
もう一度、よくスーパーマーケットの棚に並んでいる食用油をみてください。
ほとんどの商品が透明のプラスチック容器に詰められ、店内の光をさんざん浴びていませんか?
本物の油ならば、酸化して黒ずみ、使いものにならなくなるでしょう。
ところが、これらの油は黒ずむどころか、いつまでもきれいな色をしています。
これは一体、どういうことなのでしょうか?
かつての食用油は、種実類、ナッツ類、果実類からシンプルに搾り取っていくのが普通でした。
搾取法は国や地域によってさまざまですが、たとえば底に穴をあけた大きな乳鉢に食材を入れて乳棒を取りつけ、水牛などの家畜にくくりつけて乳鉢の周囲に円を描いてぐるぐると歩かせると、材料の果肉や種が砕けて油が下に置いた容器の中に垂れ込むといった方法などでつくられてきました。
そして、油は「一度にたくさん摂れない貴重なもの」「すぐに使わないと悪くなってしまうもの」として扱われ、なるべく新しいうちに使い、光を通さない陶器などに入れて冷暗所で保存されていたのです。
ところが、現在スーパーマーケットなどで売られている、大手メーカーの食用油のほとんどは、このような方法ではつくられていません。
多くの油のCMでは「ピュア」という言葉を使っていかにもナチュラルで健康そうな印象を与えています。
が、実は、化学溶剤を添加した「溶剤抽出法」という、「ピュア」にはほど遠いつくり方をしているのです。
では、具体的に、一般的な抽出法を順を追って紹介しましょう。
まず、油の原料になる植物の種、木の実、豆などは洗浄され、外皮が取り除かれます。
そして、原料を細かくフレーク状にして、溶剤を添加します。
実は、この溶剤は「ヘキサン」や「ヘプタン」と呼ばれる、ほとんどガソリンのような石油系の物質です。
そのガソリンのような揮発性の高い油を、フレーク状にした食用油の材料に混ぜ合わせて熱して撹拌し、材料から根こそぎ油分を溶かし出すわけです。
その後、高温で溶剤を気化させ、食べる油分だけ残します。
このとき、溶剤が残ってしまう場合もあります。
次に、油分に水とリン酸を加えて熱し、油分に含まれるレシチンや食物繊維、カルシウム、マグネシウム、鉄などの栄養素を取り除きます。
なぜなら、これらの栄養素は長期保存するためには邪魔な成分と考えられているからです。
その後、製品ができあがったときに変色すると古さが目立つという理由で、110度という高温で脱色します。
この段階で、ベータ-カロテンやビタミンEとともに香りまでもが取り除かれてしまいます。
そして最後に、これまでの高温下での激しい工程で発生した脂肪酸の劣化臭を取り除くために、240~270度もの高温に長時間放置して脱臭し、保存剤などを添加して商品にするのです。
実は、この高温で脱臭する工程がもっともトランス脂肪を生み出してしまいます。
なぜなら、不飽和脂肪酸は、150度を超えると分子構造が突然変異を起こし、160度を超えると確実にトランス脂肪へと変貌し、さらに200度を超えるとトランス脂肪が連鎖するように急激に増加してしまうからです。
大切な栄養素や風味までもが抜き取られた油は、もはやフレッシュな油とはいえません。
まさに「死んだ油」です。
死んだ食べ物は、体の中に取り込んでもまったく健康の役に立ちません。
それどころか、このような凄まじい製造工程のなかで、トランス脂肪をはじめ、活性酸素や過酸化脂質などの有害物質が大量に発生し、私達の体にダメージを与えてしまうのです。
ラベルの表示に「植物性油脂」「食用精製加工油脂」と書かれているものは、溶剤抽出法でつくられた可能性が高いので注意したほうがよいでしょう。
では、どんな油を選べばよいのでしょうか?
それは、ラベルの表示に「コールドプレス(低温圧搾)」と書かれているものです。
コールドプレスとは、30度以上の熱を一切かけずに原料を搾って油を抽出し、そのままボトル詰めをしたシンプルなつくり方のこと。
昔ながらの方法で抽出した搾りたてのフレッシュな油が、栄養が豊富で、しかも一番安全というわけです。
割高感は否めませんが、むしろ植物油が安価で手に入ること自体が「異常」なのだ、と考えてください。
貴重な油を少量だけ用いるような食生活を送れば、結果として油の摂りすぎも防げます。
なお、商品を長持ちさせるために、コールドプレスで抽出した油をさらに脱ガム・脱色・脱臭してボトル詰めをしたものがあります。
専門的には「放出性圧縮油」といいますが、これでは意味がありません。
繰り返し書きますが、本来、食用油は生鮮食品です。
実際に、欧米の自然食品店などでは、本物のフレッシュな油は、冷蔵棚で光を通さない容器に入って販売されているのです。
【コーヒーフレッシュの驚くべき正体】
トランス脂肪を含んだ油は、思いがけない食品にも使われています。
たとえば、ファミリーレストランやコーヒーショップ、ファーストフードなどでセルフサービスになっている小容器(ポーションタイプ)のコーヒーフレッシュがあります。
容器が小さいので一つひとつには原材料名が書いていないのですが、スーパーマーケットでいくつかまとめて袋詰めになって売られているものにはラベル表示があります。
それをよくのぞいてみてください。
いずれも原材料名の最初に「植物性油脂」と書かれているはずです。
「え? コーヒーフレッシュは生クリームや牛乳が原材料じゃないの?」と思う人も多いかもしれませんね。
実は、コーヒーフレッシュには、牛乳や生クリームは一滴も入っていません。
サラダ油と水、乳化剤、増粘多糖類、カラメル色素、pH調整剤でつくられているのです。
では、驚きのレシピをみてみましょう。
まず、水にサラダ油を入れます。
水と油は元来混ざらないので、乳化剤を加えてこれらを混ざりやすくします。
次に、とろみをつけるために増粘多糖類を加えます。
そして、見た目をクリームのように演出するためにカラメル色素で黄ばみをつけ、最後にpH調整剤を加えて日持ちをよくします。
これで簡単にコーヒーフレッシュができあがるのです。
しかも、先ほど説明したように、安価で大量生産されているサラダ油にはトランス脂肪がたっぷり含まれています。
まさに「コーヒーフレッシュはミルク仕立てのトランス脂肪である」といっても過言ではありません。
私達消費者は、「フレッシュ」というネーミングと「クリーミー」な見た目、「ナチュラル」なイメージの広告に、つい「新鮮な牛乳や生クリームが入っているもの」と思い込んでしまいがちです。
考えてみれば、外食店で常温でセルフサービスされているものです。
フレッシュな乳製品が使われていれば、少なくとも常温で1日中置きっ放しにする、なんてことはありえません。
使い放題のものには、やはりそれだけの理由があるのです。
ちなみに、ファーストフードなどでミルクティーを頼むと、ストレートの紅茶にコーヒーフレッシュがついてくるときがあります。
この場合も、当然、本物のミルクは一滴も入っていません。
とはいえ、本物の牛乳や乳製品を入れればよい、というわけではないので注意を。
今回は説明は割愛しますが、牛乳や乳製品は「健康を害する食品」であると私は考えています。
詳しくは、『病気になりたくない人が読む本』(アスコム刊)にて説明しているので、ぜひご覧ください。
【フライドポテトが腐らない理由】
みなさんは『スーパーサイズ・ミー』というアメリカのドキュメンタリー映画をご覧になったことがあるでしょうか?
この映画は、監督のモーガン・スパーロック氏が30日間ファーストフードを食べ続け、健康上どうなるのかを記録したものです。
彼は、この実験で体重が11キロ増え、うつ、性欲減退、かなり深刻な肝臓の炎症を起こしました。
また、ファーストフードを食べないと体がだるい、頭が痛くなる、という中毒に似た症状も現れました。
実験終了後、彼は解毒を促す野菜中心の食生活に変えましたが、体の機能を戻すのに2ヶ月、体重を戻すのに14ヶ月もかかったそうです。
彼の体に起こった異常は、ファーストフード店で使われている油とその調理法がいかにおぞましいものであるかを如実に示しています。
なかでも、彼が毎日大量に食べていたであろうフライドポテトは、私にいわせると、まさにトランス脂肪や過酸化脂質などの有害物質がてんこ盛りになった「病気になる食べ物」です。
それを象徴しているのが、同映画のDVDの特典映像でみられる“ファーストフードの生命力”です。
これは、ハンバーガーやフィッシュバーガーなど、ファーストフードのレギュラーメニューの腐敗度を比較したものです。
奇妙なことに、ハンバーガーなどが1週間程度で次々と腐敗していくなか、フライドポテトは1週間たっても2週間たっても腐らず、とうとう10週間目に入っても外見上は買いたてのときと変わりませんでした。
比較用に用意したレストランのフライドポテトはすぐに腐ったのに、なぜファーストフード店のフライドポテトは腐らないのだろう?
いったいどんな技術が施されているのだろうか?
映像は結局、ファーストフード店のフライドポテトが腐るのを見届けることなく「実験を切り上げ」て終了し、この問いを投げかけています。
私はこの映像を見て、ファーストフード店のフライドポテトは、防腐剤の代わりにポテトの表面にプラスチックをコーティングしたものだといえるのではないだろうか?
だから、腐りにくいのではないだろうか?
と本気で感じました。
なぜなら、ロー氏の「マーガリン(トランス脂肪)はプラスチックと分子構造が酷使している」というエピソード(「今すぐマーガリンは捨てよう!」)を思い出したからです。
余談になりますが、私の知人がファーストフードについて興味深い話をしてくれたので紹介しましょう。
彼は、会社の人から某ハンバーガー・チェーン店のハンバーガーを貰い、「後で食べよう」と思ってロッカールームに片づけました。
ところが、すっかり忘れてしまい、そのまま5日間出張に行ってしまいました。
出張から戻った後、彼は「腐ってしまって、とんでもないことになっているにちがいない」と恐る恐る紙袋を開けました。
すると・・・・・・、ハンバーガーは腐るどころか、見た目は買ったときのままの状態だったのです。
彼は予想とのあまりの違いに、大変驚いたそうです。
もしかすると、この知人が買った店では、フライドポテトだけではなく、ハンバーガーのバンズやパテにもマーガリンやショートニングが大量に用いられているのかもしれません。
国内外問わず、ほぼすべてのファーストフード店では、ポテトやチキンをカラッと仕上げたり、ドーナツをサクサクとした歯ごたえにするために、植物性ショートニングを高温で溶かして揚げ油として使っています。
もちろん、植物性ショートニングはマーガリンと同様に水素を添加してつくられるので、トランス脂肪が含まれています。
しかも、トランス脂肪は160度以上の高温になるとどんどん増加します。
超高温の揚げ油に使うと、どうなってしまうのか想像がつくでしょう。
まさに危険極まりない油のプールにポテトやドーナツをどっぷりと漬け込んでいるといっても過言ではありません。
しかも、多くのファーストフード店では、古くなって黒ずんだ揚げ油をろ過して何度も使い回しています。
その間、さらにトランス脂肪や過酸化脂質が増えるのですから、まったく体に良いわけがありません。
最悪の油を使って、最悪の調理法をしているのです。
WHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)の「食事、栄養および慢性疾患予防に関する合同専門家会合」では、食事からのトランス脂肪の摂取はきわめて低く抑えるべきで、最大でも1日の総エネルギーの1%未満にするように勧告しています。
日本人の場合、トランス脂肪の摂取量は、推計によると1日あたり平均1.56グラムで、すでに摂取エネルギーの0.7%に相当します。
ちなみにアメリカでは、20歳以上の成人の場合、1日あたりの平均摂取量は約5.8グラムと推計されており、すでに勧告値を超えています。
では、WHOとFAOが勧告している「1日の総エネルギーの1%」とは具体的にどれくらいかというと、日本の場合、先ほどの数字を逆算して計算すると約2.23グラムとなります。
さて、ここで下の表をよくみてください。
単品ではトランス脂肪の1日摂取量の目安の範囲内であっても、たとえばハンバーガーとフライドポテトをセットで食べれば、あっという間に超えてしまいます。
シェークを飲んだり、デザートの代わりにアイスクリームを食べたりすれば、もっともっと増える可能性があります。
いつの間にか、どんどん蓄積してしまう。
それが恐いのです。
念を押すと、トランス脂肪は「何グラム以下なら良い」というものではありません。
まったく摂らない、つまり0グラムがベストであって「やむを得ず食べてしまう場合でも1%以下に」ということなので、意味をはき違えないようにしてください。
なお、食べ物を反すうして消化する牛や羊は、胃の中の微生物によってトランス脂肪が生成されるため、バター・チーズ・牛肉・羊肉などの動物性油脂には、天然のトランス脂肪が脂肪中の4~5%存在するといわれています。
ただし、この天然のトランス脂肪は、トランス型とシス型の混在する共役リノール酸というもので、マーガリンやショートニングなどの人工的なトランス脂肪とは構造が異なります。
ある日本の大手ファーストフードチェーン店では、なんと揚げ油に使うショートニングの約半分がトランス脂肪になっているそうです。
日本の場合、スナック菓子などの油脂中に含まれるトランス脂肪は15%以下がほとんどで、アメリカでも20%程度とされているのに、この数字は本当に異常です。
しかも、ある日本の企業では自社分析でわかっているにもかかわらず、トランス脂肪の含有量のデータを一般公開していないそうです。
私達は、健康のリスクをなにも知らされないまま製品を買わされているのです。
これだけ普及してしまった昨今、「ファーストフードを一切売るな」というのもあまり現実的ではありませんが、せめて、トランス脂肪の含有量をラベル表示にするなど、どれだけのリスクがあるのかを公開して、消費者が選択できるようにしてほしいと思います。
タバコやアルコールのように。
「知っていれば買わなかったのに」と後で病気になって思う人が出てくるかもしれない。
ひょっとしたら、すでにいるかもしれません。
これは、ファーストフードだけではなく、トランス脂肪を含む全商品に対して行ってほしいと思います。
アメリカでは、実際に消費者が行動を起こしています。
アメリカ・マクドナルドは2002年9月に「2003年2月までに調理油のすべてをトランス脂肪を含まない油に切り替える」と発表しました。
ところが、そのスケジュール通りに計画が進まず、健康問題活動家によって訴訟を起こされています。
2004年9月24日付けのニューヨーク・タイムズの広告には、マクドナルドが計画を実行できなかったことを非難し、心臓発作の応急処置場面の写真を載せてトランス脂肪が心臓に与える害をストレートに表現しました。
裁判では、マクドナルド側に、アメリカ心臓学会に700万ドル(約7億7000万円)を寄付してトランス脂肪の知識普及などに使用すること、そして現在のトランス脂肪の使用状況を消費者に知らせる広報活動に1500万ドル(約16億5000万円)を投じるように命じています。
なお、裁判官から「トランス脂肪が心臓血管に与える害について、広く国民に伝えるべきである」とのコメントがあったそうです。
また、アメリカ・KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)も2006年6月に消費者団体によって訴訟を起こされています。
訴訟の内容は、トランス脂肪を含む油の使用を止めるか、あるいは消費者に健康上のリスクを知らせる一文を挿入するべきである、というものでした。
同社は、10月に「トランス脂肪を含む調理油の使用は2007年4月までに全店舗で止め、以後は同脂肪酸を含まない大豆油を使用する」と発表しています。
これらの事態を受け、ウェンディーズは同年6月にトランス脂肪の使用量を大幅に削減すると発表、10月にはバーガーキングも一部店舗でトランス脂肪を含まない油を試験的に使用することを発表しました。
さらに、大手コーヒーチェーン・スターバックスも、ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市を中心にマフィンやサンドイッチなどのすべてのメニューでトランス脂肪を含む油の使用を停止すると宣言、ウォルト・ディズニーも将来的にテーマパークで提供する食品や菓子類にトランス脂肪入りの油を使わない方針を決めているようです。
確かに、消費者の動きに応えて、アメリカの各企業も前向きに取り組み出したことは大変素晴らしいことだと思います。
しかし、まだまだ課題はあります。
まず、そもそもトランス脂肪ゼロで健康によいマーガリンなどあり得るのか、ということです。
アメリカのある企業では、すでにトランス脂肪ゼロのマーガリンを開発し、健康に良いと謳っています。
ところが、そのつくり方をみると、部分的水素添加を完全水素添加にしているだけなのです。
そして、完全水素添加状態では硬くて食べられないため、さらに大豆油を添加してクリーム状にしているのです。
完全水素添加すれば、水素が飽和した構造になる、つまり、不飽和脂肪酸から飽和脂肪酸へと完全に構造を変えてしまうのでトランス脂肪は発生しません。
しかし、かえって飽和脂肪酸も不飽和脂肪酸も摂取量が増えることになるので、果たして「健康的」といえるのか、という点で疑問が出てきます。
しかもこの飽和脂肪酸も、結局は人工的につくられたものなのできわめて不自然です。
また、触媒としてニッケルが添加されているため、長期的に摂取すると、ニッケルの毒性として、発ガン・不眠・皮膚炎・アレルギー・呼吸困難などのリスクが高まる可能性も考えられます。
なお、アメリカでは、トランス脂肪含有量が一サービング(一皿分)あたり0.5グラム未満であれば0グラムと記載できます。
たとえトランス脂肪が含まれていても、0.5グラムまでであれば、ラベルには「トランス脂肪ゼロ」と表示できるわけです。
ですから、たくさん食べれば規定量を超えることも当然あり得るわけです。
そして、意外に見落としがちなのが調理法です。
なぜなら、たとえトランス脂肪を含まない植物油を使ったとしても、高温でポテトやチキン、ドーナツなどを揚げる、ハンバーグを焼く、といった従来の調理法では、調理の過程でトランス脂肪が大量に生成してしまう恐れがあるからです。
根本から解決するためには、使う油そのものだけではなく、調理法の見直しも大きな課題になるでしょう。
【「揚げる」「焼く」「炒める」は控えよう】
油を使って高温で「揚げる」「焼く」そして「炒める」ことで、トランス脂肪が発生する以外にやっかいな問題がもうひとつあるのでお話ししましょう。
それは、アクリルアミドという発ガン性の高い物質が発生してしまう恐れがあることです。
あまり耳にしない言葉かと思いますが、トランス脂肪が不飽和脂肪酸の構造が変わって悪玉と化したものであるのに対し、アクリルアミドはジャガイモなどのデンプンが関係するのが特徴です。
実は、アクリルアミドは、ダムの工事などに土壌凝固剤や漏水防止剤として用いられる化学薬品でもあります。
こちらに神経毒性や発ガン性が疑われたことから、最近、食品中のアクリルアミドの有害性について指摘されるようになりました。
通常の摂取量であれば害はない、とされていますが、私はトランス脂肪のケースと同じように、多くの人が摂取オーバーになっていると考えています。
注意していただきたいのは、アクリルアミドは「油でジャガイモなどのデンプンを揚げること」などによって発生するという点です。
現に、茹でたジャガイモからはアクリルアミドは検出されません。
国立医薬品食品衛生研究所調査データによると、フレンチフライからは最大で約0.78マイクログラム、「ポテトチップス」からは同3.54マイクログラムのアクリルアミドが検出されています。
また、同調査データによると、「かりんとう」もアクリルアミドを意外に多く含んでいました。
黒砂糖などを使ったヘルシーなおやつかと思いきや、揚げることによって有害物質が発生してしまうのです。
アクリルアミドは、国際ガン研究機関(IARC)の評価によると、防腐剤やディーゼル排気ガスと同列の「2A(人に対しておそらく発ガン性がある)」に属します。
アクリルアミドは、120度以上の加熱で生成し、100度そこそこの「茹でる」「煮る」「蒸す」、そして「生のまま食べる」では生成しないことがわかっています。
これらの調理法は、昆布やシイタケからダシをとって煮炊きする、日本の伝統的な和食のつくり方と重なると思いませんか?
私達日本人が親しんできた和食は、食材だけではなく、その調理法までもが健康長寿に役立っていたのです。
たとえ体に良い油を使っていても、調理法で有害物質を発生させていたのでは元も子もありません。
トランス脂肪と同様に、アクリルアミドにも注意を払いたいものです。
山田豊文先生 著
『病気がイヤなら「油」を変えなさい!~危ない“トランス脂肪”だらけの食の改善法~』 より抜粋