樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

オシドリ夫婦

2008年01月16日 | 野鳥
仲のいい夫婦のことを「オシドリ夫婦」と言います。ところが、バードウォッチャーの間では周知のことですが、実はオシドリは夫婦仲がいいわけではありません。子育てが終ればペアを解消しますから、むしろ夫婦仲の悪い鳥です。
ここまでは私も知っていましたが、「じゃあ、なぜオシドリ夫婦と言うようになったのか?」が以前から疑問でした。「繁殖中はいつもペアでいるから」と説明されますが、繁殖中はほとんどの鳥がペアで活動しますから答えにはなりません。
先日、木の本を読んでいて、ようやくその疑問が解けました。

       
       (カラフルな方が夫、地味な方が妻。一見仲良さそうでしょう?)

由来は中国の故事。ある夫婦の妻を暴君が奪ったために夫が自殺します。それを知った妻も、「夫と同じ墓に葬って欲しい」という遺書を残して後を追いました。怒った暴君は、同じ墓ではなく、少し離れた向かい合わせの墓に葬りました。
すると2つの墓からミズメの木が生え、大木に育ち、幹がからみ合い、樹上に1つがいのオシドリが巣を作るようになりました。人々はそのオシドリを死んだ夫婦の生まれ変わりと噂した、という話です。

             
              (ミズメ、別名アズサの葉)

なるほど。しかし、オシドリの疑問は解けましたが、今度は木にひっかかりました。著者は「ミズメの木」と書いていますが、ミズメは日本固有種で中国には分布しません。
本自体は非常に面白い内容でしたが、樹木の専門家ではないようで、おそらく原文の「梓」をアズサだと思い、図鑑で正式名称ミズメを特定したのでしょう。しかし、以前どこかに書きましたが、「梓」という漢字は中国ではキササゲを意味します。
ミズメはカバノキ科、キササゲはマメ科、全く別の樹。夫婦の墓から芽生えたのはキササゲだったのです。

       
         (トウキササゲの葉。中国では用途の広い優良材)

「オシドリ夫婦」の由来は、木と鳥がからんだ私にぴったりの話でした。ところで、うちの夫婦仲はどうなんだろ~?
コメント (5)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 道路を曲げた樹 | トップ | マリンバと馬頭琴 »
最新の画像もっと見る

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
中公新書 (guitarbird)
2008-01-18 22:51:25
こんばんわ
「オシドリはほんとにオシドリ夫婦か」というようなタイトルの
中公新書があったのでかつて読みました。
だから由来が中国にあるのは知っていたのですが、
詳しいことはまったく覚えていませんでした・・・
その本では著者が10代の頃「鳥の卵を集めていた」というのを読んで
いたくショックを受けました(だからあまり好きじゃない本です)。
ところで、さすがの洞察力、推理ですね、fagusさん!
ミズメの葉はウダイカンバに似てますね・・・と前にも書いたような(笑)。
返信する
その本は読んだことないです (fagus06)
2008-01-19 11:16:08
中公新書ですか、今度さがしてみます。
ご存知のように、ミズメもウダイカンバもカバノキ科ですから、似てますね。こちらにはウダイカンバは自生していないので見られません。
本を読むといろんなことが分かって面白いです。
返信する
guitarbirdさま (scops)
2008-01-19 18:58:37
その本は、ひょっとして現在の山階鳥類研究所所長の山岸 哲さん著「オシドリは浮気をしないのか―鳥類学への招待」じゃないでしょうか?

前に講演を聞いた時、「鳥の卵を集めていた」と言っていましたから・・・
鳥の卵を採ることは良くない事ですけど、話を聞いているとすごく好奇心の強い自然児だったようでした。
まだ今のように野鳥保護も言われていなかった時代でしたし、そのおかげ?で今はちゃんと鳥や自然界のために活躍されていますので、そろそろ許してあげてください。(笑)
返信する
そうです (guitarbird)
2008-01-20 13:04:04
ふたたびです。
scopさま、その通りその本です、ありがとうございます。
うちにあるのですが置いてある部屋が寒くて調べませんでした・・・
確かにそういう子ども時代を送ったからこそ、そして
そういう人であったからこそ今があることは理解できますし、
「許す」なんて、逆に申しわけないです・・・
というわけでfagusさんもお時間があればぜひお読みください。
返信する
昨日、本屋さんで (fagus06)
2008-01-21 09:00:14
中公新書を探したらありました。著者を見たら山岸さんだったので、「なるほど」と思いました。
そのときは買いませんでしたが、今度読んでみます。私も今でこそ野鳥の会の会員になって、野鳥保護のために調査に行ったりしていますが、小さい頃は罠を仕掛けてスズメを獲ったりしていました。
「小さい頃、トリモチで小鳥を獲ったり殺生したので、その罪滅ぼしに入会しました」という会員もいます。私くらいの年代で田舎育ちの人はみんなそんな自然児だったのだと思います。
返信する

コメントを投稿

野鳥」カテゴリの最新記事