気まぐれな私の独り言

独り言をつぶやくばしょ

ぽつり21

2015-08-06 01:22:59 | 日記


何ヶ月か前に書いた、
星新一さんのショートショート風短編、

載せてみようと思います。



『タイムマシーン』

男は、この世のどこにも居場所がないように感じていた。
ルックスも中の下、出会いも思い出もない。
風邪をひいたところで、見舞いに来てくれる友人もおらず、親はすでに他界している。
独り身にとっては静かでうるさすぎる現代に、男は飽き飽きしていた。
そしてこの鬱陶しい現代から逃れるため、不調な身体を騙しだまし動かし続け、
遂にタイムマシーンを開発した。
過去へ飛び、おたふくでキツネ目の者がモテた時代で幸せをつかもうとしたのだ。

いざ訪れてみると、行き交う人の皆が、低い背丈に、大きな布を巻いただけのような
所謂和服を身にまとい、何よりイケメンだと騒がれる人が、キツネ目のおたふくであった。
しめた、と男は思った。心なしか気分も晴れやかで、体調も良くなってきた気さえする。
ここで生きていこうと心に決め、世界を荷物一つで飛び回る謎の旅人を装い、
間もなく貴族や天皇に謁見した。
現代のことを適当に改変して話すだけであったが、これがうけた。
酒の席には各地へ毎晩のように呼ばれ、歓迎された。
女からもモテた。恋文をもらった。知識が足りなかった為、解読はできなかったが…。

望んだ世界を手に入れたと、男は思った。
男はタイムマシーンを町外れの洞窟に隠していたが、
完全にこの時代の人間になれた気がして、
自分を見放した現代を思い起こさせるタイムマシーンが憎くなり、その機械を破壊した。

男はその後から常に上機嫌であった。
天皇の甥の娘との縁談があり、今日は細かい話をしに娘の元へ赴いた。
しかし突然、その娘から今日は会えない、という旨の伝言を受けた。
父、つまり天皇の甥が体調を崩し、高熱にうなされているということだった。
風邪をひいているのでは仕方が無い。
男は話はまた後日と返事をし、予定が空いたので外に散歩でも、と思い、川の畔まで来た。

そこで男は衝撃的な光景を目の当たりにした。
城下町の、さほど貧困層の多くないこの地で、大量の死体を見かけた。
まだかろうじて生きているものもいるが、もはや起き上がる力もなさそうだ。

死体なんて見たことのない男はぐったりと項垂れてしまい、
そのまま数日を宿屋の布団の上で過ごした。
そして、気分が少し良くなってきた男は再び川へ向かってみた。
死体が増えている。

なにかとんでもないことが起こっているのではないかと不安になった男は、
情報を求めて皇居へ向かった。

男は城近くに着いた時、手遅れ、という言葉が頭に浮かんだ。
人々が皆、黒い服を身にまとっている。
とりあえず事情を聞こうと、城の中へ通してもらうと、
天皇や天皇の付き人、大臣に、果ては天皇の甥とその娘一家まで、
謎の奇病で亡くなったという。
話してくれる人も、頬が赤いような青いような、やつれきった顔をしている。

なんということだ。こんな短期間で、こんなに死者が出る謎の奇病。
このままここにいては、俺もいずれは皆と同じ奇病に罹り…。
冗談じゃない。
男は命が惜しくなり、タイムマシーンを破壊したことをひどく後悔した。
しかし、いくら何を騒いだところで後の祭りである。
男もそのうちに病気をもらい、死ぬのだと悟った。
その日が来るまで、男は自由に過ごすことを決め、
とりあえず散歩でもしようと道なき道を歩いた。

しかし何日経っても、男は熱どころか体調が悪くならない。
現代でもそれほど風邪に強いわけではなかったのに、なぜだろう。
考えてもわからないが、いつになっても男が病気をもらうことはなく、
ある日周りの人間が全て死に、とうとう一人になった。

男は、いつの間にか死体を見ることにも慣れてしまっていた。
しかし、それと同時にこみ上げてくる、真に一生孤独だという意識に、
頭がいかれてしまいそうになった。
今度こそ正真正銘の独りぼっちという肩書きを手に入れた男は、
虚しさからか後悔からか、まるで導かれるように、
破壊したタイムマシーンのガラクタの元へとやって来た。

あたりに散らばるガラクタとなった部品をを持ち上げては投げ、持ち上げては投げた。
その間男は、何も考えることができなかった。

次に持ち上げたガラクタから、何やら紙切れのようなものが舞い落ちる。

男が手にとって見てみると、そこに書いてあったのは……







◯×様 処方箋 タミフル











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1 コメント

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タガログ語で (あもる)
2015-08-06 01:28:45
たのむ

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